恋に堕ちたあの日から、私は先輩の檻の中

宮谷りく

文字の大きさ
11 / 16
遥side

欲望

しおりを挟む
美子と初めて会ったあの日から。



俺は、拓也の家に、何かと理由をつけて入り浸るようになった。


「親友だから」っていうのは、建前。


本当の目的は、リビングにいる美子に会うため。


拓也へは、宿題を一緒にやるだの、ゲームをするだの、受験勉強の息抜きだの――理由なんていくらでも捏造できた。



拓也はシスコンだから。


俺が妹目当てで家に来てるなんて知られたら、もう呼んでくれない可能性があった。


だが、一ミリも疑ってる様子はなかった。


"彼女"がいたからこそ、バレにくかった。


……わざと別れず付き合い続けたのも、それが大きい。


最低だと思う。


だけど俺にとっては保険だった。




家にお邪魔すると、美子は、いつも小さな背中を丸めて課題をしていて、俺が顔を出すと、ぱっと視線を上げる。


そのたびに頬を赤くして、はにかみながら「こ、こんにちは」なんて小さな声で挨拶する。


その瞬間――確信する。


熱を帯びた目。隠しきれない"好意"。



それに気づくたび、胸の奥でぞくりとした高揚が走る。


彼女持ちのまま、拓也の妹に欲情してる――そんな異常な自分がいることも、十分理解していた。


でも止まらなかった。


むしろ、隠された執着心はじわじわと、俺の中で燃え広がっていった。


彼女の笑顔一つ、頬を染める仕草一つ、俺を名前で呼んでくれるその声ひとつ。



どれも俺の理性をじわじわ削っていった。


目が合うだけで、もう充分だったはずなのに。


会えば会うほど欲しくなっていく。


その目に、自分以外の男が映る未来を想像するだけで――胃の奥が焼けるように痛くなる。


(……いずれ、絶対、俺のものにしたい……)


そんな欲望を抱えたまま、俺は今日もまた理由をでっち上げて玄関をくぐる。



拓也の部屋に向かいながら、視界の端で黙々とノートにペンを走らせる美子の姿を、ただひたすら目で追い続けていた。


◇ ◇ ◇ 




ある日。


拓也の家に上がると、リビングのテーブルの前に美子が座っていた。


ペンを握りしめ、ノートに向かっている。


「お邪魔します」


そう声をかけると、ぱっと顔を上げた美子は、恥ずかしそうに頬を染め、視線を逸らした。


いつものことだ。


それなのに――毎回、胸の奥が小さく高鳴る。


すると、突然、拓也がスマホを見て「やべっ」と声を上げた。


慌てて荷物を持ち出していく。


(……ラッキーだな)


残されたのは、美子と俺、ふたりだけ。


普段なら拓也の目があるから、ほとんど会話すらできない。


だが今日は違う。誰にも邪魔されない。
美子に、俺という存在を刻み込む絶好の機会――。


「麦茶でいいですか?」


おずおずと差し出す声。


「うん、ありがとう、美子ちゃん」


名前を呼ぶだけで、肩を震わせる。


本当に、わかりやすい。


拓也の部屋には行かず、隣に腰を下ろすと、美子は驚いたように固まった。


(…可愛い)


緊張してノートに目を落とすその仕草も、たまらない。


「ここ、答え違うかも」


そう言って指先でノートをつつくと、美子は一瞬息を呑んで俺の手を見つめる。


その熱を帯びた目に、胸がざわついた。


やがて、美子が勇気を振り絞るように尋ねる。


「結城先輩って…大学、どこ受けるんですか?」

「S大だよ」


答えた瞬間、美子の表情が曇った。


わかりやすいほど落ち込んで、唇をかすかに噛んでいる。


(あぁ……可愛い。本当に、かわいい)


その感情だけが、頭の中を埋め尽くしていく。


気づけば、身体が勝手に動いていた。


目の前に影を落とし、そのまま彼女の唇を塞ぐ。


「……っ」


硬直する美子の瞳が大きく見開かれ、次の瞬間、頬が一気に赤く染まった。


その顔を見て――悟った。


(初めてのキスか)


胸の奥から、じわじわと優越感が湧き上がる。


(俺が奪ったんだ。誰より先に)


強烈な独占欲が、全身を貫いた。


けれどそれを悟らせるつもりはなかった。


唇を離すと、困惑する彼女に対して平然を装い、笑みを浮かべ、


「美子ちゃんが可愛かったから」


と答えた。


――本当は、今すぐ押し倒して、この子の全部を俺のものにしたい。


甘い声を無理やり啼かせて、涙でぐしゃぐしゃにして――二度と逃げられないように叩き込んでやりたい。


ノートに視線を落としながらも、その思考は頭の中を埋め尽くしていった。




その時、玄関のドアが開く音がした。


「ただいまー!」


拓也が戻ってきた。


俺はすぐに頭に浮かんだ思考を消し去り、笑顔を作り直す。


「美子ちゃんの宿題、勝手に見てた」


平然と答え、いつも通りの俺を演じる。


けれど振り返りざま、美子とだけ視線を交わし、人差し指を唇に添えた。


「――秘密だよ」


誰にも知られない、この甘い背徳。
心の奥底で、熱く狂おしい執着が静かに膨れ上がっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

密会~合コン相手はドS社長~

日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

レンタル彼氏がヤンデレだった件について

名乃坂
恋愛
ネガティブ喪女な女の子がレンタル彼氏をレンタルしたら、相手がヤンデレ男子だったというヤンデレSSです。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

処理中です...