幸せなのでお構いなく!

文字の大きさ
10 / 26

レイチェルにそっくり

しおりを挟む



 夜。
 不意に目を覚ますと時計は真夜中を指していた。朝を迎えれば花祭りとなり、時間が来たらグレン様が迎えに来る。今日をグレン様との最後に思い出にする。それ以前に思い出があるかと言われると困ってしまう。誰もいないのに苦笑してしまった。
 一目惚れをしたから婚約を結ばれたと聞かされた時、最初に抱いたのは嬉しさよりも大量の疑問だった。一目惚れしたのなら何故私に優しくしてくれないの? 他人には、クリスタベル殿下には特に優しくしてるのに。
 お姉様を虐めている、家で我儘放題だという噂を信じるのも……。もしも私がお姉様を虐めているのならもっとギクシャクしているし、一緒にいる時間はずっと少ないし、何ならロードナイト殿下の私を見る顔付も違う。殿下はお姉様を心底愛していらっしゃるから、お姉様を虐げる私を許しはしない。我儘放題についても、着ているドレスや身に着けている装飾品は全てお義母様やお姉様が選んでくれたデザインばかり。悲しいが私にはあまりセンスがないらしく、自分で選ぶと二人にダメ出しを食らう。
 いくら考えても駄目ね。


「ううん、違うわロリーナ」


 グレン様の事は今日を以て忘れるのよ、想いを捨てるのよ。
 簡単に出来るのなら人は苦労しない、か。
 溜め息を吐くとベッドから降り、外に出た。当然だが外はまだまだ暗い。瞬時に明かりを出し、厨房へ向かった。喉が渇いたものの、寝る前に水を飲み干した為水差しは空っぽ。厨房に置いてある水差しを持って部屋に戻ろうとすると。「誰?」と声が。吃驚して水差しを落としそうになるも、寸でのところで掴み事なきを得た。声の主はお義母様。寝間着にストールを巻いている。キョトンとするお義母様に水差しを見せると理解してもらえた。


「貴女も喉が渇いたのね」
「お義母様もですか?」
「ええ」
「まだ代えはあります。取りましょうか?」
「自分でするわ。……今日の花祭りだけど、どうしても嫌ならわたしや旦那様がグレン様に帰ってもらうわ」
「お義母様……」


 接する機会は少なく、複雑な目を向けられるが私を心配してくれる。お姉様やお父様から話を聞いているお義母様にゆっくりと首を振った。


「大丈夫です。行くと決めたのは私です。それに今日をグレン様との思い出にしようと」
「そう……ロリーナが決めたのなら、これ以上は言わないわ。ただ、嫌になったらすぐに帰って来なさい」
「ありがとうございます」


 同じ事をお姉様にも言われた。こういう部分は二人似ている。
 お義母様の細く小さな手が私の頬に触れた。慎重に、宝物を撫でる手付き。


「レイチェルに瓜二つ……わたしが恋をしなければ、レイチェルは今でも好きな踊りをしていたのよね……」
「……」
「おかしいでしょう? 女性に恋をするなんて。でも、あの時は抑えられなかった。花に囲まれて踊るレイチェルに心を奪われたの。後から彼女が妖精だと知った時は納得してしまったの。妖精はね、人間よりも優れた美貌を持つと言われているの。特にレイチェルは妖精の中でも飛び切り美しい女性だから、同性でも魅了されてしまったのだとベルローズ公爵夫人に言われたわ」


 亡き母を私の中から見出そうとし、軈て、止めると手を離した。お休み、そう言って去って行ったお義母様の背はどこか寂しそうであった。


「戻りましょう……」


 水差しを持ったまま部屋に戻ったところで、グラスを回収されていることに気付き、がっくりと肩を落とした。水分補給は朝になったらしよう……と。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。

紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。 学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ? 婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。 邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。 新しい婚約者は私にとって理想の相手。 私の邪魔をしないという点が素晴らしい。 でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。 都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。 ◆本編 5話  ◆番外編 2話  番外編1話はちょっと暗めのお話です。 入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。 もったいないのでこちらも投稿してしまいます。 また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

私を見ないあなたに大嫌いを告げるまで

木蓮
恋愛
ミリアベルの婚約者カシアスは初恋の令嬢を想い続けている。 彼女を愛しながらも自分も言うことを聞く都合の良い相手として扱うカシアスに心折れたミリアベルは自分を見ない彼に別れを告げた。 「今さらあなたが私をどう思っているかなんて知りたくもない」 婚約者を信じられなかった令嬢と大切な人を失ってやっと現実が見えた令息のお話。

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。 ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。 え?イザックの婚約者って私でした。よね…? 二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。 ええ、バッキバキに。 もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。

処理中です...