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遥side
欲望
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美子と初めて会ったあの日から。
俺は、拓也の家に、何かと理由をつけて入り浸るようになった。
「親友だから」っていうのは、建前。
本当の目的は、リビングにいる美子に会うため。
拓也へは、宿題を一緒にやるだの、ゲームをするだの、受験勉強の息抜きだの――理由なんていくらでも捏造できた。
拓也はシスコンだから。
俺が妹目当てで家に来てるなんて知られたら、もう呼んでくれない可能性があった。
だが、一ミリも疑ってる様子はなかった。
"彼女"がいたからこそ、バレにくかった。
……わざと別れず付き合い続けたのも、それが大きい。
最低だと思う。
だけど俺にとっては保険だった。
家にお邪魔すると、美子は、いつも小さな背中を丸めて課題をしていて、俺が顔を出すと、ぱっと視線を上げる。
そのたびに頬を赤くして、はにかみながら「こ、こんにちは」なんて小さな声で挨拶する。
その瞬間――確信する。
熱を帯びた目。隠しきれない"好意"。
それに気づくたび、胸の奥でぞくりとした高揚が走る。
彼女持ちのまま、拓也の妹に欲情してる――そんな異常な自分がいることも、十分理解していた。
でも止まらなかった。
むしろ、隠された執着心はじわじわと、俺の中で燃え広がっていった。
彼女の笑顔一つ、頬を染める仕草一つ、俺を名前で呼んでくれるその声ひとつ。
どれも俺の理性をじわじわ削っていった。
目が合うだけで、もう充分だったはずなのに。
会えば会うほど欲しくなっていく。
その目に、自分以外の男が映る未来を想像するだけで――胃の奥が焼けるように痛くなる。
(……いずれ、絶対、俺のものにしたい……)
そんな欲望を抱えたまま、俺は今日もまた理由をでっち上げて玄関をくぐる。
拓也の部屋に向かいながら、視界の端で黙々とノートにペンを走らせる美子の姿を、ただひたすら目で追い続けていた。
◇ ◇ ◇
ある日。
拓也の家に上がると、リビングのテーブルの前に美子が座っていた。
ペンを握りしめ、ノートに向かっている。
「お邪魔します」
そう声をかけると、ぱっと顔を上げた美子は、恥ずかしそうに頬を染め、視線を逸らした。
いつものことだ。
それなのに――毎回、胸の奥が小さく高鳴る。
すると、突然、拓也がスマホを見て「やべっ」と声を上げた。
慌てて荷物を持ち出していく。
(……ラッキーだな)
残されたのは、美子と俺、ふたりだけ。
普段なら拓也の目があるから、ほとんど会話すらできない。
だが今日は違う。誰にも邪魔されない。
美子に、俺という存在を刻み込む絶好の機会――。
「麦茶でいいですか?」
おずおずと差し出す声。
「うん、ありがとう、美子ちゃん」
名前を呼ぶだけで、肩を震わせる。
本当に、わかりやすい。
拓也の部屋には行かず、隣に腰を下ろすと、美子は驚いたように固まった。
(…可愛い)
緊張してノートに目を落とすその仕草も、たまらない。
「ここ、答え違うかも」
そう言って指先でノートをつつくと、美子は一瞬息を呑んで俺の手を見つめる。
その熱を帯びた目に、胸がざわついた。
やがて、美子が勇気を振り絞るように尋ねる。
「結城先輩って…大学、どこ受けるんですか?」
「S大だよ」
答えた瞬間、美子の表情が曇った。
わかりやすいほど落ち込んで、唇をかすかに噛んでいる。
(あぁ……可愛い。本当に、かわいい)
その感情だけが、頭の中を埋め尽くしていく。
気づけば、身体が勝手に動いていた。
目の前に影を落とし、そのまま彼女の唇を塞ぐ。
「……っ」
硬直する美子の瞳が大きく見開かれ、次の瞬間、頬が一気に赤く染まった。
その顔を見て――悟った。
(初めてのキスか)
胸の奥から、じわじわと優越感が湧き上がる。
(俺が奪ったんだ。誰より先に)
強烈な独占欲が、全身を貫いた。
けれどそれを悟らせるつもりはなかった。
唇を離すと、困惑する彼女に対して平然を装い、笑みを浮かべ、
「美子ちゃんが可愛かったから」
と答えた。
――本当は、今すぐ押し倒して、この子の全部を俺のものにしたい。
甘い声を無理やり啼かせて、涙でぐしゃぐしゃにして――二度と逃げられないように叩き込んでやりたい。
ノートに視線を落としながらも、その思考は頭の中を埋め尽くしていった。
その時、玄関のドアが開く音がした。
「ただいまー!」
拓也が戻ってきた。
俺はすぐに頭に浮かんだ思考を消し去り、笑顔を作り直す。
「美子ちゃんの宿題、勝手に見てた」
平然と答え、いつも通りの俺を演じる。
けれど振り返りざま、美子とだけ視線を交わし、人差し指を唇に添えた。
「――秘密だよ」
誰にも知られない、この甘い背徳。
心の奥底で、熱く狂おしい執着が静かに膨れ上がっていった。
俺は、拓也の家に、何かと理由をつけて入り浸るようになった。
「親友だから」っていうのは、建前。
本当の目的は、リビングにいる美子に会うため。
拓也へは、宿題を一緒にやるだの、ゲームをするだの、受験勉強の息抜きだの――理由なんていくらでも捏造できた。
拓也はシスコンだから。
俺が妹目当てで家に来てるなんて知られたら、もう呼んでくれない可能性があった。
だが、一ミリも疑ってる様子はなかった。
"彼女"がいたからこそ、バレにくかった。
……わざと別れず付き合い続けたのも、それが大きい。
最低だと思う。
だけど俺にとっては保険だった。
家にお邪魔すると、美子は、いつも小さな背中を丸めて課題をしていて、俺が顔を出すと、ぱっと視線を上げる。
そのたびに頬を赤くして、はにかみながら「こ、こんにちは」なんて小さな声で挨拶する。
その瞬間――確信する。
熱を帯びた目。隠しきれない"好意"。
それに気づくたび、胸の奥でぞくりとした高揚が走る。
彼女持ちのまま、拓也の妹に欲情してる――そんな異常な自分がいることも、十分理解していた。
でも止まらなかった。
むしろ、隠された執着心はじわじわと、俺の中で燃え広がっていった。
彼女の笑顔一つ、頬を染める仕草一つ、俺を名前で呼んでくれるその声ひとつ。
どれも俺の理性をじわじわ削っていった。
目が合うだけで、もう充分だったはずなのに。
会えば会うほど欲しくなっていく。
その目に、自分以外の男が映る未来を想像するだけで――胃の奥が焼けるように痛くなる。
(……いずれ、絶対、俺のものにしたい……)
そんな欲望を抱えたまま、俺は今日もまた理由をでっち上げて玄関をくぐる。
拓也の部屋に向かいながら、視界の端で黙々とノートにペンを走らせる美子の姿を、ただひたすら目で追い続けていた。
◇ ◇ ◇
ある日。
拓也の家に上がると、リビングのテーブルの前に美子が座っていた。
ペンを握りしめ、ノートに向かっている。
「お邪魔します」
そう声をかけると、ぱっと顔を上げた美子は、恥ずかしそうに頬を染め、視線を逸らした。
いつものことだ。
それなのに――毎回、胸の奥が小さく高鳴る。
すると、突然、拓也がスマホを見て「やべっ」と声を上げた。
慌てて荷物を持ち出していく。
(……ラッキーだな)
残されたのは、美子と俺、ふたりだけ。
普段なら拓也の目があるから、ほとんど会話すらできない。
だが今日は違う。誰にも邪魔されない。
美子に、俺という存在を刻み込む絶好の機会――。
「麦茶でいいですか?」
おずおずと差し出す声。
「うん、ありがとう、美子ちゃん」
名前を呼ぶだけで、肩を震わせる。
本当に、わかりやすい。
拓也の部屋には行かず、隣に腰を下ろすと、美子は驚いたように固まった。
(…可愛い)
緊張してノートに目を落とすその仕草も、たまらない。
「ここ、答え違うかも」
そう言って指先でノートをつつくと、美子は一瞬息を呑んで俺の手を見つめる。
その熱を帯びた目に、胸がざわついた。
やがて、美子が勇気を振り絞るように尋ねる。
「結城先輩って…大学、どこ受けるんですか?」
「S大だよ」
答えた瞬間、美子の表情が曇った。
わかりやすいほど落ち込んで、唇をかすかに噛んでいる。
(あぁ……可愛い。本当に、かわいい)
その感情だけが、頭の中を埋め尽くしていく。
気づけば、身体が勝手に動いていた。
目の前に影を落とし、そのまま彼女の唇を塞ぐ。
「……っ」
硬直する美子の瞳が大きく見開かれ、次の瞬間、頬が一気に赤く染まった。
その顔を見て――悟った。
(初めてのキスか)
胸の奥から、じわじわと優越感が湧き上がる。
(俺が奪ったんだ。誰より先に)
強烈な独占欲が、全身を貫いた。
けれどそれを悟らせるつもりはなかった。
唇を離すと、困惑する彼女に対して平然を装い、笑みを浮かべ、
「美子ちゃんが可愛かったから」
と答えた。
――本当は、今すぐ押し倒して、この子の全部を俺のものにしたい。
甘い声を無理やり啼かせて、涙でぐしゃぐしゃにして――二度と逃げられないように叩き込んでやりたい。
ノートに視線を落としながらも、その思考は頭の中を埋め尽くしていった。
その時、玄関のドアが開く音がした。
「ただいまー!」
拓也が戻ってきた。
俺はすぐに頭に浮かんだ思考を消し去り、笑顔を作り直す。
「美子ちゃんの宿題、勝手に見てた」
平然と答え、いつも通りの俺を演じる。
けれど振り返りざま、美子とだけ視線を交わし、人差し指を唇に添えた。
「――秘密だよ」
誰にも知られない、この甘い背徳。
心の奥底で、熱く狂おしい執着が静かに膨れ上がっていった。
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