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第四章 松原
諦め
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その音を最初に聞いたときは、金品を持ち去ろうとする松原を、誰かが威嚇してきたのかと思った。
だから彼は、恐る恐る時間をかけて、窓の外を覗きにいった。
しかし、窓の向こう側にいたのは震えながら隠れる少年が1人だけ。
こちらが手を下そうとしても、彼は何の抵抗も示さなかった。
それほど、恐怖におののいている者が、多少の金品を取られたからといって、そんな大それたことをするだろうか。
もしかしたら、あの慧という子どもは、人一倍正義感が強かったのかもしれない。
親が大切にしているものを、知らない男が持ち去ろうとしているのを見過ごせなかった。
だから、怖いとは思いつつも、勇気を振り絞って窓を叩いた。
しかし、結果的には、その行動によって彼は命を奪われることになった。
「慧くんってどんな子だったんですか? 彼が私を追い払おうとしたとも考えられますよね」
刑事は松原のことは無視して、次の質問に移った。
「慧くんを殺害してトイレに隠したお前は、テーブルの上に置いていた金品を手に取ると、玄関から外へ出ていった。そのときの時間は覚えているか?」
「18時過ぎくらいですかね。正確には覚えてないですけど」
「その後、現場から歩いて15分程度の自宅に戻ると、服を着替えて、リサイクルショップへ盗んだ時計とバッグを換金しに行った。そして、その帰り道に板橋北署へ行って自首した。なぜ人を殺してまで逃げることを考えていたお前は、急に自首することを決めたんだ」
松原は軽く頭を振ると、肩を落とした。
「買取価格が2つ合わせて1万円だったからですよ。状態が悪いのか知りませんけど、こっちは人を殺しているというのに、全くふざけた金額ですよね。これだけだと盗んだ現金と合わせても、数ヶ月後には財布が空になるでしょう。下手をすれば、また私は人を殺さなければならなくなる。そう考えると、生きるのが面倒くさくなってしまって、もう自首しようかなと」
刑事は静かに「そうか」と答えると、腕を組んで目を閉じた。
「でも、わざわざ自首したからには、刑は軽くしてくれるんですよね?」
「それは裁判所が判断する」
目を閉じたまま、彼は呟く。
拍子抜けするほど、落ち着いた声だった。
しばらくの間、そのまま瞑目していた刑事だったが、再び目を開くと、今度は感情の見えない表情で質問をしてきた。
先ほどまで声を荒げていた男の視線は、急によそよそしいものになった。
こいつには怒る価値もないとあきらめられたのだろうか。
これまで何度も惨めな思いをしてきた松原でも、人から見放される瞬間の寂しさには慣れることができない。
自分のなかで行き場のない怒りが膨らんでいくのを感じながら、彼は強く歯を食いしばった。
だから彼は、恐る恐る時間をかけて、窓の外を覗きにいった。
しかし、窓の向こう側にいたのは震えながら隠れる少年が1人だけ。
こちらが手を下そうとしても、彼は何の抵抗も示さなかった。
それほど、恐怖におののいている者が、多少の金品を取られたからといって、そんな大それたことをするだろうか。
もしかしたら、あの慧という子どもは、人一倍正義感が強かったのかもしれない。
親が大切にしているものを、知らない男が持ち去ろうとしているのを見過ごせなかった。
だから、怖いとは思いつつも、勇気を振り絞って窓を叩いた。
しかし、結果的には、その行動によって彼は命を奪われることになった。
「慧くんってどんな子だったんですか? 彼が私を追い払おうとしたとも考えられますよね」
刑事は松原のことは無視して、次の質問に移った。
「慧くんを殺害してトイレに隠したお前は、テーブルの上に置いていた金品を手に取ると、玄関から外へ出ていった。そのときの時間は覚えているか?」
「18時過ぎくらいですかね。正確には覚えてないですけど」
「その後、現場から歩いて15分程度の自宅に戻ると、服を着替えて、リサイクルショップへ盗んだ時計とバッグを換金しに行った。そして、その帰り道に板橋北署へ行って自首した。なぜ人を殺してまで逃げることを考えていたお前は、急に自首することを決めたんだ」
松原は軽く頭を振ると、肩を落とした。
「買取価格が2つ合わせて1万円だったからですよ。状態が悪いのか知りませんけど、こっちは人を殺しているというのに、全くふざけた金額ですよね。これだけだと盗んだ現金と合わせても、数ヶ月後には財布が空になるでしょう。下手をすれば、また私は人を殺さなければならなくなる。そう考えると、生きるのが面倒くさくなってしまって、もう自首しようかなと」
刑事は静かに「そうか」と答えると、腕を組んで目を閉じた。
「でも、わざわざ自首したからには、刑は軽くしてくれるんですよね?」
「それは裁判所が判断する」
目を閉じたまま、彼は呟く。
拍子抜けするほど、落ち着いた声だった。
しばらくの間、そのまま瞑目していた刑事だったが、再び目を開くと、今度は感情の見えない表情で質問をしてきた。
先ほどまで声を荒げていた男の視線は、急によそよそしいものになった。
こいつには怒る価値もないとあきらめられたのだろうか。
これまで何度も惨めな思いをしてきた松原でも、人から見放される瞬間の寂しさには慣れることができない。
自分のなかで行き場のない怒りが膨らんでいくのを感じながら、彼は強く歯を食いしばった。
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