人生が変わる適職診断

井浦

文字の大きさ
5 / 6

第5話

しおりを挟む
美月は何故だか最近、周平の背中をとても遠くに感じていた。

今日は、由香の十歳の誕生日だった。せっかくだからお祝いをしようと、家族三人で高級レストランのディナーを楽しんだ。

「ありがとね、ごちそうさま」

美月がそう言うと、周平は「いいんだよ」と手を振った。

今から約四年前、周平が都市銀行を辞めた後、家にこもりがちになってしまった時は、正直どうなるかと思った。

しかし、我慢の限界を迎えた美月が離婚をちらつかせると、しばらくして彼は人が変わったように羽振りがよくなった。

必ず毎月、生活費を管理している美月の銀行口座に、周平から四十万円の振込があるのだ。

彼は結局、サラリーマンには戻らなかったが、退職金を注ぎ込んだ投資が成功して、経済的に余裕ができたのだと言っている。

相談もなく退職金を使ってしまったことは少し気になったが、その投資が成功したおかげで贅沢な生活を送れているのだから、文句は言えない。

由香を真ん中にして、三人で横に並んで家路につく。

いつからだろうか。由香は親と手を繋ぐのを恥ずかしがるようになってしまった。

でも美月は、こうして家族一緒に過ごせる時間に幸せを感じていた。こんな幸せがいつまでも続けばいいと思っていた。

ふと、周平の顔を横目で見ると、美月とは対照的な恐ろしい表情をしていることに気付いた。

まるで、一人で深い闇を背負っているような、怒りとも、悲しみともとれるような表情。

何年か前から、時々そのような表情を見せるようになった彼のことを、美月はとても心配していた。

「あなた、どうしたの? 大丈夫?」

すると周平は、我に帰ったような顔をした。

「ごめん。また恐い顔をしてたかな? ちょっとここのところ疲れが溜まってて」

彼は笑顔を向けてきたが、美月は安心できなかった。

「そう。あんまり無理しないでね」

日中、自分の部屋に閉じこもっている周平は、パソコンに張り付いて金融商品の売買をしているらしい。

昨日は珍しく、美月が眠るまで、部屋からキーボードを叩く音や書類をめくる音が聞こえていた。

結局、彼が何時まで起きていたのかは分からない。


しばらく歩いていると自宅に到着した。そして、由香がお風呂に入ると、周平が美月に切り出した。

「明日から投資先の物件を見に、一週間くらい金沢に行こうと思うんだけどいいかな?」

美月は内心、「またか」と思った。

周平は、三ヶ月に一度くらいのペースで、投資先を視察するために旅行に出かける。

彼いわく、投資をするには現場を見ないといけない時があるとのことなのだが、美月は不審に思っていた。

もしかすると、他に女がいるのかもしれない。

何となく彼との間に感じるようになった溝。それは、彼の不倫によるものなのではないだろうか。

美月は、彼を信じたい気持ちと、自分の勘が間違っていないのではないかという気持ちの間で揺れ動いていた。

「今回も一人で行くの?」

「ああ、もちろん」

「分かったわ。気を付けて行ってきてね」

周平は美月の了承を得ると、すぐに自分の部屋に行ってしまった。

そして、この日も部屋から出てくることはなかった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...