白い羊と黒鉄の探偵 ~狂人達が暗躍し掲げる不可能犯罪に白い羊と黒鉄の探偵が挑む~

藤田作磨

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第七章 『狂人・壊れた天秤からの挑戦状』 短い制限時間の中で繰り広げられるオルゴールが関わる奇っ怪な密室殺人に白い羊と黒鉄の探偵が挑む!

7-1.オルゴール事件の始まり(イメージラフイラストあり!)

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「丸谷さん、丸谷英字さん、いますか。管理人の戸田幸夫です。夜分申し訳ありませんが少しお話を聞いてはもらえないでしょうか!」


 時刻は深夜の三時丁度。このアパートの持ち主でもある大屋こと管理人の戸田幸夫は眠そうな眼を擦りながらも仕方なく、丸谷英字なる人物の部屋のドアの前に立つ。

 闇夜を照らす玄関の灯りと外から見える換気扇の音が戸田幸夫の心を更に苛立たせる。


 ゴッオオォォォォォォ!


「流石にうるさいな、この音は。まさか換気扇の消し忘れか。電気代も掛かるというのにこんな夜更けにずーと換気扇の音をならされたら流石に他の住人達の迷惑になるだろう!」

 そんな独り言を言いながら大屋の戸田幸夫はめげずに相手が出て来るまで再び呼び鈴のチャイムを押し続ける。


 ピンポン! ピンポン! ピンポン! ピンポン!


 オルゴールの音がうるさいという回りの住人からの苦情の電話で仕方なく丸谷英字が住むアパートを訪れた戸田幸夫はチャイムを鳴らしながら何度もドアを叩いては丸谷英字の名を頻りに呼び続けるが、肝心の丸谷英字は一向に部屋の中から出てくる様子はないようだ。
 だが部屋には電気の明かりが煌々と付き、外から見える換気扇のプロペラや電気のメーターがグルグルと回っている事から、この部屋の借主でもある丸谷英字が部屋の中にいることは間違いない用だった。

 苦情の電話をしてきた相手の話によれば深夜の午前二時から~二時四十五分ごろまでオルゴールの音楽の音が長々と鳴り響いていたとの事なので、こんな夜更けに叩き起こされてわざわざここまで来た戸田幸夫としては、必ず部屋の中にいるはずの戸田幸夫とは話し合いで解決したいと考えていた。それほどまでにこのアパートでは丸谷英字と言う住人のオルゴール好きは有名だったからだ。だが本来なら心を和ませるはずのオルゴールの音色も苦情が頻繁に来るほどになれば大屋としては迷惑この上ない話だ。

 それだけ丸谷英字なる人物は夜になると、趣味で集めているいろんなオルゴールの音色をたいまなく鳴らしながら紅茶を飲んだり読書をしたりするのが好きだと言う情報を聞いていたからだ。そんな日がアパートの住人が寝静まった深夜に毎日のように鳴らされたら流石に我慢の限界だろう。
 このアパート自体が古く壁が薄いと言う事もあるが、丸谷英字が持つオルゴールはかなり大きな音を奏でる事が出来る代物ばかりのようなので、このアパートに住む住人達の不満は全て管理人でもある戸田幸夫の元に苦情として集められていた。

 そんな思いがいつも心の何処かにあった大屋の戸田幸夫は今日こそはこの場でオルゴールの事で話を付けようと再度部屋のドアを激しく叩くが肝心の丸谷英字は未だに出て来る様子はない。
 あくまでも居留守を決め込むかのように一向に出て来ない丸谷英字の態度についに堪忍袋の緒が切れた戸田幸夫はポケットから一つの鍵を取り出すと、ドアの方角を見ながら丸谷英字に向けて改めて最後通告をする。

「丸谷英字さん、もう知っているかとは思いますが近隣周辺の人達からの苦情でもう何度も注意をしていますよね。夜夜中にオルゴールの音色を奏でる事は出来るだけ控えて下さいと。たまにならまあ許せますが、こう毎日立て続けに長時間大音量でオルゴールを鳴らされると流石に他の住人達の迷惑なんですよ。夜はみんな静かに寝ているんですから夜間のオルゴールの使用は出来るだけ控えて下さい。て言うか丸谷さん、部屋の中にいるんですよね。いい加減この部屋のドアを開けて下さい。もう貼り紙での警告や電話での注意も散々したんですから、今日という今日は直接会って私と話し合いをして貰いますよ。もし私の言葉をこれ以上無視すると言うのなら大屋の権限で合鍵を使ってこの部屋の施錠を開けて中に入らせて貰いますが、それでよろしいですか?」

 少し怒り気味に話す戸田幸夫の呼びかけにも関わらず当の丸谷英字は一向に部屋から出て来る様子はないようだ。なら仕方が無いとばかりに大きく溜息をついた戸田幸夫は持っていたスペアーキーをドアの鍵穴に差し込むと、カチャリと音を鳴らしながらロックしてあるドアの施錠をゆっくりと外す。

「丸谷英字さん、お邪魔しますよ!」

 鉄のドアを開けると扉はスムーズに開き、部屋の光が闇夜を背にしている大屋の戸田幸夫の目に嫌でも飛び込んでくる。その眩しさに一瞬目を細めた戸田幸夫はおもむろに革靴を脱ぐと目の前には木目張りのダイニングルームが目に入る。
 その直ぐ横には大きなステンレス製のキッチンが備え付けられており、台所の台の上に置かれてある炊飯器やガスコンロを何気に見つめていた戸田幸夫はそこから丸谷英字の人柄を簡単に考える。

(中年男の一人暮らしだというのに随分と小綺麗に使っているじゃないか。生業は作詞作曲家との事だが、この手の人間は神経質で気難しい人が多いらしいからな。だからなのかな、丸谷英字さんはあまり人の意見を聞かない人物なのかもしれないな。まあ、全ての作詞作曲家がそうだとは言わんがね……)

 そんな事を思いながら、生活感漂うキッチンの綺麗な使い方にこの部屋の住人の気の細かさやその性格を感じ取った戸田幸夫は直ぐに気を引き締めると、洋間にいるはずの丸谷英字の元に行くため、洋間に繋がる短い廊下を静かに歩く。

 その途中廊下の直ぐ横に設置してあるトイレやお風呂場の中にもしかしたらいるとも考えたが、いずれも電気が付いていないと言う事もあり、戸田幸夫は直ぐさま洋間へと繋がる扉の下の方へと注意を向ける。なぜならその木製の扉の下の隙間からは微かに部屋の光が漏れていたからだ。

 扉の下の隙間から漏れる光に導かれるかのように廊下を歩く戸田幸夫は洋間に繋がる扉の前まで来ると徐に扉のドアノブに手を掛けるが、その瞬間廊下の床に落ちていた何かをつい踏みつけてしまう。

「な、なんだ。何かが靴下についたぞ。ジュースか夕食後の油の水滴でも床にこぼしていたのかな。玄関前のキッチンは綺麗に使っているようですが、ちゃんと床の掃除はしていなかったようですね。丸谷さん、丸谷英字さん、聞いていますか。洋間の方にいるんですよね。それじゃこの扉を開けますよ!」

 扉の奥にいるはずの丸谷英字に声を掛けた戸田幸夫は態とらしく大きな声で呼び掛けると、豪快にその扉を開ける。

 1LDKのダイニングルーム8・5畳と洋間の8畳ある部屋だが、洋間の中にいるはずの8畳ほどある部屋の中に足を踏み入れた大屋の戸田幸夫はその思わぬ光景に体を硬直させながら思わず息を呑む。
 大きな木製の背もたれのある椅子の後ろで、この部屋の住人でもある丸谷英字がうつ伏せに倒れていたからだ。
 床に顔を付けながらうつ伏せに倒れている丸谷英字の体の下からは大量の血が流れたのか、回りは赤黒い大きな血だまりになっていた。

「ま、まさか、死んでいるのか? 丸谷さん……丸谷英字さん……しっかりして下さい!」

 その強烈な光景に思わず床へと尻餅をついた大屋の戸田幸夫は腰を抜かしながらもピクリとも動かない丸谷英字の顔を恐る恐る覗き込むが、その顔はもう既に生気は無くまるで壊れた人形のように目をカッと見開きながら動かない瞳孔を血に染め上げられた床へと向けていた。

(ひいぃぃぃ、やはり死んでいる。でも一体誰がこんな酷い事を。ま、まさか丸谷英字さんを殺した犯人が、まだこの部屋の中にいるのでは!)

 そう思い戸田幸夫は緊張しながらも部屋の回りをキョロキョロと見渡すが、目に映るのは(もう既に死体となっている)丸谷英字が趣味で集めていた古いディスク型のオルゴールやシリンダー型のオルゴールが幾つも目に入る。その数あるオルゴールは皆綺麗に棚の上へと置かれており、均等に他のオルゴール達とその距離を保っていた。そんなオルゴールだらけの部屋の中で奥の棚の上にあるテレビ・水槽・扇風機といった生活感を漂わせる機械類や、その真下に置いてある掃除機・モッブ・箒といった掃除器具だけが何故か不気味にその視界に映る。
 そんなただならぬ不安を遮りながらも戸田幸夫はまだこの場から犯人が逃げてはいない可能性を考慮し、密かに隠れていそうな所を懸命に探る。

(もしかしたら犯人はまだ戸を隔てたトイレやお風呂場や押し入れの中に隠れているかも知れない。ここは急いでこの部屋から出て早く警察に知らせなくては)

 そう思いこの部屋から出ることを直ぐに決断した戸田幸夫はその場から逃げる際に何か硬い物を踏んでしまったが、それが何かの鍵だと分かると一瞬その鍵を拾う素振りを見せる。

「これはおそらくは、丸谷英字さんの部屋の鍵だな。でもなぜこんな所に落ちているんだ?」

 だが戸田幸夫は直ぐにその鍵を拾おうとした行為をやめる。なぜならその行為で指紋が付くことを恐れたからだ。

「て、テレビの刑事ドラマか何かで見た事があるぞ。確か、第一発見者は容疑者として一番に疑われるんだよな。だからこそ指紋には充分に注意しないとな。もし迂闊にいろいろと触ってしまったら、この私が犯人に疑われかねないからな」

 そう呟くと戸田幸夫は出来るだけ周りの物に触らないようにしながら急いで部屋を出ると、直ぐにポケットから携帯電話を取り出すのだった。

 その頃、勘太郎と羊野は事務所の近くで散歩中の図です。
 因みに第七章は13話あります。
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