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猫地蔵編
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「あ、えーっと何してるの?」
私の質問に、子どもたちは安心したようにため息をついた。
「お、お客様ですか?」
そう言ってきたのは見たことのない坊主頭の男の子だった。
「変な音がしたから、どうしたのかなって」
「申し訳ありませんご迷惑をお掛けして」
「ううん、それはいいんだけどこれ、なにしてるの?」
ロープでぐるぐる巻になった大きな右腕、どことなく招き猫の招き手のように見えるのは気のせいだろうか?
「これを、運んでいるんです」
「これを?」
私が大げさにそう言うと子どもたちは小さく頷いた。
「君達だけでこの大きな右手を運んだの?」
すると坊主頭の長男が少し迷った顔をしてからこう答えた。
「それが、最初は俺たちだけで山から運んでこようとしたんだけど重たすぎてどうにもならなかったんです」
そりゃ、あの大きさは無理がある。いや、人が同行できるようには到底思えない。
「それで、どうしようって悩んでたら急に知らない姉ちゃんが来て理由も聞かずに手伝ってくれたんです」
「それから?」
「知らない姉ちゃんが手伝ってくれた途端、急に軽くなって簡単にこの場所まで持ってこれたんだ、それでありがとうって言ったら、姉ちゃんが「こちらこそありがとう」って言ってどっかに行っちゃって」
「そのお姉ちゃんはここのお客さん?」
「うーん、おれ厨房だからあんまり客のことは知らないですけど、ミコヤコ、知ってるか?」
「ミコヤコ?」
「あ、この二人妹なんですけど、ミコとヤコっていうんです・・・・・・ちなみに俺はフミヤって言います」
ミコ、ヤコ、都ちゃんとは違う子なのだろうか。
そう思い、ミコヤコとやらを見ると二人はフミヤの問いに対して双子の姉妹らしく同じタイミングで首を振った。
「そっか、でも、どうしてみんなはこの手を運んでるの?」
私がそう言うと、三人はみんな口を揃えて「それは・・・・・・」とつぶやいた後顔を逸らしてしまった、さすがは兄弟、息もぴったしだ。
「まさかとは思うけど、君たちが猫地蔵の腕を折ったとかじゃないよね?」
そう言うとまたも兄弟、みんな揃えて肩をびくんと跳ね上げ、互いの顔を見合わせた後、私の顔を涙目で見つめてきた。
「あ、あれ?」
「どうしてわかったんだ姉ちゃん?」
「え、本当にやったの」
「うん、実は・・・・・・」
フミヤはゆっくりと言葉足らずながらも私にこの旅館でのネコ地蔵の出来事について話してくれた。
事の発端は数年前、この旅館がまだ活発に営業しており、ネコ地蔵の右腕が合った頃、その頃、まだ子どもたちは旅館のお手伝いなどしておらず、ただ毎日を平凡に暮らしていたらしい。
しかし、そんな生活の中で子どもたちはとある不満が沸き上がってきた。それは親にかまってほしいということ。小さな子ならごくごく当たり前の感情ことだろう。
学校の友達から両親とどこかにいったなんて話や、授業参観に来てくれたなんて話はあるが、この招喜旅館の子どもたちはそういう類の話に全くついていけなかったらしい。
その分好きなものを買ってもらったり、おいしいものを食べさせてもらえたが、やはり、子どもというものは親に構ってもらいたいという思いが強かったらしい。
事あるごとに悪戯をして親の気を引き、最初のはそうやって気を引いて、怒られたりして子どもの気分は少し落ち着いたらしい。だが、その内そんな悪戯も無視されるようになった。
そんなある日、旅館の古株である庭師の八さんがあまりにも酷い様子の子どもたちを子守するよう命じられた。
そして、そんな八さんから子ども達はこんな話を耳にすることになったそうだ。「この旅館にはネコ地蔵様というのがおって、この猫地蔵様のお陰で繁盛しとるんじゃ」と。
子どもたちはそんな夢の様な話きいて、さらに詳しくネコ地蔵について聞いてみたくなった。
すると、なんでも猫地蔵の右腕にその力が備わっており、招き手が客を呼び、幸福を呼んでいると聞いた。そして、子どもたちはその話を信じ猫地蔵のことを見上げ、そして睨みつけた。
理由は勿論、このネコ地蔵のせいで兄弟たちは親にかまってもらえないから、そんな子どものちょっとした思いにより始まったネコ地蔵破壊計画。
子どもたちはネコ地蔵の右腕にロープを引っ掛け、そして前体重をその右腕にかけた。
するとネコ地蔵の右腕はものの見事に折れてしまい、子どもたちは大喜び、しかし、同時に折れた右腕をどうにかしないとすぐに修理されてしまうと判断した長男のフミヤはすぐに右腕を動かそうとした。
だけど、あまりの重たさに右腕が動くことはなく、そのまま放置する形で諦めることにした。
そんなネコ地蔵の右腕を破壊した翌日、ネコ地蔵の前に行ってみると、そこには折れたはずの右腕はどこかに消えていた。そんな非現実的な事に兄弟は驚き、そして、大人たちはこの異様な光景にただただ驚くばかりであり、その原因が子どもにあるという結論にすら行きつかなかったという。
しかし、猫地蔵の腕が折れたことで旅館には次第に客が寄り付かなくなっていき、親がかまってくれると踏んだ兄弟たちは期待していた。
だが、子どもたちの思う様に事は進まなかった。
両親は徐々に離れていく客足と共に経営難の心労と疲労で、余計子どもたちを相手する余裕がなくなり、営業が難しくなって従業員は減る一方。ついには、家族でようやくこの招喜旅館を維持するだけで精一杯になってしまう結果となってしまったそうだ。
そこまでの事態になった頃、ようやく兄弟たちは猫地蔵の右腕を折ってしまったことを深く後悔したそうだ。
だけど、後悔した所で治せる腕も無く、ただひたすら働くことで親への罪滅ぼしとしたかったのだろう。そして、そんなある日、都ちゃんがネコ地蔵の右腕を発見したとの報告を受けた。
その話を聞いた兄弟たちはすぐさまネコ地蔵の右腕を探しに行った。
本当科嘘かはわからないが、兄弟たちは藁にもすがる思いでその猫地蔵の腕を山中で発見した。そして発見できた猫地蔵の右腕を運んでいる所を私達に発見されて今に至るという。
「・・・・・・でも、どうやって腕をくっ付けるの?」
私がそう尋ねると、子どもたちは考えこんでしまい、結局良い案が見つからなかった時、突如として異変が起こった。その異変は猫地蔵から発せられているようで、私達は猫地蔵に目を向けると、そこにはガタガタと震える猫地蔵の姿があった。
子どもたちは怯えた様子で今にも泣き出しそうになっていた。
そんな状況に私は子どもたちに「逃げて」と声を掛けると、目を覚ましたかのように、ハッとした子どもたちは、すぐにその場から逃げていった。そして、私はと言うと猫地蔵から目を離さずにじっと見つめながら身構えた。
「今日はユダちゃんいて良かったよ」
「なんや昨日なんかあったんか?」
「・・・・・・ま、まぁ」
しょうもない話をはさみつつ、震える猫地蔵は突如として折れた右腕部分から、ユラユラと青白いものが飛び出してきた。その姿は想像以上におぞましく、幾人もの人間の顔がより集まり猫地蔵の形をなしていた、そして猫地蔵の姿そのままで私の前に降り立つと、幾つもある顔の一つが突然喋り出した。
「みゃーん?」
みゃ~んと鳴いたのはちょうどネコ地蔵の顔の部分に当たる場所にいた中年のおじさんだった。
「ぷっ」
私はそんな事を言うおっさんの顔が面白くて思わず吹き出しそうになっていると、足元ユダが大声で笑い始めた。
「ちょっと、笑うないでよユダちゃん」
「そ、そんなこと言うたってあんなん見せられたら怖い言うより面白くてたまらんやろ」
「そうだけど、さすがに笑うのは雰囲気が台なしというか、せっかく姿を表してくれたのにそれは悪いんじゃ・・・・・・あっははは」
私もついこらえきれなくなって吹き出してしまった、そんな笑いコケる私達に、何もせずただ呆然と突っ立っている猫地蔵の幽体に私は少し感謝しつつも徐々に私達の笑いの波は静まっていった。
そんな笑いコケた今、彼らを以前のように除霊させることよりも、あの顔の一つ一つががどんな言葉を発するのかがとても気になっていた。
「ねぇ、ユダちゃん」
「なんや」
「私、右膝あたりにいる、薄毛の人の声も聞いてみたいんだけど」
「じゃははっ、いけいけ」
そう言って私は猫地蔵に突っ込み、特に何もしてくる様子のない猫地蔵の右膝に思い切り蹴りを入れると、その顔は苦痛の表情を浮かべた。
「あ、なんにも言わない」
「なんや、おもんないな」
私の蹴りに打ち震えながら悶える薄毛のおじさんは突然目を見開いたと思えば、突然涙目になり「ありがとうございます」といって私達の目の前から消えていった。
「・・・・・・?」
「じゃっはははは、やるな零、幽霊退治が板についてきたな」
私は何のことだか理解できず唖然とした、だが、ユダは何がツボに入ったのか分からないが随分大げさに笑い声を上げていた。
「えーっと、どれにしようかな?」
私はすっかり相手がおぞましい幽霊であることを忘れ、どの顔でどんな面白い鳴き声を出してくれるのか確かめようか選り好んでいた。しかし、さすがにそんな私の態度に怒りを覚えたのか猫地蔵の幽体は私に向かって突っ込んできた。
しかし、猫地蔵の幽体の顔面に突き蹴りをお見舞いすると再びおじさんの顔に直撃し、そいつもまた燃えるように消えていった。
果たしてこんな簡単に幽霊退治とやらができるものなのかと、不安に思いながらも、この事態をなんとか治めようと必死になっていると、突然私を呼ぶ声がした。
私はおどろいてすぐに振り返ると、そこにはライトを片手に私を見上げる都ちゃんの姿があった。
「都ちゃん、どうしてここにっ?」
「あのっ、お客様が心配で来ました」
「私の心配はいいから、都ちゃんは中にはいってて」
「いえ、お客様の安全が第一ですのでっ」
そうミヤコちゃんが言った途端、突然後方でじゃりを踏む音がしたのに気づいた私は、すぐにうしろを振り返ると、そこにはいつの間にかアミさんが立っていた。
その肩には先ほどまで放置されていた猫地蔵の招き手を軽々と担いでいる姿があり、それはもう頼もしい姿に見えた。
しかし、アミさんが現れた途端、青白い幽体は怯えたようにたじろぎ始めると、再び猫地蔵の中に戻って行ってしまった。
「えっ、なになに、アミさん?どういうこと?」
「まぁまぁ、落ち着いて零ちゃん」
そんなアミさんは突然走りだしたかと思うと、猫地蔵の折れた部分に担いでいた招き手を押し付けた。
すると、ものの見事に右手がくっつき、そして数秒間猫地蔵が振動したかと思うと、青白い光は消え、そしてコトコトンと音を立てて全く動かなくなった。
おとなしくなった猫地蔵を横目に、アミさんはすぐに倒れている都ちゃんの元へと向かった。
どうしてこの人がここにいるんだろう、そう思いながらも私はアミさんが都ちゃんに近づく姿をぼーっと見ていると突然都ちゃんの身体が光りだしアミさんに飛びついた。
そしてその瞬間アミさんからドスンという音とともに何かが落ちた。私は、その落ちたものをよく見てみると、それは人の腕の様なものであり、思わず声を上げてその腕らしきものから退いた。
「えへへ、零ちゃんって意外とチーキモなのね」
「チーキモ?」
「肝が小さいビビリさんのことよ、チーキモ、えへへ可愛いでしょう」
屈託のない笑顔で肝が小さいと言われると色々思うところがあるが、それを言語化できないほどに私は今困惑している。
「・・・・・・いや、私は本能的に危険を察知する能力に長けてるんです、むしろ優秀な生物である証ですよ」
「あら、それは失礼しました」
「それより、それは何なんですか?」
「義手、今まで使ってたの、でも今はほら」
アミさんは右手をひらひらさせてきた。まるでマジックでも見せられているような状況の中、私は頭の中がこんがらがってきた。
「この子は折れた右手の正体」
「そういえば都ちゃんは一体どこに?」
私は都ちゃんの姿を探したが何処にも彼女の姿を発見することは出来なかった。私が混乱気味にアミさんの顔を見ると、彼女はニコニコと笑いながら右手をまるで招き猫のように招いていた。
「まぁ、そんなことより、今回はこれで一件落着というわけ、零ちゃんには少し怖い思いをさせちゃったかしら?」
まるで何か事の真相を知っているかのような口ぶりに私はなんだかもやもやとした。
「そりゃ、まさかあの猫地蔵があんな風に動くとは思いませんでしたから」
「いやー、私もあんなことになってるとは思わなくってさ、右手が完成したからここに戻ってきたってのに、いつの間にか雑魚どもが寄り集まって猫地蔵をパンパンにうめつくしてるんだもん」
「それで、あれは大丈夫なんですか?」
「まぁね、あの右手には一応除霊効果もつけといたし、これからはネコ地蔵が動くことはないね」
「そうなんですか」
なんだか除霊やら何やら、現実離れした話をしてくるが、アミさんは一体何者なんだろうか?
「にしても、あたしの右手がこれでようやく戻ってきてよかったよ、どうにもこの子がいないと引きが悪くてさ」
「引きが悪い?」
「あぁ、こっちの話、それより零ちゃんせっかくだからこれから温泉一緒にどう?」
「え?」
「いやぁ、時間も時間だし温泉にでも入って夜を明かすってのはどう?」
「いや・・・・・・」
「お願い零ちゃん、ここの温泉朝日がすっごく綺麗に見えるところだから一緒に入ろう、ね、ね」
ねーねー泣きついてくるアミさんにほだされ、一緒に温泉に入ることになった。
まぁ、ちょうど汗をかいてベタベタしていたところだったから、ちょうどいいし、何よりアミさんからは色々と聞かなければならないことがあると思った。
私の質問に、子どもたちは安心したようにため息をついた。
「お、お客様ですか?」
そう言ってきたのは見たことのない坊主頭の男の子だった。
「変な音がしたから、どうしたのかなって」
「申し訳ありませんご迷惑をお掛けして」
「ううん、それはいいんだけどこれ、なにしてるの?」
ロープでぐるぐる巻になった大きな右腕、どことなく招き猫の招き手のように見えるのは気のせいだろうか?
「これを、運んでいるんです」
「これを?」
私が大げさにそう言うと子どもたちは小さく頷いた。
「君達だけでこの大きな右手を運んだの?」
すると坊主頭の長男が少し迷った顔をしてからこう答えた。
「それが、最初は俺たちだけで山から運んでこようとしたんだけど重たすぎてどうにもならなかったんです」
そりゃ、あの大きさは無理がある。いや、人が同行できるようには到底思えない。
「それで、どうしようって悩んでたら急に知らない姉ちゃんが来て理由も聞かずに手伝ってくれたんです」
「それから?」
「知らない姉ちゃんが手伝ってくれた途端、急に軽くなって簡単にこの場所まで持ってこれたんだ、それでありがとうって言ったら、姉ちゃんが「こちらこそありがとう」って言ってどっかに行っちゃって」
「そのお姉ちゃんはここのお客さん?」
「うーん、おれ厨房だからあんまり客のことは知らないですけど、ミコヤコ、知ってるか?」
「ミコヤコ?」
「あ、この二人妹なんですけど、ミコとヤコっていうんです・・・・・・ちなみに俺はフミヤって言います」
ミコ、ヤコ、都ちゃんとは違う子なのだろうか。
そう思い、ミコヤコとやらを見ると二人はフミヤの問いに対して双子の姉妹らしく同じタイミングで首を振った。
「そっか、でも、どうしてみんなはこの手を運んでるの?」
私がそう言うと、三人はみんな口を揃えて「それは・・・・・・」とつぶやいた後顔を逸らしてしまった、さすがは兄弟、息もぴったしだ。
「まさかとは思うけど、君たちが猫地蔵の腕を折ったとかじゃないよね?」
そう言うとまたも兄弟、みんな揃えて肩をびくんと跳ね上げ、互いの顔を見合わせた後、私の顔を涙目で見つめてきた。
「あ、あれ?」
「どうしてわかったんだ姉ちゃん?」
「え、本当にやったの」
「うん、実は・・・・・・」
フミヤはゆっくりと言葉足らずながらも私にこの旅館でのネコ地蔵の出来事について話してくれた。
事の発端は数年前、この旅館がまだ活発に営業しており、ネコ地蔵の右腕が合った頃、その頃、まだ子どもたちは旅館のお手伝いなどしておらず、ただ毎日を平凡に暮らしていたらしい。
しかし、そんな生活の中で子どもたちはとある不満が沸き上がってきた。それは親にかまってほしいということ。小さな子ならごくごく当たり前の感情ことだろう。
学校の友達から両親とどこかにいったなんて話や、授業参観に来てくれたなんて話はあるが、この招喜旅館の子どもたちはそういう類の話に全くついていけなかったらしい。
その分好きなものを買ってもらったり、おいしいものを食べさせてもらえたが、やはり、子どもというものは親に構ってもらいたいという思いが強かったらしい。
事あるごとに悪戯をして親の気を引き、最初のはそうやって気を引いて、怒られたりして子どもの気分は少し落ち着いたらしい。だが、その内そんな悪戯も無視されるようになった。
そんなある日、旅館の古株である庭師の八さんがあまりにも酷い様子の子どもたちを子守するよう命じられた。
そして、そんな八さんから子ども達はこんな話を耳にすることになったそうだ。「この旅館にはネコ地蔵様というのがおって、この猫地蔵様のお陰で繁盛しとるんじゃ」と。
子どもたちはそんな夢の様な話きいて、さらに詳しくネコ地蔵について聞いてみたくなった。
すると、なんでも猫地蔵の右腕にその力が備わっており、招き手が客を呼び、幸福を呼んでいると聞いた。そして、子どもたちはその話を信じ猫地蔵のことを見上げ、そして睨みつけた。
理由は勿論、このネコ地蔵のせいで兄弟たちは親にかまってもらえないから、そんな子どものちょっとした思いにより始まったネコ地蔵破壊計画。
子どもたちはネコ地蔵の右腕にロープを引っ掛け、そして前体重をその右腕にかけた。
するとネコ地蔵の右腕はものの見事に折れてしまい、子どもたちは大喜び、しかし、同時に折れた右腕をどうにかしないとすぐに修理されてしまうと判断した長男のフミヤはすぐに右腕を動かそうとした。
だけど、あまりの重たさに右腕が動くことはなく、そのまま放置する形で諦めることにした。
そんなネコ地蔵の右腕を破壊した翌日、ネコ地蔵の前に行ってみると、そこには折れたはずの右腕はどこかに消えていた。そんな非現実的な事に兄弟は驚き、そして、大人たちはこの異様な光景にただただ驚くばかりであり、その原因が子どもにあるという結論にすら行きつかなかったという。
しかし、猫地蔵の腕が折れたことで旅館には次第に客が寄り付かなくなっていき、親がかまってくれると踏んだ兄弟たちは期待していた。
だが、子どもたちの思う様に事は進まなかった。
両親は徐々に離れていく客足と共に経営難の心労と疲労で、余計子どもたちを相手する余裕がなくなり、営業が難しくなって従業員は減る一方。ついには、家族でようやくこの招喜旅館を維持するだけで精一杯になってしまう結果となってしまったそうだ。
そこまでの事態になった頃、ようやく兄弟たちは猫地蔵の右腕を折ってしまったことを深く後悔したそうだ。
だけど、後悔した所で治せる腕も無く、ただひたすら働くことで親への罪滅ぼしとしたかったのだろう。そして、そんなある日、都ちゃんがネコ地蔵の右腕を発見したとの報告を受けた。
その話を聞いた兄弟たちはすぐさまネコ地蔵の右腕を探しに行った。
本当科嘘かはわからないが、兄弟たちは藁にもすがる思いでその猫地蔵の腕を山中で発見した。そして発見できた猫地蔵の右腕を運んでいる所を私達に発見されて今に至るという。
「・・・・・・でも、どうやって腕をくっ付けるの?」
私がそう尋ねると、子どもたちは考えこんでしまい、結局良い案が見つからなかった時、突如として異変が起こった。その異変は猫地蔵から発せられているようで、私達は猫地蔵に目を向けると、そこにはガタガタと震える猫地蔵の姿があった。
子どもたちは怯えた様子で今にも泣き出しそうになっていた。
そんな状況に私は子どもたちに「逃げて」と声を掛けると、目を覚ましたかのように、ハッとした子どもたちは、すぐにその場から逃げていった。そして、私はと言うと猫地蔵から目を離さずにじっと見つめながら身構えた。
「今日はユダちゃんいて良かったよ」
「なんや昨日なんかあったんか?」
「・・・・・・ま、まぁ」
しょうもない話をはさみつつ、震える猫地蔵は突如として折れた右腕部分から、ユラユラと青白いものが飛び出してきた。その姿は想像以上におぞましく、幾人もの人間の顔がより集まり猫地蔵の形をなしていた、そして猫地蔵の姿そのままで私の前に降り立つと、幾つもある顔の一つが突然喋り出した。
「みゃーん?」
みゃ~んと鳴いたのはちょうどネコ地蔵の顔の部分に当たる場所にいた中年のおじさんだった。
「ぷっ」
私はそんな事を言うおっさんの顔が面白くて思わず吹き出しそうになっていると、足元ユダが大声で笑い始めた。
「ちょっと、笑うないでよユダちゃん」
「そ、そんなこと言うたってあんなん見せられたら怖い言うより面白くてたまらんやろ」
「そうだけど、さすがに笑うのは雰囲気が台なしというか、せっかく姿を表してくれたのにそれは悪いんじゃ・・・・・・あっははは」
私もついこらえきれなくなって吹き出してしまった、そんな笑いコケる私達に、何もせずただ呆然と突っ立っている猫地蔵の幽体に私は少し感謝しつつも徐々に私達の笑いの波は静まっていった。
そんな笑いコケた今、彼らを以前のように除霊させることよりも、あの顔の一つ一つががどんな言葉を発するのかがとても気になっていた。
「ねぇ、ユダちゃん」
「なんや」
「私、右膝あたりにいる、薄毛の人の声も聞いてみたいんだけど」
「じゃははっ、いけいけ」
そう言って私は猫地蔵に突っ込み、特に何もしてくる様子のない猫地蔵の右膝に思い切り蹴りを入れると、その顔は苦痛の表情を浮かべた。
「あ、なんにも言わない」
「なんや、おもんないな」
私の蹴りに打ち震えながら悶える薄毛のおじさんは突然目を見開いたと思えば、突然涙目になり「ありがとうございます」といって私達の目の前から消えていった。
「・・・・・・?」
「じゃっはははは、やるな零、幽霊退治が板についてきたな」
私は何のことだか理解できず唖然とした、だが、ユダは何がツボに入ったのか分からないが随分大げさに笑い声を上げていた。
「えーっと、どれにしようかな?」
私はすっかり相手がおぞましい幽霊であることを忘れ、どの顔でどんな面白い鳴き声を出してくれるのか確かめようか選り好んでいた。しかし、さすがにそんな私の態度に怒りを覚えたのか猫地蔵の幽体は私に向かって突っ込んできた。
しかし、猫地蔵の幽体の顔面に突き蹴りをお見舞いすると再びおじさんの顔に直撃し、そいつもまた燃えるように消えていった。
果たしてこんな簡単に幽霊退治とやらができるものなのかと、不安に思いながらも、この事態をなんとか治めようと必死になっていると、突然私を呼ぶ声がした。
私はおどろいてすぐに振り返ると、そこにはライトを片手に私を見上げる都ちゃんの姿があった。
「都ちゃん、どうしてここにっ?」
「あのっ、お客様が心配で来ました」
「私の心配はいいから、都ちゃんは中にはいってて」
「いえ、お客様の安全が第一ですのでっ」
そうミヤコちゃんが言った途端、突然後方でじゃりを踏む音がしたのに気づいた私は、すぐにうしろを振り返ると、そこにはいつの間にかアミさんが立っていた。
その肩には先ほどまで放置されていた猫地蔵の招き手を軽々と担いでいる姿があり、それはもう頼もしい姿に見えた。
しかし、アミさんが現れた途端、青白い幽体は怯えたようにたじろぎ始めると、再び猫地蔵の中に戻って行ってしまった。
「えっ、なになに、アミさん?どういうこと?」
「まぁまぁ、落ち着いて零ちゃん」
そんなアミさんは突然走りだしたかと思うと、猫地蔵の折れた部分に担いでいた招き手を押し付けた。
すると、ものの見事に右手がくっつき、そして数秒間猫地蔵が振動したかと思うと、青白い光は消え、そしてコトコトンと音を立てて全く動かなくなった。
おとなしくなった猫地蔵を横目に、アミさんはすぐに倒れている都ちゃんの元へと向かった。
どうしてこの人がここにいるんだろう、そう思いながらも私はアミさんが都ちゃんに近づく姿をぼーっと見ていると突然都ちゃんの身体が光りだしアミさんに飛びついた。
そしてその瞬間アミさんからドスンという音とともに何かが落ちた。私は、その落ちたものをよく見てみると、それは人の腕の様なものであり、思わず声を上げてその腕らしきものから退いた。
「えへへ、零ちゃんって意外とチーキモなのね」
「チーキモ?」
「肝が小さいビビリさんのことよ、チーキモ、えへへ可愛いでしょう」
屈託のない笑顔で肝が小さいと言われると色々思うところがあるが、それを言語化できないほどに私は今困惑している。
「・・・・・・いや、私は本能的に危険を察知する能力に長けてるんです、むしろ優秀な生物である証ですよ」
「あら、それは失礼しました」
「それより、それは何なんですか?」
「義手、今まで使ってたの、でも今はほら」
アミさんは右手をひらひらさせてきた。まるでマジックでも見せられているような状況の中、私は頭の中がこんがらがってきた。
「この子は折れた右手の正体」
「そういえば都ちゃんは一体どこに?」
私は都ちゃんの姿を探したが何処にも彼女の姿を発見することは出来なかった。私が混乱気味にアミさんの顔を見ると、彼女はニコニコと笑いながら右手をまるで招き猫のように招いていた。
「まぁ、そんなことより、今回はこれで一件落着というわけ、零ちゃんには少し怖い思いをさせちゃったかしら?」
まるで何か事の真相を知っているかのような口ぶりに私はなんだかもやもやとした。
「そりゃ、まさかあの猫地蔵があんな風に動くとは思いませんでしたから」
「いやー、私もあんなことになってるとは思わなくってさ、右手が完成したからここに戻ってきたってのに、いつの間にか雑魚どもが寄り集まって猫地蔵をパンパンにうめつくしてるんだもん」
「それで、あれは大丈夫なんですか?」
「まぁね、あの右手には一応除霊効果もつけといたし、これからはネコ地蔵が動くことはないね」
「そうなんですか」
なんだか除霊やら何やら、現実離れした話をしてくるが、アミさんは一体何者なんだろうか?
「にしても、あたしの右手がこれでようやく戻ってきてよかったよ、どうにもこの子がいないと引きが悪くてさ」
「引きが悪い?」
「あぁ、こっちの話、それより零ちゃんせっかくだからこれから温泉一緒にどう?」
「え?」
「いやぁ、時間も時間だし温泉にでも入って夜を明かすってのはどう?」
「いや・・・・・・」
「お願い零ちゃん、ここの温泉朝日がすっごく綺麗に見えるところだから一緒に入ろう、ね、ね」
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