白い羊と黒鉄の探偵 ~狂人達が暗躍し掲げる不可能犯罪に白い羊と黒鉄の探偵が挑む~

藤田作磨

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第九章 『死伝が巣くう島』 死を感染させる南の島に巣くう狂人に、白い羊と黒鉄の探偵が挑む!

9-16.餌を撒く挑戦者達

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 時刻は夜の二十三時三十分。

「もしもし……え、逃げていた鮫島海人が池間大橋付近で見つかったのね。わかった直ぐに私達も池間大橋に向かうわ。だからそちらにいる沼川英二巡査に連絡を入れて私達を迎えに来るように伝えて頂戴。何分私の車はまだパンクをしたままなんですから!」

 もうすっかり辺りが暗闇に包まれている不気味な夜に虫やカエルの鳴き声と共に空気を流れる蒸し暑い風が地熱と交わり素肌にじんわりと汗となって纏わり付く。そんなジメジメした湿気の多いペンション内で咄嗟に自身にかかってきたスマートフォンの電話に出た赤城文子刑事はスマホの表面に片耳を当てながら電話に出ると、(池間大橋付近の検問所にいる警察官からだと思われる)その会話の内容に周りにいる皆が思わず聞き耳を立てる。

 そんな緊張感あふれる大広場で皆が寄り添い合うかのようにお互いの無事を確認する勘太郎、沖縄の海を守る会の会長の大島豪、沖縄の海を守る会の会員で薬剤師の古谷みね子、花間建設の花間敬一社長、その娘の花間礼香、新人ミステリー小説家の山岡あけみ、那覇市で土産物屋を経営している谷カツオ、そして同じく沖縄の那覇市で飲食店のアルバイトをしている大栗静子を入れた八人は、この一連の殺人事件を起こした疑いのある鮫島海人を池間島大橋付近で捕まえた事を知り、皆思わず安堵の溜息を残す。

 だがそんな中でも鮫島海人と劇的な出会いを果たした新人ミステリー小説家の山岡あけみだけはなんだか悩ましい顔をしながら、数年ぶりに会ったという昔なじみの言動について話し出す。

「あの鮫島くんが今回の殺人事件を引き起こした犯人だっただなんて、未だに信じられないわ。赤城文子刑事が彼の部屋にある怪しげな証拠の品々が一体なぜここにあるのかを追求したら何の言い訳もせずにそのままペンションから逃げ出したらしいし、そんな事をしたらもう自分が犯人だと言っているような物じゃない。たくもう、あいつは一体何を考えているのよ!」

「鮫島海人の身柄は池間大橋付近で検問をしている警察官に拘束して貰っているから、これからその検問所の所に行って、そのまま近くにある漁港のある町で鮫島海人への尋問を行うつもりよ。そして勘太郎と羊野さんには、十四時四十分くらいに沼川英二巡査と共にペンションに来た漁港の人達を一人ずつ取り調べをして貰うわ。もしかしたらその人物達の中にあの死伝の雷魚が紛れ込んでいるかも知れないから」

「わかりました、任せてください。外の方で色々と調べている羊野を見つけたら俺達も漁港のある町の方に向かいます!」

 赤城文子刑事の言葉に直ぐさま反応した勘太郎はそのまま玄関に向かおうとするがその足を花間建設社長の花間敬一が止める。

「ちょっとまて、警察だけではなく探偵のお前らまでいなくなったらこのペンションにいる俺達の身は一体誰が守ってくれるんだ。犯人かも知れない鮫島海人が捕まったとはいえ、まだその仲間がこの中にいるかも知れないんだぞ。なら俺達の命はまだその姿を見せない誰かに脅かされていると言うことだ。俺は……いいや俺と礼香はこんな所で死ぬ訳にはいかないんだ。お願いだ、確実に命を狙われている俺と礼香の二人だけでもその漁港のある町の方で保護してくれ。金はいくらでも払うから!」

「大丈夫ですよ。死伝の雷魚の正体が鮫島海人ならどんなに口が堅い人物でもその口を割らせる事は俺達なら容易いですし、その協力者も芋ずる式に見つける事ができるはずです。そしてその協力者の方は今回の殺人事件を依頼した人物だと思われるので、殺し屋たる狂人が傍にいなけねば犯行実行はまずできないと思いますよ。そんな訳で人が沢山いるこのペンション内にいた方がより安全です」

「いやいや明らかに警察に保護してもらった方が安心安全だろ!」

「確かにその方が安心なのは百も承知なのですが、仮に……万が一にも私達の読みが外れて鮫島海人が殺人犯ではない可能性も少なからずあります。その場合、町の方に移動をしたら間違いなくあの魚の姿をした狂人に意表を突かれて襲われる恐れがあります。なので、何も知らない建屋にいるよりはこのペンション内にいた方が絶対に無難であり安全です」

「し、しかしだねぇ!」

 勘太郎の落ち着きのある言葉に尚も保護してくれと食い下がる花間敬一社長だったが、その無様な往生際の悪さに話を聞いていた谷カツオが眉間にシワをよせながら大きな声で怒鳴り出す。

「ふざけんなよ、俺たちだってこの意味のわからない殺人事件に巻き込まれて常に命の危険が迫っているんだからあんたらだけ先に保護してもらうだなんて絶対に納得がいかないぜ。大体犯人の狙いは花間建設に深く関わりのある人達のはずなのに、特に関係の無い人達まで続々とその毒牙にかかって死んでいるじゃないか。日野冴子さんや池口琴子さん、それに現在行方不明になっている流山改造さんも花間建設には全く関わりの無い人達のはずだ。つまり何が言いたいのかというとこの殺人鬼は特に殺す相手を選んではいないと言うことだ。恐らくはこのペンション内にいる人達を手当たり次第に殺しているだけかも知れないと言うことだろ。違うか!」

「確かにこの殺人鬼は皆さんの恐怖を煽る為に過去に海を汚す行為を犯した者を選んで重点的に殺害をしているようですが、あの彼の部屋で見つかった数々の証拠の品からして十中八九鮫島海人が一連の事件の犯人である事にまず間違いはないでしょう。その真意をいち早くハッキリさせる為にも今夜中に鮫島海人の口を割らせて見せます!」

 自信たっぷりに言う勘太郎の確信めいた言葉に今度は沖縄の海を守る会会長の大島豪がまるで何かを確認するかのように話しかける。

「だ、大丈夫なんですか。本当に鮫島海人さんが犯人なのですか」

「十四時過ぎに赤城文子刑事が鮫島海人の部屋を訪れた際に彼の部屋には日野冴子さんと池口琴子さんを死に追いやったとされるトリックの仕掛けの品と血の付いた上着と包丁、それにお魚の形を模したマスクがその場にあったのですから、まず鮫島海人が犯人で間違いはないでしょう。恐らくは我々が無断で自室に入る事は決して無いと思い込んで油断をしていたでしょうから、そこを抜き打ちで部屋を訪れた赤城文子刑事に部屋の中を見られた事でもうここにはいられないと判断をしいち早くその場から逃げ出したのだと思われます。そしてその行為自体が鮫島海人が今回の殺人事件の関係者である事を裏付けています。なので今夜は安心して皆さん各自の部屋で大人しくしていてください。吉報が届き次第皆さんをこの池間島から解放しますから」

「本当に誰も残らないのか。警視庁から来たという赤城文子刑事も……あの白い羊の可笑しなマスクを被る怪しげなお嬢さんも……そして黒鉄の探偵さん……あなたも」

「ええ、俺達も今夜は漁港のある町の方に行きます。何分捜査をする人手が全く足りませんから、今夜中にこの事件に終止符を打ちたいと思っています」

「つまり、鮫島海人とその漁港の人達の誰かが犯人だと思っている訳ですね」

「そういう事です。あれだけの証拠が見つかったのですからそう考えるのがむしろ当然でしょう。そんな訳で俺達三人はこれから町のある方に向かいます。もうそろそろ沼川英二巡査がパトカーで迎えに来てくれる時間ですから、そろそろ行きますね。あ、それと、もしもの為に戸締まりはちゃんとして置いてくださいね。何もないとは思いますが一応は注意の為です。特に花間敬一社長……そして礼香さん……わかっていますね、ちゃんとしておいてくださいよ。出ないともしもの時は誰も助けてはくれませんから」

 真剣な顔をしながら視線を送る勘太郎の言葉に花間親子の二人は何かを噛み締めるかのように無言でうなずく。

「勘太郎、沼川英二巡査が迎えに来たようよ、そろそろ行きましょう」

「そうですね、では行きますか」

 赤城文子刑事と勘太郎の言葉に合わせるかのように表玄関に設置してある自動ドアが勢いよく開き、そこから沼川英二巡査が現れる。沼川英二巡査は緊張した顔つきで赤城文子刑事を見ると背筋を伸ばしながら深々と敬礼をする。

「赤城文子刑事、遅くなって申し訳ありません。お迎えに参りました!」

「ご苦労様、じゃ私はちょっとお手洗いに行ってくるからあなた方は先にパトカーに乗って待機をしていて頂戴。外にいる羊野さんも呼んで、私が戻ったら直ぐに出発するわよ!」

「あ、おっきい方ですか。ごゆっくりしてきてください。赤城先輩」

「うるさい、この馬鹿、とっとと行け!」

 顔を真っ赤にしながら急いでトイレに行く赤城文子刑事を見送っていた勘太郎だったが、そんな勘太郎に沼川英二巡査が何やら青い顔をしながら恐る恐る聞く。

「探偵さん、一つご相談に乗って貰ってもいいですか」

「なんですか、いきなり改まって?」

「ここでは何ですのでパトカーの方に行きましょう。できれば赤城文子刑事が戻ってくる前に話を終えたいので」

「わ、分かりました」

 よほど深刻な事なのか何やら震えながら話す沼川英二巡査に勘太郎は素直に後ろをついて行く。

「それで、話とは一体なんですか」

「その前に大島豪さんを取り調べできる材料がもう既にそろっているというのになぜ彼を検挙して取り調べないのですか。その方が断然早いのに?」

「そんな事をしてもしも死伝の雷魚がそのことを知ったらなりふり構わずにペンション内にいる人達を襲いかねないだろ」

「と言うことはやはり探偵さんは鮫島海人を犯人とはあまり考えてはいないと言うことですか」

「まあ、そういうことだな。まずは餌をまいてまだ姿を見せない実行犯を確実に釣らないとな」

「そうでしたか……上手く行くといいですね」

「それで、俺に話したい事とは一体なんですか?」

「実はこれを見てください」

 そう言いながら沼川英二巡査は腰に下げている三十二口径の拳銃を勘太郎に手渡すが、その手触りと重さに勘太郎は思わず沼川英二巡査の顔を見返す。

「これって、まさか!」

「はい、そうなんですよ。いつの間にか私の拳銃がモデルガンとすり替えられておりましてどうしたらいいのか思い悩んでいる真っ最中なんですよ。こんな事が赤城文子刑事や他の警察関係者にばれたら私はその失態と責任を取らされて完全に終わってしまいます。なので助けてください。誰が盗んだのかは知りませんが赤城文子刑事にこの事が見つかる前にどうにかして私の拳銃を取り返してください!」

「取り返してくださいと言われてもなぁ、このタイミングで拳銃を盗まれるだなんてそれはかなり不味いですよ。正直にありのままを話した方がいいんじゃないんですか。この事がもしも後にばれたらそれこそ責任も一層重くなりますよ」

「だからこそ人知れずあなたを信頼して頼んでいるんじゃないですか。私には妻とまだ幼い育ち盛りの子供が三人もいるんだ。だからここで職を失ったりする訳にはいかないんだ!」

「気持ちはわかりますが、その拳銃をこの事件に関わる犯人の仲間が持ち去っていたら、それこそ一大事になりますよ。そしてその事を黙っていたあなたも刑事罰を確実に受けることになります。そしてその罪はかなり重いです。だからこそここは正直に……」

「いいや、俺はあんたがその持ち去られた拳銃を誰にも気づかれる事無く取り返してくれると信じています。あなたはあの名探偵だった初代黒鉄の探偵、黒鉄志郎の息子さんですし、その闇の界隈ではかなり有名な人物のようですから、私の人生をあなたにかけるのですよ。もしも私の拳銃を誰にも気づかれる事無く無事に取り返してくれたら勿論それなりの謝礼はお支払いします。なのでお願いします、私の拳銃を取り返してください!」

「そんな事を言われてもなあ……非常に困るんですけど」

 パトカーの前で必死に頭を下げる沼川英二巡査を見ながら勘太郎は、拳銃が奪われた事でまたよからぬ事が起こらなければいいなと本気で心配するのだった。
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