白い羊と黒鉄の探偵 ~狂人達が暗躍し掲げる不可能犯罪に白い羊と黒鉄の探偵が挑む~

藤田作磨

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第六章 『不条理の矢』 大雨の日に訪れたペンションでボウガンを持つ謎の人物が勘太郎達に迫る。矢のトリックを操る暗殺者との推理対決です!

6-19.小心にも耐える東山まゆ子の証言

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                  19


 澱んだ空に影響を受けてか三階の廊下のいつもの風景もどことなく不気味に感じてしまう。そんな嫌な空気が流れる殺気を肌身に感じながら勘太郎と羊野は北階段方面へと足を向ける。
 その廊下に靴音だけが響く光景はなんとも不気味で、つい後ろを振り返ってしまう程だ。
 何故なら、あれ以降まだボウガンを持つ犯人が見つかってはいないからだ。

 そんな目に見えない不安を抱きながら勘太郎は隣にいる羊野と共に三一〇号室にいる東山まゆ子の部屋へと訪れる。

 その勢いのまま部屋のドアをノックすると、その音が聞こえたのか内側のドアの前まで駆けつけた東山まゆ子がゆっくりとドアの扉を開ける。

「あの~どちら様でしょうか?」

 少しだけドアを開けて何かに警戒しながら訪ねる東山まゆ子に、勘太郎は笑顔を向けながらハッキリとした口調で応える。

「すいません、赤城先輩から話は聞いているかとは思いますが、今日死体で見つかった畑上孝介さんの事について二~三聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか」

 そのお決まりの言葉で東山まゆ子の警戒心を解いた勘太郎と羊野は、小心な表情を浮かべる彼女の部屋に難なく潜入する事が出来た。

 大学二年の東山まゆ子の部屋は北側の一番端にあり、北階段の直ぐ隣に位置している。(因みにこの部屋の真下には座間隼人の部屋があるのだが、今はどうでもいい情報なので参考までに語っておく)。

 部屋の中には特に荷物は無く、大きめのキャリーバッグからは衣類の一部と思われる物が少しだけはみ出ている。
 恐らくはいったん出した荷物を再び閉まったのだろう。それ以外は勘太郎達の部屋と何も変わらない、和洋式を組み入れたようなモダンな綺麗な部屋が勘太郎の目の前に広がる。

 暗い雲に覆われた冷たい空から降り続ける雨のシャワーが部屋の窓ガラスを頻りに叩く中、静かに椅子に腰を下ろす東山まゆ子に意を決した勘太郎が穏やかに話しかける。

「部屋の中には持ってきた衣類のような物は何も無いようですが、ご自身の荷物は開けてはいないのですか。それにまだ雨は上がってはいないので明日の朝も帰れるかどうかはまだ分かりませんよ」

「一応いつでも帰れる準備をして置かないと落ち着かなくて。だってまだボウガンを持つ男がどこかに潜んでいるかも知れませんから!」

 下を向きながらビクビクと体を震わせる東山まゆ子に、勘太郎はこれまでみんなにしてきた定番の質問を開始する。

「東山さん、昨夜の夕食会が終わった二十二時四十五分から~朝方の七時までの間、あなたはどこにいましたか」

「どこにいたって、それは当然、二十二時四十五分から~深夜の一時まではみんなと食堂で今日行われるはずの朗読会の為のミーティングをしていましたよ。それは探偵さんも知っている事じゃ無いですか」

「そうですね。では一時に部屋に戻ってからは何を?」

「深夜の一時に部屋に戻ってからは座間隼人先輩から送られて来たメールを見たり、夕食会前にコインランドリーで洗濯をして乾燥をさせていた衣類を綺麗に畳んでキャリーバッグの中に閉まっていましたわ。その後は直ぐにお布団の中に入って寝てしまいました」

「それは何時頃ですか」

「多分深夜の一時四十分頃だったと思うんだけど、良く覚えてはいません。何せその後はお薬を飲んで寝てしまいましたから」

「お薬ですか……その時に何か変わった事はありませんでしたか。何か物音を聞いたとか」

「いいえ、得には何も」

 どこか、はかなげに応える東山まゆ子はロングヘアの綺麗な黒髪を揺らしながら軽く首を横に振るう。その日本人形の様な純和風な姿は、きめ細かい白い肌を持つ大和撫子を連想させる。
 そう思える程に今の東山にはその姿がピッタリと当てはまる。

 そんな押したら壊れてしまいそうな、はかなげな和風美人を、あの堀下たけしがほっとく訳が無い。そう思った勘太郎は、次にあの堀下たけしの事について話を聞いてみる。

「では次は堀下たけしさんについてですが、今回もあなたにしつこく言い寄って来ていた見たいですが、その行為はいつ頃から始まったのですか」

 勘太郎の何気ない言葉に、東山まゆ子は悲しげに表情を曇らせる。

「多分、一年前くらいからだと思います」

「一年前ですか。つまりそれは去年の合宿が終わった後くらいからと言う事ですか。それまでは大丈夫だったと」

「はい、それまでは大丈夫でした。小さなセクハラめいた嫌がらせは何度かありましたが、そこまで酷くはありませんでした。でも去年の合宿が終わって少し経ったくらいから行き成り堀下先輩が強引に迫ってくるようになって……私、それでほとほと困っています。去年の合宿前はそんな事なかったのに」

「それはつまり、その頃、堀下たけしさんには他に付きまとっている別のターゲットとなる女性がいたからでしょうか。そしてあなたはその一年前まで堀下たけしに付きまとわれていた女性の事を知っているはずです」

「はい、知っています。よくご存じで」

「因みにその女性の名は立花明美。一年前、大江大学の一年生だったミステリー同好会の新入部員の一人ですね」

「そうです……何もかも知っているのですね。さすがは夏目先輩の知り合いの女刑事さんが連れて来た探偵さんなだけのことはありますね。昨日の今日でもうその真実に行き当たったのですか。この話は夏目先輩が一番隠しておきたい事実だと思っていたのですが、一応私を守る為に情報を提供してくれたと言う事でしょうか」

「まあ、そう言う事です。では次は死んだ畑上孝介さんについてです。彼に何か特別に恨みを持つ人とかはいませんでしたか。もし何か知っている事があったら教えてはくれませんでしょうか」

「そういうのはよくは分かりませんが、畑上先輩と堀下先輩は余り評判のいい先輩達では無かったと記憶しています。話では一年前に、あの当時一年生だった立花明美さんを大学を辞めるくらいに追い込んだ人達ですからね。私も一年前のこの合宿には参加をしていましたが、まさか私の知らない所でそんないかがわしい事件が起こっていただなんて、凄くショックですし驚きです」

「そしてまた同じ事が起こるかも知れないと考えた夏目さゆりさんは、ここの卒業生でもあった赤城先輩に頼んであなたを人知れず守る事にしたと言う訳ですね」

「多分、そう言う事なのだと思います。そこまで気を回してくれた夏目部長には感謝の言葉しかありません。座間先輩はとてもいい人ではありますが、気も弱いしあまり頼りには出来ませんからね」

 そう溜息交じりに言うと東山まゆ子は冗談めかしに小さく笑う。

「その口ぶりだと畑上さんと堀下さんの思惑を薄々は感づいていた見たいですが、だったらなぜこの合宿に参加をされたのですか?」

「私がこの合宿に参加をしないと夏目先輩や座間先輩が参加者を集められないと言う理由で責任を取らされると聞きましたから、私はここに来たんです。それに私がここで逃げたらみんなにも迷惑が掛かると思って」

「つまり、危険を承知でここに来たと言う訳ですか」

「だ、大丈夫ですよ。部屋にはちゃんと鍵はかけてありますし、それにいざという時は秘密の秘策もありますからね」

「秘密の秘策って……それは一体どういう事ですか?」

 その思わせぶりな謎の台詞に勘太郎が疑問を持っていると、横に立っていた羊野がすかさず東山まゆ子に質問をする。

「東山さんは昨夜、寝る前にお薬を飲んだと言っていましたが、それは一体何のお薬をお飲みになられたのですか?」

「私は……最近寝付けないんでお医者さんに言われて睡眠薬を処方して貰っているのですが、それが何か」

「精神的に不眠症気味の人が寝付きを良くする為に飲む薬には、直ぐに効果が現れるが持続力の短い・短時間型の睡眠導入剤と、ゆっくりと効果が現れるが持続力が長い・長時間型の睡眠薬と言う二つのタイプのお薬があるそうですが、どうやら東山まゆ子さんは持続力の長い睡眠薬の方を処方されているみたいですね。と言う事は普段から眠れない夜が当然あると言う事なのでしょうか。あなたにとってあの堀下たけしさんと言う男の存在は、その精神を追い込み不眠症にさせる程に大きなストレスになっていると言う事で先ず間違いはないようですね」

「はい、羊の女探偵さんの仰る通りです。私に取っていつもしつこく付きまといセクハラめいた嫌がらせをして来る堀下先輩の存在は言いようも無いほどに私の不安と恐怖心を煽り。その反動から心はいつも緊張で張り詰めていましたので精神的にも大きなストレスとなっています。下手に怒らせたら何をするか分からない先輩ですから、日増しにエスカレートをして行くセクハラ行為にどう対処していいのか分からなくなった私は不眠症になって医師から睡眠薬を処方して貰う程になってしまったのです」

「なるほど、そう言う事だったのですね。でもこの合宿に睡眠薬を持ち込んだのは間違いだったのでは無いのですか。この合宿で下手に睡眠薬を飲んでぐっすりと寝てしまったらあの堀下たけしさんに襲われるリスクも増えますし危険を察知する事もましてや逃げることも出来なくなりますよ。そう考えると逆に危険だと思うのですが」

「さ、さっきも言った用に鍵もかけてありますし大丈夫だと思います。先輩達の声に応じて鍵さえ開けなければ恐らくは大丈夫だと信じていますから」

「果たして本当にそうでしょうか。畑上さんと堀下さんが前もって考えていたこの計画はずいぶんと前から練られていたみたいですし、堀下たけしさんならともかく……あの神経質で几帳面な畑上孝介さんが欲望のままに行き当たりばったりで動く事は先ず無いと思いますよ。でもまあ、片割れの畑上さんが何者かの手により先に殺害されてしまったのですから、今の堀下さんにしてみたらもうストーカー行為どころでは無くなってしまいましたがね」

「お亡くなりになった畑上先輩には悪いのですが、ボウガンを持つ男が現れて正直助かったと言うのが本当の気持ちです。こんな時なのに……私って不謹慎ですよね」

 静かにうつむきながら言う東山まゆ子は少し複雑な顔をする。その表情はひどく窶れ、疲れ切った心境をその体全体で表しているかのようだ。

「なるほど、東山さんのお話はよ~く分かりました。さぞご苦労されたのでしょうね。あ、そう言えば昨夜の夕食会での事なのですが、畑上さんと堀下さんのお二人は何だかかなり不思議でしたよね。いくらお酒を大量に飲んでいたとは言え、これから何とかして東山さんをどうにか使用と計画を練っているあの二人が今日この日に限り、そう都合良く睡魔に誘われてしまうだなんて事が果たしてあるのでしょうか。卑劣極まりない性欲と思考の元に、曲がりなりにも性犯罪を起こそうとしているのですから、それなりに緊張や不安もあったはずです。それなのに畑上さんと堀下さんは酷い眠気の為に夕食会が終わると直ぐに部屋へと戻ってしまった。少なくともあの堀下さんは『行き成り眠くなった』とそう証言をしています。恐らくは畑上さんもそうだったのでしょうね。ではそんなに眠かったのは一体何故でしょうか。お酒やビールを飲んでいたからでしょうか。はたまた今夜のことにハッスルし過ぎて無駄に疲れてしまったのでしょうか。いいえ、多分それだけでは無いはずです。もしも可能性があるとするならば、それはやはり誰かに薬を盛られたと言う可能性が一番考えられる事だと思います。それだけ昨夜の畑上さんと堀下さんはえらく眠そうにしていましたからね」

「で、でもその時によってみんな体の調子は違いますし、疲労感・満腹感・寝不足とかによってその人の眠気も異なりますよね。畑上さんと堀下さんの場合はたまたまその日は眠かったのかも知れませんよ。それとも本当は、とてもお酒が弱い人達だったのかも」

「そう思って一応みんなには、畑上さんと堀下さんはどれくらいのお酒を飲み、どれだけのアルコール量に耐えられる人達なのかを聞いて回って見たのですが、皆さんが言うには、あの二人があの低度のお酒の量で酔い潰れる事は先ず考えられないとの事でした。いつもお酒を飲んで悪友と馬鹿騒ぎをして周りに迷惑を欠けていると聞きましたが、それでも完全に酔いつぶれた事は今までに一度もなかったとの話です。つまりそれだけお酒には強く、普段から飲み慣れていたと言う事です」

 あの二人はお酒が強いと羊野に断言され、東山はつい口を噤む。だがそんな隙を見逃さなかった羊野は東山まゆ子の傍まで近づくと、ある言葉を投げかける。

「あ、そう例えば、お酌をしている時にでもビールに睡眠薬の粉を人知れず混入する事が出来れば、それは可能だとは思いませんか。あら、そう言えば東山さんは偶然にも睡眠薬を持っているんでしたよね」

 不安そうに俯く東山の顔を覗き込みながら、羊野は意味ありげにニヤリと笑う。

「ま、まさか、私を疑っているのですか。私はそんなことはしてはいません!」

 震える声を張り上げながら言う東山まゆ子の額には、うっすらと一筋の汗がタラリと流れ落ちる。

「あらあら、どうしました。どうやら顔色が余り優れない見たいですが。ハンカチでもお貸ししましょうか」

「け、結構です。それよりも何だか私は気分が優れないので、今日はこれくらいにして貰ってもよろしいでしょうか」

「ええ、いいですけど、それで本当によろしいのですか。なぜ私がなんの根拠も無いはずの、この話を行き成りし出したのか、その真意を少しは考えてみて下さい」

「本当の真意ですって、それは一体どういう意味ですか?」

 今まで以上に不安げな顔で聞く東山まゆ子に、羊野が甘美にして悪魔のような優しい声で怪しく囁く。

「実はあなたがお酒コーナーから瓶ビールを持ってくる時に蓋を開けてこっそりと薬を入れている所を見たと言う人の証言があったのですよ。『東山さんが、こっそりと何か怪しげな白い粉をビールに入れていた』とね」

「う、嘘よ、そんなのは嘘よ。そんなはずはないわ。絶対に!」

 めい一杯体を震わせながら言う東山まゆ子は真っ赤な顔を向けながら羊野に抗議の声を上げる。その弱々しい抵抗は彼女の心に明らかに焦りの色が見えていることを意味していた。
 つまり今の東山まゆ子には明らかに余裕が無く、冷静な判断が出来ない状態にいるのだ。

(まあ、彼女が睡眠薬を入れた犯人と考えるのなら、彼女の小心な性格からして、堀下たけしや畑上孝介の目の前では絶対に睡眠薬なんて入れないはずだ。そう考えるのなら睡眠薬を混入した場所は一箇所しか無い。それはバイキングコーナーでアルコール類の飲み物が置いてあるお酒のコーナー付近だ。そこ以外で睡眠薬を入れられる場所は他には無いだろう。恐らくは羊野もそう推測しているからこそあんな見え透いた(羊野瞑子お得意の)ハッタリを噛ましているのだろうが……いくら確信を突かれたとは言え、東山さん……あんたあからさまに動揺しすぎだろ)

 羊野瞑子お得意のでまかせで東山まゆ子は冷静な判断力をすっかりと失い、どう言葉を取り繕うのかそればかりを考えている用だ。そんな心の隙に便乗して一気に彼女の睡眠薬混入の事実を暴くつもりなのだ。

 それで無くとも東山にしてみたら、もしかしたら誰かに見られているんじゃ無いかという不安や疑心暗鬼といった心と戦いながら薬を盛ったに違いない。なのでこんな気弱で犯罪には到底不向きな東山まゆ子には最初から無理な所業だったのだろう。

 東山まゆ子が一体どんな事情で睡眠薬を盛る羽目になってしまったのかは知らないが、もしかしたらこの畑上孝介殺害の犯行には、いろんな人達を巻き込んでの様々な協力や役目があるのかもしれない。
 その人達の小さな役割が結集して、この密室トリックは完成しているのだ。

 そんな事を勘太郎が思っていると、羊野が最後の詰めとばかりに更に狂言を噛ます。

「いいえ、確かにあなたは睡眠薬を入れる所を見られています。その人はもうこれ以上貴方に罪を犯して貰いたくは無いと言ってこの証言をしてくれたのです。とてもいいお友達や後輩思いの先輩じゃないですか。東山まゆ子さん」

 そう嘘ぶきながら羊野は優しい声で自信満々に言う。

(東山まゆ子の疑心暗鬼な心に揺さぶりをかけ、人の優しさや人情を持ってきて嘘の言葉を揺らぎの無い物にするとは、相変わらず姑息で腹黒の女だぜ。普通に考えたらこんな嘘は、みんなに聞き回って裏を取ったら直ぐにバレてしまう嘘なのだろうが。でもまさか『自分が睡眠薬を盛った所を見ましたか』なんて先ず口が裂けても言えるはずも無いだろうから気の弱い彼女に裏は取れないだろう。そして彼女がその睡眠薬を盛った事に少しでも罪悪感を抱いているのなら尚更だ。もしかしたらあの犯行を誰かに見られているかも知れないと言う疑心暗鬼を突いた羊野のいつものハッタリに東山まゆ子は冷静でいられる訳がないからだ。そんな東山の心情を知った上で羊野は堂々とハッタリをかましているのだ)

 そんな姑息な策略に逃げられずあがいていた東山まゆ子が、ついに重い心の扉を開け、その思いを口にする。

「わ、わ、私だって本当はこんなこと……嫌だったけど、あのボウガンを持つ男が、畑上先輩と堀下先輩の二人に睡眠薬入りのビールを飲ませることが出来たら、堀下先輩のストーカーの件は何とかしてくれると……決して悪いようにはしないって約束をしてくれたから、だから私は協力をしたんです。でもまさか畑上先輩を本当に殺してしまうだなんて夢にも思いませんでしたから、私……ビックリしてしまって」

「犯人からのメールには、なんと」

「朝方、睡眠薬から目を覚ました畑上先輩や堀下先輩の目の前に、脅しの矢が壁に刺さっていたら、彼らは恐怖の余りこのペンションから逃げ出すと……私になんて構っている余裕は無くなると、そう書いてありました。それであの堀下先輩のストーカー行為から逃げられると思ったんです。でも何故か畑上孝介先輩があんな形になってしまって……私……怖くなってとても本当の事が言えませんでした。本当にすいません!」

「東山さん……」

 涙目で話す東山まゆ子をいたわりながら勘太郎は吐き捨てる様にしてそのボウガンを持つ犯人の姿勢に言葉を浴びせる。

「くそ、だからこの犯行に協力しろってか。人の弱い心につけ込んで、関係の無い人を巻き込み自分の犯罪計画の手駒とする。そんな小賢しい事を平気でするイカレ野郎と言う事か。許さないぞ、雨合羽を着たボウガンを持つ男め。このボウガンを持つ男は必ず俺達が捕まえてやる!」

「フフフっ、でもこれで、はっきりしましたわね。犯人はミステリー同好会の部員達の内情を知っている人物のようです。そうでなかったら部員達のメールアドレスは勿論の事、内面の事なんて知り得ない情報ですからね」

「警察で調べて貰えばその着信履歴のアドレスから相手が分かるんじゃ無いのか」

「いいえ、この犯人は計画の為にかなり年密に計画を練っていると思われます。ですので犯人が使っている携帯電話は恐らくは赤の他人から盗んだ物をそのまま使っていると思われます。ですから調べるだけ無駄ですわ。そして居場所を探知されないように、スマホを使う度に電源は小まめに切ってあるはずです。まあ、警察がここへ来るまでにターゲットをぶち殺して証拠の品を隠滅すればいいのですから犯人にはまだまだ余裕があると言う事ですわね。それとさっきから黒鉄さんは犯人の事をボウガンを持つ男・男と連呼していますが、あの犯人が男だと決まった訳ではありませんよ。恐らくは東山さんを始めとしたみんなが男と言っていたので黒鉄さんも男と思い込んでいたのでしょうが、まだ分かりませんわ」

「た、確かにそうだな。まだ男か女かは分からないか。すまん、言葉の誘導に惑わされたぜ」

 まるで謎解きのゲームを楽しむ様な感覚でいる羊野は楽しげにケラケラと笑う。そんな羊野を見ていた東山まゆ子は怪訝な顔を向けていたが、勘太郎が無言で「すまん」と頭を下げると、気を取り直した東山が再び話し出す。

「犯人からメールを初めて貰ったのは、昨日私が山野辺さんの車で送られて、このペンションのロビーに到着した時の事です。勿論見たことも無いアドレスだったので悪戯メールかとも思いましたが、中を確認した上でついでに読んでしまいました。メールにはこう書かれていました。『あのワゴン車襲撃で私の本気と決意を身を持って体験できたはずだ。つまり私の存在と目的は本物である。幸か不幸かこの外界から隔離された山でお前達は更なる恐怖を知ることになるだろう。だが安心しろ。私の真のターゲットは畑上孝介と堀下たけしの二人だけだ。だから邪魔さえしないのならお前達には何もしない。だが私との会話は絶対に漏らしてはならない。もしばらしたら君もターゲットになる事を心しておくんだな。ああ、そうだった。確か君も堀下たけしのストーカー行為にはほとほと困っているのだったな。ならどうだ、私に少しだけ協力して見る気は無いかね。簡単な事だよ。二十一時から始まる夕食会の間に、君が持参している睡眠薬を使って、ビールに混ぜてあの二人に飲ませてはくれないだろうか。そうすれば君がこのペンションから無事に出て行くまでは、堀下たけしと畑上孝介の脅威から守ってやる事を約束しよう。どうだ悪い話では無いだろ。これで君の貞操と人としての尊厳は守られる訳だからな』……私は精神的に追い詰められていた事もあり、半ば諦めムードでこのペンションに来ていましたから、この提案をされた時は内心藁にもすがる思いでした。なので直ぐにこの話を聞き入れる事にしたのです」

 その強烈な東山まゆ子の話に勘太郎は内心驚きを隠しきれない。

(まさかそんな事になっていようとは思いもしなかったぜ。しかし携帯電話をすり替えさせた杉田真琴の時もそうだが、今度は東山まゆ子を使って睡眠薬をあの二人に飲ませるとは、一体犯人は何のためにそんな指令を出して事に及んでいるんだ。ただ単にあの二人を早く寝かせる為か。畑上孝介はその後、矢に射貫かれて死んでいるからな。)

 そんな考えに頭を働かせていると、勘太郎の考えをまるで読んでいるかのように羊野がその考えに補足を入れる。

「それだけではありませんわ。恐らくは部屋に来た畑上孝介さんの注意力を鈍らせる為でもあると思います。その注意力低下の為に畑上さんは恐らく死ぬことになったのですから。でも堀下さんの方は、たまたま傍にいた一宮茜さんのお陰で助かりましたがね」

「あの食堂広間の棚に隠していた自動式のボウガンの矢の事か。確かにあの時は傍にいた一宮さんのお陰で、堀下さんは命拾いをしたんだよな。一宮さんも男に触れない程に男性嫌いのはずなのに、あの時は良く勇気を出して毛嫌いしているはずの堀下さんを助け出した物だぜ」

「ええ、そうですわね」

「そのお陰で二人の生死の明暗が分かれたと言ってもおかしくは無いからな。で、その口ぶりだと腹部に矢を受けて死亡した畑上孝介の密室殺人のトリックの仕掛けが少しは分かったと言う事なのか。もしもそのトリックの仕掛けが分かっているのなら、もういい加減に教えてくれよ!」

 その謎の答えを聞きたがる勘太郎に、羊野は人差し指を立てながら口元で軽く動かし解答を拒否する。

「それを語るにはまだ早いですわ。私のはまだまだ仮説の段階に過ぎませんから、今語る訳には行きません。でもそろそろ赤城文子刑事が何か証拠となる土産を探し当てて帰って来るはずですから、赤城さんの頑張りに期待をしましょう。一応調べて貰いたい場所とヒントは出して起きましたから、もし私の考えが正しければこれで全ての謎が証明されると思いますよ」

「事情聴取を始めてから赤城先輩の姿を一切見かけないと思ったら、その原因はお前の指示で何かを探していた為だったのか。赤城先輩は一体何処で何を調べているんだ?」

 囈言の用に呟きながら勘太郎は気持ちを落ち着かせる為に一呼吸を置く。その甲斐あって平常心を取り戻した勘太郎は、心の中で思っていた事を勇気を出して聞いてみる。

「ま、まさかとは思うが、この事件にはあの円卓の星座の狂人達は絡んではいないだろうな。一応は、あの円卓の星座が掲げている不可能犯罪に類似しているみたいだし、その可能性も充分にあるんじゃ無いのか。た、確かいたよな、狂人の中に、矢を使う結構有名な狂人が……確か……始まりの六人の一人だっけ」

 勘太郎の指摘に少し考え込んでいた羊野だったが、直ぐにその狂人の関与を否定する。

「流石にそれは無いと思いますよ。確かに少し変わった密室殺人ではありますが、これは明らかに素人の仕業ですから、あの円卓の星座の狂人は絶対に絡んではいないと思いますよ。ただ……」

「ただ、なんだよ?」

「いいえ、何でもありませんわ。ではそろそろ赤城文子刑事の元へと行きましょうか。赤城さんとは一階のロビーで待ち合わせをしていますから」

「お前、いつの間に連絡を……。で、では東山さん、次に連絡があるまでこの部屋で待機をしていて下さい。いいですね」

「はい、分かりました。探偵さん」

 東山まゆ子に優しく言葉をかけた勘太郎は傍にいる羊野を伴いながら、既に一階のロビーで待っているはずの赤城文子の元へと急ぐのだった。
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