5 / 6
5話
「ほら、アルベル」
「うん……」
ピエールに背を押され前へと出た。
十年前と随分と変わってしまったお義姉様と伯爵。お義姉様自慢の輝くブロンドは艶が消え、手入れが行き届いてないのが目に見えて分かる。よく見ると着ているドレスも派手なだけでセンスがなく、お義姉様の好きな高級ブランドのデザインではない。お肌もカサカサで化粧で誤魔化しきれていない。伯爵にしても十年前の肥満体系からかなり痩せている。これについては良いことなのかと思うも、頬の窶れ具合や髪の毛の量の減り具合から苦しい生活を送っているのが知れる。
「お義姉様……いえ、レッドライン伯爵令嬢、レッドライン伯爵。キャメロット公爵令息の言う通り、私は彼と婚約破棄をする気はありません。王家が許可を出そうと納得しかねます」
「王家に逆らう気!?」
私の言葉に憤慨するレッドライン令嬢にある点を指摘した。
「十年振りにお二人にお会いしますが随分と変わりましたね」
何度も私に言っていた平民よりもはっきり言って下だ。私の指摘に二人は顔を真っ赤にし、伯爵令嬢に関しては目を吊り上げ大股で私の許へ近付いた。
「誰のせいだと思っているのよ!!」
「私は何もしておりません」
「我が家の財政は十年前アルベルティーナがリュビ様に引き取られてから悪化の一途を辿るばかり! どうせ、わたくし達のことを恨んでリュビ様に頼んで呪いを掛けたんでしょう!!」
「掛けていません」
牧場から家に戻る道中、ピエールからレッドライン家の財政がこの十年間悪化し続けている話は聞いていた。原因は多岐に渡るものの、一番の原因は私への虐待が露見してしまったせいだ。
伯爵が平民の女性に産ませた子供で自身の血が繋がっていなかろうと大切な娘だと伯爵夫人が周囲に吹聴し、子供達の方も可愛い末の妹だとアピールしていたのだ。私は屋敷の外はおろか、部屋の外すらあまり出られなかった為、世間について疎く、現在はキャメロット公爵夫人の助けもあって改善してきている。虐待の件が露見すると王妃と親しいレッドライン家から人は離れ、リュビが半壊させた屋敷の修繕費の他に様々な不幸が彼等を襲った。
毎日飽きもせず私を虐げてきたのに、外では理解ある母、姉兄を演じていたと知った時は戦慄した。
「レッドライン伯爵。貴方は少しでも私を伯爵夫人達から守ってくれませんでしたね。キャメロット公爵に嫌がらせをしたくて私を引き取ったのなら、少しは世話を焼いた方が良かったと今後悔しているのではありませんか」
「育ててやった恩を忘れたか!」
「最低限もない生活でしたが飢え死にしなかったことだけは感謝しています」
私を育てたお金を返せと喚いた際には、リュビが伯爵令嬢を八歳まで育てるのに必要な金額をキャメロット公爵に算出してもらい全額渡している。
言い返したくても私の言葉に嘘がなく、反論する余地がない。歯を噛み締め、顔を震わせ私を睨む伯爵から伯爵令嬢へ視線をやった。
「ピエールは貴女が嫌いです、大嫌いです。レッドライン家に来ていた頃から貴女が嫌いでした。仮令、私と婚約破棄をしても貴女が次の婚約者になることは決してありません」
レッドライン伯爵令嬢が腕を振り上げた。昔の癖で咄嗟に顔を腕で隠した。
「殴らせると思うか?」
腕から顔を離してみれば、不快なものを見る眼で伯爵令嬢を睨むピエール。振り下ろされた手を私の顔寸前で掴んでいてかなりの力を込めている。
「いた、痛い! 離してピエール様!
「ぼくの目の前でアルベルに暴行しようとしたね? 増々君を嫌いになるよ、レッドライン伯爵令嬢」
痛いと叫ぶ伯爵令嬢に注ぐピエールの言葉は全て氷の如き冷たさを纏っていた。
「リュビは今寝ている。彼が起きて来ない内に帰れ。ぼくとアルベルの婚約破棄については、すぐに父上の方から陛下に抗議してもらう」
「しなくていいぜ~」
眠そうな声が後ろから飛んで来た。
振り向くと起きたばかりと思しきリュビが寝ぐせのついた髪をそのままに外に出て来た。
二人はリュビを見るなり顔色を赤から青へと変えた。
リュビは二人を視界に入れると口端を吊り上げた。
「話はほぼ聞いてた。アルベルとピエールの婚約破棄を国王が承認したってやつ、王妃が勝手に言っているだけで国王の方は何も関与してないぜ」
あなたにおすすめの小説
知らぬが花
鳥柄ささみ
恋愛
「ライラ・アーデ嬢。申し訳ないが、キミとの婚約は破棄させてもらう」
もう何度目かわからないやりとりにライラはショックを受けるも、その場では大人しく受け入れる。
これでもう婚約破棄と婚約解消あわせて十回目。
ライラは自分に非があるのではと自分を責めるも、「お義姉様は何も悪くありません。相手の見る目がないのです」と義弟であるディークハルトにいつも慰められ、支えられていた。
いつもライラに親身になって肯定し、そばにいてくれるディークハルト。
けれど、ある日突然ディークハルトの訃報が入ってくる。
大切な義弟を失い、泣き崩れて塞ぎ込むライラ。
そんなライラがやっと立ち直ってきて一年後、とある人物から縁談の話がやってくるのだった。
【完結】私を裏切った前世の婚約者と再会しました。
Rohdea
恋愛
ファルージャ王国の男爵令嬢のレティシーナは、物心ついた時から自分の前世……200年前の記憶を持っていた。
そんなレティシーナは非公認だった婚約者の伯爵令息・アルマンドとの初めての顔合わせで、衝撃を受ける。
かつての自分は同じ大陸のこことは別の国……
レヴィアタン王国の王女シャロンとして生きていた。
そして今、初めて顔を合わせたアルマンドは、
シャロンの婚約者でもあった隣国ランドゥーニ王国の王太子エミリオを彷彿とさせたから。
しかし、思い出すのはシャロンとエミリオは結ばれる事が無かったという事実。
何故なら──シャロンはエミリオに捨てられた。
そんなかつての自分を裏切った婚約者の生まれ変わりと今世で再会したレティシーナ。
当然、アルマンドとなんてうまくやっていけるはずが無い!
そう思うも、アルマンドとの婚約は正式に結ばれてしまう。
アルマンドに対して冷たく当たるも、当のアルマンドは前世の記憶があるのか無いのか分からないが、レティシーナの事をとにかく溺愛してきて……?
前世の記憶に囚われた2人が今世で手にする幸せとはーー?
片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた
アリス
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。
高校生くらいから何十回も告白した。
全て「好きなの」
「ごめん、断る」
その繰り返しだった。
だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。
紛らわしいと思う。
彼に好きな人がいるわけではない。
まだそれなら諦めがつく。
彼はカイル=クレシア23歳
イケメンでモテる。
私はアリア=ナターシャ20歳
普通で人には可愛い方だと言われた。
そんなある日
私が20歳になった時だった。
両親が見合い話を持ってきた。
最後の告白をしようと思った。
ダメなら見合いをすると言った。
その見合い相手に溺愛される。
私と結婚したいなら、側室を迎えて下さい!
Kouei
恋愛
ルキシロン王国 アルディアス・エルサトーレ・ルキシロン王太子とメリンダ・シュプリーティス公爵令嬢との成婚式まで一か月足らずとなった。
そんな時、メリンダが原因不明の高熱で昏睡状態に陥る。
病状が落ち着き目を覚ましたメリンダは、婚約者であるアルディアスを全身で拒んだ。
そして結婚に関して、ある条件を出した。
『第一に私たちは白い結婚である事、第二に側室を迎える事』
愛し合っていたはずなのに、なぜそんな条件を言い出したのか分からないアルディアスは
ただただ戸惑うばかり。
二人は無事、成婚式を迎える事ができるのだろうか…?
※性描写はありませんが、それを思わせる表現があります。
苦手な方はご注意下さい。
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
お飾りの私と怖そうな隣国の王子様
mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。
だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。
その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。
「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」
そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。
いつかこの日が来るとは思っていた。
思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。
思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。
こうして私は悪魔の誘惑に手を伸ばした
綴つづか
恋愛
何もかも病弱な妹に奪われる。両親の愛も、私がもらった宝物もーー婚約者ですらも。
伯爵家の嫡女であるルリアナは、婚約者の侯爵家次男ゼファーから婚約破棄を告げられる。病弱で天使のような妹のカリスタを抱き寄せながら、真実の愛を貫きたいというのだ。
ルリアナは、それを粛々と受け入れるほかなかった。
ゼファーとカリスタは、侯爵家より譲り受けた子爵領へと移り住み、幸せに暮らしていたらしいのだが。2年後、『病弱』な妹は、出産の際に命を落とす。
……その訃報にルリアナはひっそりと笑みを溢した。
妹に奪われてきた姉が巻き込まれた企みのお話。
他サイトにも掲載しています。※ジャンルに悩んで恋愛にしていますが、主人公に恋愛要素はありません。