恋に堕ちたあの日から、私は先輩の檻の中

宮谷りく

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激情

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美子も、遥に続いて玄関に足を踏み入れ、照明をつけた。
 


「スリッパあるので、使ってくださ……っ」
 

――そう美子が言い終わる前に、遥の手がすっと美子の腕をつかむ。


「……!」


驚く間もなく、自然な流れのように――


しかし確かに力強く、美子の背は壁に押し付けられていた。



閉まったドアの音が、やけに大きく響く。


息が詰まり、体の自由が奪われ、心臓が跳ね上がる。


(え……?)


意識が追いつくよりも早く



――唇が塞がれた。



それは高校生の頃に交わした、冗談めいた軽い口づけではなかった。


大人の、深くて熱いキス。


遥の唇が熱を宿し、舌先が絡め取るように侵入してくる。


「……んっ……ぁ……」


玄関に、湿った音が微かに響いた。


手首は強く押さえられ、びくともしない。


理性が追いつかないまま、胸の奥がざわつき、頭の中が真っ白になっていく。


(わたし……先輩と……キス、してる……?)


夢みたいで、でも抗いようのない現実。


全身が熱く震え、唇が離れたときには、すでに息が乱れていた。


「は……ぁ……な、なんで……」


声が震える。戸惑いと高鳴りがないまぜになり、言葉にならない。


遥はそんな美子を見つめ、ゾクリとするほど綺麗な笑みを浮かべた。





「美子ちゃんさ……警戒心なさすぎる」

「え……?」

「さっき、あいつが“送ろうか”って言ったとき。俺が声かけなかったら、頷こうとしてただろ」

「っ」


図星を突かれ、美子は言葉を失う。


その様子に、遥の笑みはさらに深まった。


けれどそれは、あの頃の穏やかで優しいものではなく──、冷たく背筋を粟立たせるような笑みだった。





——そのまま玄関からベッドへと移され、美子は押し倒される。


遥の影が覆いかぶさり、真上から美子を射抜くように見下ろした。


真っ暗な部屋の中、半分開いたカーテンの隙間から差し込む月明かりが、遥の輪郭を淡く照らす。


影と光が混ざる中で、彼の瞳は冷たく光り、口元には妖しい笑みが浮かんでいた。



高校の頃の面影は残るものの、そこに漂うのは大人の色気──息を呑む美しさだった。


「俺ね、ずっとこの時を待ってたんだよ」


低く静かな声。だが言葉の底に、抗えない強さが滲む。


「えっ……」


息を呑み、美子は瞬きを繰り返す。



「美子ちゃんに、こうやって触れる日を」



――次の瞬間、首筋に唇が落ちる。



「あ……っ、ん……っ、せんぱい……」



軽く歯を立てられ、痺れるような刺激が広がっていく。


やがて遥の指先が服の下へと忍び込み、ほんのわずかに胸の先を撫でる。


「あっ……ん……」


焦らすような指の動きに、声が上ずり、思わず腰が動いてしまう。


その反応に、遥がくすりと笑った。


(どうして……こんな……)



遥の手が下へと滑る。


美子の膝の上でたわむスカートを、たくし上げ、


そして———その指先が、布越しに触れた瞬間、美子の体が硬直した。


「……ぁ…っ」


わずかな圧だけで熱をさらわれる感覚。
次いで、湿りを確かめるように撫でられ、背筋に電流が走る。


「そんなに、触ってないのに……もうこんなに濡れてるんだ?」


いつもの、柔らかな声色とは違う、冷ややかで無機質な響き。


「……っ」


驚きと羞恥に目を見開いた美子に、遥はさらに顔を寄せた。


「ねぇ、美子ちゃん」


耳元で低く囁かれる。


「俺さ、ずっと美子ちゃんのSNS見てた。大学に入ってから、会えない間ずっと。誰と会って、どんな生活してるのか……全部」


「……え……」


背筋が震える。


高校時代、自分も同じように遥のことを探していた。けれど、まさか彼も――。


「拓也からも、さりげなく聞いてた。S大受験することも……」

 
「美子ちゃんが、どんな彼氏と付き合って、どう別れたのかも……全部知ってた」
 

胸の奥がひゅっと鳴り、美子は息を詰めた。


遥は笑っていた。


だがその瞳は笑っておらず、抑えきれない苛立ちが滲んでいた。


それは――嫉妬と独占欲。


「……ねぇ」


低い声と共に、布が払われ、遥の指が敏感な奥へと容赦なく侵入する。


「んっ……やぁ……っ」  


甘い声がこぼれた瞬間、脳裏に焼きついた記憶が甦る。


――あの時。


リビングのテーブルで、ノートを広げていた自分に、


『ここ、答え違うかも』


そう言って、遥が指先でノートをつついたあの日。


長い指、すらりとした関節。


紙を軽く押さえただけなのに、どうしようもなく綺麗だと思ってしまった。


ずっと見ていた、憧れの手。



(……先輩のあの綺麗な指が……いま、私の中に……)


胸の奥で熱いものが弾け、現実感が揺らぐ。


あの頃はただ遠くから見ていた存在が、今は抗えないほど深く入り込んでいる事実に、

身体の奥が疼き、濡れた場所は容易に指を受け入れてしまった。


「やっぱり……もう経験してるんだ」


温度の下がる、冷たさを含んだ言葉に、美子ははっと目を見開く。


「……っ」


その揺らぎを見逃さず、遥は冷笑を浮かべた。


「こんなことになるくらいなら……あんなキスだけじゃなくて、最初から全部、奪えばよかった」


ゾクリと背筋を走る声。


ずっと無かったことにされていたと思っていたキス。


私の心と身体に深く刻まれた先輩の余韻。


あれを、先輩も覚えていたなんて。


喜びで身体が熱くなる。


その指先で肌を撫でられるたび、胸の奥が疼き、心臓が破裂しそうに跳ねる。


そのあと、流れるように、服を脱がされた。


「……っ、や……っ」


美子は恥ずかしさに顔を覆おうとした。


けれど、その手首をすぐにとられ、頭上に押さえ込まれる。


絡め取るように指が重なり、逃げ場を封じられる。


遥の視線がゆっくりと美子の全身をなぞり、低い声が落ちてきた。


「ねぇ、美子ちゃん……何人の男に触らせた? 何人に、この身体をみせた?」


冷たく光る瞳に射すくめられ、美子は息を呑む。


「……っ……」


言葉にならず、ただ縮こまるしかない。


「俺はもう……美子ちゃん以外いらないのに。俺の知らないところで、知らない美子ちゃんが他の男と交わってたなんて……ほんと、気が狂いそう」


その告白に、胸が締め付けられる。


こわいほど重く、けれど――切実で。


遥の強すぎる独占欲が、美子の心も身体も支配していった。
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