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『始まりの街』
11.こんにちは、アリスさん
しおりを挟む――――辺りは、夜だった。
彼ら、戦闘職たちは夜のフィールドを駆け回り、モンスターを狩る。
まだ夜に出現する強いモンスターが怖いと、自分の力に自信が無い者は実力者に稽古をつけてもらう。
セルトが少なく困り果てる者は街中クエストを受けて走り回っていたり、明日に向けて準備する者は雑貨屋でポーションを買い漁る。
彼ら、生産職たちはひっそりと路地裏で生産作業に打ち込む者も居れば、必死になって生産作業場で鍛冶や調薬、料理をする者もいる。自分の作った物を見せ合う者もいれば、素材が足りず恐怖に怯えながらもランタンを持ち、外に赴く者もいる。
――――酷く自由なこの世界は、愛される。
――――生きている。この、愛すべき世界で。
――――生きている。あの、廃れゆく世界で。
* * * * * * * * * * * * *
「――――――ぁ……夢…?」
重いまぶたをこじ開け、カーテンを開く。日光が部屋に入って来る。清々しいなぁ……まあ、十時くらいなんですけどね。
休日なのでゆっくりと服を着替えて、朝食を食べる。皿を洗って、掃除をして、買い物をして、溜まった録画を一気見する。その後、菓子をつまみながらかなり前に買った漫画を読む。
昼飯を作って、食べる。電話で友人と会話する。新品の家具を組み立てる。現在時刻は大体午後2時半だ。
「溜まりに溜まったしたい事、オッケー。夕食の準備、オッケー。就寝準備、オッケー。仮想世界突入準備、オッケー」
「よーし…いざ征かん!バーチャルワールド!」
自分でも良く分かっていないテンションのまま、俺は『プラワン』の世界に飛び込んだ。
ログインすると、空が少し赤暗かった。
現実世界はまだ昼だがまあ、時間の経過設定を変えているのだろう。多分、今は夕方くらいだろうか?今日は休日だから長時間ログインできるし、まったり行こう。
俺はまずシステムからメールボックスを開いて新たなメールが来ていることを確認し、その新規メールを開く。メールの送り主はダイルからだった。メールの内容は予想していた通り、鞘の完成を知らせるモノだった。
俺は、寄り道をしながらゆっくりとプレイヤー露店街の道へと向かっていった。
到着すると、ダイルが遠くで手を振っている。こちらも振り返しながらその方向へと歩みを進めた。
「よう!出来たぜ、鞘!サイズはお前が短剣をその中にいれたらピッタリになる筈だ!」
「オーケー、サンキューな。ダイル」
「おうよ!貴重な素材を扱わせてもらったぜ!」
そんな会話をしながら、短剣を出す。そして一応、鞘を調べてみる。
【生物達の悪戯鞘+3】
職人が真剣かつ、悪戯心を丸出しにして造り上げた逸品。蛙の革は内側に、狼の革は外側に使われている。猿の尻尾で装飾が施され、獣犬の牙で刃を抜く度に鋭く研がれる。結合剤で決して取れない様に、生物達は固く絆を結びました。
【特殊効果】「刃研ぎ(評価:低)」「特殊効果発生確率UP(小)」
「…なあ」
「ん?どうした?嫌な部分でもあったか?」
「いや、違うんだが…なんか〈強化合成〉されてね?しかも三回…」
「ああ、気持ち気持ち!」
そんなこと言ったダイルはニッコリと笑って、俺の背中を叩いた。いてぇ。
俺は短剣を鞘に納め、次も必ず頼る。…と言いながら感謝し、そこを離れた。良い奴っていうのは居るもんだなぁ~…あれ?つい昨日も思った気が…
「さて、どこ行こうかな?」
フィールドへ出ようか、生産でもしようかと迷いながら歩く。
満腹ゲージがかなり減っていたのでそこら辺で、まず腹ごしらえをすることにした。ここ最近……というか今日からなのだが、なんだかプレイヤーが店を構えている建物が多くなっているのだ。
どうやら掲示板で確認したところ、建物を貸してくれるNPCを発見したらしい。
一週間で○○セルトと言った具合で、建物を貸し出してくれるようだ。まあ、意外と高いらしいので長期的に払える額を持っているプレイヤーしか借りようとはしないらしいが。払えなかったらとんでもないペナルティもあるようだし。
それが怖くてほとんどのプレイヤーは借りることはしていないそうだ。
まあ、今回はそこらにある露店でなんか買おうかな。歩きながら適当にぶらつきたいし。
俺は適当にプレイヤーが売っていたハンバーガーっぽい奴とジュースを買って、それを食べながら歩き出した。ジュースは結構美味しかったんで幾つか自分用に、と買っておいた。……しばらく歩いていると気になる建物を見つけた。
「おお、訓練場か。初めて見たな」
どうやらここで、スキルの練習や戦闘の特訓が出来るらしい。こんな良いところがあるんだったら最初に来るんだった。とりあえず、中に入ることにした。〈アーツ〉の練習したいしな。
訓練場内は思っていたよりはプレイヤーは居なかった。多分、ゲーム内が夜と言う事もあり、戦闘職のほとんどはモンスター狩りに行っているんだろう。ここにいる人達もきっとアーツの練習に来てるんだろうな。
適当に訓練場内を歩きながら奥へ奥へと進んでいく。といっても、ハンバーガーをまだ持っているので、どこかに座って全部食べたい。誰かにぶつかってしまったら大変だ。
俺は近くの手ごろなベンチに腰を掛けて、ハンバーガーを食べながら目の前を通り過ぎていくプレイヤー達を見つめる。
やっぱりこうして見ていても《短剣》を持っている奴は一人もいないな。ほとんどは《片手剣》とか《両手剣》、《棍棒》とかそこ等辺だなぁ…
珍しいのが居ても《鎌》とか…あと《筆》とか……《筆》って何だろうと思って掲示板でスレ無いか調べたら”トンデモトリッキースキル《筆》について語るスレ”と言うのがあった。いろんな武器があるんだなぁ……
しばらくそういうスレを漁っていると、突然目の前のプレイヤーに声を掛けられた。
「すいません。隣いいですか?」
俺が咄嗟に声がした方向を見るとそこには、藍色の髪をした少し身長が小さめな女性プレイヤーがいた。だが、背中に自分の身長くらいの両手剣を背負っているので誠にシュールな感じである。
「あぁ、どうぞー」
少し端にずれて、スペースを作る。その女性プレイヤーは盗難防止設定を施して、大きな両手剣武器をすぐ傍に置きながらベンチに腰掛けた。
「この訓練場って、良い特訓場所になるんですけどベンチが少ないんですよね~。色んなとこ回ったけど、どこも空いてなかったんですよ~」
「なるほど、だからここに」
「はい。休憩していたのにすいません」
「いや、気にしないで良いよ」
「そう言ってくれると気が楽です」
その女性プレイヤーは、かなりこの訓練場で運動していたようでかなり疲れている様子だった。俺は来る途中で、自分用に…と買ったハンバーガー売りのジュースを渡した。ちなみにキンキンに冷えている状態である。
「これあげるよ。美味しいから」
「え…でも」
「大丈夫大丈夫!安い奴だから」
実際は一つ150セルトするものだが出し惜しみしていては勿体無いし、本当に美味いからこの味を共有したい。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えていただきます…ありがとうございます」
「おう」
女性プレイヤーは、自分からジュースを受け取りゴクゴクと飲んでいく。
ちなみに、ジュースの種類はリンゴ、ブドウ、オレンジ、ピーチ等だ。炭酸系も売っていたのだが、炭酸のジュースは250セルトもしたので買っていない。さすがに…ね?
彼女に渡したのはピーチジュースだ。桃の香りが鼻に抜けていく爽快感…!と店の看板には書かれていた。
「……ぷはぁぁ!」
良い飲みっぷりだなぁ…と思いながらも彼女を見ていると、どうやら一気に飲み干してしまったようジュースカップから唇を離した。
そして、少々頬が紅潮しながらもコチラに向かって、
「――これ…凄く美味しいですね!ちょっと売ってた場所教えてもらえますか!?買い占めてきます!」
どうやらかなり気お気に召した様で、売っている場所を提示して欲しいとの要求をしてきた。無論、断る理由は無いし、素直に場所を教えた。
「ありがとうございます!行ってみます!」
「ああ、気をつけてな。露店だったから移動してるかもしれないからな」
「はい!あ、私『アリス』って言います。堅苦しい呼び方は苦手なので、呼び捨てでオッケーです!」
「ああ、俺は『ノア』だ。そんならこっちも呼び捨てで。よろしくな」
「はい!よろしくです!」
そんなこんなでフレンド登録もついでにお互いした後、アリスは傍に置いておいた両手剣を持って颯爽と訓練場を出ていった。
「ふぅ……スキル訓練しよ」
そんなことを言いながらベンチから立ち上がり、訓練用の人形(サンドバックみたいな)がある場所へと移動した。
訓練人形相手に《短剣》アーツの練習を少しした後、《体術》アーツの〈アッパー〉からの通常攻撃のコンボに重点を置いて練習した。
最初の〈アッパー〉が決まった後のコンボは非常にタイミングが難しく、大体当たらないか、変な風に拳が直撃して逆に反射ダメージが来る。
しばらくその後も練習に練習を重ねて、〈アッパー〉からのコンボは〈アッパー〉合わせて3回まで出来るようになった。まあ、今でも成功確率は7割くらいなんだけど…
残念ながらそれ以上のコンボは一回も成功しなかった。まあ、3回コンボが成立しただけ良いんだろうな。
その後、もう少しだけ訓練した後に訓練場を出た。
【スキルレベルの上昇が無い為、ステータスは表示されません】
*************************
《筆》
《絵師》や《絵心》スキルを所有する者が会得することが多いスキル。絵に関する行動全体に+補正を掛ける。戦闘面においても、スキルに絵関係のスキルが入っていたら特殊効果や攻撃力、魔力上昇などの効果がある。外見は大きな筆であり、かなり重量級の武器となる。だが、《絵師》スキルを持っていれば重さは軽量化される。いわば、絵師のためのスキルみたいなものである。他にも、《音》などの《演奏》、《音感》、《歌唱》の為のスキルも存在する。
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