どうしてこうなった

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短気?



「あ」

 執事の手配した馬車が正門前に停まった。ジルが御者を交代し、車内に乗り込んだレインリリーは窓から顔を出した。「お元気で」数少ない味方であった執事の別れの挨拶を述べ、馬車が動き出しても深く腰を折って頭を下げ続けた執事に心の中で最上級の礼を申した。
 クリスティ伯爵家からノーバート公爵家のまでは然程時間は掛からない。一旦、街へ降りようと言うレインリリーの提案をジルは受け入れた。
 街に降りると馬車を停め、ジルの手を借りて下車した。

「どちらへ行かれますか?」
「ちょっとね」

 レインリリーが足を向けたのは整理整頓が苦手な店主が営む何でも屋。生活用具から勉強道具、食材までありとあらゆる商品が売っているものの、何処に何があるかは誰にも分からない。カウンターで転寝をしている店主も然り。
 子供の頃から足を運んでいる為、店主とは顔見知りとなった。お金さえ払ってくれれば勝手に持って行っていいと許可を得ている。目当ての品がないかと狭い店内を歩き、軈てないと解ると諦めて店を出た。
 馬車に戻り、再びノーバート公爵家へ向かってほしいとジルに頼んだ。
 言われた通り馬車を発車させたジルに来店の理由を訊ねられた。

「お嬢様なら、もっと高級な店が似合っています」
「ふふ、似合うか似合わないかじゃないの。探し物をしているの。店を出たのは私が探している物がなかったから」
「何を探されているのですか?」
「鏡」
「鏡?」
「ええ。鏡」

 魔女が連絡手段を用いるのに最も使用する道具が鏡。魔女が作った魔力が込められた鏡は人間の世界では滅多に回らない。アーラスが人間に転生したレインリリーを探すべく、大量に鏡をばら撒いていないか期待して探し続けている。が、世界は広い。アーラスの鑑を見つけるのは困難だ。
 クレオンの態度に何も言わないのはノーバート公爵家お抱えの大商人なら、知らずとも珍しいから魔女の鑑を持っていそうな気がしたから。

「お嬢様は変わった鏡を探しているのですか?」
「まあね。鏡によったら、映した相手の美しさを吸収し、更に寿命まで吸い尽くす物まであると聞いたの。面白そうだと思わない?」
「面白いかは分かりませんが、そんなに貴重なら見てみたいです」

 見つけたらジルに見せてあげよう。
 二人の会話はノーバート公爵家に着くまで途切れなかった。
 門番にレインリリーであると告げると正門を開け、敷地内へ入れてもらえた。馬車を進んでいくとクリスティ伯爵家よりも二倍はあるであろう巨大な屋敷が見えた。煉瓦造りの珍しい建物は国内外からの関心が強く、ノーバート公爵家の屋敷を見たいという人も多いと聞く。
 屋敷の前にはレインリリーを置き去りにしたキールがいて。停車した馬車から降りると「随分と遅い到着ですね」と馬鹿にした。
 主人が嫌っているからと言って、キールは公爵家の人間ではなさそうだ。

「そちらは?」
「彼はジル。私の従者です」

 御者で通すつもりがつい従者と言ってしまった。ジルも驚いてはいるが表情に出したのは一瞬。台詞を噛まず自己紹介をした。

「貴女の到着が遅いから、クレオン様は待ち続けています。貴女と違って暇ではないのですよ」

 何処の誰のせいで遅れたと言いたい。何も言い返さないのを良いことに幾つかの嫌味を貰い、さっさと付いて来いと言わんばかりの態度にプツンとしたレインリリーは執務室に着くまでキールが転び続ける呪いを瞬時に掛けた。
 呪いの効果はしっかりと発揮し、執務室にいるクレオンからの冷たい声が飛ぶ前に全身傷だらけのキールを見て驚愕していた。

 

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