恋に堕ちたあの日から、私は先輩の檻の中

宮谷りく

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執着

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それから、


季節はあっという間に過ぎ、先輩も兄も、それぞれ志望校に合格し、卒業していった。


あのリビングでのキスは、まるで何事もなかったかのように、先輩の記憶の中では消えてしまったらしい。


家で会っても、結城先輩の中で私は、友達の妹。


それ以上でも、それ以下でもなかった。


「結城先輩……」


思わず呟くと、胸の奥がざわつく。


忘れたいのに、忘れられない。


あの瞬間の感触、優しいけれどどこか熱を帯びていた唇の感触は、決して私の心から離れなかった。


美子は自分を奮い立たせるようにして、先輩のことを忘れようとした。


先輩が大学に入るまではすべて断っていた告白も、流れに身を任せて受け入れた。



男の人と付き合っては、別れてを繰り返した。

 
キスも、その先も、経験した。



けれど……どんなに色んな人とキスをして、抱きしめられても、あの時の先輩とのキスほど胸の奥が高鳴ることは、なかった。


(……やっぱり、結城先輩とのキスには敵わない……)



そう自覚させられるたび、胸の奥が疼いた。


それでも、日常は続く。


授業に行き、課題に追われ、友達と笑う。



けれど、心の片隅はいつも先輩でいっぱいだった。



SNSは、美子の小さな楽しみであり、同時に拷問でもあった。



兄のフレンドやS大に通う人の投稿を通して、遥の大学生活をこっそり覗くのが日課になっていた。


フォローする勇気はまだなく、ただ、写っている写真を見つけると、思わずスマホを握りしめてしまう。
 
「……彼女らしき人は、いない……」


そう、安堵を繰り返して、
先輩の姿が少しでも写真に写っていたら、勝手に保存して何度も見返す。


(ストーカーみたい)


友達との笑顔、講義室での写真、学内イベントの集合写真――


ほんの一瞬でも先輩の存在を感じられると、胸がざわつき、


そして、自分の知らない先輩に、息が詰まりそうになる。



苦しくて、でも先輩の姿をみれると嬉しくて、
駄目だと理性では理解しているのに、どうしてもやめられなかった。





美子は必死に勉強もしていた。


遥と同じS大に行くため、毎日必死に参考書を開き、問題を解いた。



努力のすべてが、先輩に追いつくためではなく、先輩の存在を感じるための理由になっていた。


(……忘れられない……でも、忘れなきゃ……)


そう思うたびに、スマホに保存した先輩の写真を何度も見返してしまう自分に、少しの苛立ちを覚えた。


 彼氏は何度も変わった――


けれど、誰と付き合っても、胸の奥で渦巻く先輩への感情は止められない。


好き、という言葉では足りない。執着に近い、強く、苦しい想い。


あのリビングでのキスが、美子の心に刻み込まれてから、時間が経っても色あせることはなかった。


まるで、檻の中に閉じ込められたように。抜け出すことは出来なかった。


これは、恋なのかわからない。



ただ先輩を求めるこの気持ちは、誰にも理解されない秘密のように、美子の中で膨らみ続けていった。
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