遥か闇なる世界 ~世界の絶望に立ち向かう黒神子の少女と、真の勇者になる事を夢見る心優しい青年の物語

藤田作磨

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第三章 二人の聖女編

3-4.相対する嘲りと助言

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             3ー4.相対する嘲りと助言


「は、ここはどこだ。そう言えばあの老人と孫と……その弱い二人に理不尽な暴力を振るっていたあの第七級冒険者の六人は一体どこに行ったんだ。立たなきゃ……立ってあの二人のおじさんとお孫さんが逃げられる時間だけでもなんとしてでも稼がなきゃ俺がわざわざ体を張る意味がないぜ。あの二人が逃げる時間だけはなんとしてでも稼いでみせる!」

 そう呟きながら朦朧とする意識をようやく取り戻したラエルロットはどうにか体を動かそうともがくが、そんなラエルロットの右腕に向けて回復薬の液体が入った注射器を打つ白魔法使いの少女の姿が目に入る。

 その回復薬のお陰で元気を取り戻した事を実感したラエルロットはまだ気だるい病み上がり気味の体を起こしながらその目の前にいる白魔法使いの少女にお礼の言葉を言う。

「どこの誰かは知らないけど正直助かったよ。先ずは介抱してくれた礼を言わせてくれ。俺の名はラエルロット、君の名を聞かせて貰ってもいいかな」

「私の名はタタラ。ギルド、白百合神聖剣魔団に所属をしている、白魔法を操る第六級冒険者よ」

「白百合神聖剣魔団か。色々と噂を聞いた事があるな。確かにあそこの創設者のリーダーにはあの第一級冒険者にして最強の十人が一人の、破滅天使のリザイアがいたはずだ。そんな凄いギルドに所属をしている人に助けられるだなんて幸運だし、ありがたいことです。正直助かりました。ありがとう御座います。それであの第七級冒険者の六人と……お爺さんとそのお孫さんはその後、どうなりましたか?」

 本気で心配をするラエルロットの反応に間近でその様子を見ていた白魔法使いの少女タタラは大きく溜息をつくとその後の話を淡々と語り出す。

「あなたが体を張って助けたあのご老人とお孫さんは無事に帰って行きましたよ。お爺さんの体の傷も私が持っている回復薬で傷を癒やすことが出来ましたから、恐らくは大丈夫なはずです。そして意識が無く倒れているあなたに何度も何度もお礼を言っていましたよ。もしも目が覚めたら厚くお礼を言ってくれと言っていましたからね」

「そうか、あのお爺さんとそのお孫さんは無事だったのか。その報告だけで俺の努力は報われたような気がする。それであの六人の冒険者の方は一体どうなったんだ?」

「気になりますか……」

「ああ、俺をたたきのめした悪党だったとはいえ、まだ未来のある若者たちだからな。やり過ぎた横暴な態度を大いに反省して更生してくれることを本気で願うばかりだよ」

 そのラエルロットの言葉に話を聞いていた白魔法使いの少女タタラは何やらキョトンとした顔をする。なぜならついさっきまで自分をたたきのめしていた相手を気遣う言葉を言う人間には正直出会ったことがないからだ。

 そんなラエルロットを見ながら白魔法使いのタタラはクスクスと思わず笑う。

「お優しいお兄さん、あなたは一体実年齢は何歳なんですか。そんな悟りきった綺麗事を言い張れる偽善者がいるだなんてこのご時世信じられませんよ。でもまあ、ただうわべだけを装う口だけの偽善者ではないようですし、勇者を志す正義馬鹿というのも案外本当の事なのかも知れませんね。彼女もあなたのことをそう言っていましたからね。彼女はあなたのことをお人好しで……馬鹿で……なにも知らない無知なただの田舎者だと酷評していましたが、私はあなたの事を気に入りましたし、高く評価もしています。だから私はあなたを助けたのです」

「俺を知っている人だって……一体誰のことを言っているのですか?」

「あなたは忘れているとは思いますが、私の連れのもう一人の方は、あなたの事をよーく知っていると言っていましたよ。その酷評している彼女は、今はその六人の加害者達を連行して憲兵にその身柄を引き渡している頃だと思います。その彼女に連れて行かれる時に一人の男が小声で言っていましたよ。成り行きだったとはいえ人を殺してしまうような大事にならなくて本当に良かったと。そして止めてくれてありがとうと言っていました」

「そうか、あの中の一人はそんな事を言っていたのか……そうか……そうか……」

「一人だけではありません。口には出してはいませんでしたが、事の重大さに気付いた幾人かの人達は目に一杯涙をためながら倒れているあなたを見ていました。あなたは曲がりなりにも彼らの未来だけではなくその命も助けているんですからその反応はむしろ当然ですよね。その優しさと思いが彼らにもようやく届いたからこそ、あなたに感謝をしていたのだと思います。本当に面白い偽善者ですよ、あなたは……」

「そうか、みんな無事だったのか。そうか、よかった、良かった」

 自分の行った小さな勝利に浸りながら呟くそんなラエルロットに小馬鹿にしたかのような大きな声が飛ぶ。

「あんな冒険者まがいのクズ共を救って見せるだなんて相変わらずの偽善者っぷりね。まだ無謀な夢に向かって無駄な努力をしているみたいだけど、優秀な家柄も、血筋も、才能も力も無い田舎者のあなたが、第一級冒険者の人達もなるのが難しいとされる、選ばれた者にしかなれない勇者になれる訳がないじゃない。そうでしょ、ラエルロット。2年前、私にハレンチな恋文を出して私に恥辱と不快な思いを抱かせてくれた罪、忘れたとは言わせないわよ。大体あなたごときがこの聖女候補でもある高貴な私に……誰もが認める美少女の私に話しかけて来ること事態が汚らわしいのよ!」

 そんな口汚い傲慢な言葉と態度を見せつけられたラエルロットは2年前の記憶が蘇り、その言葉を発した女性の顔をマジマジと見る。ラエルロットが倒れている時に名乗った彼女の名前に何か引っかかる物があると思ってはいたのだが、その答えがようやく判明する。

「テファニア……ああそうか、君か。道理でどこかで見たような顔だと思ったよ。この二年で第七級冒険者の資格を取り、ギルド白百合神聖剣魔団に所属をしていたのか。しかもまだ聖女になる夢を諦めていなかったのか」

「当たり前でしょ、私が冒険者になったのも全ては聖女になる確率を上げる為だし、後は親のコネと膨大な財力と冒険者としての利益ある資格を駆使して、必ず聖女になって見せる、そう思って日夜世の為人の為に働いているわ。なにか文句でもある!」

 そこにいたのは王国の憲兵に加害者達を無事に連行して送り届けてきた、第七級冒険者の資格を持つ、職業は剣士のテファニアである。

 テファニアは美しい顔と妖艶な裸体を持つ長身の美少女で、そのキリッとした青い瞳と白い肌、そして黄金色に輝く綺麗な長い髪がより一層彼女の美しさを引き立てる。

 可愛らしい幼さを残す小顔と華奢な体型が印象的な美少女のタタラとはまさに真逆な特徴を持つ美少女だが、如何せんその傲慢で気位の高さもまたその顔と態度に滲み出ており、同じ女性や目下の人達からは酷く嫌われる典型的なタイプの女性である。

 綺麗な長い黄金色の髪を風になびかせながら自信たっぷりに言うテファニアの言葉を近くで聞いていた白魔法使いのタタラはまたかと言うような顔をしながら大きく溜息をつくが、だがラエルロットの方はその決意溢れる理由を聞こうと、熱意と夢を語るテファニアの話に耳を傾ける。

「テファニアはなんでそんなに聖女になりたいんだ。なんか聖女になってやりたいことでもあるのか。例えばまだ救われない人々をその聖女の力で助けたいとか……呪われたその土地や品々をその聖なる力で浄化したり……黒神子と呼ばれるあの人類に敵対する邪悪な者達を過去に生きた女神様や歴戦の聖女達と同じように邪悪な者達を封印して世界の平和に貢献したいとか……憧れの勇者や第一級冒険者の人達と共に人々に貢献ができる仕事をしたいとか……つまりはそういう願いなのかな?」

 そんなラエルロットの純粋な言葉に、話を聞いていたテファニアはまるで(お前ごときが私の至高たる考えなど到底理解はできないだろう)とばかりにまるで小馬鹿にしたように笑う。

「フフフフ、世界の平和……弱い者達を救う……一体なにを言っているのかしら? 寝言は寝てから言ってくれないかしら。 この高貴ある私がそんな事をする訳がないじゃない。私は生まれながらも人生に置いても絶対的な選ばれた勝者ですし、その他一般の選ばれなかった雑魚共の下民の事なんて正直興味も無いしどうだっていいと考えているわ。この世界に……神に選ばれた美少女たる私だけが幸せならそれでいいのよ。でも女性なら……いいえ全ての才能や地位や名誉や財力や、そして美しい美貌を持つ人間なら誰もが思い悩む永遠のテーマが一つだけあるわ。この美貌は決して永遠ではないという切実な事実にね。私は十八歳でまだ若いし周囲の男性達にチヤホヤされているけど、いつかはこの美貌も若さも歳を重ねるごとに当然維持できなくなるわ」

「まあ、それは仕方が無いし当然の事じゃ無いのか。この緑の星に暮らす人間族ならいつかはその年月と共に年は嫌でも取るだろ。それが生きている者の定めだからな」

「でも中には年を全く取らない者達もいるわ」

「黒神子達の事を言っているのか。あいつらは確かに不老不死だが」

「黒神子達の事を言っているんじゃないわ、この話の流れだと聖女の事を言っているに決まっているじゃない。ある亜人達の種族によっては長く生きる種族もいるみたいだけど私は人間族だから、この人間の身と形で若い体のまま維持できる不老を小さな時から考えていたけどその解決する答えは直ぐに見つかったわ。そう、聖女になれさえすればその若さはうら若き十代のままに固定されて、その百年間の寿命が尽きるその日までその体は美しい少女の姿と若さを維持できると聞いたわ。だから私はその百年の若さと美貌を手に入れる為に聖女になることを決意したのよ!」

 その身勝手なテファニアの聖女になりたい理由に話を聞いていたラエルロットは、眉間にシワを寄せると正直憤慨する。

「なんだよ、その理由は、まるで自分の欲望を体現しむき出しにしたような理由じゃないか。様々な理由で泣く泣く聖女になった者達の中には家族や恋人を殺されたり、何かを守る為に信念を持って聖女になった者達が大半だというのに、テファニア、お前は自分の美貌を、若さを保つ為だけに聖女になるというのか。でも聖女になったらなったでそのリスクは当然あるはずだ。例えばもう二度と人間には戻れなくなる事とか……子供が産めなくなる事とか……百歳できっちり死ぬこととか……自分の固有能力に全魔力が神聖力となってライフが全振りされるから基本的に自分の固有能力以外は魔法の類いは全く使えなくなるとか……他にも色々あるだろ」

「フフフフ、私の職業は元々剣士だから当然元から魔法は使えないですし、子供も嫌いだから例え好きな人ができたとしても特に産む気はないわ。寿命も百年も生きたらそれで満足でしょうし、その間百年の美貌と若さが死ぬまで維持できるのならそれにのらない手はないじゃない。そして何より強大な固有能力が手に入るんだから、女性でありながらも聖女になろうとしない方がどうかしているわ」

「それなりに凄いリスクがあるからみんなならないんだろ。それは人間なら皆防衛本能で分かるんだよ。でも君のように欲深でその自分の理想を何よりも優先する人なら……人間を辞める事になんの抵抗もない人なら……気にもしないんだろうけど……でも一つ大事なことを忘れてはいないか。聖女になるには女神様の血と承認と、そしてその適性に選ばれないといけないんだぜ。いくら地位や名誉や親のコネや財力があっても、こればかりはいかんともしがたいだろ」

「フン、下民無勢が知った風なことを。確かに聖女になるには神聖都市・エルメキアの総本山でもある神聖教会からの適性承認と女神様の血が必要だけど、最近やっと度重なる研究と実験から作り出されたとされる人工的に生成した女神の血を使えば、女性なら誰もが聖女になれる可能性が出て来たのよ。そう聖女になれる耐性がなくとも、その新薬を処方すれば聖女になれるかも知れない、そんな夢のような新薬が出来上がりつつあるわ。でもその新薬はある実験体の体内で生成してから抽出しないといけない特別なお薬だからまだ実験の段階らしいけど。でも親のコネで私がその最初の被検体に選ばれたから、そのお薬の安全性が確認され次第、直ぐにでも聖女になるつもりよ」

「女神の血を許可無く使用し新たに生成して人工的に作った未知の技術……その禁断の未知なる技術でゆくゆくは女性なら誰もがなれるとされる聖女に転生ができるというまだ実験段階の新薬か。話を聞く限りでは何だかかなりきな臭い嫌な予感が頭から離れないがな」

「フ、不調法者は黙っていなさいよ。私は人生の成功者たる栄光の道をこれからもただひたすらに歩いて行くんだから、その道を阻もうとする者は例え誰であっても絶対に許さないわよ。そんな訳で人生がもう既に終わっている落ちこぼれのラエルロットさん、これからあなたは才能も無いのに懲りもせずにまた第八級冒険者試験の再試験を受けるらしいけど、無駄な努力は辞めて、今すぐに田舎に帰ることをお勧めするわ。冒険者は知っての通りその地位は皆ランク性だから、あなたのような甘ちゃんが生き残れる世界では決してないわ。上に這い上がれる人は皆秀でた能力を生まれつき持っていたり野望にまみれたずる賢い強者だけが上へと行く事が出来るまさに利権にまみれた職業なのよ。という訳であなたじゃ絶対に無理ね!」

 愉悦に浸りながらも自信たっぷりに言うテファニアは満足したのかラエルロットに背を向けるとその場から立ち去って行く。

「選ばれた者か……確かにそうなのかも知れないけど……俺も第八級冒険者の資格くらいは取りたいしな」

 テファニアの言葉に落ち込むラエルロットだったが、そんなラエルロットを近くで見ていた白魔法使いの少女タタラがハッキリとした口調で諭す。

「あの子の……テファニアの言葉なんかを真に受けないで下さい。あの子は誰にでもああいう態度ですから。あんな態度で接するから人とのトラブルも多く、よく喧嘩にもなりますが、そんな彼女のフォローに回るのが私の役目のような物です。本当に困った子です。私は仕事上では先輩ですし、家柄も申し分ない才能のある才女ですから、私にはどうやら頭は上がらないようです」

(自分で才能があるとか、そこは謙遜とかはしないんだな。でも流石に自画自賛が過ぎるだろ!)

 内心そう思ったラエルロットだったがここは穏便に大人の対応をする。

「そ、そうですか。まあ彼女も才能を認めた者には普通に接していたと記憶しているからな。恐らくはそうなのかも知れない。俺としては彼女にはあまりいい印象は無いんだけどな」

「でも確かにテファニアの言葉ではありませんが、今のお優しい信念のままに冒険者になるには少し厳しいと、私もそう判断します。世の中悪い人やずる賢い人は沢山いるんですから、いつかその優しさを利用されて心無い人間にだまし討ちにされて殺されるかも知れません。この世界は理不尽に出来ていて力無い人達には残酷な運命が待っているのですから。それにお兄さん、その感じじゃまだ人は……人型のモンスターは殺したことはまだないですよね。冒険者になったらあなたも何処かのギルドに当然所属をするのでしょうが、その依頼を貰った初の仕事が畑や家畜を荒らす小鬼退治の仕事かもしれないですし、もしかしたら人間族や亜人達が組織をしている盗賊達かも知れない。そんな人達といつかは冒険者である以上嫌でも戦わなくてはならない場面が必ず訪れるのですから、その命のやり取りの時に敵の事を気遣っているようではいざという時に仲間の命を失うきっかけになるかも知れません。そんなあなたと好んで仲間になろうとする物好きな冒険者は恐らくは誰もいないでしょう」

「ううぅぅ~、そ、それは……」

「性格が優しいのと、命を預けられる人材かどうかは、また別の話ですからね。敵に余計な情けを掛けて思い悩むあなたと組むよりは、先ほどの第七級冒険者の六人と組んだ方がまだ戦力になると言う事です。彼らは血の気は多いですしやり過ぎる事もあるかとは思いますが、生死を共にする仲間のためだったら例え如何なる敵であろうとも容赦なくその刃を振るう事ができますからね。だからこそ私達もそんな彼らに安心して背中を預けることが出来るのです。それこそが(仕事の上では)信頼ができる仲間の条件です」

「そうか……確かに仲間の結束は硬いようだな。あの老人の孫がアイスをその一人の男にぶつけてしまっただけで、周りの男達も同調して皆が暴力に加担するくらいだからな」

「あれは行き過ぎた例ですがね。全ての冒険者があんな無礼者達ではありません。まあ、それを踏まえて、それでも冒険者になりたいというのならその第八級冒険者の再試験を受けて来て下さい。再試験の筆記試験は明日で、明後日は実地でこの近くにある初心者の冒険者達が良く行く、北のダンジョンと言う名のちょっとした洞窟に行くみたいですから気をつけて行ってきて下さい。話ではその実地を担当する人は王族を守る聖騎士団団長上がりの不屈の剣士で、今は退職して臨時で試験管をやっている鬼教官との事ですけど、精々そのおじさんに目を付けられないようにして下さい。かなり厳しい人らしいですから」

「そうですか、為になるご忠告、ありがとう御座います。肝に銘じておきます」

「でも先程も言ったように私はあなたのような人は基本的にはキライではないので、晴れて冒険者になれる事を心から祈っています。あなたが志す冒険者になれるといいですね。テファニアがあなたに言った心無い非礼の暴言は私からあなたに謝らせて頂きます。宿舎に帰ったらテファニアには私からキツく言っておきますので」

「介抱してくれたばかりか気を遣わせてしまって本当にすいません。ええ~と、名前は確か……」

「タタラよ、私の事は呼び捨てでタタラと呼んでいいわ」

「ではタタラ、色々と助けてくれてありがとう御座いました。このご恩は一生忘れません!」

「フフフフ、お兄さんは大袈裟ね。この可笑しな木刀はお兄さんのよね。地面に落ちていたわよ。でもこの木刀は何だか変ね、まるで黒鉄のような光沢が施されてあるみたいだけど、その色はまるでドス黒い血のようだわ。それに何だか禍々しい呪いのような力を感じるわ。お兄さんまさかあの復讐の鎧と同じくらいの特級呪物のアイテムをまだ持っているんじゃないでしょうね。あの禍々しい鎧は教会に行ってその呪いごと取り除いて貰った方がいいと思うわ。ただの人間があの呪われた鎧を使用する事はあまりにも無謀で危険な行為だからね」

 そう心配そうに言うと白魔法使いのタタラはその手に持つ不格好な木刀をラエルロットの手に渡す。その瞬間、電流のような衝撃が全身を駆け巡り、思わずタタラはその場所から一歩大きく退く。

「きゃあぁぁーー、これは、この記憶は!」

 突然悲鳴を上げるとその手に持つ魔法の杖を警戒心露わにラエルロットに向ける。

「あ、あなた、一体何者。黒神子レスフィナと関係がある者なの? つい最近フタッツイの町を襲撃したというあの悪名高い異世界召喚者の……レベル90の狂雷の勇者田中や、一年前に第一級冒険者の鉄槌のイレイダルが対峙したという……遙か闇なる世界の黒神子の一人でもあるあの邪悪な……妖精喰いのヨーミコワをも倒した勇者だとでもいうの。もしもその記憶が本物だとしたら、たかだかレベル1のただの人間が復讐の鎧を持っていたという事実も納得がいくと言う物よ!」

(しまった、つい黒い木刀を受け取る際にタタラに俺の過去の記憶の断片を心ならずも伝えてしまった。これは不味い事になったぞ。大事になる前に一早くここから立ち去らねばならないようだな!)

「その黒い木刀は古代の遺物の一つ、思いを具現化する苗木ですね。それは物凄く危険な物です。こちらに渡してください!」

「これは大事な物なので渡すことはできません。そ、それでは俺はこれで失礼します!」

 急いで身を翻すとラエルロットは脇目も降らずに勢い良く走りだし、その場を後にする。

「ラエルロット……黒神子レスフィナの眷属にして、遥か闇なる世界の神様が出す試練を見事に乗り越えてこの世界に立つ唯一の人間。そして、過酷な運命に立ち向かい懸命に藻掻く、愛と正義と優しさを信条とする自称勇者。そんな可笑しな存在がこの世に誕生していただなんて、これはどうした物でしょうか。やはりここは神聖教会に出向いて大神官のエマニュエ様に報告をした方がいいのでしょうか?」

「その必要はないですよ」

 タタラの呟きに応えて出て来たのはノシロノ王国専属の神聖教会のトップでもある大神官のエマニュエと、第八級冒険者の資格と神官見習いの職業を持つ犬人族のシャクティである。

 何か意味ありげに近づく二人は白魔法使いの少女タタラを見つめると「タタラさん、少しだけお話があります。お時間よろしいでしょうか」と和やかに言葉を掛けるのだった。

 第七級冒険者、剣士職のテファニアです。
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