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第九章 東の国の白竜スノウ

109-東の国へ行く前に

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「ってわけで、ライカちゃんとプリシアちゃんがお友達になったよ!」

「……毎度思うけど、お前ホントなんなん?」

 プラテナ国とジェダイト帝国は互いに交流が無いどころか、プラテナ国による他種族差別を起因とした事実上の敵対関係にある。
 その王族同士が互いに親交を深めたとなると、サツキが考えている以上に今回の行動に大きな意味・・・・・を持つのは言うまでも無い。
 しかも、ライカ王子曰く『近々プラテナとの和平に向けて、レパード遠征隊を聖王都へ派遣します』だそうで、冗談ナシで歴史が動いてしまった気がする。

「ライカちゃんったら、すっかりプリシアちゃんに懐いちゃって。こう、尊敬の眼差しキラキラ~って感じで、ずっとシッポ振ってたなー」

「……それ、皇帝陛下や家臣に見られてないよな?」

「もちろんっ。さすがにプリシアちゃんの姿見られたらマズいってのは分かるもん」

「良かった……本当に」

 中級天使グレイス……もとい、魔王四天王闇のディザイア襲撃においてライカ王子は指揮官としての頭角を現し、父であるディノシス皇帝陛下ほか家臣達からもその才能を認められたばかり。
 それにも関わらず、敵国のお姫様にシッポを振って懐いている姿を見られようものなら全てぶち壊しである。
 こんな意味わからん理由で危機に陥ったら目も当てられまい……。

「でもさー、そもそも会ったコトも無い相手といがみ合ってる方がヘンじゃない?」

『それについてはオイラも同感だけどさ。サツキちゃんのはぶっ飛び過ぎ』

「なんでさー!」

 ユピテルの冷静な指摘に対しサツキは不満げ頬を膨らせつつも、すぐに気を取り直すと俺の手元の紙束に目を向けた。
 毎度おなじみ、俺の旅の記録である。

「さーて次に行くトコでも、バッチリ友達の輪を広げちゃうからねっ!」

「へいへい」

 適当にあしらいながら次の目的地の名を見て、俺はなんとも懐かしい気分になった。


 ――ヤズマト国。


 ジェダイト帝国から東の山岳地帯を抜けた先にある、独自の文化を持つ小国だ。
 内政は全て女王リティスによって統治され、男は皆が戦士となって国を護り、女が農業や商いを担う性別役割分業になっているのも、この国ならではの文化的特徴と言える。
 確か騎士団長が女王リティスの実子で――

「むむっ、お兄ちゃんが何やら思わせぶりな表情を! オンナかっ、オンナがいるのかなかなっ!! ……アイタッ」

 妙なコトを口走るサツキを軽く小突きつつ、エレナが勘違いする前にさっさと釘を刺しておく。

「浮ついた話なんて全く無かったって前に言っただろが。そもそも、そういった話は全部勇者カネミツの役回りだったんだから」

 そういえばカネミツといえば、勇者パーティはユピテルの姉レネットと共にエルフの村から東へ抜けていったんだっけ。
 地図上はそこから砂漠の都フェルスパを経由し、東方の海沿いを街をいくつか経て南下すればヤズマト国へと行けるので、もしかすると俺達より先に到着してるかもしれない。

『だけどさー。さっきのカナタにーちゃんったら、まるで遠くに暮らしてる恋人を思って哀愁にふけてるような顔してたけど?』

『!?!?!?』

 せっかく話を収めたのにユピテルが余計なことを言いやがったせいで、エレナが少しヤバげな視線を向けてきて、思わずたじろいでしまう。

「ち、違うって! ていうか、遠くに暮らしてる恋人を思って哀愁にふけてる顔ってどんなだよっ!?」

『焦ってる様子が怪しいッスね』

『話してみよう……楽になるから……ね?』

 ハルルとフルルまでおかしげなコトを言いやがったせいで、真に受けたエレナが妙に怖い笑顔のまま俺の横に座った。

「あのー、エレナさん……?」

『カナタさんカナタさん、カナタさんのそれ、私にもひとつちょっと読ませてくださいな』

「なんなのエレナその口調……まあいいけどさ」

 そして妙な空気のまま、エレナは真剣な表情で「旅の記録」を読み始めた。
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