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17~邂逅
しおりを挟む晴れやかな笑顔を浮かべ、手を振りながら。黒い雨雲を、頭上に立ち込めさせるカダルをフォルスに引き渡した。
フォルスの脳内ではすでに結婚間近、既成事実上等!の文字が敷き詰められているのだろう。カダルに対してのスキンシップが、激しいのがその証拠だ。
せめてもの対抗なのか、決してフォルスと目を合わせようとしない。肩を抱かれ、体を引き寄せられても決して視線を交えることはしなかった。
「やはりこういう儚げな女はいいな!青ざめて……陽射しが眩しいのか?日射病か?なんなら王宮に寄って、部屋を用意させるぞ。体を休めればいい」
「結構です。いりません、お断りいたします!!……それよりも、早く参りましょう。行動しなければ、いつまでも時間は過ぎない」
さっさと時よ過ぎろ!!カダルの叫びが、ひどく楽しげなディーヴァに聞こえるはずも届くはずもなく……。フォルスと連れ添い、街中デートへと向かって行ったのだった。
「うふふ、これでしばらくは一人で過ごせる!久しぶりだわ~」
カダルと出会ってこのかた、ディーヴァが個人的な時間で離れたことは数えるほどしかない。仕事関係でしか、カダルはディーヴァの側離れてくれることを了承しないからだ。もう慣れたが、さすがにたまにはディーヴァも一人になりたい時はある。一人で街を歩きたいし、買い物だってしたい。
自由に動きまわりたいのだが、必ずカダルがついてくる。悪くはないが、息が詰まってしまう時もあるのだ。カダルには悪いが、今は一人の時間を楽しませてもらおう。
「ねぇ、そこの人」
「おっ、俺か?」
ディーヴァは、比較的近くにいた男に声をかけ。一番賑わっているところはどこか、聞いてみた。すると、中央広場に続いている広い一本道があって。その通りが、一番多く店が出ているし賑やかだと教えてくれた。
どうせなら、たくさんの店を見て廻りたい。そして買い物もしたい。良い情報が聞けたと、男にお礼を言ってその中央広場に続いている道まで足を進めた。
「それにしても、抜けるような青い空ね……気温も高いし。気持ちが晴れ晴れとしていいわね」
だんだんと人が多くなっていく中で、大勢の人の視線を浴びながら、太陽の光を存分に浴びていた。常夏特有の強い陽射しは、浴びすぎれば毒だがほどほどに浴びれば気持ちがいい。それにかすかに甘い果物の香りが漂ってきて、なんとも言えずテンションが上がってくる。
一言で言うなら、楽しいのだ。心がウキウキして、周りのもの全てが新鮮で面白い。道を歩くだけで、まるで冒険している気分だ。
さっきから賑やかな喧騒が、ディーヴァの耳に届く。港から少し歩いて、街の入口に一歩足を踏み入れると。活気よく、屋台で物を売る人々が軒を列ねていた。
この国が、どんな風に発展を遂げているのか。それを確認しながら、歩いて見て回ろうと思っていたのだが。これまたどうして、賑やかな光景が広がっていて。ディーヴァは安堵の息を吐く。今日は祭りで、いつもとは人通りの数も違うかもしれないが。それでも、これだけの賑わいを見せ。また国として、大きな発展を遂げていることに。ディーヴァは大変嬉しく思った。
今ディーヴァが歩いている表通りには、いつもなら観光客向けの加工品を取り扱っている出店などが多く並んでいる。
今日から三日間は祭りということで。簡単に食べられる、軽食の店も並ぶ中。国の特産品や、祭りの時にのみ販売される特別な品々が店に並び。人々が手に取っては、楽しげに観覧しまた購入したりしていた。
そこから道を逸れれば、魚介類をふんだんに使った料理店も多く存在し。フルーツを使った、酒の専門店があったりと飽きることがない。
適当に軽食をつまみながら、石畳の道を歩いていると。ふと目に入った、薄暗い路地裏が目に留まる。普段なら、用が無ければ寄りつかないどころか。目にも留めない路地裏だが。なぜか今この瞬間だけは、そこが気になって仕方がなかった。
「……香りがする」
潮の匂いなら、この国は海が近いのだから。そこらかしこから、匂いが漂っている。だが、ディーヴァが言っているのは当たり前のように匂う、潮の匂いなどではなく。どこか懐かしさを孕んだ、遠い昔に嗅いだことがあるような……。そんな匂いだった。
この匂いを辿って行けば、きっと懐かしいものに出会える。そんな気がしてならず、自然と足が路地裏の方に向いた。
――――なんだか不思議な感覚だった。ここは異世界で、南国的な国で。そんな場所を、一人で歩いているわけで。
……いつもなら、カダルが一緒だったり他に人がいたりで。一人になれる方が少ない。それが、久しぶりに一人で自由に歩いているのだ。
ディーヴァはちょっとした感動を味わえている。何もかもが新鮮で、何気ないことでも楽しい。本当の旅行気分を味わえていた。
「?……ここだけやけに、日当たりがいいわね」
周りは建物の配置のせいで、薄暗く人も寄りついていないというのに。ある一ヶ所だけ、陽が射し込んでいた場所があった。そこにはやはり、一軒の出店があって。陽の光の下で並べられている商品が、キラキラと輝いているのが見えて。すぐに何を販売しているのかわかった。貝を磨き加工して作る、螺鈿細工らでんざいくを販売している店なのだ。
螺鈿細工は、貝の真珠質の部分を砥石といしでみがき、一定の厚さにそろえ。さまざまな形に切って、漆塗面にはめこんだり、はりつけたりする技法で。光線の当たり具合によって、貝の部分が青や白に美しく光るのを利用した、加飾法なのだ。
漆塗面は形にしたがって彫っておき、貝を糊漆ではりつける。貝自体に、線彫装飾をさらにほどこすこともある。木地に螺鈿をほどこしたものもあり、木画やべっこうなどと併用することもあるが。蒔絵とともにつかわれて、その効果をいちだんとあげた。
目に留めたその店は、主に簡単に身につけられるアクセサリーを販売しているようだ。ペンダントに髪留め、ブローチなど。近くで見ると、中々の品だと素人目でもわかる出来の物ばかりだ。
ディーヴァは長く生きている分、分野を問わず様々な価値ある物を見てきたが。この店で売られている商品は、出店で気軽に売って良い商品ではなかった。むしろ仰々しい店で上座に並べられ、金持ちなどが購入しても可笑しくはない品物だ。
……何をどうしたら、こんな人通りが全くない場所で販売することになったのか。ディーヴァは不思議に思う。それと、入手経路についても非常に興味が尽きない。だがしかし、販売する為に店に置いている訳ではないのかもしれない。別の目的があるのかもしれない。
それを思ったら、どうにも理由を聞かずにはこの場から去れない気がして。品物を手に取りながら、売り子である逞しい筋肉の青年に声をかけた。
「お兄さん、聞いてもいいかしら?」
「なんだ?」
淡く光るミルキー色の工芸品が、ディーヴァの手のひらの中でキラキラと光っている。時折それを眩しそうに見つめながら、青年はディーヴァをまっすぐに見た。ディーヴァも青年を見つめ返す。
青年の癖毛の短い黒髪が、風が吹くたびに。フワフワと揺れているのを、思わずマジマジと見つめてしまう。陽の光が、青年のエメラルドグリーンの瞳を。より鮮やかに映しているのにも、目が離せない。
濁っていない、綺麗な瞳。久しぶりにこんなに鮮やかで美しい瞳を見たと、思わず手を伸ばしかける。……だが、途中で我に帰り大人しく手を収めた。
「なぜ、こんな場所で店を開いているの?商売するなら、何もこんな寂しいところじゃなくても、他に人通りが多いところなんてたくさんあるじゃない?」
「一日一つでも売れりゃあ、しばらくは暮らせるからな。暇でもそんなに困らないんだ」
「一つも売れなかった時は?」
「場所を変える」
「……最初からもっといい場所に店を構えれば、手間が省けるでしょうに」
「それには最初に、店を開く為に土地代を払っておかないといけない。どこへ行っても大抵同じだろうが、俺はそんな手間は出来るなら避けて商売がしたい」
「ならこの場所は、土地代がいらないのね。……顔役と、顔を会わせづらいことでもしたの?」
「返答出来ない。――――あんた、冷やかしか?それとも商品を買ってくれんのか?」
陽に焼けた肌をした腕を、商品の方へ伸ばす。これなんかお勧めだぞ、っと。鍛えぬかれた上腕二頭筋を見せつけながら、商品の繊細な造りや出来映えを引き立てている。そのことに思わず苦笑しつつ、またチラッと青年の顔を見てみれば。……ふと、優しい風がディーヴァの周りに吹いた。包み込むように、抱きしめるように。
……この場所に来るまでに感じた、あの懐かしさの正体になんとなく気づいていた。だが、こんなに長い時を経て、まだ会いに来てくれるなんて。
(あぁ……あなただったのね)
堪らなく想いが込み上げてきて、気づけばディーヴァは青年に思いきり抱きついていた。
「なっ?!!」
「会いたかった……」
遠い昔に会った、懐かしい人。懐かしい、懐かしい、懐かしい……!!涙が、止まらない。ディーヴァの金の瞳から、零れ落ちる涙の雫。
それが青年の頬にポタポタと落ちて、下へと流れていく。嬉しそうな微笑みを見せながら、静かに泣くディーヴァの姿に。青年は、目が離せなかった。体が固まり、何か言葉にすることも……口にすることも、出来なかった。
「よもやこんなところで、『末』に会えるとは。やはり、たまには訪れてみるものね」
「なんの話だ!?」
「黙って……」
――――――目の前で夢のように美しく微笑む女は。紫煙の息を、煙草の煙を吐き出すように青年に吹きかけ……ゆっくりと、意識を奪う。夢の世界へ、精神の世界へと誘う。青年が、眠るようにその場に倒れ込んだのを確認し。ニッと深く笑みを溢した。
「んー……成功っ!あとは、こちらから出向いて……」
「――――ディーヴァ、何をなさっているんです……?」
「ん?どこかで聞いたことがあるような声が……?」
「猿芝居はお止めください」
氷点下に勝るとも劣らない、低過ぎて体が凍えてしまいそうな声が。ディーヴァの背後から聞こえてきた。その声に聞き覚えが有りすぎて……。ただその声の持ち主は、絶賛おデート御奉仕の真っ最中のはず。こんなところにいるはずがないと、無視を決め込もうとした時だった。肩を捕まれたのだ。やけに体温を感じない冷たい手で、それが肩とはいえ肌に触れたものだから大げさに驚いてしまう。
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