1 / 1
父と息子の転生小説(ライトノベル)
しおりを挟む
息子は、五年も部屋から出てこない。
高校をやめて以来、働きもせず、昼夜が逆転した泥濘のような生活を送っている。
唯一の楽しみは、いわゆるラノベというものらしく、薄暗い部屋には極彩色の本が積み上がっていた。
それは、異世界に行く話。
死んで、生まれ変わり、特別な力を得て、最後には全肯定される。
異世界転生——そう呼ばれる類の物語らしい。
「現実なんてクソだよ。あっちの世界に行きたい」
そう溢す息子の目は、冗談を言っているようには見えなかった。
私はそれを、単なる逃避ではなく、彼の希望だと受け取った。
私は考えた。
父親として、何ができるだろうか。
無理に引きずり出すことも、説得も、叱責も、長く停滞したものにはもう意味はなかった。
ならば、息子の好きな世界へ送ってやろう。
父親として、私はそう結論づけた。
方法は簡単だった。
息子を異世界に送る装置を用意する。
医療と金と書類を揃え、事故という形を整え、必要な手続きを済ませる。
周囲に迷惑がかからないよう、段取りは慎重に選んだ。
息子には「転生だ」と説明した。
「お前は世界を救い、皆に感謝される。ラノベとは、そういうものなのだろう?」
彼は、久しぶりに笑った。
息子は装置に横たわり、静かに目を閉じた。
私は迷わず、ただスイッチを入れた。
装置が起動し、息子の身体は、やがて完全に動かなくなった。
私は、あの手の小説をまるで読んだことがなかった。
冗長なタイトルを見かけただけ、お決まりのストーリーがあると聞いただけだ。
異世界があるかどうかは、どうでもいい。
息子は、自分の望んだ形で世界を救うのだろう。
そして私は、私自身の世界を救ったのだ。
それで、父親としての役目は果たしたつもりだ。
その後の処理は、滞りなく済んだ。
私は装置の電源を落とし、部屋を片付け、役所に死亡届を出した。
高校をやめて以来、働きもせず、昼夜が逆転した泥濘のような生活を送っている。
唯一の楽しみは、いわゆるラノベというものらしく、薄暗い部屋には極彩色の本が積み上がっていた。
それは、異世界に行く話。
死んで、生まれ変わり、特別な力を得て、最後には全肯定される。
異世界転生——そう呼ばれる類の物語らしい。
「現実なんてクソだよ。あっちの世界に行きたい」
そう溢す息子の目は、冗談を言っているようには見えなかった。
私はそれを、単なる逃避ではなく、彼の希望だと受け取った。
私は考えた。
父親として、何ができるだろうか。
無理に引きずり出すことも、説得も、叱責も、長く停滞したものにはもう意味はなかった。
ならば、息子の好きな世界へ送ってやろう。
父親として、私はそう結論づけた。
方法は簡単だった。
息子を異世界に送る装置を用意する。
医療と金と書類を揃え、事故という形を整え、必要な手続きを済ませる。
周囲に迷惑がかからないよう、段取りは慎重に選んだ。
息子には「転生だ」と説明した。
「お前は世界を救い、皆に感謝される。ラノベとは、そういうものなのだろう?」
彼は、久しぶりに笑った。
息子は装置に横たわり、静かに目を閉じた。
私は迷わず、ただスイッチを入れた。
装置が起動し、息子の身体は、やがて完全に動かなくなった。
私は、あの手の小説をまるで読んだことがなかった。
冗長なタイトルを見かけただけ、お決まりのストーリーがあると聞いただけだ。
異世界があるかどうかは、どうでもいい。
息子は、自分の望んだ形で世界を救うのだろう。
そして私は、私自身の世界を救ったのだ。
それで、父親としての役目は果たしたつもりだ。
その後の処理は、滞りなく済んだ。
私は装置の電源を落とし、部屋を片付け、役所に死亡届を出した。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました
ちくわ食べます
ファンタジー
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」
優秀なアタッカー、メイジ、タンクの3人に囲まれていたヒーラーのユウトは、実力不足を理由に冒険者パーティを追放されてしまう。
――僕には才能がなかった。
打ちひしがれ、故郷の実家へと帰省を決意したユウトを待ち受けていたのは、彼の知らない真実だった。
キモおじさんの正体は…
クラッベ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生し、ヒロインとなったナディア。
彼女はゲーム通りにいかない悪役令嬢のビビアンに濡れ衣を着せ、断罪イベントの発生を成功させる。
その後の悪役令嬢の末路は、ゲーム通りでは気持ち悪いおっさんに売られていくのを知っているナディアは、ざまぁみろと心の中で嘲笑っていた。
だけどこの時、この幸せが終わりを迎えることになるとは、ナディアは思っても見なかったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる