俺の彼女記録

黒沢ハコ

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彼女より

絶対に言わないけど

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こんにちは、彼女です。
突然ですが、彼が風邪を引きました。
どうやら原因は、ちょっと前にあった
体育祭らしいのです。
そう、汗も拭かずに半袖で走り回るから!
しかもその日は、とても冷たい風が吹いていました。
「生きてる?」
おばさんは、妹ちゃんを連れて買い物に出たらしく、
家のなかはとても静かです。
「生きてるけど生きてない......」
部屋を覗くと、ベッドの上に特大サイズの
芋虫がいた。
その芋虫は、モゾモゾと動き、
そっと顔を出す。
彼らしくもなく、とても弱々しかった。
めったに病気にならないぶん、相当辛いのだろう。
「来たらうつるぞ」
「平気だよ」
こんなときだって、私の心配ばかりだ。
「リンゴ食べる?」
彼は、うなずいた。
「おいしい?」
自分一人で食べるのは辛いらしく、
いつもは抵抗するのに、すんなりと
口に持っていったリンゴをパクリと食べる。
「彼女~......」
「ん?」
声が、大分しっかりとしてきた。
数時間ほど、寝ていたからだろうか。
顔色もずいぶんいい。
「こっち」
パッと、両腕を広げて、
こっちへくるように催促する。
私は、そっと地下ずくと、
弱々しくも抱き締められた。
「え?」
まだ熱があるのか、体が熱い。
「今日、ありがとう」
ああ、好きだなぁ。
絶対に言わないけど。
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