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第一章 黒神子レスフィナとの出会い編
1.運命の出会い
しおりを挟む1.運命の出会い
『巡礼者には施しを。神に仕える者には供物を、さすれば死後汝の魂は救われるでしょう!』
空はうっすらと暗い雲がかかり、まだ肌寒い周りの風景が遅い春を印象づける。
険しい山々が見える小さな田舎町には煉瓦や材木で作られた家々が犇めく用に立ち並び、そこで暮らす人達の生活感を滲み出す。そんな人々が暮らす町に何やら黒い者が訪れる。
時刻は八時三十分。
手には木の杖を持ち、黒いローブを纏ったその者が静かに玄関の前に立つ。その声を聞いたこの家の亭主はまるでやっかいごとから逃げるかの用にその者にわずかばかりの金銭を渡すと直ぐに玄関の鍵を掛ける。
その光景がいつもと変わらない現実とばかりにその黒いローブを被った人物は、貰ったばかりの僅かな小銭を大事そうに革袋に入れるとまた直ぐに近くの家へと足を向ける。
何やら申し訳なさそうに歩くその黒いローブの者はその可愛らしい声質からしてどうやら若い女性の様だ。
フード付きの黒いローブを着た女性は少し離れたレンガ造りの家まで来ると、木で出来た扉を軽く叩きながらまた同じ言葉を繰り返す。
「すいません、巡礼者の者ですが。巡礼者には施しを。神に仕える者には供物を。さすれば汝の魂は救われるでしょう。万病によく効く薬草も持参しましたので、どうか施しの程を」
うやうやしく頭を下げた黒いローブの女性に、荒々しく扉を開けた女亭主が悲鳴に近い声を上げながら怯えた声で叫ぶ。
「ひいいぃーぃぃぃ、く、黒神子。まさか黒神子の巡礼者がついにこの町にも来るだなんて。施しでも何でもやるから早くこの町から出て行って頂戴!」
女亭主は黒いローブを着た女性に小さな革袋を押し付けると
「もうここには二度と来ないで!」と言いながら何かに怯えるかの用に豪快に扉を閉める。
「きゃぁぁ!」
その閉めた反動で扉の前にいた黒神子と呼ばれし女性は、小さな悲鳴を上げると石段から足を踏み外したのか地面へと崩れ落ちる。
ドサリと鈍い音を立てながら豪快に地面に落ちたせいか貰ったばかりの銅貨の小銭は数枚地面へと転がり、黒神子はそのまま地面の泥にまみれてしまう。
「うぅぅ……い、痛いです……」
土で汚れた銅貨をしばらく眺めていた黒神子は、ゆっくりと体を起こすとローブについた埃を手で叩きながら静かに立ち上がる。
そんないたたまれない光景を見ていた町の住人達も幾人かはいたが、やっかいごとには誰も関わりたくはないとばかりに皆が見ないふりをする。
だがそれも仕方が無い事だ。嫌われ、恐れられ、畏怖されし存在……旅をし各地を回りながら終わりのない巡礼の旅をその終焉が訪れるまで永遠に繰り返す者。それが闇の神子、黒神子と呼ばれる者の宿命なのだ。
そんな哀愁漂う黒神子の姿を見ていた町の人達はまるで汚らわしい物でも見るかのようにヒソヒソと話をする。
「あれって黒神子じゃない。もうこの町に来ていたのね。不吉ね、なにか悪いことが起きないといいけど。後で塩でもまいておきましょう」
「でも黒神子って全ての災いや悪意や不幸を受け止め吸い取ってくれる、とても有難い存在なんだろ。万病にも良く効く薬だって安く売ってくれるし、ならそう邪険にしなくてもいいんじゃないのか」
「あんた知らないの。何でも噂だと黒神子と呼ばれし存在は全ての災いを他者から吸い取ってくれる有難い存在とされているけど、その他者から貰った不運なる力を内に溜に溜めている為か、黒神子の傍にいるだけで不幸を間接的に貰う時もあるという話よ。だからああやってわずかばかりの施しを与えて早々に追い返すの。迷信とは違いその力は本物だし、くれる薬草は病気に良く効くから重宝はするけど、不幸を貰いたくないのなら余り関わらないことね」
「そうだな。あの者には悪いが、黒神子に関わるのはなるべく避けた方がいいようだ。なんでも噂だと黒神子に直接その手で触られた者は不運や病だけでは無く、幸運や生命力すらも吸い取られると言う話だ。まさに歩く災いだな」
「マジですか。そ、それって超怖いじゃ無いですか!」
「しかもあの黒神子と言う魔女は千年前からその姿を変えずに生きていて、ある人の噂ではどうやら不老不死だと言う話だ」
「不老不死だって本当かよ、もし本当にそうなら本物の化け物じゃないか。まさに聖女様達とは違い対極的な存在だな」
遠巻きに好き勝手に言う村人達の声が、深々とフードを被る黒神子の耳へと届く。だが黒神子はまるで気にしないと言うような様子で白魚の用な白い手を地面へとかざす。
「お、お金を、拾わないと。せっかく頂いた施しを大事にしないと……」
黒神子は周りの冷たい空気にさらされながらもぎこちなく目の前に落ちた銅貨を拾う。その姿は余りにも惨めで情けなく、そして同情を誘う。
懸命にお金を拾う黒神子だったが、心なしか体が震えだし、顔を覆うフードからは小さな呻き声が漏れる。どうやら静かに泣いているようだ。
「……う……うぅ……」
地面に落ちる涙を隠しながらお金を拾う黒神子の顔の前に、生気溢れる明るい声が飛ぶ。
「おお~君があの、旅をしながら人々の不幸や災いを吸い取り、尚且つ古代の神様の力を持つとされる、黒い神子……通称、黒神子と呼ばれている不老不死の魔女か。すっげーえぇな、俺初めて見たよ!」
その声質からしてまだ若い男の声だ。黒神子はハッとしながらその涙に濡れた顔を上げると声のした方にその顔を向ける。
そこには万遍の笑顔を浮かべた青年の顔があった。
元気溢れるその青年は優しい笑みを向けると、戸惑いの顔を向ける黒神子の顔をマジマジと見る。
黒いローブから覗いた黒神子の素顔は小顔で白く、そしてルビーの用な赤い瞳と美しい黒髪が印象的な少女だ。
対する青年の方は青黒い髪質に黒い瞳、そして細身だが引き締まった体をしている。どうやら何かしらの技能技術や戦闘訓練を積んでいる者の用だ。
その好奇心丸出しの優しそうな青年が、人々から忌み嫌われ恐れられている、呪われし存在、黒神子の少女に堂々と話しかける。
「君が噂の黒神子だと言うのなら当然いろんな世界各国の遺跡にも足を踏み入れているのだろ。古代に生きていたと言われているあの地球人と呼ばれし者達が嘗ては生きていた遺跡の中を調べるのもまた黒神子の仕事の一つだという話だからな」
「た、確かにそうですけど……その前に、あなたは私が怖くはないのですか。そんなに近くにいると私から流れる呪いの力が……あなたにも移るかも知れませんよ」
「はははは、俺は大丈夫、大丈夫だよ。そんな迷信信じちゃいないから。そんな事よりも黒神子と呼ばれている者達はいろんな遺跡を巡り、調査し、様々な事を調べているんだろ。当然古代の地球人の人達が残したとされる文明の遺産についても。なら今までに一体どんな発掘品を発見し、そして見て来たのか。その経験して来た事全てを俺に詳しく教えてくれ。頼むよ。黒神子と呼ばれているあんたが持つ不可思議な力の事や(古代の遺物と呼ばれている)かつての地球の人達が残したとされる様々な発掘品の品々に非常に興味があるんだ!」
「どうしてそんなに古代の遺跡や遺物の事が知りたいのですか?」
可愛らしく頭を傾ける少女にその青年は胸を張りながら堂々と言う。
「実は俺、子供の頃から古代人の残した遺跡やその謎に非常に興味があるんだ。二千年前に突如としてこの地へと現れた地球の人達は一体どこから来て、そしてあれだけの魔道科学文明を持ちながら一夜にしてなに故に滅んだのか……とかね。そう考えると謎は尽きないだろ。だから遺跡について調べているとされる黒神子でもある君に、直にこの話を聞いてみたくて、つい声をかけたんだよ」
「そう……そうですか。あんな危険で呪われた場所に興味を示すだなんて、あなたもどうかしていますね。まさかとは思いますが遺跡調査専門のプロフェッショナルでもある冒険者にでもなるつもりですか。今一攫千金を狙って危険を顧みずにその道を目指す人が多いとも聞きますからね」
その言葉にその青年はニンマリと笑う。
「ははは、よくわかったな。実は俺、一流の冒険者になる事を目指しているんだ。しかも先月試験を受けてな。なんと今日その試験結果の発表を聞きに行く所なんだ。何せ今年一年、この時の為に必死に勉強をし、技能技術もしっかりと磨いてこの試験に挑んだんだからな。今度こそ必ず受かると確信しているよ!」
「そうですか。受かるといいですね。それで今回で何度目の試験なのですか」
「ん、三回目だが」
「因みになん級の試験を受けているのですか。何せ三回も落ちているのですから冒険者6級か、或いは5級と言った所でしょうか」
「いや……八級だが……なにか」
その青年の言葉を聞いた黒神子の少女は、申し訳なさそうに顔を硬直させる。
「は、八級ですか……それはなんとも……が、頑張って下さい」
言葉に詰まった黒神子の少女はつい愛想笑いを浮かべる。そんな少女にその青年は拾い上げた銅貨を渡すと、自信満々に力強く立ち上がる。
「ふふふ、誰でも受かるとされる第八級の試験を三回も落ちている事を言いたいのだろ。確かに今までは何かしらの不備があって『たまたま』運悪く落ちてしまったが、今回は大丈夫だ、自信があるんだ。これから冒険者学校に行って結果を聞いて来るから、帰って来たら、君が今まで見て来たと言う遺跡の話や様々な体験談を聞かせてくれよな」
半ば一方的に黒神子の少女とまた会う約束をすると青年は人々が行き交う活気のある広場の方へと走り出すが直ぐに振り返る。
「そう言えばまだ名前を名乗ってはいなかったな。俺の名は『ラエルロット』行く行くはプロの遺跡専門の冒険者になる男だ。そして夢は、正義を志す者なら一度は誰もが憧れる、あの勇者職になる事だ!」
「私は……遥か闇なる世界の黒神子……名は『レスフィナ』と言います」
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まるで彼女には無い何かをこの青年に求めるかのように。
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