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第三章 弘子
救命
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誠司が息子の胸を押し続けているが、救命訓練で使う人形のように、彼から生気が感じられない。
電話を終えた弘子も、慧の肩を叩いて呼びかけ続けた。
しかし、彼の肩の感触は、もはや息子のそれではなく、人間の形をした何かに向かって叫び続けているような感覚だった。
ほとんど望みがないということに、実は夫も気づいているのだろう。
しかし、手を止めてしまうと、この悪夢のような現実を受け止めるしかなくなってしまう。
5分ほどそうしていると、自転車に乗った警察官が2人到着した。
当初は、単なる空き巣被害だけだと思っていたようだが、息子のことを説明すると、すぐにパトカーのサイレンとともに応援が到着した。
それと同時にやってきた救急車が家の前に停まると、隊員たちが息子の周りを囲んだ。
彼の容体について、すぐに一通りの確認作業が行われたが、一向に搬送される気配がない。
「どうか手を尽くしてください」
誠司が隊員たちの間に割って入ると、再び心臓マッサージを始める。
「お父さん、止めてください。もうこれ以上は……」
隊員の制止を振り切って、彼は一層両手に力をこめた。
「可能性がゼロではないんだったら、やれるだけのことはやってください」
「もう可能性はないんです」
救急隊といえど、殺人事件の現場で、子どもを亡くしたばかりの親と接する機会は限られているのだろう。
その声は微かに震えている。
すでに気力も体力も使い果たしていた誠司は、小さな呻き声を上げながら両手の力を抜くと、廊下の壁に背中を預けた。
弘子は頭を抱えながら首を振る。
「いやよ。絶対にいやよ」
しばらくの間、その場から動けずにうなだれていた2人だったが、救急隊が撤収したあと、ある警察官の声が耳に入ると、ゆっくりと顔を上げた。
「自分が犯人だと名乗る男が、自首してきました」
電話を終えた弘子も、慧の肩を叩いて呼びかけ続けた。
しかし、彼の肩の感触は、もはや息子のそれではなく、人間の形をした何かに向かって叫び続けているような感覚だった。
ほとんど望みがないということに、実は夫も気づいているのだろう。
しかし、手を止めてしまうと、この悪夢のような現実を受け止めるしかなくなってしまう。
5分ほどそうしていると、自転車に乗った警察官が2人到着した。
当初は、単なる空き巣被害だけだと思っていたようだが、息子のことを説明すると、すぐにパトカーのサイレンとともに応援が到着した。
それと同時にやってきた救急車が家の前に停まると、隊員たちが息子の周りを囲んだ。
彼の容体について、すぐに一通りの確認作業が行われたが、一向に搬送される気配がない。
「どうか手を尽くしてください」
誠司が隊員たちの間に割って入ると、再び心臓マッサージを始める。
「お父さん、止めてください。もうこれ以上は……」
隊員の制止を振り切って、彼は一層両手に力をこめた。
「可能性がゼロではないんだったら、やれるだけのことはやってください」
「もう可能性はないんです」
救急隊といえど、殺人事件の現場で、子どもを亡くしたばかりの親と接する機会は限られているのだろう。
その声は微かに震えている。
すでに気力も体力も使い果たしていた誠司は、小さな呻き声を上げながら両手の力を抜くと、廊下の壁に背中を預けた。
弘子は頭を抱えながら首を振る。
「いやよ。絶対にいやよ」
しばらくの間、その場から動けずにうなだれていた2人だったが、救急隊が撤収したあと、ある警察官の声が耳に入ると、ゆっくりと顔を上げた。
「自分が犯人だと名乗る男が、自首してきました」
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