運命の落とし穴

恩田璃星

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不毛な戦い6

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 円香―!?

 いきなり何をーー!?

 円香の爆弾発言を止めなければと思うのに、金縛りにあったみたいに声が出ない。

   身体は完全に眠ってしまっているらしい。

 「…へえ。初対面なのに、何で分かったんですか?」

 羽立くん!?

   そんなあっさり認めちゃダメだよ!!

 「奏音ちゃんから聞いたのよ」

 嘘!

 そんなの嘘だよ!羽立くん!!

 偽装結婚なのに私が羽立くんのことを好きってことは相談したけど、羽立くんのセクシュアリティに触れる部分は言ってない。

 お願い。信じて…。

 「嘘ですね。奏音さんは絶対にそんなことしません」

 私の願いが通じたのか、羽立くんはきっぱりと円香の言葉を否定した。

 「なんだ。奏音ちゃんのこと、ちゃんと分かってるのね。…心配しなくてもあなたの外見とか仕草がゲイっぽいとかそういうことじゃないから」

 「じゃあ、当ててみましょうか?」

 「え?」

 「さしずめ『私ほどの女に興味を示さない男なんてゲイに違いない』ってところでしょう?」

 「なっ!?」

 「ついでに言うと、高倉さんはレズビアンでしょ?」

 「はっ!?」

 「俺も思いましたもん。『俺ほどの男に興味を示さない女なんてレズビアンに違いない』って」

 嘘――?

 円香って、そうだったの!?

 それであんなに可愛いのに、彼氏がいるとか聞いたことなかったのかー。

 「―――っ!!ヤだこの男!ちょっと見てくれがいいからって、自惚れすぎ!!性格最悪!!!」

 「そっくりそのままお返しします」

 「こんな、こんな男が奏音ちゃんの夫になるなんて!!金に物を言わせて奏音ちゃんの自由を奪うなんてっ!」

 「そうでもしないと、奏音さんはお人好しすぎるから、悪い男とか、誰かさんみたいな下心満載の女に利用されて、辛い目にあうでしょ。今まで無事に生きて来れたの、奇跡みたいなもんですからね」

 そ、そんな風に思われてたのか…。

 確かに私はお人好しかもしれないけど、そこまでバカじゃないもん!

 円香、何か言い返して!

 と、また強く願うとー

「下心うんぬんの部分はムカつくけど、なんか分かるわ…」

 今度は願いも虚しく同調されてしまった。

 「あんたのことは気に入らないけど、奏音ちゃんのことを理解してるだけマシかもね」

 「マシって…誰と比べて言ってるんですか?」

 「うちの社長のバカ息子。ほんとどうしようもないヤツで。仕事はできるんだけど、女遊び激しくて。取引先の女の子食い散らかしたりして、評判最悪なのよ」

 そうなんだ。

 私の部署にはそんな噂届いてなかったけど、円香は人事部なだけあって、そういう情報が集まってくるのかな。

 「そのバカ息子と奏音さんに何の関係が?」

 そうだよ。

 私、その人の顔はおろか名前も知らないよ。

 「社長がそのバカ息子を強制的に結婚させて、人格矯正させようって計画してて」

 「まさかー」 

 「そう、そのまさか。結婚相手の候補として奏音の名前が挙がってたのよ」

 嘘―――?

 社長の息子と!?

 「今朝、人事部うちの部長が昼休みにでも営業部の部長のところに打診しに行くつもりだって話してて」

 「営業部の部長って、奏音さんの直属の上司ですよね?そんな人に頼まれたらー」

 「「絶対断れない!!」」

 そ、そんなに力強くハモらなくても…。

 でも、確かに入社当初からお世話になっている榎本部長に頼まれたら、羽立くんとの婚約くらい明確な理由がない限り、断る自信はない。

 「その話を聞いた直後、奏音ちゃんがタイミング良くあなたとの結婚話をにしに来てくれたから、とりあえず部長に状況を説明してバカ息子との件を止めさせたのよ」

 「それは…ありがとうございます」

 ここで羽立くんに真面目にお礼を言われると、本物の婚約者になったと勘違いしてしまいそうになる。

 身体は完全に眠っているはずなのに、喉のあたりがキュッと締め付けられた。
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