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28-4話 有馬和樹 「オークとゴクマゴク」
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路地裏の騒ぎに比べ、大通りは静かだ。
重装歩兵をよけるようにして、トレーラーはゆっくり進む。
逃げ出さず、なんとか立ち上がろうとする重装歩兵には、作田が接着剤で石畳に止めた。なにげに止まってる相手だと、作田が最強かも。
「そういや、ゲンタは?」
最初に通り過ぎた酒場は、ずいぶんと後ろだ。その酒場の前では、大勢の人だかりができていた。
『228発』
「なに? コウの声か?」
『双方合わせて、チョップの回数や』
やっぱり声は根岸光平だ。228発? あわてて望遠鏡で見てみる。人だかりの中央に二人はいた。
両者とも片膝をついている。二人の胸板は赤いを通り越して紫色だ。皮膚の表面が裂け、血も流れている。どんだけ意地張るんだよ!
『もう、アカンで。両方とも立てへんやろ。胸だけやない。チェップ打ち過ぎて、腕もいかれとる』
コウの言うように、片膝をついた二人は腕をだらりと下げていた。
『そこは気合だろ! 立てゲンタ!』
遠藤ももの怒号が入った。鬼か、お前は!
『ううっ……くぅ……』
ゲンタ、なんとか通信しようとするが、しゃべる気力もやばい。粗い息遣いだけが聞こえた。
『レスラーは打ち合いで負けんな! 立て!』
……遠藤、ゲンタはレスラーじゃないと思うが。
『遠藤、どう言うても無理やで!』
『よし、じゃあ立ったらチューしてやる!』
『うぉぉぉぉ!』
『それで立つんかい!』
ゲンタは立ち上がり、相手の髪を掴んで起こした。
『◎△$♪×¥●&%#!!!』
そして、なんかわかんないけど、叫んで拳を握った!
ラリアット! ゲンタの太い腕が相手の首元に当たる。振り抜いたラリアットに相手の身体は縦回転して倒れた。
……ラリアットって縦回転したっけ? なんつう馬鹿力。
『よくやったゲンタ! んじゃ、ほっぺにチューな』
ゲンタが仰向けに倒れた。うん。気持ちはわかるよ。ほっぺときたか。
『タクくん、花ちゃん連れてゲンタのとこへ!』
姫野の指示が飛んだ。
『ゾ、ゾリランダーさんにも、回復を……』
ゲンタはそれだけ言って黙った。意識を失ったんだろう。
『あかん、見入ってしもうた。わいは消えるで。ええ試合やった』
どこにいるかわからないコウは通信を切った。だんだんコウが、プロレスに染まってきている。試合ってなんだ、コウよ。
ゲンタは後で拾うとして、トレーラーは進む。北門から城までの道で言えば、半分を越えたあたりか。
「「「反逆者、ハビスゲアルよ」」」
エコーがかかったような、あたり一帯に響く大きな声。この声の響きは以前に闘技場で聞いたことがある。
「ハビじい、これ魔法?」
「左様、これは拡声魔法でございます」
「「「教会に背く行為、死罪を言いわたす」」」
大通りに面した建物、その屋上のあちらこちらにローブを着た男たちが現れた。
「「「ここからは、司教自らが取り締まろうぞ」」」
あちこちの屋上に現れたローブの男たちは、みんな青色のローブだ。首や腕には装飾品もつけていた。
ざっと数えて十人ぐらいだろうか。
「この声は、21番目の司教モラクス。屋上の者はその配下になる司教たちでしょう」
「派閥、みたいなもの?」
「はい。モラクスの一派は攻撃魔法に長けております。お気をつけくだされ!」
んー、っつうかなぁ。魔法使いって遠隔攻撃なんだから、あそこまで目立ったらダメなんじゃ……
シュルシュルシュル……
「がっ!」
屋上の一人が倒れた。
シュルシュルシュル……
空気を切り裂く音。やっぱり玉井の遠投スキル「レーザービーム」ってすごい。弾道が山なりじゃないもんな。まっすぐ一直線だ。
二人目の司教の頭に当たり、二人目も倒れた。
「「「おのれ卑怯な! かくなる上は、んがっ!」」」
短く叫んで拡声魔法が途切れた。ボールが当たった三人目。あいつがモラクス司教だったか。
ほかの司教はキョロキョロしている。なんだろう、計画が違って頭がパニクってるみたいだ。
そんな頭に玉井のボールがぶち当たる。もうこれは放っておいていいな。
ほかの敵を探そうとした時だった。どしん! どしん! と地響きがする。前方の十字路、西に伸びる通りから市民が逃げてきた。
『進藤くん、ストップ!』
ここに来て、初めてトレーラーが止まる。
曲がり角から出てきたのは、赤いローブを着た派手な司教。
その後ろについて来たのは、5mを超える巨人。革の装備はつけているが緑色の皮膚をした野人だった。
あれはオーク? でもオークがいるなんて、この国で聞いたことはない。
「あっ、そうか!」
思わずつぶやいた声に姫野がうなずいた。
『出てる人はトレーラーに戻って。可能性は低いと思ってたけど、召喚祭のバケモノがこっちに来た!』
赤いローブの司教はオークに何か命じた。そのオークがこちらのトレーラーに向かって歩いてくる。
『駒沢くん、予定より早いけど、お願い!』
『オッケー!』
下のトレーラーからゴトリと重い音がした。
さきほどのチャッキーか? チャッキー2号だったとしても、巨人のオーク相手だと話にならない。
ドンドンドン! と地響きをさせてトレーラーの右から巨大な土人形が走っていく。
「ゴーレム、拾ってたのかよ……」
唸ったのはプリンスだ。プリンスも知らなかったらしい。
「ハビじい、知ってた?」
同じく目を丸くしてるハビスゲアルに聞いてみた。
「……いえ、存じませんでした」
「あれって、けっこう費用かかった?」
「はっ、かなりの高級な魔道具になります」
「これぞほんとのリサイクル!」
ゲスオがふざけている間に、ゴーレムとオークの距離が縮んだ。
ゴーレムがデカいと言っても、オークの半分だ。勝てるのか?
オークが拳骨を叩きつけるように振り下ろした。ゴーレムがそれを素早く下がってかわす。
「ん? バックステップしたぞ?」
「あれはもしや……」
ゲスオは眼鏡を上げた。
「PK!」
駒沢が叫んで手元を動かすと同時に、ゴーレムは「パンチ」と「キック」のコンビネーションを見せた。
「格ゲーのコマンド入力が、できるでござるか!」
格ゲー? 格闘ゲームの必殺技が使えるのか! ゲームオタクの駒沢ならではだな。
「さすがゲスオ、ならこれはわかるか? PPP!」
ゴーレムが右、左、右と素早いパンチの三連打。
「それは雷撃掌!(らいげきしょう)」
「PPPK!」
「連環転身脚!(れんかんてんしんきゃく)」
「PPP←K!」
「連環背転脚ぅぅぅぅぅ!(れんかんはいてんきゃく)」
駒沢とゲスオの掛け合いはわからないが、オークはタコ殴りにされ、最後は豪快な回し蹴りでふっ飛んだ。
喜びもつかの間。さらに大通りには、棍棒を持った巨大な原始人のようなバケモノが現れた!
「あれは、ゴクマゴク」
ヴァゼル伯爵がつぶやいた。ちょっと待って。それ、おれも知ってる。
「伯爵も知ってんの? ゴクマゴクって、おれらの世界でイギリスの言い伝えに出てくるやつよ?」
「我らの世界でも、召喚士はいる。そこそこの召喚士が呼ぶのが、あのゴクマゴクだ」
なるほど。異世界同士って、意外と召喚しあっているのかもしれない。伯爵の夜行族は、やっぱりドラキュラのモデルなんじゃなかろうか。
「伯爵、そこそこの召喚士が巨人召喚だとすると、上級の召喚士って……」
おれの言葉が言い終わらないうちに、空からばさり! と大きな羽音、そして地響きのような低い咆哮が聞こえた。
やっぱり、来るか! ドラゴン!
重装歩兵をよけるようにして、トレーラーはゆっくり進む。
逃げ出さず、なんとか立ち上がろうとする重装歩兵には、作田が接着剤で石畳に止めた。なにげに止まってる相手だと、作田が最強かも。
「そういや、ゲンタは?」
最初に通り過ぎた酒場は、ずいぶんと後ろだ。その酒場の前では、大勢の人だかりができていた。
『228発』
「なに? コウの声か?」
『双方合わせて、チョップの回数や』
やっぱり声は根岸光平だ。228発? あわてて望遠鏡で見てみる。人だかりの中央に二人はいた。
両者とも片膝をついている。二人の胸板は赤いを通り越して紫色だ。皮膚の表面が裂け、血も流れている。どんだけ意地張るんだよ!
『もう、アカンで。両方とも立てへんやろ。胸だけやない。チェップ打ち過ぎて、腕もいかれとる』
コウの言うように、片膝をついた二人は腕をだらりと下げていた。
『そこは気合だろ! 立てゲンタ!』
遠藤ももの怒号が入った。鬼か、お前は!
『ううっ……くぅ……』
ゲンタ、なんとか通信しようとするが、しゃべる気力もやばい。粗い息遣いだけが聞こえた。
『レスラーは打ち合いで負けんな! 立て!』
……遠藤、ゲンタはレスラーじゃないと思うが。
『遠藤、どう言うても無理やで!』
『よし、じゃあ立ったらチューしてやる!』
『うぉぉぉぉ!』
『それで立つんかい!』
ゲンタは立ち上がり、相手の髪を掴んで起こした。
『◎△$♪×¥●&%#!!!』
そして、なんかわかんないけど、叫んで拳を握った!
ラリアット! ゲンタの太い腕が相手の首元に当たる。振り抜いたラリアットに相手の身体は縦回転して倒れた。
……ラリアットって縦回転したっけ? なんつう馬鹿力。
『よくやったゲンタ! んじゃ、ほっぺにチューな』
ゲンタが仰向けに倒れた。うん。気持ちはわかるよ。ほっぺときたか。
『タクくん、花ちゃん連れてゲンタのとこへ!』
姫野の指示が飛んだ。
『ゾ、ゾリランダーさんにも、回復を……』
ゲンタはそれだけ言って黙った。意識を失ったんだろう。
『あかん、見入ってしもうた。わいは消えるで。ええ試合やった』
どこにいるかわからないコウは通信を切った。だんだんコウが、プロレスに染まってきている。試合ってなんだ、コウよ。
ゲンタは後で拾うとして、トレーラーは進む。北門から城までの道で言えば、半分を越えたあたりか。
「「「反逆者、ハビスゲアルよ」」」
エコーがかかったような、あたり一帯に響く大きな声。この声の響きは以前に闘技場で聞いたことがある。
「ハビじい、これ魔法?」
「左様、これは拡声魔法でございます」
「「「教会に背く行為、死罪を言いわたす」」」
大通りに面した建物、その屋上のあちらこちらにローブを着た男たちが現れた。
「「「ここからは、司教自らが取り締まろうぞ」」」
あちこちの屋上に現れたローブの男たちは、みんな青色のローブだ。首や腕には装飾品もつけていた。
ざっと数えて十人ぐらいだろうか。
「この声は、21番目の司教モラクス。屋上の者はその配下になる司教たちでしょう」
「派閥、みたいなもの?」
「はい。モラクスの一派は攻撃魔法に長けております。お気をつけくだされ!」
んー、っつうかなぁ。魔法使いって遠隔攻撃なんだから、あそこまで目立ったらダメなんじゃ……
シュルシュルシュル……
「がっ!」
屋上の一人が倒れた。
シュルシュルシュル……
空気を切り裂く音。やっぱり玉井の遠投スキル「レーザービーム」ってすごい。弾道が山なりじゃないもんな。まっすぐ一直線だ。
二人目の司教の頭に当たり、二人目も倒れた。
「「「おのれ卑怯な! かくなる上は、んがっ!」」」
短く叫んで拡声魔法が途切れた。ボールが当たった三人目。あいつがモラクス司教だったか。
ほかの司教はキョロキョロしている。なんだろう、計画が違って頭がパニクってるみたいだ。
そんな頭に玉井のボールがぶち当たる。もうこれは放っておいていいな。
ほかの敵を探そうとした時だった。どしん! どしん! と地響きがする。前方の十字路、西に伸びる通りから市民が逃げてきた。
『進藤くん、ストップ!』
ここに来て、初めてトレーラーが止まる。
曲がり角から出てきたのは、赤いローブを着た派手な司教。
その後ろについて来たのは、5mを超える巨人。革の装備はつけているが緑色の皮膚をした野人だった。
あれはオーク? でもオークがいるなんて、この国で聞いたことはない。
「あっ、そうか!」
思わずつぶやいた声に姫野がうなずいた。
『出てる人はトレーラーに戻って。可能性は低いと思ってたけど、召喚祭のバケモノがこっちに来た!』
赤いローブの司教はオークに何か命じた。そのオークがこちらのトレーラーに向かって歩いてくる。
『駒沢くん、予定より早いけど、お願い!』
『オッケー!』
下のトレーラーからゴトリと重い音がした。
さきほどのチャッキーか? チャッキー2号だったとしても、巨人のオーク相手だと話にならない。
ドンドンドン! と地響きをさせてトレーラーの右から巨大な土人形が走っていく。
「ゴーレム、拾ってたのかよ……」
唸ったのはプリンスだ。プリンスも知らなかったらしい。
「ハビじい、知ってた?」
同じく目を丸くしてるハビスゲアルに聞いてみた。
「……いえ、存じませんでした」
「あれって、けっこう費用かかった?」
「はっ、かなりの高級な魔道具になります」
「これぞほんとのリサイクル!」
ゲスオがふざけている間に、ゴーレムとオークの距離が縮んだ。
ゴーレムがデカいと言っても、オークの半分だ。勝てるのか?
オークが拳骨を叩きつけるように振り下ろした。ゴーレムがそれを素早く下がってかわす。
「ん? バックステップしたぞ?」
「あれはもしや……」
ゲスオは眼鏡を上げた。
「PK!」
駒沢が叫んで手元を動かすと同時に、ゴーレムは「パンチ」と「キック」のコンビネーションを見せた。
「格ゲーのコマンド入力が、できるでござるか!」
格ゲー? 格闘ゲームの必殺技が使えるのか! ゲームオタクの駒沢ならではだな。
「さすがゲスオ、ならこれはわかるか? PPP!」
ゴーレムが右、左、右と素早いパンチの三連打。
「それは雷撃掌!(らいげきしょう)」
「PPPK!」
「連環転身脚!(れんかんてんしんきゃく)」
「PPP←K!」
「連環背転脚ぅぅぅぅぅ!(れんかんはいてんきゃく)」
駒沢とゲスオの掛け合いはわからないが、オークはタコ殴りにされ、最後は豪快な回し蹴りでふっ飛んだ。
喜びもつかの間。さらに大通りには、棍棒を持った巨大な原始人のようなバケモノが現れた!
「あれは、ゴクマゴク」
ヴァゼル伯爵がつぶやいた。ちょっと待って。それ、おれも知ってる。
「伯爵も知ってんの? ゴクマゴクって、おれらの世界でイギリスの言い伝えに出てくるやつよ?」
「我らの世界でも、召喚士はいる。そこそこの召喚士が呼ぶのが、あのゴクマゴクだ」
なるほど。異世界同士って、意外と召喚しあっているのかもしれない。伯爵の夜行族は、やっぱりドラキュラのモデルなんじゃなかろうか。
「伯爵、そこそこの召喚士が巨人召喚だとすると、上級の召喚士って……」
おれの言葉が言い終わらないうちに、空からばさり! と大きな羽音、そして地響きのような低い咆哮が聞こえた。
やっぱり、来るか! ドラゴン!
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