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転・個人恋愛ルート、続編
チャミエルルート 2
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「・・・・・ん」
少し頭痛のする頭をなんとかこらえながらロードが重い瞼を開けると、目の前には見覚えのあるコバルトブルー色の大きな瞳が2つ。
「!!??」
ロードに比べたら1.5倍~2倍はありそうなぱっちりお目目でもって、それこそ穴が開くんじゃないかというほどこちらをじっと見つめている。
「ちゃ、チャミエル・・・さん?」
「キャハ☆おはよ~ロード!」
鼻と鼻がぶつかりそうな超至近距離でロードの目前にいたのは、ツインテールがとてもよく似合うチャミエル。
「おはよって、ちょっと・・・ッ!?」
起き上がろうと両手を動かした途端、ガチャンッ!!と本来聞こえるはずのない金属音が両耳に響き、ロードの頭の両方に置かれた手は床にぴったりと何かの金属で拘束されていた。
ちなみに、肩幅に開かれた両足も同じように拘束されてちっとも動く気配がない。
チャミエルはといえば、四肢が動けなくなったロードの腰あたりにちょこんと座り込んでニコニコと上機嫌に笑っていた。
「ちょ、ちょっとチャミエル!!これ、一体何の悪ふざ・・・・あいたたたっ!!」
力を込めた瞬間に、頭痛がまたロードを襲った。
そうだ、思い出した!!
事の起こりは今日の夕方。
最近なぜか予定がありすぎるラジエルが、本日も町にたった1つの古代魔法や数々の伝説に関する骨董品や魔法書を扱う古いお店で、予約で入荷があと数年先と言われていた『伝説の勇者がかつて使っていた兜』かもしれない物とやらが、はるか海の向こうにある砂漠の国から突然入荷が早まり本日急きょ店に届くとかで、授業が終わり次第吹っ飛ぶようにして先に帰っていったのだ。
確か、昨日はこれまた数年先に入荷予定だった『伝説の勇者がかつて伝説の鳥を召喚する際に使っていたオーブ』の1つかもしれない物とやらが届くことになったと飛んで帰り。
その前は『伝説の勇者が闇の国へ行く際に使っていた太陽の石』かもしれない物が届いたと、転げるようにして帰りーーーーなどなど。
少し、いやだいぶおかしい自体が続く中で、せっかく毎日2人きりになったのだからと連日チャミエルの買い物やスイーツ巡りに付き合っていたのだが。
「ちゃ、チャミエル、さん?きょ、今日は確か、おいし~~いチョコレートのケーキを、た、食べに行くんじゃなかったっけ?」
なのに、何でいきなり拘束プレイになってんの!?
どこから選択肢を間違えて、バットルートに思わず入り込みましたかッ!!
「ごめんね、ロード!手加減したつもりなんだけど。それにチャーミーったらうっかりしてて、今日はピエールマーサのお店がお休みの日だってことすっかり忘れてたの!」
「う、うん。それで?」
まさかのお店がお休みの日にぶち当たると、ルートがバットへと自然と向かうんですか?
「でも、チャーミーどうしても今日はチョコレートが食べたくって」
「そ、それなら、今から別のお店に行こうよ!チョコレート菓子のお店なら、他にもたくさんあるから、ねっ!!」
くすん、くすんと泣いてるポーズをわざとらしく取るチャミエルをなんとか説得しなければと声を張り上げるが、チャミエルはこちらの声が聞こえていないのか聞く気がないのか全く頷かない。
「ほら、この間一緒に行った、生チョコ専門店!!いくらでもあそこであーんしていいから!むしろするから!そっちにしようよ、ね!お願いだからチャミエルっ!!」
このままでは何か違うルートにどんどんつき進んでしまうと、ゾクゾク背中の悪寒が止まらない信号を決して無視できずに必死で代替案を出す。
とりあえず、この拘束ルートは絶対にダメな気がする!!
しかも、気がつけば今のロードはパンツ一枚で他は全部素っ裸。
周りを見れば、どこかの地下室のような場所でこの状況。
そして、チャミエルの後ろには何人ものロードの味方にはならないだろうチャミエル専属の執事が控えていた。
これで慌てない方がどうかしている。
「うーーーーん、それもすごく楽しそうなんだけど♪」
「うんうん!!絶対にそっちのが楽しいから、そっちにしようよ!ねっ!!」
「でも、今日はロードをスペシャルチョコレートデコレーションしちゃいまーーす☆」
「・・・・・・・・・へ?」
大変可愛らしい顔でウインクを決めながら、ロードの前に立ち上がったチャミエルの手にあるのは銀色のボール。
丸い方じゃなくて、ケーキとか作る方のボールで普段使うような大きさの軽く3倍はある大きなボールの中には、たっぷりの液体にとろけたチョコレートが入っていた。
「ロード、楽しみにしててね♪今日はチャーミーがロードをすっごい可愛くデコっちゃうから☆」
「!!??」
いやいやいやいや、デコる『モノ』が明らかにおかしくないかな!?
しかも、いつのまにかチャミエル自身も制服から花柄ピンクのビキニの水着に着替えて、ツインテールはじゃまにならないように2つのチャイナ風お団子にまとめられてるし。
うん、どっちもよく似合ってる!!
そしてやっぱり水着の時は縄は外すんだねって、気にするとこはそこじゃなぁーーーい!!
「ロード、ちょっと熱いけど我慢してね?」
「い、いや我慢って、ちょ、ちゃ、チャミエルっ!?」
「えーーーーい☆」
「・・・・・・あ、あっちぃぃーーーーーッ!!!」
熱湯とは言わないまでも、熱めのお風呂のお湯ぐらいの温度を持ったチョコレートフォンデュ用の茶色の液体がロードの肌色を一気にショコラ色へと塗り替える。
「キャハ☆熱いけどやけどはしないから、安心してね!」
「そ、そういう問題じゃないっ!!」
裸にチョコレートなんて、BLのバレンタイン内容で『プレゼントはボクです』っていうネタ漫画でしか見たことないよ?
しかもそれをやって許されるのは、むしろ目の前で本来チョコレートでは使わないはずのハケを使いながらムラのないようにチョコレートを楽しそうに鼻歌口ずさみながら伸ばしてるチャミエルの方だからねっ!?
俺みたいなモブがチョコレートまみれになっところで、一体コレは誰得なのか。
「ちゃ、チャミエル!!お願いだから、やめ・・・・んッ!!」
「キャッ!ロードってば、もしかして感じちゃった?」
「ち、違うっ!!」
たまたま、そう、たまたまハケが胸の突起の部分をかすめたからびっくりしただけだ。
「ふふふ~~ロードったら、可愛い♪」
「ちょっ、ちゃ、チャミエルやめろって!!そ・・・・そこばかり、いじる、なっ」
もうそこにはチョコレートがじゅうぶんに乗っかっているというのに、チャミエルはニンマリと嬉しそうに何度も何度もそこばかりを執拗に刺激する。
さわさわと優しく撫でられるごとにチリチリとむず痒いような感覚や、ピリピリした下半身にまで刺激が伝わるような感覚がロードを容赦なく襲う。
「や、やめ・・・・ッ!!」
「あっ!ごっめーーーん!」
「へ?」
突然胸への刺激がピタッと止み、チャミエルがロードのそばをあっさりと離れた。
「チャーミーってば、下地ばっかりで肝心のデコレーションを忘れてた~♪」
「で、デコ?」
その後、よりはりきったチャミエルの手によってホイップクリームや、おいしそうなイチゴやらをチョコレートでコーティングされた上に次々と乗せられていくが、ただ乗せられるだけならもういいやと8割ほど諦めの表情で終わるのをおとなしく待つ。
ただ、ロードはこの時にすっかり忘れていた。
作った料理やお菓子が、その後どうなることがもっとも多いのかを。
「チャミエルーーーーーーーッ!!!」
その後、完成した『チョコレートケーキ』をそれはおいしそうに食べ始めたチャミエルに向かってロードの悲鳴が響き渡る。
「キャハ☆ロードってば、どっこもおいしい~♪」
「う・・・・うぅ、な、なめるな!噛むな!そ、そんなとこ、くわえるなぁぁーーーーーーっ!!」
「あれ?ロードの生クリーム、ちょっと苦いね?」
「!!??」
「ロード、大好き!!」
「・・・・・・あぁッ!!」
もう、これ以上の実況は勘弁して下さい。
その後もチャミエルに好き放題遊ばれ?ようやくラジエルが迎えに来た頃には、ロードの身体にはチョコレートのかけらもなく、全身キレイに洗われ身なりもきちんと整えられていたが、ひたすらにぐったりと疲れ果て気を失っていた。
「おい、チャミエル。ロードからやたら甘い匂いがするんだが、今度は何をやらかしたんだ?」
「えぇ~~?2人でおいしいチョコレートを食べただけだよ~~♪」
ラジエルが後から何があったのかをロードに詳しく聞いても、真っ赤になったロードはチャミエルと同じように『おいしいチョコレートを2人で食べただけだっ!!』と叫んだ後、布団を頭からかぶってベットに潜り込んだ。
こんな感じで毎日のように美少女ならぬ美少年・チャミエルに振り回されっぱなしのロードだったが、きっとこんな日々はもうすぐ終わる。
ハニエル君が転入してきたら、彼の興味関心は一気に切り替わるだろう。
そして、ついに運命の日がやってきた。
「みんな、今日から我がクラスでともに学ぶことになった新入生を紹介する!!」
「ハニエル・ハルモニーと言います。この学園のことはまだまだ分からないことだらけなので、どうぞこれからよろしくお願いします!」
キタァァーーーーーーー!!!
担任が立つ教壇の横には、ハニーブロンド色の柔らかい髪質をしあちこち跳ねている髪と、琥珀色の大きなクリッとした瞳をした明るく元気な表情のハニエル君が眩しい笑顔で立っていた。
待ってた!!
首を長くして、君のことを待ってたよハニエル君!!
「みんな、ハルモニーと仲良くな!あと、席はグレイシーズの隣が空いてるな。グレイシーズ、頼んだぞ!」
「・・・・・・あ、はい!」
なんと、ルームメイトだけでなく教室でも隣同士になったのはラジエルだった。
「えっと、グレイシーズくん。これからよろしくね!」
「・・・・・・お、俺はラジエルだ。よろしくな、ハニエル!」
ニッコリとお互いに爽やかな笑顔を浮かべながら、2人は挨拶とともに握手を交わした。
うんうん、いい場面だ!
いよいよここからスタートするんだな、友人からのBOYS LOVEが!
「グレイシーズ!お前放課後、ハルモニーに学内を案内してやってくれないか?」
「え?あ、はい。分かりました!」
「ごめんね、君の貴重な時間なのに」
「い、いや・・・・・大丈夫だ」
担任、それはいい選択だ!
グッジョブ!!
「それなら、チャーミーも一緒に行く!!あ、ボクはチャミエルって言うの♪チャーミーって呼んでね!」
「ちゃ、チャーミーくん?よろしくね!」
「ブブーー!!チャーミーって呼んでくれなきゃ、チャーミーすねちゃう!」
頰を可愛らしく膨らませたチャミエルに、ハニエルは苦笑しながらすぐに『チャーミー』と言い直し、チャミエルはすぐさまご機嫌な様子であれこれと話しかけている。
さすがはハニエル君!
チャミエルの興味関心が一気に彼へとまっすぐに向かっていた。
ちなみに席順はラジエルの前がロード、ロードの左隣でありハニエル君の前がチャミエルだ。
「あ、それと、シュトラーゼ!お前は放課後伝えたいことがあるから、教官室に来てくれ」
「わ、分かりました!」
来た来た!!
このタイミングなら、間違いなくハニエル君絡みの寮の部屋移動のことだろう。
「ロード、お前何かやらかしたのか?」
「いや、やらかしてはないけど。多分大したことじゃないって」
「えぇ~~心配!!後でチャーミーにも教えてね、ロード!」
「だから大丈夫だって。でも、ありがとなチャミエル」
「キャハ☆楽しみ~!」
えっと、これ。
一応、心配してくれてるんだよな?
お昼休みは、いつものラジエル・チャミエルの3人に、ハニエル君も誘って4人で食堂で昼食を食べてから屋上で盛り上がっていた。
「ねぇ、ねぇ!これチャーミーが大好きなドーナツ!ハニーにも一個あげるね☆」
「ありがとう!」
屋上では、さっそくハニエル君を気に入ったらしいチャミエルがあだ名をハニーと名付けてあれこれ楽しそうに話していた。
なるほど、ハニーの名付け親はチャミエルなのか。
一緒に屋上に来ていたラジエルは、今朝は夢見が悪くてあまり眠れなかったようでロードの足を枕に寝息をたてながら熟睡している。
実物のハニエル君はやっぱりとても可愛い。
チャミエルのように美少女の様な可愛さではなくて、彼の純粋で素直でまっすぐな人柄が表情や雰囲気に滲みでているというか、何も汚れてないクリアーな透明感を感じるあの無邪気な笑顔を見ているだけで心が洗われてしまう。
早く君が攻略者達を相手に恋に快楽に溺れて、照れて真っ赤になったり、困った顔や泣き顔、気持ち良さに悶える顔が見たいとうずうずしてしまうのは、やっぱり俺自身が腐っている変態ということなのだろうか。
いや、チャミエルとハニエル君の百合百合しいほのぼのな感じも大変可愛らしい。
なんとも可愛らしいカップルで、見ているだけで癒されてしまう。
そうだよ。
やっぱり可愛いチャミエルには、同じくらい可愛い存在が隣にいないと。
ロードのような、どこにでもいそうな普通かそれ以下のモブが並ぶのは引き立て役にしかならない。
「そこ、危ないっ!!」
「避けろッ!!」
「!!??」
その時、突然どこからか悲鳴が上がると同時にハニエル君とチャミエル達の頭上にいくつかの炎の玉が降り注ぐ。
きっとどこぞで悪ふざけした生徒たちのいたずら魔法が暴走したのだろうが、ロードがそれを認識した時にはすでにその炎はその場から弾かれていた。
「チャミエ・・・・ッ!?」
目の前にはこの場にいる誰よりも華奢な身体をしたチャミエルが、ハニエル君を守るようにして立っている。
そうだ。
少女のように見えて、いざとなったらチャミエルはとても男らしい部分もあった。
「姫っ!!大丈夫かっ!!」
「う、うん。ありがとう、ラジエル」
チャミエル達の前には、彼らを守る騎士のようにして立つラジエルが立っていた。
あの瞬時に2人の元へ飛び出すと同時に魔法でコーティングした拳で、降り注いでくる火の玉を殴り飛ばしたのだ。
さすがは戦隊モノでいえば、真ん中に立つレッドカラー!!
ポーズも決まってる!!
それに、その後もラジエルがはまるで姫に仕える騎士のようにハニエル君の手を取ると、手の甲に『敬愛』の口づけを落とした。
「ちょっと、ラジエル!たしかにハニーは可愛いけど、さらに可愛いチャーミーを差し置いて姫ってなんなのッ!!プンプン!!」
「はぁ?お前は見た目が可愛いだけのゴリラだろ?」
「ひっどぉ~~いっ!こ~んなにか弱いチャーミー向かって!ラジエルのバカッ!!」
「うおっ!!こんなパンチするやつのどこがか弱いって!?」
「ふ、2人とも落ち着いて!あ、あの!」
「ハニーは、大丈夫?ケガはどこもしてない?」
「うん。君のおかげで、ぼくは大丈夫。本当にありがとう」
「キャハ☆よかったぁ~!」
「!!??」
チャミエルが何かを気に入った時はとても分かりやすい。
その表情、瞳がキラキラして『好きだ』と言葉にしなくとも全身から好意が溢れているから。
今もハニエル君からのお礼に喜んだチャミエルが、満面の笑顔でハニエル君に抱きついてはしゃいでおり、倒れそうになるハニエル君に慌てたラジエルとまたいつも通りの喧嘩?が始まっていた。
その傍らでオロオロ戸惑っているハニエル君の3人の微笑ましい光景を、こうして間近で見れることになんだか嬉しくなったロードは少し離れた場所で笑った。
その日の夕方、チャミエルといつもの場所で待ち合わせしていたロードは、担任から部屋移動のことをチャミエルに告げた。
「えぇーーーーーーーーッ!!ロードこれからお引越しなんて、チョー大変ッ!!」
「俺の荷物はそんなにないから大丈夫だよ。ラジエルも手伝ってくれるし」
同室のラジエルに担任からの話を伝えたら、嫌なら断っても大丈夫なんだぞ?と心配されたのち、ありがたいことに掃除も含めて今夜から手伝ってくれることになった。
「そっか~今日は久々の新作が手に入ったから、ロードにつけてもらおうと思ったんだけど」
「!!??」
しゅん、と心底残念そうに落ち込んだ様子のチャミエルの細い指先の中には、チャミエルのキレイな髪の毛と同じ色をした黄緑の草原色をした縄が。
そうだった。
2人きりのこの時間も、もうおしまいにしないとだな。
「チャミエル、ごめん」
「へ?」
「もう俺、チャミエルのこと・・・・縛れない」
「!!??」
「なん、で?」
チャミエルの大きな瞳が揺れる。
「もっと、チャミエルのことを喜ばせてくれる人がいるよ」
「ロード?なに、言ってるの?」
きっと、コレもハニエル君の方がもっとうまくできるんだろう。
「ロード以上に上手い人なんていないよ?どうしたの、何かあった?」
「・・・・・・・ッ!!」
これ以上、ただのモブごときである俺がメインキャラであるチャミエルを縛ってはいけない。
「も、もう縛るとかそういうの嫌なんだよ!!チョコまみれも、はちみつまみれも、アイスまみれももうたくさんだっ!!」
「・・・・・・・」
チャミエルに対して、ひどいことを言っているのは重々承知の上だ。
縛ることは最初こそかなりの抵抗を感じたものの、だんだんとどうしたらもっと上手くできるのか、チャミエルが喜んでくれるのか自分なりに研究していく内にやりがいを少しずつ感じてしまっていた。
チョコレートやはちみつなどのお菓子まみれも決して心から喜べはしないし、その後のアレコレも思い出すだけで顔からどころか全身火を噴きそうなほど恥ずかしくて仕方がない。
けれど、なんだかんだそんな風にチャミエルに思いっきり振り回されることが嫌じゃないのがずっと嫌だった。
『ロード、大好き!!』
『ロードったら、可愛い♪』
それでも、ハニエル君が来たのならそれはもう俺の役割じゃない。
「ロード・・・・なさい」
「え?」
「キャハ☆ざーんねん!じゃ、これからは別の人にお願いするね!」
振り返ったチャミエルは、いつも以上の満面の笑みでロードに振り返る。
「チャミエル!」
「そしたら、最後はチャミエルがロードのこと縛ってあげるね♪」
「へ?ちょ、ちょっとチャミエルっ!?」
チャミエルの持っていた黄緑の縄で見事なまでに亀甲縛りをされ、さらに手足も別の縄できつく縛られたロードをその場に一人残し、チャミエルは『また明日ね♪バイバイ☆』と可愛いウインクを浮かべて出て行った。
「チャミエル様、どうぞコレを」
「・・・・・ありがと♪ねぇ、ちょっとだけ、チャーミーを1人にしてくれる?」
「もちろんでございます」
チャミエルが執事の一人から大きめのピンク色をしたバスタオルを受け取ると、深く礼を取った執事は馬車の扉を静かに閉める。
そのタオルを顔につけたチャミエルは、声を殺して泣いた。
少し頭痛のする頭をなんとかこらえながらロードが重い瞼を開けると、目の前には見覚えのあるコバルトブルー色の大きな瞳が2つ。
「!!??」
ロードに比べたら1.5倍~2倍はありそうなぱっちりお目目でもって、それこそ穴が開くんじゃないかというほどこちらをじっと見つめている。
「ちゃ、チャミエル・・・さん?」
「キャハ☆おはよ~ロード!」
鼻と鼻がぶつかりそうな超至近距離でロードの目前にいたのは、ツインテールがとてもよく似合うチャミエル。
「おはよって、ちょっと・・・ッ!?」
起き上がろうと両手を動かした途端、ガチャンッ!!と本来聞こえるはずのない金属音が両耳に響き、ロードの頭の両方に置かれた手は床にぴったりと何かの金属で拘束されていた。
ちなみに、肩幅に開かれた両足も同じように拘束されてちっとも動く気配がない。
チャミエルはといえば、四肢が動けなくなったロードの腰あたりにちょこんと座り込んでニコニコと上機嫌に笑っていた。
「ちょ、ちょっとチャミエル!!これ、一体何の悪ふざ・・・・あいたたたっ!!」
力を込めた瞬間に、頭痛がまたロードを襲った。
そうだ、思い出した!!
事の起こりは今日の夕方。
最近なぜか予定がありすぎるラジエルが、本日も町にたった1つの古代魔法や数々の伝説に関する骨董品や魔法書を扱う古いお店で、予約で入荷があと数年先と言われていた『伝説の勇者がかつて使っていた兜』かもしれない物とやらが、はるか海の向こうにある砂漠の国から突然入荷が早まり本日急きょ店に届くとかで、授業が終わり次第吹っ飛ぶようにして先に帰っていったのだ。
確か、昨日はこれまた数年先に入荷予定だった『伝説の勇者がかつて伝説の鳥を召喚する際に使っていたオーブ』の1つかもしれない物とやらが届くことになったと飛んで帰り。
その前は『伝説の勇者が闇の国へ行く際に使っていた太陽の石』かもしれない物が届いたと、転げるようにして帰りーーーーなどなど。
少し、いやだいぶおかしい自体が続く中で、せっかく毎日2人きりになったのだからと連日チャミエルの買い物やスイーツ巡りに付き合っていたのだが。
「ちゃ、チャミエル、さん?きょ、今日は確か、おいし~~いチョコレートのケーキを、た、食べに行くんじゃなかったっけ?」
なのに、何でいきなり拘束プレイになってんの!?
どこから選択肢を間違えて、バットルートに思わず入り込みましたかッ!!
「ごめんね、ロード!手加減したつもりなんだけど。それにチャーミーったらうっかりしてて、今日はピエールマーサのお店がお休みの日だってことすっかり忘れてたの!」
「う、うん。それで?」
まさかのお店がお休みの日にぶち当たると、ルートがバットへと自然と向かうんですか?
「でも、チャーミーどうしても今日はチョコレートが食べたくって」
「そ、それなら、今から別のお店に行こうよ!チョコレート菓子のお店なら、他にもたくさんあるから、ねっ!!」
くすん、くすんと泣いてるポーズをわざとらしく取るチャミエルをなんとか説得しなければと声を張り上げるが、チャミエルはこちらの声が聞こえていないのか聞く気がないのか全く頷かない。
「ほら、この間一緒に行った、生チョコ専門店!!いくらでもあそこであーんしていいから!むしろするから!そっちにしようよ、ね!お願いだからチャミエルっ!!」
このままでは何か違うルートにどんどんつき進んでしまうと、ゾクゾク背中の悪寒が止まらない信号を決して無視できずに必死で代替案を出す。
とりあえず、この拘束ルートは絶対にダメな気がする!!
しかも、気がつけば今のロードはパンツ一枚で他は全部素っ裸。
周りを見れば、どこかの地下室のような場所でこの状況。
そして、チャミエルの後ろには何人ものロードの味方にはならないだろうチャミエル専属の執事が控えていた。
これで慌てない方がどうかしている。
「うーーーーん、それもすごく楽しそうなんだけど♪」
「うんうん!!絶対にそっちのが楽しいから、そっちにしようよ!ねっ!!」
「でも、今日はロードをスペシャルチョコレートデコレーションしちゃいまーーす☆」
「・・・・・・・・・へ?」
大変可愛らしい顔でウインクを決めながら、ロードの前に立ち上がったチャミエルの手にあるのは銀色のボール。
丸い方じゃなくて、ケーキとか作る方のボールで普段使うような大きさの軽く3倍はある大きなボールの中には、たっぷりの液体にとろけたチョコレートが入っていた。
「ロード、楽しみにしててね♪今日はチャーミーがロードをすっごい可愛くデコっちゃうから☆」
「!!??」
いやいやいやいや、デコる『モノ』が明らかにおかしくないかな!?
しかも、いつのまにかチャミエル自身も制服から花柄ピンクのビキニの水着に着替えて、ツインテールはじゃまにならないように2つのチャイナ風お団子にまとめられてるし。
うん、どっちもよく似合ってる!!
そしてやっぱり水着の時は縄は外すんだねって、気にするとこはそこじゃなぁーーーい!!
「ロード、ちょっと熱いけど我慢してね?」
「い、いや我慢って、ちょ、ちゃ、チャミエルっ!?」
「えーーーーい☆」
「・・・・・・あ、あっちぃぃーーーーーッ!!!」
熱湯とは言わないまでも、熱めのお風呂のお湯ぐらいの温度を持ったチョコレートフォンデュ用の茶色の液体がロードの肌色を一気にショコラ色へと塗り替える。
「キャハ☆熱いけどやけどはしないから、安心してね!」
「そ、そういう問題じゃないっ!!」
裸にチョコレートなんて、BLのバレンタイン内容で『プレゼントはボクです』っていうネタ漫画でしか見たことないよ?
しかもそれをやって許されるのは、むしろ目の前で本来チョコレートでは使わないはずのハケを使いながらムラのないようにチョコレートを楽しそうに鼻歌口ずさみながら伸ばしてるチャミエルの方だからねっ!?
俺みたいなモブがチョコレートまみれになっところで、一体コレは誰得なのか。
「ちゃ、チャミエル!!お願いだから、やめ・・・・んッ!!」
「キャッ!ロードってば、もしかして感じちゃった?」
「ち、違うっ!!」
たまたま、そう、たまたまハケが胸の突起の部分をかすめたからびっくりしただけだ。
「ふふふ~~ロードったら、可愛い♪」
「ちょっ、ちゃ、チャミエルやめろって!!そ・・・・そこばかり、いじる、なっ」
もうそこにはチョコレートがじゅうぶんに乗っかっているというのに、チャミエルはニンマリと嬉しそうに何度も何度もそこばかりを執拗に刺激する。
さわさわと優しく撫でられるごとにチリチリとむず痒いような感覚や、ピリピリした下半身にまで刺激が伝わるような感覚がロードを容赦なく襲う。
「や、やめ・・・・ッ!!」
「あっ!ごっめーーーん!」
「へ?」
突然胸への刺激がピタッと止み、チャミエルがロードのそばをあっさりと離れた。
「チャーミーってば、下地ばっかりで肝心のデコレーションを忘れてた~♪」
「で、デコ?」
その後、よりはりきったチャミエルの手によってホイップクリームや、おいしそうなイチゴやらをチョコレートでコーティングされた上に次々と乗せられていくが、ただ乗せられるだけならもういいやと8割ほど諦めの表情で終わるのをおとなしく待つ。
ただ、ロードはこの時にすっかり忘れていた。
作った料理やお菓子が、その後どうなることがもっとも多いのかを。
「チャミエルーーーーーーーッ!!!」
その後、完成した『チョコレートケーキ』をそれはおいしそうに食べ始めたチャミエルに向かってロードの悲鳴が響き渡る。
「キャハ☆ロードってば、どっこもおいしい~♪」
「う・・・・うぅ、な、なめるな!噛むな!そ、そんなとこ、くわえるなぁぁーーーーーーっ!!」
「あれ?ロードの生クリーム、ちょっと苦いね?」
「!!??」
「ロード、大好き!!」
「・・・・・・あぁッ!!」
もう、これ以上の実況は勘弁して下さい。
その後もチャミエルに好き放題遊ばれ?ようやくラジエルが迎えに来た頃には、ロードの身体にはチョコレートのかけらもなく、全身キレイに洗われ身なりもきちんと整えられていたが、ひたすらにぐったりと疲れ果て気を失っていた。
「おい、チャミエル。ロードからやたら甘い匂いがするんだが、今度は何をやらかしたんだ?」
「えぇ~~?2人でおいしいチョコレートを食べただけだよ~~♪」
ラジエルが後から何があったのかをロードに詳しく聞いても、真っ赤になったロードはチャミエルと同じように『おいしいチョコレートを2人で食べただけだっ!!』と叫んだ後、布団を頭からかぶってベットに潜り込んだ。
こんな感じで毎日のように美少女ならぬ美少年・チャミエルに振り回されっぱなしのロードだったが、きっとこんな日々はもうすぐ終わる。
ハニエル君が転入してきたら、彼の興味関心は一気に切り替わるだろう。
そして、ついに運命の日がやってきた。
「みんな、今日から我がクラスでともに学ぶことになった新入生を紹介する!!」
「ハニエル・ハルモニーと言います。この学園のことはまだまだ分からないことだらけなので、どうぞこれからよろしくお願いします!」
キタァァーーーーーーー!!!
担任が立つ教壇の横には、ハニーブロンド色の柔らかい髪質をしあちこち跳ねている髪と、琥珀色の大きなクリッとした瞳をした明るく元気な表情のハニエル君が眩しい笑顔で立っていた。
待ってた!!
首を長くして、君のことを待ってたよハニエル君!!
「みんな、ハルモニーと仲良くな!あと、席はグレイシーズの隣が空いてるな。グレイシーズ、頼んだぞ!」
「・・・・・・あ、はい!」
なんと、ルームメイトだけでなく教室でも隣同士になったのはラジエルだった。
「えっと、グレイシーズくん。これからよろしくね!」
「・・・・・・お、俺はラジエルだ。よろしくな、ハニエル!」
ニッコリとお互いに爽やかな笑顔を浮かべながら、2人は挨拶とともに握手を交わした。
うんうん、いい場面だ!
いよいよここからスタートするんだな、友人からのBOYS LOVEが!
「グレイシーズ!お前放課後、ハルモニーに学内を案内してやってくれないか?」
「え?あ、はい。分かりました!」
「ごめんね、君の貴重な時間なのに」
「い、いや・・・・・大丈夫だ」
担任、それはいい選択だ!
グッジョブ!!
「それなら、チャーミーも一緒に行く!!あ、ボクはチャミエルって言うの♪チャーミーって呼んでね!」
「ちゃ、チャーミーくん?よろしくね!」
「ブブーー!!チャーミーって呼んでくれなきゃ、チャーミーすねちゃう!」
頰を可愛らしく膨らませたチャミエルに、ハニエルは苦笑しながらすぐに『チャーミー』と言い直し、チャミエルはすぐさまご機嫌な様子であれこれと話しかけている。
さすがはハニエル君!
チャミエルの興味関心が一気に彼へとまっすぐに向かっていた。
ちなみに席順はラジエルの前がロード、ロードの左隣でありハニエル君の前がチャミエルだ。
「あ、それと、シュトラーゼ!お前は放課後伝えたいことがあるから、教官室に来てくれ」
「わ、分かりました!」
来た来た!!
このタイミングなら、間違いなくハニエル君絡みの寮の部屋移動のことだろう。
「ロード、お前何かやらかしたのか?」
「いや、やらかしてはないけど。多分大したことじゃないって」
「えぇ~~心配!!後でチャーミーにも教えてね、ロード!」
「だから大丈夫だって。でも、ありがとなチャミエル」
「キャハ☆楽しみ~!」
えっと、これ。
一応、心配してくれてるんだよな?
お昼休みは、いつものラジエル・チャミエルの3人に、ハニエル君も誘って4人で食堂で昼食を食べてから屋上で盛り上がっていた。
「ねぇ、ねぇ!これチャーミーが大好きなドーナツ!ハニーにも一個あげるね☆」
「ありがとう!」
屋上では、さっそくハニエル君を気に入ったらしいチャミエルがあだ名をハニーと名付けてあれこれ楽しそうに話していた。
なるほど、ハニーの名付け親はチャミエルなのか。
一緒に屋上に来ていたラジエルは、今朝は夢見が悪くてあまり眠れなかったようでロードの足を枕に寝息をたてながら熟睡している。
実物のハニエル君はやっぱりとても可愛い。
チャミエルのように美少女の様な可愛さではなくて、彼の純粋で素直でまっすぐな人柄が表情や雰囲気に滲みでているというか、何も汚れてないクリアーな透明感を感じるあの無邪気な笑顔を見ているだけで心が洗われてしまう。
早く君が攻略者達を相手に恋に快楽に溺れて、照れて真っ赤になったり、困った顔や泣き顔、気持ち良さに悶える顔が見たいとうずうずしてしまうのは、やっぱり俺自身が腐っている変態ということなのだろうか。
いや、チャミエルとハニエル君の百合百合しいほのぼのな感じも大変可愛らしい。
なんとも可愛らしいカップルで、見ているだけで癒されてしまう。
そうだよ。
やっぱり可愛いチャミエルには、同じくらい可愛い存在が隣にいないと。
ロードのような、どこにでもいそうな普通かそれ以下のモブが並ぶのは引き立て役にしかならない。
「そこ、危ないっ!!」
「避けろッ!!」
「!!??」
その時、突然どこからか悲鳴が上がると同時にハニエル君とチャミエル達の頭上にいくつかの炎の玉が降り注ぐ。
きっとどこぞで悪ふざけした生徒たちのいたずら魔法が暴走したのだろうが、ロードがそれを認識した時にはすでにその炎はその場から弾かれていた。
「チャミエ・・・・ッ!?」
目の前にはこの場にいる誰よりも華奢な身体をしたチャミエルが、ハニエル君を守るようにして立っている。
そうだ。
少女のように見えて、いざとなったらチャミエルはとても男らしい部分もあった。
「姫っ!!大丈夫かっ!!」
「う、うん。ありがとう、ラジエル」
チャミエル達の前には、彼らを守る騎士のようにして立つラジエルが立っていた。
あの瞬時に2人の元へ飛び出すと同時に魔法でコーティングした拳で、降り注いでくる火の玉を殴り飛ばしたのだ。
さすがは戦隊モノでいえば、真ん中に立つレッドカラー!!
ポーズも決まってる!!
それに、その後もラジエルがはまるで姫に仕える騎士のようにハニエル君の手を取ると、手の甲に『敬愛』の口づけを落とした。
「ちょっと、ラジエル!たしかにハニーは可愛いけど、さらに可愛いチャーミーを差し置いて姫ってなんなのッ!!プンプン!!」
「はぁ?お前は見た目が可愛いだけのゴリラだろ?」
「ひっどぉ~~いっ!こ~んなにか弱いチャーミー向かって!ラジエルのバカッ!!」
「うおっ!!こんなパンチするやつのどこがか弱いって!?」
「ふ、2人とも落ち着いて!あ、あの!」
「ハニーは、大丈夫?ケガはどこもしてない?」
「うん。君のおかげで、ぼくは大丈夫。本当にありがとう」
「キャハ☆よかったぁ~!」
「!!??」
チャミエルが何かを気に入った時はとても分かりやすい。
その表情、瞳がキラキラして『好きだ』と言葉にしなくとも全身から好意が溢れているから。
今もハニエル君からのお礼に喜んだチャミエルが、満面の笑顔でハニエル君に抱きついてはしゃいでおり、倒れそうになるハニエル君に慌てたラジエルとまたいつも通りの喧嘩?が始まっていた。
その傍らでオロオロ戸惑っているハニエル君の3人の微笑ましい光景を、こうして間近で見れることになんだか嬉しくなったロードは少し離れた場所で笑った。
その日の夕方、チャミエルといつもの場所で待ち合わせしていたロードは、担任から部屋移動のことをチャミエルに告げた。
「えぇーーーーーーーーッ!!ロードこれからお引越しなんて、チョー大変ッ!!」
「俺の荷物はそんなにないから大丈夫だよ。ラジエルも手伝ってくれるし」
同室のラジエルに担任からの話を伝えたら、嫌なら断っても大丈夫なんだぞ?と心配されたのち、ありがたいことに掃除も含めて今夜から手伝ってくれることになった。
「そっか~今日は久々の新作が手に入ったから、ロードにつけてもらおうと思ったんだけど」
「!!??」
しゅん、と心底残念そうに落ち込んだ様子のチャミエルの細い指先の中には、チャミエルのキレイな髪の毛と同じ色をした黄緑の草原色をした縄が。
そうだった。
2人きりのこの時間も、もうおしまいにしないとだな。
「チャミエル、ごめん」
「へ?」
「もう俺、チャミエルのこと・・・・縛れない」
「!!??」
「なん、で?」
チャミエルの大きな瞳が揺れる。
「もっと、チャミエルのことを喜ばせてくれる人がいるよ」
「ロード?なに、言ってるの?」
きっと、コレもハニエル君の方がもっとうまくできるんだろう。
「ロード以上に上手い人なんていないよ?どうしたの、何かあった?」
「・・・・・・・ッ!!」
これ以上、ただのモブごときである俺がメインキャラであるチャミエルを縛ってはいけない。
「も、もう縛るとかそういうの嫌なんだよ!!チョコまみれも、はちみつまみれも、アイスまみれももうたくさんだっ!!」
「・・・・・・・」
チャミエルに対して、ひどいことを言っているのは重々承知の上だ。
縛ることは最初こそかなりの抵抗を感じたものの、だんだんとどうしたらもっと上手くできるのか、チャミエルが喜んでくれるのか自分なりに研究していく内にやりがいを少しずつ感じてしまっていた。
チョコレートやはちみつなどのお菓子まみれも決して心から喜べはしないし、その後のアレコレも思い出すだけで顔からどころか全身火を噴きそうなほど恥ずかしくて仕方がない。
けれど、なんだかんだそんな風にチャミエルに思いっきり振り回されることが嫌じゃないのがずっと嫌だった。
『ロード、大好き!!』
『ロードったら、可愛い♪』
それでも、ハニエル君が来たのならそれはもう俺の役割じゃない。
「ロード・・・・なさい」
「え?」
「キャハ☆ざーんねん!じゃ、これからは別の人にお願いするね!」
振り返ったチャミエルは、いつも以上の満面の笑みでロードに振り返る。
「チャミエル!」
「そしたら、最後はチャミエルがロードのこと縛ってあげるね♪」
「へ?ちょ、ちょっとチャミエルっ!?」
チャミエルの持っていた黄緑の縄で見事なまでに亀甲縛りをされ、さらに手足も別の縄できつく縛られたロードをその場に一人残し、チャミエルは『また明日ね♪バイバイ☆』と可愛いウインクを浮かべて出て行った。
「チャミエル様、どうぞコレを」
「・・・・・ありがと♪ねぇ、ちょっとだけ、チャーミーを1人にしてくれる?」
「もちろんでございます」
チャミエルが執事の一人から大きめのピンク色をしたバスタオルを受け取ると、深く礼を取った執事は馬車の扉を静かに閉める。
そのタオルを顔につけたチャミエルは、声を殺して泣いた。
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