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レイチェルにそっくり
しおりを挟む夜。
不意に目を覚ますと時計は真夜中を指していた。朝を迎えれば花祭りとなり、時間が来たらグレン様が迎えに来る。今日をグレン様との最後に思い出にする。それ以前に思い出があるかと言われると困ってしまう。誰もいないのに苦笑してしまった。
一目惚れをしたから婚約を結ばれたと聞かされた時、最初に抱いたのは嬉しさよりも大量の疑問だった。一目惚れしたのなら何故私に優しくしてくれないの? 他人には、クリスタベル殿下には特に優しくしてるのに。
お姉様を虐めている、家で我儘放題だという噂を信じるのも……。もしも私がお姉様を虐めているのならもっとギクシャクしているし、一緒にいる時間はずっと少ないし、何ならロードナイト殿下の私を見る顔付も違う。殿下はお姉様を心底愛していらっしゃるから、お姉様を虐げる私を許しはしない。我儘放題についても、着ているドレスや身に着けている装飾品は全てお義母様やお姉様が選んでくれたデザインばかり。悲しいが私にはあまりセンスがないらしく、自分で選ぶと二人にダメ出しを食らう。
いくら考えても駄目ね。
「ううん、違うわロリーナ」
グレン様の事は今日を以て忘れるのよ、想いを捨てるのよ。
簡単に出来るのなら人は苦労しない、か。
溜め息を吐くとベッドから降り、外に出た。当然だが外はまだまだ暗い。瞬時に明かりを出し、厨房へ向かった。喉が渇いたものの、寝る前に水を飲み干した為水差しは空っぽ。厨房に置いてある水差しを持って部屋に戻ろうとすると。「誰?」と声が。吃驚して水差しを落としそうになるも、寸でのところで掴み事なきを得た。声の主はお義母様。寝間着にストールを巻いている。キョトンとするお義母様に水差しを見せると理解してもらえた。
「貴女も喉が渇いたのね」
「お義母様もですか?」
「ええ」
「まだ代えはあります。取りましょうか?」
「自分でするわ。……今日の花祭りだけど、どうしても嫌ならわたしや旦那様がグレン様に帰ってもらうわ」
「お義母様……」
接する機会は少なく、複雑な目を向けられるが私を心配してくれる。お姉様やお父様から話を聞いているお義母様にゆっくりと首を振った。
「大丈夫です。行くと決めたのは私です。それに今日をグレン様との思い出にしようと」
「そう……ロリーナが決めたのなら、これ以上は言わないわ。ただ、嫌になったらすぐに帰って来なさい」
「ありがとうございます」
同じ事をお姉様にも言われた。こういう部分は二人似ている。
お義母様の細く小さな手が私の頬に触れた。慎重に、宝物を撫でる手付き。
「レイチェルに瓜二つ……わたしが恋をしなければ、レイチェルは今でも好きな踊りをしていたのよね……」
「……」
「おかしいでしょう? 女性に恋をするなんて。でも、あの時は抑えられなかった。花に囲まれて踊るレイチェルに心を奪われたの。後から彼女が妖精だと知った時は納得してしまったの。妖精はね、人間よりも優れた美貌を持つと言われているの。特にレイチェルは妖精の中でも飛び切り美しい女性だから、同性でも魅了されてしまったのだとベルローズ公爵夫人に言われたわ」
亡き母を私の中から見出そうとし、軈て、止めると手を離した。お休み、そう言って去って行ったお義母様の背はどこか寂しそうであった。
「戻りましょう……」
水差しを持ったまま部屋に戻ったところで、グラスを回収されていることに気付き、がっくりと肩を落とした。水分補給は朝になったらしよう……と。
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