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『第2の街シドネス』
29.何処かに落とした頭の螺子
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「ふぃぃ………」
先程のアーツ乱用のせいでAPが底をついていたので、少々休憩を取った。色々とスキルの整理もしたかったしな。
まず《視覚強化》のレベルがMAXになったことにより、スキル進化が可能になった。スキル構成一覧のところの表示されている(進化可能)という表示をタップすると、目の前にこんなウィンドウが出現した。
【《視覚強化》進化・派生一覧】
―通常進化―
《感応視覚超化》
―特殊進化―(通常進化の強化版)
《万能眼》
―条件進化―(条件達成時のみ表示)
《統治眼》
……えー……3つも選択肢あんの?
まず《感応視覚超化》は無いな。それなら特殊進化の《万能眼》を取る。
それで…?《統治眼》は何なんだ…?怖いなぁ……
しばらく考えた結果、《万能眼》にすることにした。《感応視覚超化》は論外だし、《統治眼》は何なのか分からなさ過ぎて怖い。まあ、妥当と言ったところだ。
俺は早速進化させようととしたのだが―――、
「おお……マジか…スキルポイント35も使うのか…」
驚きである。今まであんまり使ってこなかったから200ポイント近く残っているから問題ないが思っていたよりは使うんだな…
俺は《視覚強化》を選択し、《万能眼》へとスキル進化をさせた。
「さて、そろそろ行くか」
俺はそう言いながら立ち上がった。それと同時に串焼きに刺さっている最後の鶏肉を口に運ぶ。香ばしい風味と醤油ベースのタレの味が舌を通じて味覚を刺激する。
「はい、そうですね!」
アリスもそう言いながら片膝をつき、立ち上がった。右手を横に立てかけてある大剣に伸ばした。
* * * * * * * * * * * * *
「〈地走り衝撃波〉!」
ギャギャギャ!とアリスの大剣が木造の地面を削りながら振り上げられる。
床から刃が離れた瞬間、そこを原点とするように青色の衝撃波が生まれる。その衝撃波は地面を這いながら、敵がいる方向へと迷うことなく直進する。
その衝撃波が〔浮遊ランプ〕というモンスターに直撃する。浮遊ランプは一瞬にして真っ二つにされ、消滅した。
「そろそろボスでもいいと思うんですが…」
「まあ、焦るなよ」
俺はそう言いながら、こちらに突進してくる本を斬り付ける。本はそのまま勢いを失くし、俺の目の前で墜落する。そこにトドメの一撃をグサリと刺す。本は消滅した。
「多分この上の階にいる。気配が普通のヤツよりでかい」
俺は人差し指で上を指しながら、そう言った。
「…なるほど、気配察知系のですか…私も欲しいです…」
アリスはそう口にしながら上を向く。上を向いてもここからじゃ、木の天井しか見えないのだが、そこは気分なのだろう。気にしない気にしない。
「しかも露骨に敵が増えた。余程上に行かせたくないと見た」
先程からノータイムで敵が襲い続けている。本、ランプ、ペン、椅子、ありとあらゆるものが浮遊し突進するか、魔法を放つ。
どうにか対処してはいるが、この調子で敵が出現し続ければ近いうちに全滅するのがオチだろう。
ここはさっさと上に行ってボスと戦うのが吉だ。そうじゃなくちゃ本当にヤバい。
「走ってここを抜けるぞ!掴まれ!絶対放すなよ!」
「百も承知ですよ!」
アリスは至急こちらに走って来る。背後から魔法を撃たれているが、丁度背中に背負っている大剣に当たり、うまくガードされている。
俺はアリスが俺を強く掴んだのを確認すると、一瞬でその場を離れる。
「〈瞬発〉、最大出力!」
そう言った瞬間、俺はとんでもない速度でその場を離れた。
「はぁ、心臓に悪い…」
アリスは壁に手を突きながら下を向き、そう言った。目の前には上の階へ上がるための階段がある。すぐに見つかったのは非常に幸運と言える。
俺はアリスを引っ張り、上の階へと続く階段を上がった。
上の階には一つの影があった。その影は蹲っており、小さくしゃくりあげる様な声を上げている。泣いている……のだろうか?
壁にはとんでもなく大きな窓が一つと、ランプが幾つも掛かっており、怪しげな炎をゆらゆらと燃やしている。
その影はどうやら子供の様で、酷く守ってあげたくなる。しかし多分、あのしゃくりあげる様な泣き声は嘘。罠だろう。
しかし、俺がそう判断してもアリスは違った。隣にいたはずのアリスの姿はいつの間にか忽然と消えており、気付くと泣いている影のすぐそばに居た。
「――っば…!」
俺はすぐに走り出したが、もう遅かった。二人の会話が鼓膜に響いてくる。遠い所に居るハズなのにはっきりと。
「どうしたの?」
アリスはしゃがみ込み、子供の影に問う。
「ヒック…うぅぅぅ…」
子供の影はどうやら女の子の様で、少女特有の高い声が聞こえる。髪は真っ白で長く、毛先は少しカールが掛かっているようにも見える。
アリスはさらに一歩近づいて、その子供の影に話しかける。それ以上は危険だ…!俺は必死に走る。なのに全く近づく気配がない。むしろ遠ざかっているようにも感じてしまう。これもあの子供の影の仕業か…。
「大丈夫?何で泣いているのかな?」
「うぅぅ…そ…それは…
――――――――お姉ちゃんがバカだからだよ」
少女は可愛らしい顔を向け、大きく口を裂けさせて粘着質な笑いをにっこりと浮かべた。
「――――っ!?」
アリスは瞬時にその場から離れる為、バッグステップしようとした時、少女の長い長い髪がまるで意思でも持ったかのようにアリスの身体に噛みついた。
その髪には鋭い牙……髪で出来た牙がついていた。
アリスに噛みついた牙髪はそのまま上へと低身長なアリスを軽々と持ち上げた。どのくらい少女の力があるのかが良く分かる。
少女はニヤニヤと笑いながら、更に強くアリスの身体に髪の牙を食い込ませていく。
「ぐ…ぅ、ぅぅぅ…」
アリスはその状況をどうにか出来ないかと身体を動かすが、少女は逃がす気がない様でさらに強くアリスを拘束したようだった。
「お姉ちゃん、馬鹿なんだね。誰にでも差し伸べる。馬鹿のする事。それに反してあのお兄ちゃんは冷静だね。罠だって気付いてた。認識誤差を掛けたのになぁ。あのお兄ちゃんの警戒心は無くならなかった。きっと気持ちが強いんだね」
「ん……ぐぅぅ……!」
少女は持ち上げたアリスを見て、話し掛けている。ニコニコとまるで駄菓子屋にお菓子を買いに来たただの子供の様な…そんな笑みを常に浮かべている。
「おい、髪、退けよ」
「――――ぇ?」
次の瞬間、少女の顔は横からの衝撃により、酷く、醜く歪んだ。
少女は横に吹っ飛ぶ。それと同時にアリスを拘束していた髪も解かれ、アリスの身体は自由を取り戻した。
「大丈夫か⁉」
「な、なんとか…」
アリスは持ち物から回復アイテムを出し口にしている。そんな中少女はこちらを向いて、話しかけてくる。
「どうして…?どうしてお兄ちゃんはここに来れたの?どうしてループを……」
「ああ?ループ?…なるほど。あの走っても走ってもアリスに近づかなかった現象の事か」
少女はコクリと戦闘態勢を維持しながらも、頷く。どうやらなぜ抜け出せたのかが分からないらしい。仕方ないから教えてやる。アリスが回復する時間も稼げるしな。
「あのループは床だけだ」
「ゆ…か?」
少女は可愛らしくこてっと首をかしげる。どうやら意味が解って無いらしい。
「つまり、あのループは床に足がついている場合にのみ、発動する。それならば簡単。床に足を突かずに移動をすれば良い。どうだ、簡単だろ」
そう、つまるところ〈跳躍Ⅳ〉〈瞬発Ⅲ〉〈空中遊歩Ⅱ〉を駆使し、空中を移動してきたという訳だ。出来るならAPは使いたくなかったんだが、これしか近付く方法が無かったので仕方がない。
「……すごいねぇ…面白いねぇ……お兄ちゃん………最ッ高だよぉ!」
次の瞬間、少女の髪がバラバラに逆立っていく。その髪を見ると何十本かが絡み合った毛先に小さな竜の様な生物がついている。”髪竜”ってか…。その髪竜は少女の髪の量から察するに500体は軽く超える。
「まるでメドゥーサだな…」
少女は次の瞬間、揺らめき消えた。まるで俺の全力移動法だ。しかし残念ながら俺にはその動きが手に取るように見える。《万能眼》。中々に使いやすくなっている。
少女が目の前に出現する。本当ならここで一度バックステップを加えた後に、回り込んで〈バックスタブ〉を当てたいところだが、このまま避けてしまうと後ろにいるアリスがターゲットにされてしまう可能性が高い。
というかどうやら気絶状態に陥ってしまったようだ。ポーションを開けて飲んだところで『気絶』…か。最悪のタイミングだな…
仕方ない…か。
「〈掌底打ち〉」
俺は掌の手首に近い部分を少女の心臓部に打ち込む。ドムッ!と軽そうな音がしたが、少女の顔は苦悶の色に染められている。手ごたえを感じ、そのまま顔を掴んで投げ飛ばそうと――――、
「え…へへ……離さないよ……お兄ちゃん…」
―――次の瞬間、掌底打ちを繰り出した腕を掴まれた。
少女が俺の右腕を強く、強く、両手を使って掴んでいるのが見えた。〈危険信号〉が警告音を鳴らす。しかし、その時にはもう全てが遅かった。
「―――――喰い……殺せぇッ!!!」
両手で掴まれていた俺の腕に少女の何百匹と言う量の髪竜が群がる。
「ぐっ……がああああああ!!!」
すぐさま腕を振り払う。しかし一度噛み付いた竜はそう簡単に離れない。そんな事をしている内に、竜はどんどんと身体を侵食していく。
「喰え!喰え!喰え!貪り尽くせぇ!」
少女は必死に竜へとそう命令し続ける。いつの間にかその目は真っ赤に染まっており、敵を殺す事しか考えていないようにも見える。段々と目からは血涙が溢れている。
「〈豪―――腕〉!」
〈豪腕〉。
腕単体を強化し、様々な補正を掛ける。拳アーツの威力を更に上昇させる。見た目は変化させることも出来るし、そのままにも出来るというアーツだ。
俺は刹那、自分の腕の筋肉を膨張させる。すると、まるで反発するかのように竜はその腕から吹き飛ばされる。噛みついていた分、いきなり大きくなられると牙が押し出され、吹き飛ばされた、と言う事の様だ。
しかし〈豪腕〉を使い竜を吹き飛ばした瞬間、俺の右腕からボトッという何かが落ちた音がした。それは―――――――
酷く深い裂傷があちこちにある俺の右腕だった。
「あー……精神的に来るなぁ…ゲームってわかってても…」
それより、これほど冷静でいられた俺を褒めて欲しいくらいだ。
――――痛みがほとんどないから冷静を保てた。
――――これがゲームと知っていたから平然を貫けた。
――――俺が俺という存在を理解していたからパニックにならずに済んだ。
酷く冷静に分析、解析した。
「〈灯火〉で塞ぐか…」
もげてしまった腕はどうしようもない。死んだら直ると思うからあとで死に戻りで直そう。まずは『出血』状態になってしまった腕があった部分を〈灯火〉でダガーを熱し、焼いて塞いだ。
そして前を向くと、少女がこちらを向いて待っていた。
「待ってくれてたの?優しいんだな」
「違うよ。狂ってる、って思ってたんだよ」
「そうか?」
少女の瞳には理性の色が戻っている。しかしその奥底にははっきりとした恐怖が読み取れた。
「傷を焼くことは昔、山で一度だけ遭難した時の経験があるんだ。痛かったし、苦しかった。ウジ虫がウジャウジャ沸いて気持ちも悪かったよ。酷く最低な気分だったな」
「ははっ……お兄ちゃん、頭の螺子を失くしてるみたいだね…」
「そんなことない。至って正常だ」
俺はダガーを左手の中でしっかりと握りなおす。こんな時、両利きと言うのは非常に便利である。まあ、右の方が扱いやすいのは事実だが…。一応左でもそこそこイケる。
「さあ、続きだ。構えろ」
少女は髪の竜を7つに分けた。今までの様な何百体の髪竜とは違い、一体一体が大きい。
「3体が攻撃。2体が防御。1体が遊撃。最後の1体は私が操作。これが理想よ」
「――――」
俺は〈瞬発Ⅲ〉を使い、一気に少女へと近づく。
「〈フォーススラッシュ〉!」
そして勢いのままに、四つの斬撃を放つ。2つが避けられ、一つは相殺。一つは少女の頬を掠めた。
「どこぞの紳士に怒られそうだ…」
俺は少女の顔を傷つけた事についてすこし考える。
しかし、そんな事を気にしている場合じゃない様だ。少女の瞳にはまた赤い光が宿っている。しかし先程の様に殺意しか宿っているという訳ではなく、理性も見て取れる。
俺は一気に近づいてきた少女目掛けて〈振動蹴〉をぶち当てる。
振動のせいで身体の軸を見失い、少女は派手に転倒する。
俺がそこにダガーを突き立てようとすると、2体の髪竜がダガーの刃を噛んでその先に行かせまいと奮闘している。
そんな中突然、俺の身体は羽の様に軽くなった。
ああ、そうか…夜か…。俺の本領が発揮される時間だ。
それなら”アレ”が使えるな。俺は”アレ”を早速発動した。
次の瞬間、俺の瞳にボゥ……と真っ赤な煙が纏わりついた。瞳の奥はどす黒い血色に染まっている。
「なあ、見てみろ。お前とお揃だ」
「――――っ!?なんで!」
少女はひと時取り乱すと、すぐに冷静を取り戻した。俺はこの赤い瞳の理由を教えてやる。
「”深紅”。《視覚強化》……じゃなくて《万能眼》の俺が作った技だ。敵の動きを急速に捉えやすくする。特殊効果が発動する夜限定だがな。あと、満月に近ければ近い程、強くなり真っ赤に染まる」
俺はこの階にたった一つある大きな窓を見る。少女も戦う事を忘れてそちらを見る。
その窓に映っていたのは光り輝く、大きな大きな、丸い惑星だった。
「満…月……!」
少女は絶句したようにそう呟く。
「さぁ、早く戦おうぜ。もう一度仕切り直しだ」
俺は少女から離れた。
プレイヤー:ノア
【スキル一覧】
《短剣》Lv91(↑10UP)《体術》Lv97(↑12UP)《闇魔法》Lv74(↑13UP)
《盗賊》LvMAX(↑12UP)(進化可能)《隠蔽》Lv88(↑15UP)
《立体機動》LvMAX(↑13UP)(進化可能)
《万能眼》Lv10(↑9UP)(New!)《調薬》Lv30《採掘》Lv17《遊泳》Lv50
控えスキル
《釣り》Lv39《鍛冶》Lv24
スキルポイント:232
【二つ名】
終焉スキラー・終焉兎
【称号】
失敗の経験者・因縁を果たす者・真実を知る者・《怠惰》なる大罪人・歩く厄介箱・不屈・GM泣かせ
先程のアーツ乱用のせいでAPが底をついていたので、少々休憩を取った。色々とスキルの整理もしたかったしな。
まず《視覚強化》のレベルがMAXになったことにより、スキル進化が可能になった。スキル構成一覧のところの表示されている(進化可能)という表示をタップすると、目の前にこんなウィンドウが出現した。
【《視覚強化》進化・派生一覧】
―通常進化―
《感応視覚超化》
―特殊進化―(通常進化の強化版)
《万能眼》
―条件進化―(条件達成時のみ表示)
《統治眼》
……えー……3つも選択肢あんの?
まず《感応視覚超化》は無いな。それなら特殊進化の《万能眼》を取る。
それで…?《統治眼》は何なんだ…?怖いなぁ……
しばらく考えた結果、《万能眼》にすることにした。《感応視覚超化》は論外だし、《統治眼》は何なのか分からなさ過ぎて怖い。まあ、妥当と言ったところだ。
俺は早速進化させようととしたのだが―――、
「おお……マジか…スキルポイント35も使うのか…」
驚きである。今まであんまり使ってこなかったから200ポイント近く残っているから問題ないが思っていたよりは使うんだな…
俺は《視覚強化》を選択し、《万能眼》へとスキル進化をさせた。
「さて、そろそろ行くか」
俺はそう言いながら立ち上がった。それと同時に串焼きに刺さっている最後の鶏肉を口に運ぶ。香ばしい風味と醤油ベースのタレの味が舌を通じて味覚を刺激する。
「はい、そうですね!」
アリスもそう言いながら片膝をつき、立ち上がった。右手を横に立てかけてある大剣に伸ばした。
* * * * * * * * * * * * *
「〈地走り衝撃波〉!」
ギャギャギャ!とアリスの大剣が木造の地面を削りながら振り上げられる。
床から刃が離れた瞬間、そこを原点とするように青色の衝撃波が生まれる。その衝撃波は地面を這いながら、敵がいる方向へと迷うことなく直進する。
その衝撃波が〔浮遊ランプ〕というモンスターに直撃する。浮遊ランプは一瞬にして真っ二つにされ、消滅した。
「そろそろボスでもいいと思うんですが…」
「まあ、焦るなよ」
俺はそう言いながら、こちらに突進してくる本を斬り付ける。本はそのまま勢いを失くし、俺の目の前で墜落する。そこにトドメの一撃をグサリと刺す。本は消滅した。
「多分この上の階にいる。気配が普通のヤツよりでかい」
俺は人差し指で上を指しながら、そう言った。
「…なるほど、気配察知系のですか…私も欲しいです…」
アリスはそう口にしながら上を向く。上を向いてもここからじゃ、木の天井しか見えないのだが、そこは気分なのだろう。気にしない気にしない。
「しかも露骨に敵が増えた。余程上に行かせたくないと見た」
先程からノータイムで敵が襲い続けている。本、ランプ、ペン、椅子、ありとあらゆるものが浮遊し突進するか、魔法を放つ。
どうにか対処してはいるが、この調子で敵が出現し続ければ近いうちに全滅するのがオチだろう。
ここはさっさと上に行ってボスと戦うのが吉だ。そうじゃなくちゃ本当にヤバい。
「走ってここを抜けるぞ!掴まれ!絶対放すなよ!」
「百も承知ですよ!」
アリスは至急こちらに走って来る。背後から魔法を撃たれているが、丁度背中に背負っている大剣に当たり、うまくガードされている。
俺はアリスが俺を強く掴んだのを確認すると、一瞬でその場を離れる。
「〈瞬発〉、最大出力!」
そう言った瞬間、俺はとんでもない速度でその場を離れた。
「はぁ、心臓に悪い…」
アリスは壁に手を突きながら下を向き、そう言った。目の前には上の階へ上がるための階段がある。すぐに見つかったのは非常に幸運と言える。
俺はアリスを引っ張り、上の階へと続く階段を上がった。
上の階には一つの影があった。その影は蹲っており、小さくしゃくりあげる様な声を上げている。泣いている……のだろうか?
壁にはとんでもなく大きな窓が一つと、ランプが幾つも掛かっており、怪しげな炎をゆらゆらと燃やしている。
その影はどうやら子供の様で、酷く守ってあげたくなる。しかし多分、あのしゃくりあげる様な泣き声は嘘。罠だろう。
しかし、俺がそう判断してもアリスは違った。隣にいたはずのアリスの姿はいつの間にか忽然と消えており、気付くと泣いている影のすぐそばに居た。
「――っば…!」
俺はすぐに走り出したが、もう遅かった。二人の会話が鼓膜に響いてくる。遠い所に居るハズなのにはっきりと。
「どうしたの?」
アリスはしゃがみ込み、子供の影に問う。
「ヒック…うぅぅぅ…」
子供の影はどうやら女の子の様で、少女特有の高い声が聞こえる。髪は真っ白で長く、毛先は少しカールが掛かっているようにも見える。
アリスはさらに一歩近づいて、その子供の影に話しかける。それ以上は危険だ…!俺は必死に走る。なのに全く近づく気配がない。むしろ遠ざかっているようにも感じてしまう。これもあの子供の影の仕業か…。
「大丈夫?何で泣いているのかな?」
「うぅぅ…そ…それは…
――――――――お姉ちゃんがバカだからだよ」
少女は可愛らしい顔を向け、大きく口を裂けさせて粘着質な笑いをにっこりと浮かべた。
「――――っ!?」
アリスは瞬時にその場から離れる為、バッグステップしようとした時、少女の長い長い髪がまるで意思でも持ったかのようにアリスの身体に噛みついた。
その髪には鋭い牙……髪で出来た牙がついていた。
アリスに噛みついた牙髪はそのまま上へと低身長なアリスを軽々と持ち上げた。どのくらい少女の力があるのかが良く分かる。
少女はニヤニヤと笑いながら、更に強くアリスの身体に髪の牙を食い込ませていく。
「ぐ…ぅ、ぅぅぅ…」
アリスはその状況をどうにか出来ないかと身体を動かすが、少女は逃がす気がない様でさらに強くアリスを拘束したようだった。
「お姉ちゃん、馬鹿なんだね。誰にでも差し伸べる。馬鹿のする事。それに反してあのお兄ちゃんは冷静だね。罠だって気付いてた。認識誤差を掛けたのになぁ。あのお兄ちゃんの警戒心は無くならなかった。きっと気持ちが強いんだね」
「ん……ぐぅぅ……!」
少女は持ち上げたアリスを見て、話し掛けている。ニコニコとまるで駄菓子屋にお菓子を買いに来たただの子供の様な…そんな笑みを常に浮かべている。
「おい、髪、退けよ」
「――――ぇ?」
次の瞬間、少女の顔は横からの衝撃により、酷く、醜く歪んだ。
少女は横に吹っ飛ぶ。それと同時にアリスを拘束していた髪も解かれ、アリスの身体は自由を取り戻した。
「大丈夫か⁉」
「な、なんとか…」
アリスは持ち物から回復アイテムを出し口にしている。そんな中少女はこちらを向いて、話しかけてくる。
「どうして…?どうしてお兄ちゃんはここに来れたの?どうしてループを……」
「ああ?ループ?…なるほど。あの走っても走ってもアリスに近づかなかった現象の事か」
少女はコクリと戦闘態勢を維持しながらも、頷く。どうやらなぜ抜け出せたのかが分からないらしい。仕方ないから教えてやる。アリスが回復する時間も稼げるしな。
「あのループは床だけだ」
「ゆ…か?」
少女は可愛らしくこてっと首をかしげる。どうやら意味が解って無いらしい。
「つまり、あのループは床に足がついている場合にのみ、発動する。それならば簡単。床に足を突かずに移動をすれば良い。どうだ、簡単だろ」
そう、つまるところ〈跳躍Ⅳ〉〈瞬発Ⅲ〉〈空中遊歩Ⅱ〉を駆使し、空中を移動してきたという訳だ。出来るならAPは使いたくなかったんだが、これしか近付く方法が無かったので仕方がない。
「……すごいねぇ…面白いねぇ……お兄ちゃん………最ッ高だよぉ!」
次の瞬間、少女の髪がバラバラに逆立っていく。その髪を見ると何十本かが絡み合った毛先に小さな竜の様な生物がついている。”髪竜”ってか…。その髪竜は少女の髪の量から察するに500体は軽く超える。
「まるでメドゥーサだな…」
少女は次の瞬間、揺らめき消えた。まるで俺の全力移動法だ。しかし残念ながら俺にはその動きが手に取るように見える。《万能眼》。中々に使いやすくなっている。
少女が目の前に出現する。本当ならここで一度バックステップを加えた後に、回り込んで〈バックスタブ〉を当てたいところだが、このまま避けてしまうと後ろにいるアリスがターゲットにされてしまう可能性が高い。
というかどうやら気絶状態に陥ってしまったようだ。ポーションを開けて飲んだところで『気絶』…か。最悪のタイミングだな…
仕方ない…か。
「〈掌底打ち〉」
俺は掌の手首に近い部分を少女の心臓部に打ち込む。ドムッ!と軽そうな音がしたが、少女の顔は苦悶の色に染められている。手ごたえを感じ、そのまま顔を掴んで投げ飛ばそうと――――、
「え…へへ……離さないよ……お兄ちゃん…」
―――次の瞬間、掌底打ちを繰り出した腕を掴まれた。
少女が俺の右腕を強く、強く、両手を使って掴んでいるのが見えた。〈危険信号〉が警告音を鳴らす。しかし、その時にはもう全てが遅かった。
「―――――喰い……殺せぇッ!!!」
両手で掴まれていた俺の腕に少女の何百匹と言う量の髪竜が群がる。
「ぐっ……がああああああ!!!」
すぐさま腕を振り払う。しかし一度噛み付いた竜はそう簡単に離れない。そんな事をしている内に、竜はどんどんと身体を侵食していく。
「喰え!喰え!喰え!貪り尽くせぇ!」
少女は必死に竜へとそう命令し続ける。いつの間にかその目は真っ赤に染まっており、敵を殺す事しか考えていないようにも見える。段々と目からは血涙が溢れている。
「〈豪―――腕〉!」
〈豪腕〉。
腕単体を強化し、様々な補正を掛ける。拳アーツの威力を更に上昇させる。見た目は変化させることも出来るし、そのままにも出来るというアーツだ。
俺は刹那、自分の腕の筋肉を膨張させる。すると、まるで反発するかのように竜はその腕から吹き飛ばされる。噛みついていた分、いきなり大きくなられると牙が押し出され、吹き飛ばされた、と言う事の様だ。
しかし〈豪腕〉を使い竜を吹き飛ばした瞬間、俺の右腕からボトッという何かが落ちた音がした。それは―――――――
酷く深い裂傷があちこちにある俺の右腕だった。
「あー……精神的に来るなぁ…ゲームってわかってても…」
それより、これほど冷静でいられた俺を褒めて欲しいくらいだ。
――――痛みがほとんどないから冷静を保てた。
――――これがゲームと知っていたから平然を貫けた。
――――俺が俺という存在を理解していたからパニックにならずに済んだ。
酷く冷静に分析、解析した。
「〈灯火〉で塞ぐか…」
もげてしまった腕はどうしようもない。死んだら直ると思うからあとで死に戻りで直そう。まずは『出血』状態になってしまった腕があった部分を〈灯火〉でダガーを熱し、焼いて塞いだ。
そして前を向くと、少女がこちらを向いて待っていた。
「待ってくれてたの?優しいんだな」
「違うよ。狂ってる、って思ってたんだよ」
「そうか?」
少女の瞳には理性の色が戻っている。しかしその奥底にははっきりとした恐怖が読み取れた。
「傷を焼くことは昔、山で一度だけ遭難した時の経験があるんだ。痛かったし、苦しかった。ウジ虫がウジャウジャ沸いて気持ちも悪かったよ。酷く最低な気分だったな」
「ははっ……お兄ちゃん、頭の螺子を失くしてるみたいだね…」
「そんなことない。至って正常だ」
俺はダガーを左手の中でしっかりと握りなおす。こんな時、両利きと言うのは非常に便利である。まあ、右の方が扱いやすいのは事実だが…。一応左でもそこそこイケる。
「さあ、続きだ。構えろ」
少女は髪の竜を7つに分けた。今までの様な何百体の髪竜とは違い、一体一体が大きい。
「3体が攻撃。2体が防御。1体が遊撃。最後の1体は私が操作。これが理想よ」
「――――」
俺は〈瞬発Ⅲ〉を使い、一気に少女へと近づく。
「〈フォーススラッシュ〉!」
そして勢いのままに、四つの斬撃を放つ。2つが避けられ、一つは相殺。一つは少女の頬を掠めた。
「どこぞの紳士に怒られそうだ…」
俺は少女の顔を傷つけた事についてすこし考える。
しかし、そんな事を気にしている場合じゃない様だ。少女の瞳にはまた赤い光が宿っている。しかし先程の様に殺意しか宿っているという訳ではなく、理性も見て取れる。
俺は一気に近づいてきた少女目掛けて〈振動蹴〉をぶち当てる。
振動のせいで身体の軸を見失い、少女は派手に転倒する。
俺がそこにダガーを突き立てようとすると、2体の髪竜がダガーの刃を噛んでその先に行かせまいと奮闘している。
そんな中突然、俺の身体は羽の様に軽くなった。
ああ、そうか…夜か…。俺の本領が発揮される時間だ。
それなら”アレ”が使えるな。俺は”アレ”を早速発動した。
次の瞬間、俺の瞳にボゥ……と真っ赤な煙が纏わりついた。瞳の奥はどす黒い血色に染まっている。
「なあ、見てみろ。お前とお揃だ」
「――――っ!?なんで!」
少女はひと時取り乱すと、すぐに冷静を取り戻した。俺はこの赤い瞳の理由を教えてやる。
「”深紅”。《視覚強化》……じゃなくて《万能眼》の俺が作った技だ。敵の動きを急速に捉えやすくする。特殊効果が発動する夜限定だがな。あと、満月に近ければ近い程、強くなり真っ赤に染まる」
俺はこの階にたった一つある大きな窓を見る。少女も戦う事を忘れてそちらを見る。
その窓に映っていたのは光り輝く、大きな大きな、丸い惑星だった。
「満…月……!」
少女は絶句したようにそう呟く。
「さぁ、早く戦おうぜ。もう一度仕切り直しだ」
俺は少女から離れた。
プレイヤー:ノア
【スキル一覧】
《短剣》Lv91(↑10UP)《体術》Lv97(↑12UP)《闇魔法》Lv74(↑13UP)
《盗賊》LvMAX(↑12UP)(進化可能)《隠蔽》Lv88(↑15UP)
《立体機動》LvMAX(↑13UP)(進化可能)
《万能眼》Lv10(↑9UP)(New!)《調薬》Lv30《採掘》Lv17《遊泳》Lv50
控えスキル
《釣り》Lv39《鍛冶》Lv24
スキルポイント:232
【二つ名】
終焉スキラー・終焉兎
【称号】
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わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
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王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
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伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
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