WBCにようこそ!

来麦さよのすけ

文字の大きさ
34 / 35
エピローグ

エピローグのようなインタールード1

しおりを挟む
 気がついたらスミカたちは、もとの図書館の棚の前に戻っていた。
 しばらくは戻った実感がなくて、四人ともその場でぼーっとしていた。

 ずいぶん長いこと、あの薄暗い地下回廊の中にいたように思う。
 何だか長い夢を見ていた気分だ。

 あたりを見まわす。
 館内の風景は何ひとつかわっていなかった。
 やわらかな日のひかりは明るく、外からの気持ちのよい風がそよぎ、さらさらと葉ずれの音が耳に心地いい。ときおりチチチ……と小鳥たちが通りすぎると、棚に並ぶ本の背表紙のなだらかな丘を、小さな影たちがすいすいと横切っていった。

 日の傾き具合からみて、時間はほとんど進んでいないように思える。閉館時間はまだまだ先のようだし、外が暗くなっているわけでもない。
 このあたりでようやく現実感が戻ってきた。

 通常空間に戻ったことを確認した四人は、ひとまず異常があったことを——よくわからないことだらけだったけど、少なくともイレギュラーなイベントがあったことを司書のマニユスさんに報告。それからもう一度みんなで書架のところに戻ってきた。今はマニユスさんが本棚をあらためているところだ。

「うーん……。見たところ異常はないようだね。その——スミカちゃんが見たっていう本は?」
「今は……見当たりません……」

 そうなのだ。不思議な力を秘め、ゲートを開き、スミカたちを地下回廊に導いた、あの本がどこにもない。棚にすき間はなく、収まっていた場所もわからなくなっている。存在そのものが消失していた。

「君たちの勘違いとか、みんな同じ夢を見たっていう可能性も……ないわけだよね?」
「そうです……これを見てください」
 司書見習いのリチルがひょいっとウィンドウを表示させると、他の人も見られるように公開範囲を広げた。
 そこには戦利品としてのドロップアイテムがずらずらと並んでいる。
 素材のことはスミカは詳しくはわからないが、レアアイテムもかなりの数にのぼっているらしい。

 そしてスミカ本人の所持金も——
「さ、さんびゃくまん……」
 ざっくり300万Gをこえていたのだった。

「300万あれば……部屋いっぱいの本が買えるかも。本の部屋、本の家……。ううん、本のお屋敷……私のおうち。ああ、本のプールで、本に溺れて、本の底でおねんね。ついに夢が現実に……」
 ちょっと危ない感じで夢見るような表情になっていると、

「いやいや。300万じゃさすがにお家を買うのはムリでしょ!?」
 ニケから現実的なつっこみを入れられた。

 それからマニユスさんが言うには、
「いちおう館長と、たぶん冒険者ギルドにも報告することになると思う。もしかしたらみんなにも詳しい証言をしてもらうかもしれないから、そのときはよろしくね」
 そしてつけ加えた。
「何しろ聞いたことないからなあ……。図書館内でいきなりイベントが発生するだなんて」

 どういった対処がなされるのかマニユスさんにもまだわからない、といった様子だった。
 その後スミカたちは、リチルとマニユスさんの二人とわかれ、図書館を後にした。

「またね~……」
 奥ゆかしげに手をふるリチルに見送られ、スミカ、ニケ、レインは、街の往来へと戻ったのである。

 行きかう人々は、なんら変わったところはない。ごくごくふつうの街の風景だ。
 まだいろいろ頭の整理がつかなくて、みんな無言で歩を進める。

 いや、レインは何か考えている……?

「……あのマニユスって人、見かけはチャラ男だったけど、意外に真面目で有能かも。もしかしてかなりの優良物件……?」
 と、一人でぶつぶつと皮算用していた……。

「「……」」
 スミカとニケには、そんなレインに茶々を入れる余力を持ちあわせていなかった。
 スミカは今回が初イベントで、初めて体験したことばかりで疲れていた。
 そしてもうひとつ。どこか頭のかたすみが、なぜかいまだにボーッとしたままなのだ。

 あのブラウニーと対峙たいじしたときのことを思い出す。
 最後の詠唱。
 ほとんど無我夢中であんまり憶えてないけれど、ずいぶんと長い言葉をつむいだ気がする。

(私……何を言ったんだっけ……?)

 もし館長さんや、ラッツェさんとかのギルドの人に「そのときのことを再現してほしい」と証言を求められても、たぶん期待にこたえるのは無理だろうなあと思う。あれはあのとき限り、あの場、あの状況でだけ通じる魔法のような——魔法に似た「何か」だったような……気がする。
 ぼんやりとまとまらない思いが頭の中をぐるぐるしていて、スミカはボーッとし続けていた。

 隣にいるニケにしても、翻訳問題とかで頭を使うバトルがあったりして、別の意味で頭がフラフラしていた。
 ということで、その日はそこで解散ということになった。各々ログアウトして、それぞれの現実世界へと帰還する。
 時間的にも、いいころあいだった。現実世界では、もうしばらくすれば夜があけるだろう。

 こうしてスミカのWBC二日めは、なかなかに濃い内容となった。波乱はあったものの、無事終了したのである。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

魔法使いアルル

かのん
児童書・童話
 今年で10歳になるアルルは、月夜の晩、自分の誕生日に納屋の中でこっそりとパンを食べながら歌を歌っていた。  これまで自分以外に誰にも祝われる事のなかった日。  だが、偉大な大魔法使いに出会うことでアルルの世界は色を変えていく。  孤独な少女アルルが、魔法使いになって奮闘する物語。  ありがたいことに書籍化が進行中です!ありがとうございます。

だからウサギは恋をした

東 里胡
児童書・童話
第2回きずな児童書大賞奨励賞受賞 鈴城学園中等部生徒会書記となった一年生の卯依(うい)は、元気印のツインテールが特徴の通称「うさぎちゃん」 入学式の日、生徒会長・相原 愁(あいはら しゅう)に恋をしてから毎日のように「好きです」とアタックしている彼女は「会長大好きうさぎちゃん」として全校生徒に認識されていた。 困惑し塩対応をする会長だったが、うさぎの悲しい過去を知る。 自分の過去と向き合うことになったうさぎを会長が後押ししてくれるが、こんがらがった恋模様が二人を遠ざけて――。 ※これは純度100パーセントなラブコメであり、決してふざけてはおりません!(多分)

【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花
児童書・童話
 田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。  地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。  ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。 「ほ、本がかってにうごいてるー!」 『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』  と、アシュリンを旅に誘う。  どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。  魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。  アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる! ※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。 ※この小説は7万字完結予定の中編です。 ※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。

水色オオカミのルク

月芝
児童書・童話
雷鳴とどろく、激しい雨がやんだ。 雲のあいだから光が差し込んでくる。 天から地上へとのびた光の筋が、まるで階段のよう。 するとその光の階段を、シュタシュタと風のような速さにて、駆け降りてくる何者かの姿が! それは冬の澄んだ青空のような色をしたオオカミの子どもでした。 天の国より地の国へと降り立った、水色オオカミのルク。 これは多くの出会いと別れ、ふしぎな冒険をくりかえし、成長して、やがて伝説となる一頭のオオカミの物語。

未来スコープ  ―この学園、裏ありすぎなんですけど!? ―

米田悠由
児童書・童話
「やばっ!これ、やっぱ未来見れるんだ!」 平凡な女子高生・白石藍が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“触れたものの行く末を映す”装置だった。 好奇心旺盛な藍は、未来スコープを通して、学園に潜む都市伝説や不可解な出来事の真相に迫っていく。 旧校舎の謎、転校生・蓮の正体、そして学園の奥深くに潜む秘密。 見えた未来が、藍たちの運命を大きく揺るがしていく。 未来スコープが映し出すのは、甘く切ないだけではない未来。 誰かを信じる気持ち、誰かを疑う勇気、そして真実を暴く覚悟。 藍は「信じるとはどういうことか」を問われていく。 この物語は、好奇心と正義感、友情と疑念の狭間で揺れながら、自分の軸を見つけていく少女の記録です。 感情の揺らぎと、未来への探究心が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第3作。 読後、きっと「誰かを信じるとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

処理中です...