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青出 風太

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剪定し薄青 11

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―  ―

「ご協力ありがとうございました」

 小田は丁寧に警備員に頭を下げる。

「ご協力どうも」

 相沢も小田に続き礼を述べた。

 街中に設置された監視カメラ。その多くはいくつかの警備会社が設置したもので、地区によって管理している会社が異なる。

 ここで3社目だが、未だめぼしい情報はない。

 犯行時刻は深夜、逃走手段を車と仮定した場合、現場から見て東に空港、西に川、
北には線路が走り、南に海が広がるこの場所で逃げるとなればそう選択肢はない。

「次行くぞ」

「っはい!」

 犯人が男性なのか女性なのか、どのくらいの年齢でどういった見た目をしているのか。刑事たちは現状全く把握できていない。それゆえに犯人を分析し逃走先を割り出そうにもその分析材料となる情報がない。

 なにも手掛かりのない状況から犯人の逃走先を絞り込むのは困難だと言わざるを得なかった。

「本当に、見つかるんでしょうか。やはり我々も下足痕や凶器を当たれるように抗議した方が良いのでは?」

 小田は焦っているようだった。

 入って間もない彼が手柄欲しさに空回りしているわけではないことを相沢はよく理解していた。彼は手柄よりも事件解決を願う入りたて特有の青臭く、でもどこか眩しいそんな刑事だ。

 捜査をほとんど経験したことのない彼にとって、事件がきっちり終わらないことはとてつもないストレスになっている。それは想像に難くない。

 刑事になりたての人間の中には警察を絶立的な存在だと考えている者がいる。どんな事件でも刑事の手にかかれば、すべてを調べ上げて、一つの取りこぼしもなく完全な答えを出せるそんな妄想にも等しい考えを持つ人間だ。

 小田がそこまで激しい思想を持っているようには思えなかったが、事件は解決されるものだと信じてやまない人間は多い。

 現にカメラやSNS等の普及によって解決できる事件も増えてはいる。解決のために出来ることをするというのも間違いではないし、素晴らしいことだが、努力の方向性を一歩間違えれば解決という名の誤答にたどり着く。

 そこは何もなく、どこにも繋がらない終着点。自ら出した答えに悩みつつ、誤答の可能性を検証しようにも、提示した答えを容易には下げられないのが警察という組織だ。



 相沢は刑事に過度な期待はしていなかった。しかし、この国の治安は警察組織によって守られているのは事実。

 具体的な手段や手法に思い至っていたわけではないが、集められるだけの手がかりを集めて即座に行動し、逮捕・解決する。そうして国民の安全と平和な日常を守る。人々の平和を望む相沢にとって手段は問題ではなかった。

 長くこの仕事をしていれば辞めていく奴もいるし、残る奴もいる。小田のように正義感に燃える奴は比較的長く続くが、正義感ゆえに暴走しやすい。

 今回はいつになく解決を急いでいるように見える。なにせ、相沢たちは“高校教師失踪事件”の犯人をいまだに捕まえられぬまま、愉快犯の事件に合流するように命じられたため、担当事件を放り投げているような状態といって差し支えない。

 彼は一刻も早く事件を解決し本来の捜査に戻りたくてたまらないのだろう。

 先日、捜査がひと段落し、捜査本部に戻った時。相沢たちのように独自に調査をしている刑事たちにあったが、彼らも同じ状態で、何の手がかりもなく闇雲に愉快犯を追っていると言っていた。

 それも小田を焦らせる要因の一つだろう。

(少しはフォローしてやらないとな)

 相沢は悩みながらも次の心当たりを頼りに歩き始めた。



17:47

 次に彼らが向かったのは事件現場から少し離れたコンビニだ。ここの駐車場は狭いが、それゆえにコンビニの前を通る道路を広くカバーできる角度でカメラが設置されている。駐車場と道路の両方を確認することができるというわけだ。

「確か、ここを曲がって……あれか」

 暗くなって来た視界にコンビニの看板の光が映った時だった。

「あっ!すみません!相沢警部!相沢警部ですよね」

 声に振り向くと、そこには見覚えのある巡査が立っていた。

「君は確か……」

「はい!川田巡査であります」

 勢いよく敬礼する川田。顔は少しやつれているが、元気よく明るい笑顔を浮かべていた。

「先輩、知り合いですか?」

「あぁ、以前このあたりで事件を追っていた時に協力してもらったんだ」

「なるほど、それでカメラのことも」

 納得している小田とは対照に2人の会話に取り残されていた川田を見て相沢は遅れて相棒の小田を紹介した。

「凄いですね。あの相沢警部の相棒だなんて!」

 小田はその言葉を聞き照れくさそうにしていた。小田も自分が尊敬する相沢とバディを組むように言われた時は嬉しかったものだ。

「そんな、自分はまだまだ。先輩の足を引っ張らないように必死にやっているだけで本当――」

 謙遜した言葉を並べる小田。しかし、刑事としての実力は相沢も認めている。経験こそ足りないがこのまま成長出来ればいい刑事になるだろう。だからこそ、相沢は彼をバディに選んだのだ。

「私も早く刑事になって共に捜査させていただきたいくらいです」

 そんな川田の声を遮るように不機嫌そうなしわがれた声が響く。

「話は終わったかい!?」

「は、はい」

「そちらは?」

 小田の問いかけに老婆は自ら答える。

「私ゃ、すぐそこに住んでるんだけどね?夜んなると隣の部屋がうるさいのなんのって。何回注意しても治んないし!」

「えっと?」

 小田は川田に視線を送る。

「ここのところ、トラブル続きで結構呼ばれているんです。ですが、こちらとしても注意する以外あまり出来ることはなくてですね。この間なんてパトカーが出る事態にまでなってしまって」

 川田は申し訳なさそうに話す。

「いや、いい。ご苦労様だな――」

 話をまとめようとしていた相沢だが、そんな様子を見て老婆は相沢の手を掴んだ。

「ちょっと来とくれよ。今日ならいるはずだからさ」

 相沢たちは老婆に連れられるままコンビニから5分ほど離れたアパートに移動した。





「原田さん!いるんだろう!ちょっと!」

 老婆はアパートに着くなり原田という騒音騒動の主の部屋にまっすぐ向かっていった。

 強引な人物だが、流石に刑事のいる前で派手なことはできないだろうが、放置しておくこともできず相沢たちは後を追って階段を上った。

 アパートは2階建て。敷地に大した広さは無いが、必要なものは全て揃っており、こじんまりとしながらも新しさを感じさせるモダンな様相を呈していた。

 入り口から見て真正面に大家の住む平屋があり、右手にアパート棟。一フロアに4部屋、合計8部屋の建物が建っていた。

 アパートの外に併設された階段を登った先。2階端の奥の部屋。そこが件の原田の部屋だった。

 老婆は相沢たちが止める暇もなく、躊躇いなくインターホンを鳴らす。

「ほら、アンタからも言ってやってくれよ」

 相沢は何も言えなかった。原田という人物がどんな性格で、どんな音を出して騒音騒ぎを起こしているのか、なぜ音を出さざるを得ないのか何も分からない。無茶ぶりもいいところだった。

「……何?」

 出てきたのは20代後半くらいの女性だった。寝起きなのか髪はぼさぼさでダルそうな様子だ。

「刑事の相沢です、今少し大丈夫ですか?」

 老婆の言う「今日はいる」という言葉。寝起きそうだが、ボケてはいない様子。そして微かに匂うタバコのにおい。

(そういう系か?)

 突然やって来た年上の男性相手に敵意を隠そうともしないが、出てこないよりは幾分かマシだ。というよりも――

(近所、と言っても15分くらいかかるが、そう離れていないところで人が殺されているというのに怖くはないのか?)

 彼女が何の警戒もなくドアを開けたことに驚きすら覚える。ドアの隙間からドアロックのチェーンが見えるが、外した音はしなかった。普段から使ってもいないのだろう。事件にもあまり関心はなさそうだ。

「いや、ちょっとこの人に頼まれてね。川田も何回か来てるみたいだし、なんでそこまで大きな音が出てしまうのかと思ってさ」

「別に……」

「この人明け方に帰って来ては洗濯機を遠慮もなく回すし、電話も大きな声でするしで困ってるんだよ!もっと言ってやってくれよ」

 相沢は待ってもいない援護射撃に苦笑いを浮かべつつ、原田に向き直る。

「ってことみたいなんだけど」

「仕方ないじゃん。帰ってきて寝る前にやってるだけだし、電話だって自由でしょ」

「まぁ、それはそうだ。毎日話してる感じなのか?」

「毎日って程じゃないよ。週に2、3回」

 自然な会話で相沢は彼女から話を引き出していく。彼女も初めは話し渋っていたが、相沢が話せる相手だと分かると徐々に口を開くようになってきた。

「そうか。原田さんとしても、こう色々と来るようじゃ迷惑だろう?解決策を考えたいんだ。曜日は決まってるのか?」

「……多いのは週末かな……たまに電話しながら帰ってくるのもあるけど」

「まぁ外で話すよりは家のが良いだろうな。これからもっと寒くなるし」

 当たり障りのない会話から何とか妥協点を探りだし、相沢は話をまとめ上げた。
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