現代文化に染まった侍少女、異世界の悪役令嬢になる~剣の天才は元の時代に戻れなかったようです~

琴珠【コトダマ】

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2話 フランスパンを持った侍vsナイフを持った男

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 ザンナは声の元へと、猛スピードで駆けていく。
 人混みの中、走るのはレイワの世界においては危険な行為であり、マナー違反ともされていた。

 なので……

「あの子、壁を走ってるぞ!」

 壁を走ることにした。
 理由は不明だが、やはり体は違っても今までの経験は蓄積ちくせきされているようだ。

 シュタッ!

「待つでござる!」
「ど、どこから来やがった!」

 裏路地から繋がる広場に、上空から降るように着地をする。
 そこには、大人の男1人と、小学生くらいの子供がいた。

 小学生くらいの子供は男に胸ぐらを掴まれていたが、ザンナが来た瞬間にその手を離すのであった。

「その手を離すでござる!」
「もう離してるっつーの!」
「確かに!」

 思わず、手の平に拳をポンと乗せ納得してしまう。

「って、そういうことではござらん! 一体何をしていたでござる!」
「ちょっとばかし、金銭を要求していただけだ!」
「なぜそんなことを!」
「金が欲しいからに決まってるだろ!」
「だからと言って、暴力はいけないでござる!」

 もっとも、不殺ではあるものの、剣で戦ってきたザンナが言える立場ではないのだが。

「うぜぇ!」

 男はナイフを取り出し、それを男の子に向けた。

「それ以上うぜぇこと言うと、今からここはこいつの処刑場になるぜ!」
「なんと卑怯な!」

 こうなったら仕方がない。
 本来は食べ物を粗末にはしたくないのだが……

 ザンナは実は先程購入していたフランスパンを構える。

「なんの真似だ!」

 男は歯ぎしりをしながら、ザンナを睨む。

「いくでござる!」
「なっ!」

 数秒後、そこにはナイフを手放し、その場に倒れている男の姿があった。

「ぐ……一体何が……」

 男は空を見上げる体制のまま、弱々しく呟いた。

 何をしたのか、その答えは簡単なものだ。
 フランスパンを刀代わりにして、相手の体中に打撃攻撃を加えただけだ。

「大丈夫でござるか?」

 ザンナは腰を地面につけている男の子の元に寄り、右手を優しく差し伸べた。
 男の子はそれを取り勢いよく立ち上がると、そのまま抱き着く。

「うわあああああん! 怖かったよおおおおおおおお!」

 そのまま男の子は泣きだし、やがて……

「おい! 何をしている!」

 鎧に身を包んだ男たちがやって来た。

(憲兵殿でござるか)

 憲兵とはレイワの世界で言う、警察のような組織だ。

「お前がなんかやったのか?」
「ご、誤解でござる!」

 ザンナは倒れている男を指差す。

「あの男が、ナイフを持ってこの子からカツアゲをしていたでござる!」
「カツアゲ?」
「金銭を奪おうとしていたでござる!」

 必死になればなるほど、怪しく感じられてしまう。
 とその時、泣き止んだ男の子が涙を拭《ぬぐ》い、憲兵たちに言う。

「パンのお姉ちゃんは、俺を助けてくれたんです!」
「パンのお姉ちゃん?」

 憲兵たちは、ザンナの右手に握られているフランスパンをチラリと見る。

「そういえば、これは凶器じゃないな!」
「それに対し、あの男の傍《そば》に転がっているのはナイフだ!」
「ということは、この女の子は男の子を助けたというのことだな!」
「きっとそうだ!」
「その通り! 隊長の言う通り!」

 憲兵たちは単純だったのか、男を囲む。

「く……そ……なぜお前らもここに来られた」
「一般人が使う結界魔法を憲兵が破れないとでも思ったか?」

(結界?)

「それに、上面には上手く結界を張れていなかったようだな。これでは小鳥でも侵入できるぞ!」



「では、これにて失礼する! さらばだ! 勇気ある少女よ!」

 隊長らしき男がそう言うと、犯人の男を連れて憲兵たちは去っていくのだった。
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