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短編
お茶会の後ーミカエリス、最後に登場ー
人目を引く絶世の美貌を誇るお父様とパパ様は、立っているだけでも目立つ。二人の間に挟まれてエクレアを食べるメアリーは、グループを作って会話に花を咲かせる令嬢達へ羨望の眼差しをこっそりと向けていた。同い年の友人がメアリーにはいなかった。幼い頃は何度かお茶会へ招待されたが、どの家も目当ては保護者として同行するティミトリスかアタナシウス。メアリーは彼等を釣る餌にしか過ぎなかった。
いざ、令嬢達と会話をしても元から出来上がっているグループの中で他人はメアリーだけなので、全く会話についていけず。王都の流行に疎いのもあり、途中乗っかる事も出来なかった。
服も装飾品も家具も全部二人が選ぶ。どれもがメアリーの趣味に合う物ばかりで反対はなく、自分から欲しいと言わなくても定期的に贈られていたから不満もない。
幼少期の友達作りを見事失敗し、そこへ皇太子ミカエリスとの縁談が持ち上がった。皇太子妃筆頭候補となったので余計友達は出来なかった。
ただ、メアリーはティミトリスとアタナシウス両方に忠告を受けていた。
普通の人間は長くても百までしか生きられない。悠久の時を生きるシルバニアの血を引いて生まれた以上、人間との別れは避けられない。親しい相手を作っても、後に襲う喪失感を乗り越えられないなら作るべきではないと忠告をされた。
ティミトリスは狭く深く、アタナシウスは極一部を除いては広く浅くの関係を周囲と築いている。
メアリーは今年で十八歳になった。親しい人との別れをまだ体験していない。
エクレアを食べ終えると「次は何が食べたい?」とアタナシウスに問われ、テーブルに置かれる多種類のスイーツを見ていった。スイーツが大好物なメアリーは全部食べたいと言いたいがはしたないと思われたくなくて、エクレアの次はティラミスを選んだ。同時にデザートスプーンを受け取ってティラミスを掬おうとしたら、親しげにアタナシウスに話し掛けてきた男性の声に静止した。帝国を守護する騎士団の団長だ。お茶会に参加するなんて珍しいと眺めているとアタナシウスは、メアリーとティミトリスに一声残して彼と違う場所へ行ってしまった。
「珍しいな。あの熊がこんな可愛らしいお茶会に参加するなんて」
「熊って……騎士団長に失礼ですよ」
見た目熊なのは間違ってない。が、ここは外。誰の耳があるか分からない。
「事実だろう。メイだって熊だって思ってるだろう」
「……はい」
違うと言えば何に見えると問われ、同じ答えしか返せない。一見正反対な騎士団長とアタナシウスは、ああ見えて友人だとか。騎士達の鍛錬に偶に付き合う際、二人練習をするが鍛錬場が半壊するから止めてほしいと騎士達はいつも泣いている。
「皇太子はいつ来るんだか」
「皇太子殿下が私との婚約に拘る理由を考えてみたのですが」
「どう思うんだ?」
「シルバニア家の後ろ盾が欲しいか、不老になりたいから、としか浮かびません」
「は、はは! メイはそう思うか。良いんじゃないのか、それで。今日会ったってまともな理由させ言えないだろうよ」
「何故ですか?」
訊ねてもティミトリスは妖しく笑ってメアリーの頭を撫でるだけ。一人楽しそうなティミトリスの意地悪は、事実を知りたいメアリーからすると不満が溜まる一方。
ティラミスを持ったまま、ティミトリスの側を離れた。追い掛けて来ないのを見る辺り、メアリー一人でも問題ないと判断されたのだ。
「パパ様もだけど、お父様はもっと意地悪だわ」
大好きなのは変わりなくても過ぎた意地悪は頂けない。メアリーが怒っても可愛いと顔が緩むだけで効果なし。
ティラミスを一口食べようと口に入れ掛けた時、横から声を掛けられた。またティラミスを食べる邪魔をされたと若干苛立ちを感じつつも、振り向くと先程アタナシウスに言い負かされた挙句ホワイトゲート公爵夫人に叱責されたマーガレットが数人の令嬢を引き連れてメアリーの前に。
面倒な人が来たと抱くも顔には出さなかった。令嬢としての仮面をつけ、彼女達と向かい合った。
「楽しんでいらっしゃる? メアリー様」
「はい、とっても」
「それは良かったわ。勇気を出してメアリー様を招待して良かった」
「ええ! あのシルバニア公爵様達を見られるなんて幸運ですわ」
「メアリー様がいないと基本的に公爵様達とは会えませんもの」
「……」
マーガレットの言葉に続き、周囲の令嬢達が紡ぐのはティミトリスとアタナシウス。メアリーのおまけ扱いは今に始まった事じゃなくても極めて不愉快。マーガレットの空色の瞳がメアリーを馬鹿にするように見つめていた。
ふんわりとした金髪に庇護欲がそそられる愛らしい顔立ちと美しい空色の瞳。ミカエリスの好みの女性は知らなくても、どの男性でも守ってあげたくなる可憐な容姿は同性さえも味方にしてしまう。取り巻きの令嬢を引き連れてやって来たのは、側にティミトリスとアタナシウスがいないからだ。あの二人がいたら絶対に来なかっただろう。
「別の場所も見学したいので私はこの辺で――」
「まあメアリー様。そう急がずとも花は逃げませんわ」
「そうですわ。それともメアリー様は、わたくし共のような者の相手をしたくないのかしら?」
「……いえ、そういう訳では」
「だったら良いではありませんか。私、よくミカからメアリー様の話を聞いていたので聞きたい事が沢山あるんです」
碌な事を言ってないだろう。
「ねえ、メアリー様」マーガレットの声色が一段と低くなった。
「ミカが贈ったドレスや宝石を捨てているのは本当ですか?」
マーガレットの疑いに満ちた瞳は裏腹に、声は事実言わんばかりの色をしていた。ミカエリスからのドレス? 宝石? 贈られた覚えがない。屋敷にメアリー宛の荷物が届く際、必ず執事の検閲が入り、次に父親達の検閲が入る。合格を貰えた物だけメアリーの手元に届く。贈り主が皇帝だろうが祖父母だろうが例外なく検閲をするが、気に食わなくても本人の許可無しに捨てられた物はない。
(いくら私が嫌いだからって、恋人に嘘を吹き込むなんて……)
ミカエリスに期待していた最初の時を除いても、個人としては兎も角、皇太子としては尊敬している。皇帝と共に帝国の発展に尽くし、自然災害で被害が甚大な村や街があれば過酷な道程であろうと自分の目で視察をし、復興に力を注ぐ。学院でも平民の生徒が通いやすいよう、自分が先頭になって生徒達を率いていた姿を何度も見た。
マーガレットが確証もなく訊ねているとは考え難い。経緯はどうであれ、ミカエリスが零したのは事実。
マーガレットの発言で周囲の令嬢の声が大きくなるもメアリーは怖じけず、真っ直ぐマーガレットから目を逸らさず発した。
「捨てていません。そもそも、届いてすらいませんわ、皇太子殿下からのプレゼントなんて。それこそ、婚約の結ばれた最初の誕生日にさえプレゼントは頂いておりません」
いつも誕生日プレゼントをくれるのは父親コンビと隠居生活を送る祖父母。皇帝からもあった。ミカエリスからはない。メッセージカードすらない。期待していた最初でそうなのだから、後の年はミカエリスに何の期待もしなかった。皇帝からは毎年届く上にメアリーの好きな物だかりだったから不満はなかった。
「メアリー様。ご自分がシルバニア家の娘だからって傲慢過ぎではありませんか? ミカは毎年、メアリー様の誕生日が近付くと少ない時間を使ったプレゼント選びをしていたのに」
「聞きますがホワイトゲート嬢が知っているのは何故ですか? 殿下に聞いたのですか?」
「私はミカと昔から一緒にいる幼馴染だから、皇居へは好きに行っていいの。遊びに行った日に女性物のプレゼントを前にしているミカを何度も見ているもの」
「幼馴染といえど、限度があるのでは? お互いがどう思っていようが私と皇太子殿下は、お父様とパパ様、皇帝陛下によって認められた正式な婚約者です。幼馴染でしかないホワイトゲート嬢は下がるべきでは?」
「なんですって!?」
今まで言わなかっただけで本来なら、もっと最初の頃に伝えておいた方が良かった。マーガレットは、二人の婚約が正式に解消されない限り、ただの幼馴染。部外者だ。
事実を突き付けただけで過剰に反応し、顔を赤くするのは今日で二度目。悔しげに顔を歪めたマーガレットは口を大きく開いた。
周囲にはいつの間にか人は居なくっていた。最初からマーガレットが人払いしていた。
お父様とパパ様が来ない辺り、来なくても大丈夫だと置かれているのだ。だが、マーガレットがこれ以上の行動に出れば二人は相手が何だろうが容赦はしない。
「ミカからの好意を踏み躙っている挙句、シルバニア公爵様達に我儘放題のあなたなんかより、私の方が何倍もミカを愛してるの! 私の方が皇太子妃に相応しいんだから!」
皇帝が不老の血が皇族に流れる事に反対していると知るのはどれくらいの貴族か今度聞こう。
「ええ、そうですわ! マーガレット様が皇太子妃に相応しいですわ!」
「一人じゃ何も出来ないくせに。シルバニア公爵様達が助けに来るのを待っているみたいですが、他の方々は違う場所に移動している頃なので誰も来ませんわ!」
一人の令嬢が手を前に突き出した格好で近付く。咄嗟にメアリーは左に避けた。令嬢は派手に転んだ。今日の為に準備したドレスも顔も台無しだ。
「これ以上私に危害を加えるなら、あなた達全員の家に抗議の文を送らせていただきます」
「引き篭もりのメアリー様がわたくし達を知っている筈が……」
「レディ・アルビノーニ嬢、カゼラート嬢、カステッリーット嬢、チェステ嬢ですよね? 貴族名簿は覚えるように教え込まれましたので全員の顔と名前は覚えていますわ」
守られてばかりのシルバニアの娘と周囲に馬鹿にされるのは屈辱で、同時に悔しかった。
周辺国と良好な関係を築けているのも祖父や父親達の存在が極めて大きい。存在が抑止力となる偉大な彼等の役に立った少しでも良いから役に立ちたくて、必要な知識は全て頭に叩き込んだ。振る舞いも全身が筋肉痛になろうが目の下に隈が現れようがお構いなしに覚えた。
やりすぎると途中でティミトリスとアタナシウスからの強制休養が待ち構え、数ヶ月は何も出来なくなったので以後は程々にした。
顔を知られているとは予想していなかった令嬢達の顔が青褪めていく。
一人強気な態度を崩さない彼女へ目をやった。
「あなたも例外ではありません、ホワイトゲート嬢」
「っ……!」
綺麗な空色の瞳から透明な雫が沢山流れ落ちていく。悔しげに駆け出したと思いきや……
「ミカ――!」
マーガレットは漸く到着したミカエリスに抱きついた。
突然の事で困惑しているミカエリスだが、メアリーの姿を捉えた途端険しい顔付きとなった。
「……はあ……」
メアリーは隠そうともせず、堂々と溜め息を吐いた。
こっそり吐いたって耳が鋭いミカエリスには届く。なら、堂々と吐いてしまえと。
マーガレットが泣いているのを自分のせいにされるのだろうと諦めに入った。
「メアリー」
マーガレットを連れたミカエリスが開口一番放ったのは――
「そのドレスはなんだ?」
予想外にもドレスだった。
「? パパ様とお父様が用意してくださいました」
「っ」
「?」
先日のお茶会もだが、ドレスを贈った相手を正直に話すだけで睨まれる。
ミカエリスのティミトリスとアタナシウスを嫌う感情は並大抵ではないようだ。
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