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お誘い②
しおりを挟む予想外な提案に目を丸くすれば、人の好い笑みを浮かべてオーリー様は理由を話された。
「君も知っての通り、エーデルシュタイン伯爵家に発現する【予知夢】の能力は、隣国の女神が嘗て人間に与えた能力の一つ。国の存続に関わる重要な内容しか視られない予知をフィオーレちゃんの場合は、身近にいる人達の危機的状況を報せるものになってしまっている。僕は考えたのだけど、フィオーレちゃんの【予知夢】はエーデルシュタイン家に伝わる【予知夢】とは全く別物だと思うんだ」
「別物、ですか?」
「君が赤ちゃんの頃かな、伯爵が君を隣国の教会へ連れて行った話を聞いた事はあるかい?」
「あ、ありません」
初めて知った話に強い興味が湧いた。私を自国ではなく、態々隣国の教会まで連れて行ったのはお父様の意思だったとか。お母様は私を出産後亡くなってしまい、もしも私まで死んでしまったらと思い詰めたお父様が周囲の反対を押し切って隣国の女神様の祝福を頼り連れて行ったのだ。
「当時は僕が司祭だったかな。ああ、うん、僕がしたね」
「?」
僕がした?
オーリー様は隣国の隠居貴族だと以前から話されている。司祭をしていた……それってつまり。
私の顔色が変わったのがオーリー様にも伝わったらしく、あ、とした顔をされると慌てて謝られる。
「あ、ごめんよ、そういえばフィオーレちゃんにはまだ言ってなかったね。アウテリートちゃんに口止めしていたのを忘れてた……」
「し、司祭様をしていたという事は、オーリー様は……」
教会の司祭は代々王族が務めるのが仕来り。予想通り、オーリー様は隣国の先王陛下の弟君。私は初めて知った事実に顔が真っ青になった。隠居貴族と元王族なら話は全く変わる。今まで気安く話し掛けていた事実に慌てふためけば、私以上にオーリー様が慌て出した。
「だから言いたくなかったんだよ。フィオーレちゃんが気にすると思って。あのフィオーレちゃん、全然今まで通り接してくれて構わないからね? 寧ろ、そうじゃなかったら僕とても寂しい」
「わ、私、無礼な態度を取っていなかったですか?」
「そんな事ないない。アウテリートちゃんは僕の事を知っていたのに気安かったでしょう? フィオーレちゃんはとても礼儀正しかった。さっきも言ったけど、今まで通りで接してほしいし、今後もただの隠居貴族と思ってくれていいよ」
事実を知った以上、隠居貴族と思うのは難しいかも……。
一旦オーリー様の正体については横に置き、本題の続きに戻る。
「赤子の君を連れたエーデルシュタイン伯爵の頼みを受け入れて君に祝福を授けた時に異変が起きた」
赤ん坊の私を抱いたお父様から私を受け取ったオーリー様が定例通り祝福を授けたら、突然女神フォルトゥナの石像が輝いたのだ。驚愕する面々の前に現れたのは、隣国が崇拝する女神フォルトゥナ。伝承と同じ空色の髪と薄黄色の瞳を持った女神は、赤ん坊の私を見て一言囁いた。
『貴女に幸福を』と。
「君が伸ばしていた小さな手を握ってフォルトゥナ神はフィオーレちゃんに女神の祝福を与えたんだ」
「それは……よくある事ではありませんよね……?」
「うん。長く司祭の職に就いていたけれど、女神が姿を現して人間に祝福を与える光景を初めて見た」
どうしてフォルトゥナ神は私に祝福を与えたのか……理由を何となくだけど、とオーリー様は前置きして、お父様の願いを叶えたと出した。
「女神は人間の純粋な願いを叶えるのが好きなんだ。エーデルシュタイン伯爵の娘を絶対に幸せにしたいという、父親の純粋な願いが女神の興味に触れて現れたというのが僕の見解」
「お父様が……」
「あの時の伯爵は切羽詰まっていた。奥方を亡くされ、生まれた君まで亡くなったら、今頃伯爵はこの世にいなかっただろう」
「そうだったのですか……」
愛されていないとは思っていない。ただ、私がお義母様やエルミナとの関係を知った以降距離が出来てしまった。
……違う、私が距離を置いた。前妻の娘の私がお父様達の輪の中に入っちゃいけないと思い込んで。
「……」
ちゃんと愛されている。遠い隣国の教会へ行ってまで私の幸福を願う為に。
リアン様と婚約をする前に……お父様に正直に話そう。何時までも逃げていたって解決しない。
「ただ」
「?」
心の中で決意をした私は不意に発したオーリー様の声に顔を上げた。
「フォルトゥナ神は人間が好きで、人間に味方をする。人間側にとったら有り難い事この上ないのだけれど……如何せんあの女神は手加減を知らない」
「手加減?」
「色んな国が自国の神を祀っているけど、恐らくあの姉妹神が一番強い。特にフォルトゥナ神は」
人間の運命を自在に操り、未来を視れるのもまた強さの所以。能力を与えられた特定の貴族家が強いのもそれが理由。人間を好きなのは良いけれど、手加減を知らないせいで女神は祝福を与えたつもりでも人間にとったらそれは呪いになってしまう場合があらしい。
「僕はこの目で何度か女神の祝福が呪いになってしまった事例を見てきた。フィオーレちゃんの場合もそう」
「私の【予知夢】がフォルトゥナ神の祝福によって生まれた力なら、フォルトゥナ神ならこの【予知夢】を消すことも可能ということですか?」
「あくまで可能性の話ね。ただ、僕は君の【予知夢】はエーデルシュタインのものではないと確信を持ってる。どうかな? 隣国は遠いけれど、行って損はしない筈だよ」
定期便があるとはいえ、隣国へは早くて一月は掛かる。休学中とは言え、何時復帰するかも分からない現状、私だけでは判断が難しい。
「このお話、屋敷に戻った後お父様達にしても?」
「勿論。ゆっくり伯爵夫妻と話し合いなさい」
「はい。それと……私からもオーリー様にお話があります」
「ひょっとして、この間僕が提案した隣国の教会で働いてみないって話?」
「はい」
折角提案を頂いたのに断るのは気が引けるけれど話さない訳にはいかない。正直に話すとオーリー様は笑ったまま頷かれた。
「多分、そうじゃないかと思っていたよ。気にしなくていいんだよ? 寧ろ、王女の件が片付いて君が国に残る選択をしたのが嬉しい」
「あの……私が聞いてもいいか分かりませんがリグレット王女殿下が今後私やエルミナに接触することはもうありませんか……?」
「二度とない。これは断言する。王女が二度と君達に手を出さないよう、今王妃殿下や王太子殿下が張り切っているところだよ」
「ありがとうございます」
良かった。これでエルミナに危険が及ぶ可能性が消えた。
ホッとする私はこの時オーリー様が眠そうな人と話しているのに気付かなかった。
「どうしたの?」
「……あの王女……どうも嫌な予感がする……」
「やめて縁起でもない」
「先王妃と同じ気配がする……油断しない方がいい」
「もっとやめて。血縁者のアウテリートちゃんは良い子なのに、血の繋がりが全くない王女とあの人が同じだなんて」
「悋気に塗れた女性程、怖いものはないとは良く言う」
「ほんとに止めてってば。ただ……もし予想が当たっているなら、早目に手を打つか」
——愛人と共に部屋に閉じ込められている国王は一つ良案を閃いた。自分が無理でも、せめて愛する娘リグレットだけでも救ってやりたいと考えを巡らせていた国王はある貴族の家にリグレットを養子にすればいいと思い至った。
王女という身分は無くなるがそれでも高位貴族には変わりない。ロードクロサイト家に嫁入りしても何ら問題もない。
必ずリグレットの——愛娘の願いを叶える。
誰か、誰か、と国王が声を上げた。見張りの騎士がやって来るとある人物の名を出した。
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