白い羊と黒鉄の探偵 ~狂人達が暗躍し掲げる不可能犯罪に白い羊と黒鉄の探偵が挑む~

藤田作磨

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第三章 『汚れた天馬』 最強の武闘派の狂人現る。人を自由に空から落とす事ができる天空落下トリックを操る狂人・強欲なる天馬との推理対決です!

3-20.容疑者、春ノ瀬達郎のアリバイ

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                    20

 時刻は十七時三十分。

 今日の最後の締めとばかりに部屋のドアを叩いたのは春ノ瀬桃花の父親でもある春ノ瀬達郎だった。

 春ノ瀬達郎は何かに怯えるかの様に左腕に付けている腕時計を見ながら時間を気にしていたが、勘太郎と羊野の傍まで来るとまるで急ぐかの様に早々と目の前に置かれている椅子へと座る。
 そんな落ち着かない態度を見せる春ノ瀬達郎に羊野とその後ろに立つ勘太郎は何やら怪訝に思っていたが、気を取り直すかのように羊野が挨拶をする。

「お忙しい所よく来てくれました。春ノ瀬達郎さん。二~三お聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか」

「分かりました。私が話せる範囲の事でしたら何でも話ます。ですが私の方からも一つ聞いてもいいですか」

「なんでしょうか?」

「うちの娘は……春ノ瀬桃花は無事ですか」

 その必死な春ノ瀬達郎の質問に羊野は笑顔を作りながら「ええ、勿論無事ですよ。今は警察公認の安全な所に匿って貰っているのでどうか安心して下さい」と話す。
 そんな羊野の言葉に春ノ瀬達郎は先ずは一安心とばかりに素直に喜んでいたが、春ノ瀬桃花が今現在何処に匿われているのかとかを聞こうとはしなかった。

 春ノ瀬達郎は周りを気にしながらも自分のアリバイを語り出す。

「昨夜、天空落下現象で死亡した天馬寺被害者の会の会員達の四人は、二十四時三十分と一時三十分と二回に分けて殺されたみたいですが、私は昨夜の夜は夕方の十八時から~朝方の五時まではずっと地下の修行フロアの個室で修行を行っていましたから勿論外へ出てはいません。ですが修行をする個室では当然一人だったので、アリバイを証明してくれる人は誰もいません。それにもし地下の修行フロアからエレベーターを使って外へ出るつもりならこの地下のフロアを普通に徘徊している信者達に気付かれること無くエレベーターに乗り込まなければ外には出られませんので、その時点で私が外へ出る事はかなり難しいと思います。加えてエレベーターの鍵は高田傲蔵和尚が持っていますから高田傲蔵和尚にエレベーターを起動させて貰わないと下に降りる事すらできません。ですので昨夜の犯行は私には無理です!」

「つまり昨夜の貴方には天馬寺被害者の会の人達を殺害する事は不可能だと、つまりはそう言いたいのですか」

「はい、そう言う事です」

「ですが貴方が確実にその地下フロアの個室の一室にいたというアリバイを証明してくれる人も当然いない訳ですから、貴方の証言が本当かどうか確かめる事は出来ませんよね。なのでその話をそのまま鵜呑みにすることは出来ないと言う事です」

 そう言うと羊野は次の質問に移るべく話題を変える。

「時に春ノ瀬達郎さんは昔は建築士のお仕事をしていたそうですが、なぜその仕事を辞めてまで天馬寺に入信したのですか?」

 その容赦のない羊野の質問に春ノ瀬達郎の表情はみるみる曇る。

「数年前に亡くなった妻の死や仕事に行き詰まりましてね。こんな窮屈な生き方をしてて本当にこれでいいのかなと自分を見つめ直したかったのですよ。まあそのせいで桃花には幼い時から大変大きな苦労をかけてしまったのですが、それだけは本当に申しわけ無く思っています。本当に俺は駄目な父親ですよ」

「そんなストレスだらけの世の中のせいで精神的に心を病んでしまった貴方はとある精神科の病院に数カ月間通院していますよね。そしてその更に数カ月前後には高田傲蔵和尚の講演会での説法を聞きに行き、そしてその場で天馬教に入信している。何でも噂では精神を安定させ、心をコントロールする修行と称して高田傲蔵和尚は貴方に過度な荒行を施していると言う噂もありますよ。ある人の話ではあの修行は人の内なる心の闇を自分の意思でコントロール出来る修行だと聞いていますがそれは本当ですか」

「ええ、本当です。精神的に弱い私の心と体を徹底的に鍛え上げ、飛躍させる荒行です。そのお陰で私は昔よりはだいぶ強くなったと確信しています。ですがまだまだ未熟なので更なる修行が必要だと私は思っています」

「その日中の修行の場では棒術のような物も習っているのですか。とてもお強いと有田道雄修行僧や早見時彦修行僧に聞いたのですが」

「そんな事はありませんよ。私はただ棒術の師範代でもある高田傲蔵和尚や基本的で正確な動きをする有田道雄修行僧や獣の様に力強く素早い動きを得意とする早見時彦修行僧の様々な動きを見学し学習したからこそ何とか皆さんの輪の中に近づくことが出来たのですよ。でも私の棒術はまだまだです」

「でもその技術を皆さんから教えて貰ったのですよね」

「教えて貰ったというか。盗み見たと言った方が早いでしょうか。私は幼い時から人様の物を見て取り入れる事が得意でしたからね。だからこそ彼らの棒術に近づく事が出来たのですよ。でもこの鍛錬も心と体を強くする為の物ですから、これからも更に精進して行きたいと思っている次第です」

「貴方の修行に対する意気込みと熱意は分かりました。では春ノ瀬桃花さんを襲った強欲なる天馬についてはどう考えているのですか。貴方は昨日日が沈む前に天馬寺を降りないと天馬様が襲ってくると言って怯えていましたが、なぜそんな事が分かるのですか。実際貴方自身は見たこともない天馬様をなぜ。それに春ノ瀬桃花さんは天馬様の姿を見たと言っていますが、幸いな事に強欲なる天馬の方は春ノ瀬桃花さんの事には気付いていなかったと言うではないですか。ですが貴方にその事を昨日それとなく告げてからは春ノ瀬桃花さんはあの馬人間に三度も襲われている。これは明らかに誰かがこの事を密告しないと直ぐには行動できませんよね。もしかしたらあの部屋の何処かに盗聴器でも仕掛けられていたのでしょうか。それともドアの外に張り付いて聞き耳を立てていた有田道雄修行僧が高田傲蔵和尚に告げ口をして、その話が馬人間に伝わったのでしょうか。それともあなたが意図的にばらしたのでしょうか。実の娘に天馬様の存在を信じ込ませる為に」

「そんな事を私が自分の娘にする訳が無いだろう。妙な憶測と言いがかりはやめてくれないか!」

「なら貴方は一体何にそんなに怯えているのですか。馬人間の姿をした天馬様とは一体何者なのですか。少なくとも貴方はその正体を初めから知っているはずです!」

「知らない……私は天馬様の正体なんてなにも知らない!」

「いつまでもその馬人間の……天馬様の存在を隠し続けていたら本当に春ノ瀬桃花さんは天馬様に殺されてしまいますよ。それでもいいのですか。あなたがいくら天馬様の存在を自分の娘から遠ざけてもその犯行はこれからも続くのですから、あなたが心を強く持って馬人間達に立ち向かわないと春ノ瀬桃花さんは到底守れませんよ!」

 その二人の会話に勘太郎は訳が分からずキョトンとする。

 羊野の奴は一体何を言っているんだ。春ノ瀬達郎は本当は天馬様を語る馬人間の正体を初めから知っているのではないかと言ったのか。それは流石にストレート過ぎる質問だと思うがな。
 まあ確かに春ノ瀬達郎の今までの天馬様に対する異常な恐れは全ては娘さんの身の安全を守るための物だが、その警戒心もあって昨日は日が落ちる前に天馬寺を降りろと俺達に警告している。まるで日が落ちたら強欲なる天馬の活動範囲が伸びるのを分かっていたかの様に。と言う事は天馬様を語る馬人間は春ノ瀬達郎のよく知っている人物と言う線も充分に考えられる。
 それに夜になると他の信者達は皆暮らしている宿舎に戻ってしまうので、馬人間は闇夜に隠れながら堂々と動ける特権を得てしまう事になる……とも考えられるな。しかもあの馬人間の馬のマスクの内部には暗視機能内蔵型の機械が仕込まれているから、例え深い闇夜の森の中でも自由に行動できると言う訳だ。本当に恐ろしい狂人だぜ。
 それに俺達の考えでは、もしもその強欲なる天馬を操る司令塔が羊野の言う用にあの高田傲蔵和尚なら、春ノ瀬桃花を襲う理由は天馬様のトリックやその正体をもしかしたら見られたかもしれないと勝手に勘違いしたからではないだろうか。だから最初は目撃者の証拠隠滅の為に殺そうとしたのだ。だが春ノ瀬桃花がなにも見ていないと言う事が分かったから、天馬様の正体を知っている春ノ瀬達郎さんを天馬寺に縛り付けておく為にも春ノ瀬桃花を誘拐し無理やりにでも天馬教に入信させようと画策した。そう考えるのなら一応無理矢理ではあるが話の筋は通るだろう。

 勘太郎は羊野が言う、春ノ瀬達郎は本当は天馬様の正体を知っているのでは無いかと言う読みを一緒に追求する。

「春ノ瀬達郎さん、もしあなたが本当に天馬様の正体を知っているのならその正体を教えて下さい。この極めて凶悪な犯人の手によって今までに何人もの人が理不尽な理由で沢山死んでいるのですから。この死の連鎖は必ず何処かで断ち切らねばなりません。あの恐ろしい強欲なる天馬の欲を断ち切れるのは、その正体を知っている春ノ瀬達郎さん、貴方だけなのですよ。どうか勇気を持って下さい。その為に貴方は今まで辛い心の修行を行って来たのではないのですか? 貴方の仲間の誰かが罪を犯していると言うのならあなたが率先して真っ先に止めてやらないといけないでしょうに。苦楽を共にした仲間の失態を隠したい気持ちは分かりますが、ここは貴方が心を鬼にして事に当たらないと行けないのではないでしょうか」

 その勘太郎の言葉に羊野は頭を横に振りながら大きな溜息を吐き。春ノ瀬達郎の方は頭を抱えながら静かに自分の思いを勘太郎に告げる。

「違う……そうじゃない……違うんだ……天馬様は確実に存在している……あいつらは夜には必ず現れる……私の娘が天馬様の姿を見ていた事に……天馬様は気付いてしまったからだ。あいつらは自分の存在を示す為にも邪魔なうちの娘を確実に殺すに来るはずだ。そうすれば私を沈黙させ黙らせる事が出来ると硬く信じているからだ。だが、だけど問題は無い。今夜だけ、今夜だけ何とか一晩だけ娘の命を守ってくれたら、その後は私が何とか奴らと決着をつけて見せるから……だからそれまでは頼む探偵さん。今夜だけは何としてもあの強欲なる天馬とかいう馬の化け物からうちの娘を守り抜いてくれ! お願いだ、お願いだ」

「春ノ瀬達郎さん、あなたはさっきから何を言っているんだ。全く話が噛み合わないじゃないですか。それに強欲なる天馬の一体何を隠しているんだ。強欲なる天馬は天馬寺の信者達の中にいるんじゃないのですか。羊野も何か知っているのなら勿体ぶらずに言ってくれよ!」

 そう叫んだ勘太郎に羊野はまるで躾をする親のように言う。

「その答えはもうそこまで出ているのですから、あなたも探偵を名乗る以上自分の頭で考えて見て下さい」と。
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