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花祭りへのお誘い③
しおりを挟む翌日、手紙が私宛に届いたと侍女がサロンに持って来た。現在、お姉様とロードナイト殿下の三人でお茶をしている最中だ。二人に誘われてしまったら断れない。手紙とペーパーナイフを受け取った。差出人はグレン様。初めて貰った……と呟くとロードナイト殿下は額に手を当てて呆れた溜め息を吐いた。
「婚約して何年経っていると思っているんだ……」
「婚約解消になるのを嫌がる理由は、我が家の魔法技術が欲しい以外あるのでしょうか」
「ロリーナ嬢はグレンから何も聞いてないんだな……」
「お父様にも言われました……。グレン様は私について何を言っていたのですか?」
他には見ない薔薇色の瞳が伺う様にお姉様を見、暫し間を開けてお姉様は頷かれた。
「ロリーナとグレン様の婚約はね、グレン様からの希望だったの」
「グレン様?」
「そう。ロリーナに一目惚れをしたグレン様はその日の内にシュタイン公爵に願い出て、息子の願いを叶えてあげたい公爵がお父様に接触を図ったの」
「一目惚れ?」
一目惚れ
一目惚れ
一目惚れ、とは何だったか……。頭の中で四文字が反芻する。私の記憶が確かなら、一目惚れは初対面の相手を好きになる、筈……。私がグレン様と会ったのは、婚約者としての顔合わせの日。彼は違うらしく、十歳の時、家族で花祭りを見に行った時に私を見掛け一目惚れしたのだとか。
「覚えてる? 街の広場にある大きな花壇の前で踊ったのを」
「覚えてます」
その時の花祭りは春で、ピンク色を中心とした可憐な花々が咲き誇っていた。踊り子であった母をお父様と義母が見たのも春の花祭り。私の髪色はお父様と同じで亡き母は銀色。瞳は驚く事にお父様や私と同じ濃い紫水晶。花の妖精が可憐な花々の中心で踊っている姿に心奪われたのはきっと義母だけじゃなかっただろう。誰にも言われる訳でもなく、花の美しさに引き寄せられ思うが儘に踊った私をグレン様は一目惚れしてくださった。……の割に散々な扱いなのは何故?
私の疑問が伝わったらしいロードナイト殿下は再度溜め息を吐かれた。
「君の母が踊り子で、侯爵を誑かした魔性の女だという悪口をグレンは真に受けてね。更に君自身にも問題があると」
「問題?」
「ああ。正妻の子であるセレーネを虐めるだの、侯爵や夫人に我儘放題だの、色々ね」
「何ですかそれ!?」
元々周囲からの評判が良くないとは薄々感付いてはいたが心当たりのない噂に驚愕した。辟易としているお姉様のティーカップを持つ手に力が込められていた。私を大事にしてくれるお姉様からしたら、事実無根な噂に腹を立てているのだ。
「一目惚れをして婚約を願ったのは自分なのに、根も葉もない噂を信じて君に冷たくするなんてね。これならさっさと婚約を解消して解放してやれと何度も言ったんだ。そうしたら――“カラー家から引き離せばセレーネ嬢の為にもなる、お前も安心だろう”と言われてね」
「…………」
あんまりだ。あんまりな言葉に絶句してしまった。私はそれほどまでに嫌われていたのか? お姉様に関しては黒いオーラが出ていて不機嫌極まっていた。
「……それが婚約解消を嫌がる理由ですか?」
「本人に聞いてごらん」
「…………絶対に婚約解消をします」
「カラー侯爵に言えばいいよ。君が婚約解消を取り下げてほしいと言ったらそうするし、続行ならそのまま解消してくれる」
「絶対解消します」
必死に婚約解消を嫌がったのも、花祭りで最後の機会をくれと縋ったのも私という悪をカラー家から引き離す為で。私に対して欠片も想いを持っていなかった。
視界が潤むも袖で乱暴に拭い、自分のティーカップを持ち紅茶を飲み干した。温くなっていたのが幸いだ。好きだったのは私だけだったなんて……ちょっとでも期待した私が馬鹿だった。
今度の花祭りで最後の思い出を作るのはしよう。……事実を聞いてもグレン様を好きだった気持ちに嘘はない。
私が花祭りでグレン様とお別れする決意を出すとお姉様はうんうんと頷き、ロードナイト殿下は苦笑しながらも応援してくれた。
「それから……カリアス様に婚約を申し込まれました」
「カリアスは君にずっと片思いをしていたから、この機会を逃したくないんだよ」
「ロードナイト殿下も知ってたのですか?」
「知ってたよ。グレンが君に冷たくするのを毎回すごい目で睨んでたから」
気付いていないのは私だけだった……。
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