ルーン・マスター~地味な女が美女になって世界を育成しちゃいます!(モテてはいるがこんなの望んでるのと違う)

桐一葉

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21☆~アルベルティーナ姫

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 やはり階段をかけあがっていくより、まっすぐ直線で目的地に進む方が早かった。……普通の人間では、ただ登るだけでも苦労するというのに。まったく羨ましい能力である。

 この国では、窓枠に窓ガラスをはめ込むことはしない。部屋の中に熱を集めてしまうからだ。当然、王女の部屋にも窓は取り付けられていない。

 その代わり、木の板を窓ガラスの代わりにはめ込んではいたが、それも木の棒で支え空気の通りを良くしていた。塔を登りきり、窓枠に手を置けばすぐに室内が見渡せる。中の住人に見つからないように、コッソリとではあるが、中を覗いてみた。

 ……室内では、蝋燭一本の明かりのみが部屋の中を照らしていたので、やけに薄暗い。枕元に蝋燭が置かれていたので、眠りから目覚めない王女とずっと側についている侍女の顔がぼんやりと見える程度だった。だがしかし!



「(あの侍女、かなりの美人だ……好みかも)」



 項で一つにまとめられた、淡い水色の髪に。蝋燭の明かりで揺らめく、黒曜石の瞳。その大人しめな顔の造りとは裏腹に。露出は少ない侍女服だったが、出ているところは出ていて。引っ込んでいるところは、引っ込んでいる。存在をかなり主張していた。

 その瞳が、ベットの上で静かに眠る美しい姫君に向いている。ひどく心配そうに、苦痛に歪んで。悲しげにしている様も、まるで一枚の絵画のようだ。ディーヴァは思わず見惚れてしまい、声に出して呟いてしまった。



「うっつくしー……」
「誰っ!?」
「あっ、しまった」



 声からは、全然うっかりした感じには聞こえないのだが。のほほんとした曲者の雰囲気に、侍女は呆気にとられつつも。鋭い眼差しで、ディーヴァを睨みつける。室内に入り込むと、瞬時に侍女の目の前まで駆けた。



「っっ!?」
「こんばんは、美人のお嬢さん」



 艶めいた笑みを浮かべながら、侍女の足を引っかけ床に倒すと。その上に乗っかり、覆い被さるようにして深いキスをした。決して逃がさぬように体を固定して、深く深く口付けする。



「んっ?!んぅっ……んんっ!!」
「んー……」



 ディーヴァの体内で作り出される、特別な紫煙。それを噴き出し、吸わせるだけでよいものを。悪戯心が働きせめてもと。侍女に深い口付けをして、紫煙を直接体内に摂取させた。



「んっ……!?」



 深い口付けをされた為か、紫煙を体内に入れられたせいか。侍女は意識が遠のいていき、目が段々と閉じていく。侍女は意識を失い、体の力が完全に抜けきるとディーヴァにその身を預けた。



「はー……欲望に負けなかった自分、偉いぞ!味見したいが、今は我慢だっ」



 悪いと思いつつ、侍女をそのまま床に寝かしベットで眠る王女のところまで忍び足で近づいた。……複雑な模様で織られた、透ける天葢から見えるその姿。同じ模様の薄い掛布団を体に掛け、呼吸も浅く。まるで死んだように眠っている。間近で顔を見てみると、やはりどことなく雰囲気が第二王子のフォルスと似ていた。

 褐色の肌で、分かりづらくはあったが。顔色は血の気がなく、頬も痩けていて……。せっかくの美人が、これでは魅力が半減だ。豊かな金の髪も艶がなく、唇もカサカサ。日中のほとんどを、この陽射しが入ってきそうにない室内で過ごしているのだろうから。こうなってしまうのも、仕方がない。

 じっくりと眺めているのに、起きる気配さえない。まぁ、ディーヴァにとっては好都合ではあるのだが。……アルベルティーナと額をくっ付け、昼間と同じ文字を詠唱した。彼女の『中』へ入る為だ。



「『ニイド』」



 辺り一面が、光に包まれる。南国の眠れるお姫様、あなたの心を見せて下さい。代わりに、私の心も見せましょう。意識を集中させ、アルベルティーナの深層心理の世界へと潜っていった。

 ――――目を開ければ、そこには一面に広がる花畑の風景が広がっていた。たくさんの大きな白い花びらが、風に乗って遠くへ運ばれていく。それが延々と繰り返される、終わりが見えない世界。……辺りに目を配り、目的の人物がどこにいるのかを捜す。そう遠くない場所にいるはずだ、少なくとも目の届かない場所にはいないはず。

 ――――ここは夢の世界。望めば、大抵のことは叶う世界。だからディーヴァが望めば、すぐにでも彼女と会える。その願い通り、ディーヴァが立っている場所からそう離れていないところで。花の中にうずくまる、長い金の髪を見つけた。少しずつ近づき、様子を見る。すると、嬉しそうな声で歌を歌いながら。一輪ずつ彼女は白い花を摘む。幸せそうに、花束や花輪や花冠を作る。また一つ大きな花束が出来上がると。花束に顔を埋め、蕩けるように幸せそうな微笑みを見せた。

 現実での彼女が、まるで嘘の彼女のように錯覚してしまう。だって、彼女は本当に幸せそうなのだ。辛いことも苦しいことも何も知らないように、笑っているのだ。……だが、ディーヴァだけは気づいていた。このまやかしの世界のように、彼女の幸せそうな笑顔もまた、まやかしなのだと。



「うふふ、綺麗!とっても綺麗っ!」



 確か聞いた話によれば、王女は十五になったばかりのはずだ。多少、幼さが残っていても仕方がないだろうが。傍目から見て、彼女は無邪気の一言に尽きる。……よく見ると、彼女の周辺には。いくつもの花の造形物が作られていて。それが家族の分だと気づくのに、そう時間はかからなかった。



「素敵素敵!とっても素敵!!……みんなも、ここに来られたらいいのに」



 無邪気に花を摘み取っては、辺りに撒き散らし花の雨を降らしている。落ちてきた花びらがヒラヒラと顔や頭に降り注ぎ、それを払い落としながら一人呟く。悲しげに、寂しげに。ポツリと独り言を洩らした。



「綺麗なところだな、ここは!」



 俯いていたアルベルティーナの背後から、いきなりディーヴァが声をかけた。ここには自分しかいない。そう思っていたアルベルティーナは、大層驚いた。まさか誰かに声をかけられるなんて、夢にも思っていなかったようで……。恐る恐る、ディーヴァがいる後ろの方へ振り向いた。



「……あなたはだぁれ?」



 先ほどまでは見られなかった、澄みきった空色の瞳が。綺麗に、ディーヴァの姿を映す。吸い込まれそうなガラスの瞳に、不覚にも胸が高鳴りを覚えた。



「俺は――――ディーン。君のお兄さんの知り合いだ」
「どちらのお兄様?」
「どっちもさ、どっちとも知り合いだ。……お嬢さんは、何してるんだ?」
「この白い花で、贈り物を作っているの。花を贈ったら、喜んでもらえるでしょう?……こんなにたくさん咲いてるんですもの、たくさん……たくさん作れるわ」



 確かに、見渡せる全域に花が咲いてる。……ここは、アルベルティーナの深層心理。心の中で思い描いている、大切な風景だ。きっと、幸せだった頃の思い出が。この場所に詰まっているんだろう。

 苦しいことも、悲しいことも。ここには何一つ存在しない。それがどこか、もの悲しく感じさせた。こんなに、幸福そうに笑っているのに。



「なぁ、お嬢さん。聞いてもいいか?」
「なぁに?」
「君は、いつからここにいる?」
「ずっとよ。ずっと、ここにいるの。……だけど、誰も来ないわ。あなた以外は」



 いきなり立ち上がり、花束を持ったままディーンの元へ駆け寄っていく。フワフワの金髪が揺れるたびに、花びらが舞う。空に飛んでいく。

 ネグリジェではなく、美しい白いドレスをひるがえしながらまっすぐ向かってくるアルベルティーナを前に、ディーンは優しく微笑んだ。瞳は哀しさを宿して。



「お嬢さん」
「名前を呼んで。ここに来てくれたあなたなら、わたくしの名を呼んでほしいわ」
「……いいのか?」
「もうずっと、わたくしの名前は呼ばれていないの。寂しいの、だから呼んで」



 白い花の花束を手に抱え、優美に微笑む美しい姫君。まるで、夢のようだ。夢のような美しさだ。

 今の現実の王女ではあり得ない、理想を映した鏡のようだった。……そんな空想は、悲しすぎるだけだというのに。なぜ人は、夢を見てしまうのだろうか?

 悩みは尽きないが、それでも。中身までは、嘘ではない。正真正銘の王女、アルベルティーナ姫だ。



「アルベルティーナ、俺の話を聞いてほしい」



 現実で、アルベルティーナが寝込んでいるのは。ただ病弱というわけではない。こうなってしまった原因に、心当たりがあったディーンは。あえて遠回しに聞くことはせず、まずは順序よく話していくことにした。



「君には、大切な家族がいるね?」
「えぇ!大好きな家族よ。……とっても優しいし、わたくしのことを大切に想ってくれているの」
「その家族の元に、帰ろうとは思わないのか?ここでは君は一人ぼっちだ、話し相手もいなければ名前を呼んでくれる人さえいない。……家族の元へ、帰らないか?」
「……………帰れるものなら、帰りたいわっ!」
「わっ、ぶ!!」



 いきなり持っていた花束を、顔にぶつけられ。口の中に入ってしまった花びらを、吐き出しながら。顔に付いた花粉を払う。……アルベルティーナに視線を向けると、両手で顔を覆い。嗚咽を洩らし、涙の粒をこぼしていた。涙が花の上に落ちていく。ポロポロと、こぼれ落ちている涙を受けとる花々も。涙が落ちるたびに、揺れて忙しない。

 そんな中でさらに、アルベルティーナの体が。かすかに震えているのを、ディーンは見逃さなかった。泣いているせいで、震えているわけではないようだ。

 ……何に怯えているのか、それとも恐がっているのか。アレスといいアルベルティーナといい、心の中の闇は深い。



「どうした?」
「こ…わ……い……っ!!」
「何がこわい?」



 流れる涙は、まるで宝石のようにキラキラと輝く。このまま結晶化して、形として残ればいいのに。



「(そうすれば、君がいかに綺麗なモノを生み出しているのかを。見せてあげることが出来るのに。――――――あぁ、綺麗だ……)」



 美少女が、悲しみに暮れているというのに。そんなことばかり考えるディーンは、不埒者だ。だが、それと同時に。泣いてる子供には、とても優しく接する。泣いていたら、抱き寄せて……泣いてる顔を隠してやって。髪を優しく撫でてやる。よしよしと、子供に優しい母親のようにアルベルティーナを慰める。



「言ってみろ。俺なら、どうにかしてやれるかもしれないぞ?」
「助けて、くれる……?」











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