3年F組クラス転移 帝国VS28人のユニークスキル~召喚された高校生は人類の危機に団結チートで国を相手に無双する~

代々木夜々一

文字の大きさ
52 / 74

25-5話 姫野美姫 「希望の灯火」

しおりを挟む
 しばらくすると、もう一つの脱出グループも戻ってきた。

かがりを焚きましょう」

 そう言ったのはカラササヤさんだった。

 里の大通りに、大きな篝火かがりびを作る。工作班の茂木くんたちがすぐに作った。

 茂木くんたちが作ったので、篝というよりキャンプファイヤーだ。

 それに火を点けて、カラササヤさんが言った意味がわかった。この里には沼田睦美ちゃんのスキルで灯す外灯はあるが、火を見ると気分が落ち着く。

 帰ってきた人たちも火を見ると、そこに向かってあるき出す。そして火に手をかざし、温もりを味わっていた。

 動くのが困難な怪我の人は、暖房小屋に入ってもらった。

 軽い怪我は広場で手当てをする。手当ては森の民の人が率先してやってくれた。やっぱり、こういう事に慣れている。

 調理場では調理班と婦人方がフル稼働だ。

 わたしは各所を回り、要望を聞いて回った。この物資が必要と言われれば、倉庫に取りに行く。容態が悪くなった人がいれば、回復スキルの花ちゃんを呼んだ。

 里の中は人が増えたが、話し声は聞こえない。

 たまに傷の痛みで呻く人の声が聞こえる。それが余計に沈黙を強くした。

 こういう時、キングがいないのが大きいのかもしれない。

 キングは自分では気づいていないが、ムードメーカーだ。

 かつて、わたしの両親が経営するスーパーの近くに大手の大型店ができたことがある。一ヶ月にわたり開店激安セールを行った。

 こっちのスーパーには人っ子一人、来なくなった。いくら農家直送の美味しいキュウリを仕入れても、1本1円でやられると負ける。

 資金繰りは急速に悪化し、パートのおばちゃんたちには辞めてもらうことになった。

「おれ、暇だし、手伝うよ」

 どこから聞きつけたか、キングが無料で手伝うと言う。正直、家族だけで回すのは限界だったので手伝ってもらった。

 レジや品出しは経験がいるので、店先の産直コーナーに立ってもらった。八百屋のようにワゴンを並べて野菜を売るコーナーだ。

「おばちゃん! 今日、めっちゃキュウリ旨いよ!」

 キング、通りを歩く主婦にガンガン声をかけちゃう。

「あー! そのピーマン、ちょっと古めな。半額にできないか店長に聞いてくるよ!」

 けっこう勝手にするので困ることもあったのだが、この「活気」というのは馬鹿にできない。

 おまけに、キングの姿を見たかつてのパートのおばちゃんたちが戻ってきた。

「私たちも手伝うから、姫野さん、がんばろう!」

 町内の主婦たちがボランティアで店を守った。その美談はTVに取り上げられ、店はV字回復した。

 TVでは救世主が主婦になっていたが、わたしと家族は知っている。救世主はキングだ。

 そう思うと、わたしはムードメーカーには絶対なれない。資質が違いすぎる。

 今、この里にプリンスか、ジャムさんでもヴァゼル伯爵でもいい。誰かいれば、もっと落ち着いているだろう。やっぱり、軍師は士気に影響を与える人がするべきだ。

 不安が少しでもまぎれるよう、火を大きくしよう。そう思って、キャンプファイヤーに追加の薪を持っていく時だった。里の中に歓声がわいた。みんなが里の入り口を見ている。

 キングたちだ! 思わず薪を放り出し、走り出しそうになった。

 里のみんなが駆けつけて、手を貸している。

 キングの脱出グループは療養中や病人の人が多かったけど、その人たちも無事のようだ。

 キングは笑顔だ。その笑顔につられて、駆け寄ったみんなも笑顔になる。ほんと、ムードメーカーよねぇ。

『ヒメ?』

 その時、急に遠藤ももちゃんから遠隔通話が入った。

「どうしたの?」
『ちょっと入り口の滝に行ってくれる? わたしも行くから』

 大通りを帰ってくるキングたちに人が集まる。それを避けて入り口に向かった。

 滝を出たところで、ももちゃんの用事がわかった。

 そこにいたのは、ハビスゲアルさんだった。ツルツル頭のひたいには包帯が巻かれ、血がにじんでいる。片方の腕も釣っていた。

「もも殿から、こちらの状況は聞いております。すべては、この愚老の失態」

 そういうことか。バレたのはウルパ村ではない。ハビスゲアルさんのほうか。

「キング殿に、お目通りをお願いいたします」

 横にいた遠藤ももちゃんが、わたしを見た。彼女の心配はわかる。この状況で、この人が里に入るべきなのか。それは大丈夫なのか。

 通信スキルの彼女がいるんだ。キングに連絡を取るか。そう思った時、もう一度、満身創痍の老人は言った。

「キング殿だけでなく、里の者すべてに身をさらす必要がありましょう。それは今を置いてほかはありませぬ」

 そこまで思い定めているのなら、わたしに言えることは何もなかった。

 ハビスゲアルさんを連れて里に入る。わたしたちを見た人の顔が一瞬にして変わった。

 それはそうだ。王都の教会に追いかけられ、殺されかけたのだ。ローブを着て剃髪しているハビスゲアルさんは、誰が見ても教会の人間だ。

 里のみんなが見つめる中、広場に向かう。広場では、キングが逃げ延びた人たちと握手をしたり、抱擁したりと喜びあっていた。

「キング」

 わたしの声にキングが振り向いた。ハビスゲアルを見て笑顔が消える。

「ハビじい、やっぱり、そっちが原因だったか……」

 キングは何を言おうか迷っているみたいだった。

 ハビスゲアルはキングの前に正座した。ローブが汚れるのも構わず。

 周囲の人が集まってきた。みんな殺気に満ちている。それはヴァゼル伯爵やプリンスでなくてもわかった。ハビスゲアルに向けられた目は憎悪の目だ。これはまずい!

 わたしは周りを見回した。どうする、何か手はないか!

 女子の一人に声をかけ、イスを二つ広場に持っていく。

 わたしはキングのほうに持っていった。

「姫野……」

 キングの目が「それは余計だろ」と言っている。

「まあ、座れば?」

 キングが座った。向かいのハビスゲアルさんもイスに座る。

「今回の奇病、もはや魔法ではなく別の方法を探すべきと提言したところでした。そこから気づかずに目をつけられていたようです」

 キングがプルプル震えている。

「今回、村を襲ったのはエケクルス聖騎士団。これはゼダ教の総本山、アルフレダ大聖堂に所属する者たちです」

 キングが口元を押さえた。

「……ぐふっ」

 ハビスゲアルが眉をしかめた。

「キング殿、お加減でも?」
「いや……なんでも……ぐふっ」

 ハビスゲアルは近くにいたプリンスを向いた。

「プリンス殿、キング殿はいったい……」

 プリンスは目を見開き、奥歯を噛み締めた。

「どうされたと言うのだ」

 ハビスゲアルが周囲を見る。まわりの人々も小刻みに体を震わせ始めた。

「ぎゃははははははは!」

 キングがたまらず笑い声を出した。

「笑い事ではございませんぞ! あのエケクルス聖騎士団が……」

 キングが笑い出したのをきっかけに、周囲のみんなもどっと笑った。笑いは笑いを生み、爆笑の渦が巻く。

「キング殿、聞いてくだされ、あのエケクルス騎士団が……」
「ムリムリムリ! 何も入ってこねえよ」

 わたしの隣にいる「むっちゃん」こと沼田睦美ちゃんと目を合わせた。二人でほっと胸をなでおろす。

「ヒメ、うまくいって良かったね」
「むっちゃん、部分別で光らせれるようになったんだ」
「うん。最近だけどね」

 沼田睦美の照明スキルによって、ハビスゲアルの頭は光っていた。剃毛したスキンヘッドが、それはまぶしい輝きを放っている。

 セレイナが笑いをこらえて手鏡を持ってきた。ハビスゲアルに手渡す。

「何を見ろと……吾輩を?」

 自分の姿を見てハビスゲアルは固まった。恐る恐る頭にさわる。

 ハビスゲアルの手は大きいようで、手を乗せるとフタのように光が止まる。

 パカッパカッと、点いたり消えたり、点いたり消えたり。

 それを見て、またも爆笑の渦が起こる。

「ハビじい……それやめて、苦しい……」

 キングは笑いすぎてイスからずり落ちていた。

「沼田、降参! このライト消して!」

 わたしと沼田睦美は、うなずきあった。沼田睦美がハビスゲアルに近づき、さっと触れる。光が止まった。

「ふぅ、ハビじい、やっぱ、すげえ力の持ち主だな」
「これは、吾輩の力では……」

 それからハビスゲアルさんは、改めて今日一日の出来事を話し始めた……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...