白い羊と黒鉄の探偵 ~狂人達が暗躍し掲げる不可能犯罪に白い羊と黒鉄の探偵が挑む~

藤田作磨

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第三章 『汚れた天馬』 最強の武闘派の狂人現る。人を自由に空から落とす事ができる天空落下トリックを操る狂人・強欲なる天馬との推理対決です!

3-18.容疑者、有田道雄のアリバイ

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                    18

「失礼します」

 そう言って部屋のドアを開けて入って来たのは、我らが依頼人でもあるあの春ノ瀬桃花に何だか気持ち悪い視線や態度を時折見せていた有田道雄修行僧である。
 その有田修行僧は目の前にいる羊野と勘太郎に注意を払いながらぎこちなく出されてある椅子へと座る。その表情は硬く、まるで何かを恐れている様にも見えた。

 そんな不安を隠せない表情をする有田修行僧に羊野が最初に話かける。

「お忙しい中わざわざ来てくれて申し訳ありません。行き成りでなんですが今から貴方の昨夜のアリバイをお聞かせ願いないでしょうか」

「ええ、いいですよ。その為にここまで来たのですから」

「では有田道雄さん、貴方は昨夜の二十四時三十分から~一時三十分の間は何処にいましたか?」

「どこって、地下の修行フロアで個室に隠って座禅の修行をしていましたよ。精神統一していれば無我の境地に達する事が出来て自分の煩悩を追い払う事が出来ますからね。とは言ってもその道のりはまだまだ遠いんですけどね。まだ私の心は俗世に未練がある様なのでまだまだ修行が足りないと言う事です。まったく、心の弱さを克服するのは物凄く大変な事ですよ。つい心に甘えが出てしまいますからね」

「それで、アリバイの件は……」

「あ、そうでした、そうでした。その話でしたね、すいません。でもその時間は私の個室には誰一人として誰も訪れては来ませんでしたので、アリバイを証明してくれる人は誰もいません。石階段を降りて外に出るには表の橋桁を下ろすか、或いは高田傲蔵和尚からエレベーターを起動させる鍵を借りるかしないと外へは降りられないので、私は外へは出れませんよ。それにここ最近は脱走者防止の為かあの橋桁を下ろすレバーにも鍵が取り付けられた見たいなので、橋桁を下ろす事は出来ませんよ」

「その橋桁の鍵は一体誰が持っているのですか。高田傲蔵和尚ではないのですか?」

「違います。あの橋桁の鍵は日中はこの私が責任を持って預かっていますが、夜は一般の信者達が泊まる宿舎の寮長室にいつも泊まっている早見時彦修行僧が持っているはずです。私と早見時彦修行僧は昼と夜に分担して橋桁の鍵を管理していますからね」

「なるほど、でも貴方の昨夜のアリバイはないと、つまりはそう言う事ですよね。では少し貴方に関わる個人的な話をしましょうか。勿論貴方のプライバシーは侵害しませんので安心して下さい」

 その羊野の言葉に有田道雄は目を見開き、額からは幾つもの脂汗が流れ出ていたが、羊野は構わず話を切り出す。

「有田道雄さん、貴方には過去に幾つかの犯罪歴がありますよね。盗撮やストーカー、そして未成年への性的な悪戯。いずれもまだ年端もいかない未成年への犯罪が主で、あなたが二十八歳の時に子供への悪戯がバレて現行犯で逮捕されていますね。その間刑務所には三年ほど服役していて、そして出所したのが今から五年前の話です。その後社会復帰が出来ず人生に絶望していた貴方を救ったのが高田傲蔵和尚との運命的な出会いだとも聞いています。高田傲蔵和尚が設立した宗教団体、天馬教に入信した貴方は、他にも信者達を増やす為に積極的に宗教への勧誘を行い。更には毎日の日課とも言える厳しい修行を得て、貴方は普通の信者達よりも一つ上の段階とも言われている修行僧へとなり、高田傲蔵和尚の信頼を勝ち取ったと聞いていますよ。そう考えるとこの五年間で凄い出世ですよね。今まで真面目に必死に修行を行ってきた賜物だと思いますよ。でも世の中には強欲なる天馬に姿を変えてあの春ノ瀬桃花さんを襲う不届きな人も中にはいる様なんですよ。あんないたいけな少女を追いかけ回して挙げ句の果てにはこの天馬寺に連れ去ろうとするだなんて、少しやり過ぎだとは思いませんか。しかもこの一晩で三度も襲ってきているのですよ。たかだか小学生の女子生徒一人に、これは異状ですよね。そうは思いませんか」

 その羊野の話に有田道雄は首をかしげながら真顔で聞き返す。

「あんたが今言っている強欲なる天馬とは一体なんだ。何を言っているんだ?」

「失礼、馬人間の事ですわ」

「なら最初から馬人間と呼べばいいじゃないか。途中から変な呼び名はやめろよな。余計混乱してしまうわ!」

「それは失礼しました」

 そう言いながら羊野は可愛らしくペロッと舌を出す。

「それにしても、三度、三度もだとう。春ノ瀬桃花さんは……お前達の言う馬人間に本当に襲われたのか。天馬様の姿を借りた馬人間は本当に実在するのか!」

 春ノ瀬桃花が馬人間に襲われたと言う話を聞いた有田道雄は、覚悟を決めたのか自分の話を語り出す。

「確かに俺は昔は子供達に対してよからぬ悪戯や性犯罪を犯した拭いきれない過去の過ちがあるが、今は心を入れ替えて自分の犯してしまった罪を償うために必死に俺なりに頑張っている。なのに世間はまだ俺を追い詰めるのか。そんな遠回しな言い方では無くもっとハッキリと言ったらどうだ。俺が春ノ瀬桃花さんを付け狙っている馬人間ではないかと内心ではそう思っているんだろう。正直な話、確かに未成年にしては大人びてるしそれでいて可憐で美少女だし、確かに邪な目で見ていた事は事実だが……だからといって私は彼女に対して一切手を出してはいないぞ。あの春ノ瀬達郎さんの娘さんでもあるし、丁重に扱っていたつもりだ。だが確かに春ノ瀬桃花さんをこの天馬寺に入信させたい気持ちはある。そうすればいつでも彼女と話が出来るし、その姿を見守る事も出来るからな」

 あ、こいつ羊野に過去の犯罪の経歴から馬人間かも知れないと言う疑惑を向けられて、溜まらず自分から性癖をカミングアウトしてしまったぞ。過去の犯罪歴を聞く限りでは、ああ言うのを幼児性愛者とでも言うのだろうか。まあ、人の性癖をとやかく言うつもりはないが、あの時折春ノ瀬桃花に向けていた気持ち悪い視線の訳はそう言う事だったのか。だとしたら今まで彼女が襲われなかったのは奇跡に近いな。いや、違うな。寸前の所で高田傲蔵和尚の唱える天馬教の教えが彼の欲望を自制していたのかもしれないな。そう考えると高田傲蔵和尚の厳しい修行や狂言じみた説法も有田道雄に取っては心を鍛えるいい荒療法だったのかも知れないな。

 そんな事を思いながら勘太郎は次なる羊野の言葉を待つ。

「ホホホホーっ、有田道雄さん、あなたが馬人間では無いと言う主張は分かりましたわ。確かにあなたは夜は早見時彦修行僧に表の石階段に通ずる橋桁を下ろす鍵を預けていますし、裏倉庫にある地下の修行フロアからエレベーターで下に降りるには高田傲蔵和尚に電話をしてエレベーターを起動させて貰わないと上にも下にも実際いけませんからね。いずれか片方から鍵を借りないとあの修行フロアから出て行くこと事態無理な話となってしまいますからね。そうなると必然的に貴方の犯行は不可能でしょう」

「だったら……」

「ですが、貴方に協力者がいなかったらの話です。高田傲蔵和尚か早見時彦修行僧のいずれかが……いえ、或いは両方が協力者だったのだとしたら、貴方の犯人説はまだ消えてはいないと言う事になりますよ。貴方には歴としたアリバイもない訳ですし」

 そう語った羊野は最後に春ノ瀬達郎の事について聞く。

「最後に、春ノ瀬達郎さんとは一体どんな人物ですか」

「どんな人物って、あんた、それは一体どう言う意味だ?」

「いえいえ、特に深い意味はないのですが、彼のことを我々は余りに知らなさすぎるので、いつも一緒に寝食を共にしている貴方に是非とも彼のことを聞いて見たかったのですよ」

「あの人の事を知りたいのならその娘でもある春ノ瀬桃花さんに聞けばいいだけの話じゃないか。彼女なら父親の話を振られて話さないと言う事は先ずないと思うのだが」

「確かにそうなのですが、彼女の場合父親に対する愛情が強いせいか過剰に美化した感じで話が進むので余り参考にはならないのですよ。それに天馬寺に入信した五年前から夜は殆ど家には帰っては来ていないとの話なので、そんなに忙しかったのかな~と思いましてね」

「確かに五年前の入信したての春ノ瀬達郎修行僧は高田傲蔵和尚とよく二人で秘密の特訓めいた荒療治の修行をしていたと誰かに聞いた事がある。その修行は余りに凄まじく地下の修行フロアの個室からは毎晩春ノ瀬達郎修行僧の悲鳴が聞こえてきたとの事だ」

「一体そこではどんな修行が毎晩行われていたのですか?」

「それは見た訳ではないのでその真相は全く分からないが。ただ春ノ瀬達郎修行僧がこの天馬寺に入信したきっかけは自分が抱えている心の悩みを解決して貰う為だったと記憶しています」

「春ノ瀬達郎さんの心の悩みですか?」

「はい、一~二年前に春ノ瀬達郎修行僧がフとそんな事を言っていました。自分もこのよからぬ性癖を直す為に高田傲蔵和尚の元を頼ったのですから、彼の気持ちは痛いほど分かるのですよ」

「それで、春ノ瀬達郎さんの心の悩みとは一体何なのですか?」

「それは私にも分かりません。お互いに自分の過去の闇は語りませんからね。だから敢えて私も聞かないのですよ。敢えて悩みを聞かないのも一つの優しさだと思いますからね」

「日中は行わずに敢えて真夜中に行う修行ですか。高田傲蔵和尚に聞いたら春ノ瀬達郎さんの心の悩みとやらを素直に教えてくれるでしょうか」

 和やかに話す羊野の笑顔を見つめながら有田道雄修行僧は溜まらず心の声を言葉にする。

「あんた、人の過去や知られたくない心の秘密を平気で暴こうとするんだな。全く酷い奴だよ、あんたは……」

 そんな有田道雄修行僧の言葉に勘太郎は無言で大きく頷くが、羊野は気にする様子もなく平然と思っていた事を聞く。

「因みに春ノ瀬達郎さんは今もその荒行を高田傲蔵和尚と一緒にしているのですか」

「ああ、しているよ。まあ、昔の様に悲鳴が聞こえるくらいの荒行はもうしていないとは思うが、五年前と変わらず今も継続中だよ」

「そうですか。だから前回、最後に娘さんと面会した時は、この天馬寺から共に逃げ出したいと言ったのでしょうか?」

「まあ、春ノ瀬達郎修行僧の修行は俺達も見てはいないが、かなり特殊な荒行だと言う話だからな。その修行の厳しさから気がかわって娘に弱音を吐きたくなる気持ちも分からんでもないがな」

「春ノ瀬達郎さんが行っている修行はそんなに特殊な荒行なのですか」

「ああ、特殊も特殊さ。何せ夜の十八時から~朝方の五時までこの五年間一日も休むこと無くその荒行は行われているからな」

「この五年間一日も休まずですか。ならその間春ノ瀬達郎さんは夜間は誰にも会う事無く地下の修行フロアの個室に隠って一人で修行をしていると言う事ですか」

「たまに高田傲蔵和尚が様子を見に言っている様だが、それ以外は誰であろうと春ノ瀬達郎修行僧の個室を訪れてはいけないと言う厳しいお達しが出ているくらいだからな。だからこの五年間、夕方の十八時から~朝方の五時までは春ノ瀬達郎修行僧と会った事は一度も無いよ」

「フフフ、そうですか。それはなかなか面白い……じゃなかった、非常に興味深い話ですね」

 そう言うと羊野は口元に手を当てながら意味ありげに笑うのだった。
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