ルーン・マスター~地味な女が美女になって世界を育成しちゃいます!(モテてはいるがこんなの望んでるのと違う)

桐一葉

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「……魔女ってのはね、自分の目的を達成させる為ならなんだってする種族といってもいいわ。何を奪っても、何を壊しても、何を殺しても――――――何をしてでもやり遂げる。恐い生き物なのよ、軽んじていてはダメ」



 子供を叱る母親のように、ため息をこぼすディーヴァにアレスは大きなお世話と呟いた。



「おせっかいだと言われたことはないか?」
「あたしは、後々災厄になりそうな問題を見過ごすことが出来ないの!色々あるのよ、悟りなさい」
「悟れるか!!わかろうとしてわかるもんでもないだろう?経験したことはないし、なによりあまりよく知らない事柄だ」
「分からなくても、解りなさいな。災厄は迫りつつある、あなたの大切なものを巻き込むほどの災厄よ。……ここは現ではない世界、だから今話している内容はあたしたち以外誰も知らない。ワカラナイ」



 わからないから、どうすることも出来ない。――――なら、どうすればいいか?知っている者が、どうにかするしかない。……未だ噴き出す、無限の闇。アレス自身の闇。晴れぬのは、きっと大切な者が絡んでいるから。今度は手を頭の方に伸ばし、髪をとかすように撫でる。



「悩みというものは、自分自身で解決出来る場合と人に相談して、解決出来る場合があるわ。他にも方法はあるだろうけれど、あまり長引かせてこれ以上の闇が増えても余計につけこまれるだけなんだから……良いと思える方法をさっさと決めて、早期解決をお勧めするわ」
「……俺に、どうしろって言うんだ」
「だから、さっきから言っているじゃない。悩みは長引かせず早期解決、そうする為の方法を決断せよ、ってね」
「そう簡単に悩みが解消されれば、俺は今こうして苦しんでねぇ!」



 どれだけの時間、幾年月その『悩み』に苦しんできたのかは知らない。ディーヴァはアレスではないし、アレスも。自分の悩みが、他者に理解されるとは思っていない。

 他人にとっては、本当にどうでもいいと言われかねないからだ。他人の悩みなど、細部に到るまで理解出来る者など……誰一人として、存在しない。それをわかっているから、アレスは死にたくなるほどの苦しみが心を蝕んでいく。心を蝕み、闇は広がり――――やがては魔女に利用される。



「哀れね。……なら、他のことで頭と心を一杯にしてしまったら?」
「?どういう意味だ」
「だから、その悩みがぶっ飛んでしまうような事柄で、あなたの中を一杯にしてしまえばいいってことよ」



 ディーヴァがニィッ、と口の端を上げるのを間近で見て、嫌な予感が沸々と沸き起こってくる。たいして共に、時間は過ごしていないが。なんとなく、ディーヴァという女のことがわかるような気がしたので。嫌な予感は当たるかもしれない。元々近い距離にいた二人が、アレスの方からジリジリと後ずさっていく。ディーヴァは余裕綽々と、憎らしく感じるほどいい笑顔を見せていた。



「なぜ逃げるの?」
「嫌な予感がするからだよ!」
「あら。女が男相手になら通る理屈だけれど、男が女に対して言うのはとても新鮮ね。珍しいことだわ」
「その珍しい事態に陥っているように思えてならねぇんだが?」
「不測の事態というものは、突如起こりうることだから不測というのだろうし。それに……突然、あり得ないことをされてしまったら。悩みなんて吹き飛ぶでしょう?」



 ディーヴァの豊満な胸が、アレスの胸板に押しつけられたことを。頭で理解するよりも早く、それは唇に触れた。
否、触れたという生易しい表現では足りない。噛みつかれた、と言った方がきっと正しい。逃げられないように、アレスの首に両の腕が回り。頭を押さえられ、深い口付けをされている。

 ……頭が真っ白になるほどの快感が、身体中を駆け巡り。心の中まで蕩けさせる。口の中の粘膜を蹂躙され、舌を絡め取られ唾液が交わる音が聞こえる。その音を間近で聞きながら、甘い痺れに身体中が犯されていくのを感じた。気づいたら、ディーヴァの腰に自らの腕を巻きつけていた。



「っ……!!」



 その途端に、優雅な微笑みを見せたままディーヴァが唇を離す。それが合図となり、自然と目の前に存在を主張していた滑らかな肌の首筋に。アレスは唇を持っていく。輝くばかりの白い肌の首筋に、アレスは唇と舌を這わせながら。高くそびえ立つ双丘に、手を伸ばしかけた。



「――――――忘れられた?」



 そこでアレスは、霧が晴れるように意識がハッキリさせる。夢中になって、ディーヴァの体を貪ろうとしていた事実に。冷静になったところで慌てて体を引き離す。



「その様子じゃ、忘れられていたようね。……これで少なくとも、何かに熱中していれば悩まないで済むってわかったじゃない。良かったわね」
「良いわけあるか!!……熱中しろったって、お前ほどの女がそうゴロゴロ転がってる筈がねぇだろう。それならとうに結婚して、子供の一人や二人いてもおかしくない」



 ボソボソと声がか細くなっていき、ついには黙りこんでしまう。いい女だと、褒められているのだろうが。どうにも、堪らない反応を見せるアレスに。柄にもなくディーヴァは、男に対して可愛いと思ってしまった。大の男に、可愛いは禁句だろうが。それでも、気に入ったと思えるほどには可愛かったのだ。



「ところで、あたしのお触り代のことなんだけど」
「はぁ!?料金取るつもりかよ、あんたの方から迫ってきたくせに!」
「当然でしょう?あたしはそんなに安くないのよ、あたし一人で国をいくつも買えるんだから。むしろあれだけのことが出来て、光栄に思いなさい」
「押しつけられただけなのに料金請求って……」
「あら、あたしは真っ当な良心の元に納得のいく支払いを要求しているつもりよ。……というわけで、欲しい物があるからそれをあたしに頂戴。そうすれば、また付き合ってあげてもいいわよ?」



 なんという高飛車、なんという高圧的な態度。だが、そんな女に逆らえそうにない自分がいることに驚愕した。



「あなたが売っていたのは、貝を加工した単体の物だけでしょう?」
「そうだな。貝を磨いて作られた加工品で……簡単に身につけられるものばかりだ」
「貝の装飾品は欲しいの。ただ、丸い形に加工した貝の上に、薔薇の形の木彫りを被せた髪飾りが欲しいのよ。……そういうのはない?もしくは作れない?出来れば朱色に塗った木彫りがいいわ」



 いきなりの注文に、アレスは苦笑して見せた。そもそも、貝を磨くだけで相当の時間を要する。それから、細かい作業が必要となる木彫りも。今日・明日に出来上がるはずもなく。その上、そう簡単に既製品で注文通りの品が、見つけられるかもわからない。

 ディーヴァに対しての返答は、かなり曖昧なものになった。だが、それで諦めるほどディーヴァは物に対しての執念が希薄ではない。改めてアレスに言った。



「何も今すぐってわけじゃない、気長に待っててあげるから良い品を作って持ってくるか、見つけてきてきてちょうだい」
「……俺でいいのか?この国には、その手の職人はゴロゴロいるぞ。それこそ、王族に品物を卸しているところもある。品質も確かだし、早く手に入れたいならそこに行けばいい」
「あたしは、あなたが用意した髪飾りが欲しいの!他のところでいいなら、とっくにそこで買ってるわよ」



 意図に気づかないのか、気づかないフリをしているのか。視線すら合わせようとしない。その態度も腹が立つことこの上ないが、色好い返事をなかなかくれないことに焦れてアレスの顔をさらに覗きこむ。ディーヴァのいきなりの行動に驚いたのか、大袈裟に後ろに下がろうとしたのを腕を捕まれ阻止される。



「あんたは何がしたいんだよ!!」
「さっきから言ってるでしょう?あたしは、あなたが用意した髪飾りが欲しい。あなたでなければ意味ないわ」



 欲しいのは、確かな形として残るモノ。証となる、薔薇の髪飾り。この国に来た確かな証として。自分が大切に想っていた人たちの、末からもらった『思い出』として。



「……ま、考えておいて。とりあえず、お互い目を覚ましましょう。起きた時にあたしはいなくて、あなたは元通り店の売り子をしているけれど……決してこれが夢だと思わないことね」



 夢は醒めるもの。だが、覚えていることもある。ディーヴァの告げた言葉に、アレスは一気に現実に引き戻された。……今ほど、聞いたこと全てを忘れたいと願ったことはない。大切な者が、自分のせいで災厄に巻き込まれてしまうその事実を……忘れたかった。



「――――なぜ、だ…………どうして……っ!!」



 甦ってくる、幼い頃の記憶。夕暮れ刻、幼い弟と一緒に走って両親と妹の待つ家に帰った。おかえりと言って、抱きしめてくれた母親。そんな自分の頭を撫でてくれた父親。自分もとせがんで、機嫌を悪くする弟。家族が揃って喜ぶ幼い赤ん坊の妹。

 赤い夕陽が眩しくて、みんなが笑っているのに。それをまっすぐ見ることが出来なかったのを、よく覚えている。
幸せな、思い出だ。泣きそうになるほど、幸せすぎる思い出だ。



「災厄…………」



 家族に、災厄が降りかかるというのか?……違う!!そんなことはあり得ない!

 闇は深まるばかり。自らを覆い、周りも巻き込んで――――やがて息が出来なくなる。まるで、海の底。終わりの見えない海の底で、アレスは意識と共に沈んでいった。









 対してディーヴァも、アレスの深層心理の世界から帰還し、目が覚める。気だるげに身を起こしながら、辺りを見渡し見覚えのない景色に気づき。カダルを目で捜す。すると、ちょうど奥の部屋に続く扉から出てきたカダルが。ディーヴァがいるベットに足を運んだ。



「あー……目覚めが悪い」
「いかがでしたか?」
「いかがも何もないわ、最悪の事態よ」



 やけにふかふかのベットから降りながら、カダルに不機嫌な状態であることを伝える。そして、ここがどこなのか尋ねてみると。ディーヴァが意識を失った後、なんと王宮まで運んだというのだ。

 フォルスがカダルの為にあてがった部屋らしく、それはもう……それはもう、豪華すぎる部屋だった。白亜の大理石で作られた壁に模様入りの床、置かれている女物の調度品はどれも一目で高級な物とわかる。

 香水に装飾品にドレス、たくさんの花が豪勢に花瓶に生けてあり。カダルへの愛が、如実に表れているようだった。

 そのことにまた笑いを溢しながら、少しだけ肌を撫でる涼しい風が吹いたのを感じ。広いバルコニーの方へ、視線を向けた。

 部屋の中からでも、水平線の海が見られ。ちょうど、夕陽が海に沈む時刻だった。辺り一面の海が、薔薇色に染まり。なんとも言えない、美しい光景が広がっている。



「……綺麗ね」











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