赫耀たるガージャフローロ:第1部

逆砂ネジリ

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【第一部】 夢へともがく者達:下

揺蕩う白煙(2)

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「領主様、どちらに行くのですか?」

 オーディエルダの迷路のような路地裏をするすると歩いていくジーンヴァルに、ナハトはとうとう話しかけた。既に陽は沈みかけ、世界に夜が来ようとしている。薄暗い路地裏では見通しがあまりにも悪かった。
 ナハトの言葉にジーンヴァルは振り返ることなく「黙ってついてくればいい」と言う。ナハトは思わず後ろを歩くロウをちらりと見る。ロウは首を傾げ「さっぱり」と言葉には出さずに考えを伝えた。
 そうやってもう数えることも飽きるほどの曲がり角を進み続けていくと、鼻が嫌な匂いを嗅ぎ取り始めた。最初は小さな違和感が、確信へと経ていく。焦げた匂い、煙の匂い。ジーンヴァルの目指す場所は、もう目と鼻の先だ。
 開けた場所に出た。白煙が上がるその場所は、石の塀で囲われている。塀の中を見たジーンヴァルは「やはりか」と呟いた。

「ガキ。お前を襲ったのはアイツ?」

 ジーンヴァルが指差すのは鉄製の門。ナハトは目を凝らして指し示された先を見る。
 そこでは黒いローブを羽織った人が立っていた。フードを被ったその背格好は、まさしくナハトを襲った人物そのものだ。

「そ、そうです!!」

 思わず大きな声で言ったナハトの頭をジーンヴァルが叩いた。同時に塀の中の人物が動く。ローブの人物はナハトの声に気付き、脱兎の如く逃げ出した。

「馬鹿。お前のせいで逃げられた」
「も、申し訳ありません」
「はー。ま、捕まえられたらラッキーくらいに考えてたからいいけど。あーもう面倒くさい。動きたくない家で寝ていたい仕事したくない」

 ブツブツと文句を言いながらジーンヴァルが門に触れる。するとバチン、と音がした。ジーンヴァルの手が門に弾かれたのだ。ジーンヴァルは弾かれた指先をじっと見つめる。ナハトは反射的にジーンヴァルへと駆け寄った。

「だ、大丈夫ですか!?」
「うるさいガキ」
「う、申し訳ありません」
「お前とのやり取りが面倒くさい。次に謝ったらルードゥア川に流すから謝るな」

 あまりの横暴さにナハトはポカンと口を開いてジーンヴァルを凝視する。ジーンヴァルはナハトのことなと眼中に無く、指先の次は門へと視線を移した。

「……やっぱり、魔法はかかってる。おかしい、何故入れた?」
「――……えっと、口出ししたくはないんですけど、領主サマ、少しいいですか?」

 ロウが遠慮がちにジーンヴァルに話しかける。ジーンヴァルは「言え」と淡々と命令した。

「ここ、ゼラニーム家跡地ですよね。白煙が上がってますし、何か燃えてたらまずいんじゃないですか?」
「既に一度全焼し放置された貴族の家だ、既に家財は無に等しいし、大して問題にはならない――が、ゼラニーム家に関係の無いモノが燃えている方が問題だ。――あぁぁ! くそが!」

 ジーンヴァルは突如叫び、乱雑な動きで門に何度も蹴りを入れる。バチバチと弾かれる音が周囲に響き、その都度ナハトの肩が跳ねた。
 ナハトはジーンヴァルの情緒が心配になりつつも、余計なことを言って叱られるのも嫌なため近くで彼の奇行を見ているしか出来ない。ジーンヴァルは人の目など気にもしていないようで、何度も何度も門へ蹴りを入れており、ロウは領主の奇行に完全に引いていた。ふと、ナハトはジーンヴァルから門へと視線を移した。音が変わった。その変化に気付いた、次の瞬間だ。

「――さっさと開け! ザーラオ!!」

 ジーンヴァルの言葉と共に足蹴が門へと入る。弾く音が消え、瓶が割れるような鋭い音が響き、鉄製の門が錆びた音と共に開いた。
 魔法で魔法を破壊した。その強引さに領主という肩書きが結びつかない。同じスティロ階級の貴族であるルーカスも変わった男だったが、この男も大概だ。
 ジーンヴァルは首を鳴らし「あー面倒」と呟きながら門の中へズカズカと大股で入っていく。ナハトとロウもジーンヴァルの後を追った。
 ゼラニーム家跡地。かつて全焼した貴族の家があった場所。石塀の中、時が止まったように鎮座するのは煤けた屋敷と黒焦げの木々。数年単位で管理されていない場だというのは明白だ。白煙は屋敷の庭から上がっている。ジーンヴァルの足は真っ直ぐ白煙へと向かっていた。

「ちょっと領主サマ。オレが先を歩くって。何かあったらヤバいでしょー」
「うるさい。魔法も使えない平民に私が出遅れるわけが無い」
「肉盾ぐらいにはなれるかもしれないじゃないですか」
「なるほど。危ない時はお前を前に出してそうするよ」
「うわ余計なこと言っちゃったよ」

 最後にロウがボソリと呟いた言葉が届いたのはナハトだけだった。

「ふーん」

 たどり着いた庭は焦げ臭く、薄くなった白煙が辺りに漂っている。燃やされていた物を目視したジーンヴァルはしゃがみ込み無造作にソレを掴み上げた。

「お前たち、これに見覚えは?」

 ジーンヴァルが掲げたソレを見て、ナハトは息を呑んだ。その反応をジーンヴァルは見逃さない。

「お前、あるんだな? これを、見たことが」

 開ききった瞳の力に、ナハトは気圧されながら頷く。ジーンヴァルが掲げているのは、薄い木の板。焦げて半分黒くなっているが、表面に描かれたモノはまだ残っていた。円と文字、そして幾何学模様で構成されたソレは――魔法陣。
 ナハトは震える唇で言葉を紡いだ。

「リコルト村で……見ました」

 あの日、リコルト村での誘拐事件の日に見つけた、魔法陣と同じ物だった。
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