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結・個人ルート 結末編

ウリエルルート 3 後編

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生徒会の室内で仕事を普段通りこなしていたウリエルの元へ、全身を覆うローブの黒い頭巾を目深に被った小柄な人物が気配を立ちながらその背後にひっそりと立つ。


「・・・・どうした?」


その黒いローブの存在へ振り返りもせずウリエルが短く声をかけると、近くでウリエルとともに書類整理の手伝いをしていたハニエルにも届かないほどの小声でもってウリエルへあることを伝えた。


「なんだとっ!?」

「!?」


ガタンッ!!と、物音ともに突然響いたウリエルの大きな声に、ビクッとハニエルの体も反応する。


「ど、どうしたんですか?ウリエル先輩」

「・・・・・いや、君はそのまま続けてくれ。少し、出てくる」

「分かりました!」


ハーモニーを生徒会室に残し、ウリエルは急ぎ足で部屋を出ていく。


『ヘレスベルグ様が、シュトラーゼ氏とともに不法侵入者に攫われました』


ロードが攫われた!?

一体誰にっ!?

いや、落ち着け。

ロードもだが、ヘレスベルグが攫われたことの方が重要なことじゃないか。

それなのに、なぜ俺の頭の中はロードでいっぱいになっている?


ケガはしていないか?

怖い思いはしていないか?

安全なところにいるのか?

今、お前はどこにいるーーーーーー!?



「・・・・・くそっ!!」



落ち着け、冷静になれウリエル!


生徒会室からヘレスベルグとロードが最後に消えたという場所まで、黒頭巾の存在に伝えられた場所へと全速力で到着し、なんとか見つける為の手がかりを探そうと残された魔力に意識を集中させる。


「・・・・なんだ?この、邪悪な魔力の気配は」

その場で感じたのはヘレスベルグの巨大で華やかな魔力のオーラと、魔力の残滓とはいえ寒気で震えが起きそうになるほどの強い闇の魔力。


「不法侵入者は、闇の魔導師なのか?」


ヘレスベルグは何百年に一度しか卵を積み落とさず、その羽には巨大な魔力を宿しその身や血には不死の力もあると言われている伝説の鳥。

ヘレスベルグはそのあまりの貴重さからすぐには殺さないだろうし、ヘレスベルグ自身も強い魔力を持っているからいざとなれば隙を見て自力で逃げ出せるかもしれない。

だが、ともに攫われたロードは違う。

彼は魔力もほとんどなく、体力や武道の実力も学生の平均値ほどしか持たない本来ならこの学園に入学できたことが驚きなほど普通の人間だ。


『ウリエル先輩!』


ウリエルの脳裏にロードの姿・声、温もり、そして笑顔がすぐさま鮮明に蘇る。

もし彼が、傷つけられるようなことがあれば。


「!?」


それを考えただけで、まるで心臓が掴まれたかのように苦しくなる。


「・・・・・頼む、無事でいてくれっ」

「おい、何をしている?」

「!?」


窓から入る夕陽の光を浴びた青年の姿は、黄金に輝いていたーーーーーーーー。













「おらっ!いい加減に起きろッ!!」

「!!??」


バシャッ!!と頭から大量の水がかけられ、失っていたロードの意識が一気に覚醒する。


「・・・・いててッ」


気絶する際に殴られてできた頭の傷が、水に晒されてしみる。

頭部から滴る水をぬぐいたくても、その腕は縄でぐるぐる巻きに縛られていて動けなかった。


「ピイィィッ!!」

「ヘレスッ!!」


自由になる下半身の上にはヘレスが乗り、俺たちの周りには小さめの鉄格子で囲まれている。

ヘレスの身を縛っているものは何もなく、この鉄格子にヘレスごとロードが閉じ込められているらしい。


「よぉ?アンジェロス学園の一生徒である、若き青年よ」


ロードの目の前には、先ほど廊下で声をかけロード達をここへ誘拐してきた怪しげな男が1人いた。

肩までの緩やかに波打つ黒髪に無精髭を生やした、見るからに怪しげな雰囲気と鋭い目つきをした男がロードに近寄る。


「君は、ハニエル=ハーモニーという生徒を知っているか?」

「ピイィィーーーーーッ!!」

「!?」


男が格子の中からロードへ触れようと手を伸ばすと、ヘレスの鳴き声とともに光が生まれその手が勢いよく弾かれる。


「・・・・・ちっ!まだ赤子とはいえ、さすがは伝説の鳥か。だが、誇り高いヘレスベレグが人の子に懐くとはな」

「あ、ありがとう!ヘレス!」

「ピイィィ!!」


ヘレスはどうだ!とでも言うように、嬉しそうにロードの太ももの上で羽を広げていた。

頭や背中を撫でてやりたいが、あいにく腕は自由にならない。


「それで、お前は知ってるのか?ハニエル=ハーモニーを」

「し、知らないです。残念ながら、彼は別クラスなので」

「・・・・なるほど。ハハッ、それは残念だっ」


怪しげな男はどかっと鉄格子の前にあった簡素な木の椅子に座り込み、木のテーブルの上に置いてあったお酒の瓶をそのまま唇につけて喉に注ぎ込む。


「で、でも、なんであんたは、ハニエルく・・・・ハニエル=ハーモニーを?」

「なんだ?気になるのか?」

「!?」


はい。

それはもう、とてつもなく気になります!


部屋は暗く、男達が座る木製の小さなテーブルと椅子以外は何もない古い小屋だ。

ハニエル君の代わりとしてヘレスとともに捕まったが、もしあの可愛らしいハニエル君がヘレスの助けもなく攫われていたら、あの男になり殴られたり蹴られたり暴行されていたかもしれない。

いや、ハニエル君なら別の脅され方になるのかも。

イケメンならそれも大いに有りだし、目の前の男も冷静になってよく見れば少しむさ苦しさはあるが、あの無精髭があってもワイルドイケメンの部類に入りそうな感じだ。

ん?待てよ。

イケメンってことは、やっぱりこの人もハニエル君と何ら無関係じゃないのか?



「・・・・・す、少し」

「はっ!ヘレスベレグのベイビーに守られてるからって、好奇心に任せて気安く首を突っ込むとろくなことにならないぜぇ?」


酒瓶を片手に持ったままの男が、鉄格子のところまでくると鋭い眼光をロードに向ける。


「まぁ、いい。酒の肴代わりに少し話してやるよ」

「え?」

「お前、学園の理事長のことは知ってるか?」

「!?」


ここでもまた『理事長』が出てきた。


『まさか!この学園の理事長さんから確かに途中入学を許可する旨の連絡は紙面でもらったけど、直接会ったこともないよ!』


少し前、途中転入が割と珍しいハニエル君にもしかして理事長辺りと知り合いなのかとラジエル達と聞いたことがあったが、本当に何も知らない感じだった。


「・・・・知ら、ない」

「なんだお前、自分の通う学園のトップのことも知らねぇのか!」


男は、ぐいっとまた酒瓶を口につけて酒を飲んでから大きな口で笑う。


「興味、なくて」


昔からっていうか、前世から校長やらの名前はほとんど覚えないし、朝に行われる校長の有難いお話はほぼ眠気に襲われて船を漕いでいた。

学園の理事が誰かとか、裏がどうなってるのかなんてモブ生徒に過ぎない俺には全くもって関心がない。

興味があるのは、学生の本分である学業を学びながらいかに楽しくBL腐男子ライフを送るかだ。


「ま、そんなもんか。ハニエル=ハーモニーは、理事長が自らの意思で学園への入学許可を特別に許した、これまでに前例のない唯一の生徒だ。何も関係がない、と思う方がおかしいだろう?」

「!?」


確かに、それは俺も同じことを思ってる。

そしてぜひとも関係があって欲しいと切実に願っている。


「あ、あなたは、理事長と・・・・・」

「悪いが、無駄話はここまでだ」

「!?」

「伝説の鳥様がようやくお休みになったようだしな」

「へ、ヘレスッ!?」


男の言う通り、いつのまにかロードの太ももの上にいたヘレスはコテンと横になって眠ってしまっている。


「鳥様が寝たなら、別々に過ごしてもらおうか?」

「!!??」


酒瓶を地面に置いて立ち上がった男が、黒い色の魔法陣が描かれた手の平をロード達に向けると、鉄格子は煙状になって一度形を崩した。

そして男が寝ているヘレスを掴んで床に放り投げると、再びその煙が鉄格子となってヘレスを閉じ込める。


「へ、ヘレスッ!!」

「ピイィィ・・・・ピイィィ」


声をかけても、起きる気配がまるでない。


「少し強めの眠り魔法をかけたから、明日の朝までぐっすりだろうよ!それより、お前はてめぇの心配をした方がいいんじゃねぇのか?」

「!?」


身動きが上手く取れないロードの足元に遠慮なく座り込んでその動きを封じると、男はロードの顎を大きな手でつかむ。

強いお酒の匂いと、タバコ混じりな男の息がロードの鼻にかかる。


「お前・・・・本当に、理事長のこと何にも知らないのか?」

「だ、だから、何にも知らないって言ってんだろっ!」

「フン。だがお前からは、かすかにアイツの魔力を感じたんだがな・・・・・なら、身体に聞いてみるか?」

「!!??」



お、おい、嘘だろ!?



べろりと、目の前の男のねっとりした熱い舌がロードの頰を舐め上げる。


「や、やめろっ!!」

「ガキに興味はないが、憎らしいアイツに関係があるかもしれないガキなら別だ」

「!?」


胸元を押されて床に押し倒され、男の反対側の手がロードの腰に触れた途端、ぞわぞわっと全身が一斉に寒気が走り鳥肌がたつ。


「さぁ、どこまで黙ってられるかな?」

「・・・・・ッ!!」



気持ち悪い。

側にいるだけで全身が震えてくる。


「結構いい味だな。もっとあちこち舐めてやろうか?」

「!?」


ヒヤリとした冷たさを感じたと思ったら、首元には冷たいナイフが添えられていた。

怖い!!


ナイフが怖くて声も出せず、全身が無意識に小さく震えるロードの姿にニヤリと歯を見せながら笑うと、顎に手をかけ親指を無理やりロードの口元に入れて強引に広げると舌を入れながら噛みつくようなキスをしてくる。

同時に、強いお酒の匂いと辛味の味がした。


「い、やだっ!やめ・・・・ッ!!」


蛇のような鋭い目をした男は、ロードの呼吸すらも奪うかのような激しい動きの舌で口内を好き放題に侵し、首元に当てていたナイフで着ていた制服のシャツを切り刻んで破く。

身体のあちこちで痛みが走ったから、皮膚も直接切られていることだろう。


やめろっ!!

嫌だ!!

気持ち悪い!!


男に触られるたびに吐き気がロードを襲い、呼吸がまともにできず苦しくてなんとか顔を背けようとするが、痛みを感じるほど顎を強引に抑えた手がそれを決して許さない。



「・・・・・・ッ!!」

「いてぇな。舌を噛むなんて、可愛いマネするじゃねぇか。なんだよ、気持ちよくなかったのか?」


唇の端から流れる血を、先ほどまでロードの口の中に突っ込み互いの唾液で汚していた親指で拭うと、その血を唾液ごとべろりと舐めとる。


ロードは嫌でも襲ってくるあまりの嫌悪感から、口の中の血が混じった唾液ごと唾として床に吐き出し男を睨みつけた。


「・・・・・いい目だが、そんな目で見ても俺を喜ばせるだけだぜ?」

「んぐっ!?」

「そんなに噛みたきゃ、これでも噛んどけよ。俺はお前の体を噛んでやるから」

「!!??」


口の中に丸められた布が無理やり突っ込まれ、男の口がロードの耳元にその唇を寄せる。

耳たぶをかじられ、耳の穴の中には先ほど口の中を犯していた熱い舌が差し込まれ、唾液の滑りともに中をぐちゃぐちゃにかき回していた。



やめろっ!!

嫌だ!!

やめろっ!!



今ロードの脳裏に浮かぶのは、1人だけ。

同じようにロードの耳にその手で触れ、舌で触れたあの人とは与えられるものが全く違う。


時々強引なこともあったが、彼に触れられるとロード自身も気持ちよかったし、本当にロードが嫌なことを彼がロードにしたことはない。

今みたいに、全身が寒気に震えて吐き気に襲われたりすることなんて一度だってなかった。


『最後に、少しでいいから・・・・・君に触れさせてくれ』



あの人に、最後に触れたかったのは俺の方。

自分から彼の手を離したくせに、未練がましく最後の優しいキスを何度も思い出していた。

時々会えた時に、普段は鋭い眼差しを放つ瞳が少し柔らかくなって自分に向けられたのを感じては体の奥が喜びに震えた。


『・・・・寝癖がついてるぞ』

『!!??』


ふわりと触れられた毛先を、あんなに意識したことはなかった。

散々耳元で聞いていた彼の声をあんなに耳をしまして、あんなに心臓を高鳴らせてーーーーーーーーすれ違った後、ラジエルに声をかけられるまで時間を忘れてその後ろ姿をいつまでも見つめてしまうことなんて、これまで一度もなかったのに。



『よくできたな・・・・・ロード』


あの人の、クールな鉄面皮と周りから言われる顔が、ほんの少し緩んで笑うあの顔がとても好きだった。

その顔を見るだけで、ロードの腹の奥がじわりと熱くなって胸の奥がキュッと締めつけられるような感覚に襲われてしまう。



「・・・・・んんッ!!」

「ちっ。この俺が直接舐めてやってるのに、無反応だと?まぁ、俺は突っ込める穴があればそれで十分だがな」

「!!??」



男の手がロードの下半身に伸びる。



嫌だ!!

ウリエル先輩ッ!!






「こ、この光は・・・・ッ!?」

「!!??」


その時、目を開けてられないほどの強い光が視界を埋め尽くし、ロードはすぐさま目を伏せる。


「ーーーーーーーーァァァッ!!!」

「!?」


すぐさま鳴り響いた男の叫び声に驚き目を開くと、ロードに触れていた男が壁に打ち付けられ気を失っていた。



「・・・・・ロードッ!!」

「 ふ、ふりエルへんふぁいッ!!」


そして光の向こうからこちらへ駆けてきたのは、会いたくて会いたくてたまらなかった人の姿。


「大丈夫か!?ケガはっ!?」

「ーーーーーーーッ!!」


ウリエルは床に倒れていたロードの側にかけつけると、頭にケガがないことを確認してか抱き起こしロードの口の中に入れられていた布を取って身体を縛っていた縄をナイフで切る。


「君が無事で・・・・何よりだ」

「ウリエル、せんぱい?」


気づけば、いつのまにか流れていた涙で視界がだいぶぼやけていた。

その涙越しに、ウリエル先輩の姿が映る。


「安心しろ。ミカエルのおかげでヘレスベレグも無事に保護したし、お前に危害を加えた男も魔法で捕縛している。もうお前を、危険にさらすことはない」


「・・・・・・ッ!」


ウリエル先輩が、ロードの好きな顔で笑う。

ふわりと、ロードの好きな指でロードの頰に優しく触れる。



あなたに、触れたかったのは俺の方。



「ん?ロード、どうかし・・・・ッ!?」


ウリエル先輩の頰にロードの手の平が触れ、まっすぐに自分を射抜いている瞳を熱のこもった眼差しで見つめ返す。


「ウリエル先輩、好き」

「!!??」

「先輩が好き・・・・・好きです」



ずっとあなたに、触れたかった。



ぼろぼろと勝手に溢れてきた自分の涙で濡れたロードの唇が、ウリエル先輩の少し乾いた唇にゆっくりと重なる。





「・・・・・・」





どれぐらいの時間だったのか、すぐさまロードは意識を失いウリエルの胸の中にその身をぐったりと預けた。

微動だにしないウリエルに気がついたミカエルが、その場で必要な指揮を全て終えて優秀な部下達に撤退の支持を出した後で声をかけるまで、まるでそこだけ時が止まったかのようにロードを抱えたままずっと動けずにいた。








次の日はロード自身のケガが大したことなかったこともあり普段通り登校することを許可され、事件から数日たった今もロードはいつもと変わらない日常の中で過ごしていた。

誘拐事件のことは一般の生徒達には公にするにはまだまだ情報が足りないとのことで、ラジエル達にも秘密にしている。

捕縛された男は警備隊に連行され、牢屋で大人しくしているらしいが一体彼は何者だったのか。

男と理事長との関連もまだ何も分かっていない。

一緒に誘拐されたヘレスはケガ1つなく、むしろ元気すぎるほどだそうで、何度か脱走しそうになったところをすんでで止められていたらしい。

ロードには念の為、学園内でもなるべく一人でいないようにするとともに、もしもの時のためにロードの居場所がすぐに感知できる魔法具のお守り?のようなものを身につけている。

助けてくれたミカエル先輩とウリエル先輩には、次の日に直接お礼を伝えているがウリエル先輩の顔は恥ずかしくてとても見れなかった。

気を失う寸前のことは記憶が曖昧でまるで夢の中のような感覚だったのだが、もしあれが夢でないとすればとんでもないことをウリエル先輩にしでかしたことになる。

お礼時の時はいつもの冷静沈着なウリエル先輩だったし、何もしてないかもしくはされてても何も感じてないのかもしれない。


「はぁぁ~~、なんてバカなことをしちゃったんだろう」

「・・・・・バカなこととは、何のことだ?」

「!?」


放課後、ラジエルと一緒にまっすぐ寮へ帰ってきたロードの部屋の前には、長身のイケメン青年の姿が。

「う、ウリエル先輩ッ!?」

「お前と少し話がしたくてな、今が迷惑なら出直すが?」

「い、いえ・・・・ど、どうぞ」


突然の来訪に、一気に全身を緊張でカチコチにしながらウリエル先輩を部屋へと招き入れる。





「お、お茶しかないですが・・・・どうぞ」

「あぁ、すまないな」

「いえ」


コップに2人分の温かいお茶を用意してる間も、お茶をゆっくりと味わうように飲んでいる間もウリエル先輩は何も話さない。

それ安物のお茶だから、普段からイイものをたくさん食べて飲んでるだろうウリエル先輩には申し訳ないぐらいの代物です。


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


沈黙になってすでに数十分が経過しているが、ウリエル先輩は一向に口を開こうとしない。


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


さすがに緊張状態でじっとしながら黙っているロードの方も限界がきており、冷や汗をかきながら足も痺れてプルプルし始めている。


なにこれ?

拷問?

ウリエル先輩から俺に話があるから、わざわざ俺の部屋まで来たんだよね?


「・・・・・あ、あのっ」

「すまない」

「!?」


ウリエル先輩は、ようやく口を開いたかと思ったら俺に向かって頭を下げてきた。


なんだよ、これ?

あ、もしかして、あのバカな俺の告白への返事とか?

ウリエル先輩のことだから、律儀にお断りの返事をわざわざしにきたとか。


「あ、あのっ、俺の方こそ、すみませんでした!先輩の迷惑も考えないで、あんなことっ」

「ロード?」

「せ、先輩の気持ちは、もう分かりましたからっ!」

「・・・・・・・ッ!?」


やばい。

なんか、こうなるの分かってたのにきついや。

いやいや、ウリエル先輩を前にしてこれ以上泣くのは男としてダメだ!


「何が、分かったんだ?」

「へ?」


ぐいっと強く腕を引かれたかと思うと、ロードはウリエル先輩の腕の中に背を向けて倒れこむ。

これ、最初の頃によくウリエル先輩にされてたな。

そう、最初の頃はよく後ろから耳を触られて。


「!!??」

「相変わらず、君の耳は気持ちがいいな」


ウリエル先輩の両の指が、ロードの耳に優しく触れている。


「せ、せんぱい?」

「俺が、君のことを一番先に好きになった場所だ」

「えっ・・・・・ああぁっ!」


久々に襲ってきた覚えのある強い快感に、ロードはすぐさま反応して声をあげた。


「二番目は、君の声だった」

「いやっ・・・・や、やめっ」


ぺろりと、指の隙間から熱い舌がさらにロードの耳の穴の中を舐め上げる。

あの男にはあんなに全身で拒否していたくせに、相手がウリエル先輩になると足先から生み出される震えるほどの快感に襲われた。


「三番目は、君の笑顔なんだが・・・・泣き顔も割と好きかもしれないな」

「な、何言って・・・・・んんっ!」


強い快感に耐えきれず、すでに流れていた涙をウリエル先輩がその指と舌で丁寧にぬぐう。


「君の真面目で、実は努力家なところも好きだ。この間はすぐに返事ができなくて、すまなかった」

「んっ・・・・そ、それじゃっ」

「俺も、君が好きだ。これからは、もっと君の側にいて君に触れさせて欲しい」

「!!??」
 

最後の大切な部分は、ウリエル先輩の指が動きを止めていたので息が荒くなり心臓がかなり早鐘を打ってるロードでもきちんと聞き取ることができた。


「君に、もっと触れてもいいか?」

「で、でも・・・・ハニエル君は?」

「ハーモニー?彼は今関係ないだろう。これは、お前と俺の問題だ。それで、君の答えはどうなんだ?」

「!?」


この人は。

ハニエル君とのことを、俺がどれだけ悩んだと思って。

あの時だって、どれだけの決意で身を引いたことか。

それを、なんともあっさり。


「・・・・触れて、下さい。俺は、俺の好きなあなたに触れて欲しい」


耳元にあったウリエル先輩の手の平に、自分の頰をすり寄せる。

温かく、時に力強く、そして俺の心と体を熱くとろとろに溶かしてしまうーーーーー大好きな手。


「ロード」

「・・・・・ウリエル、先輩」


その大好きな手でロードの両頬を包みこみながら、ウリエル先輩が優しいキスを落とした。


「・・・・・・・」

「・・・・・ッ!」


互いの唇が触れてるだけのキスだけじゃ少し物足りなくなって、ロードの方から口を開けておずおずと舌をウリエル先輩の唇を舐め、歯列をたどたどしく割る。


その中で見つけたウリエル先輩の舌を最初は舌先でつつくように刺激し、反応してロードの舌に応え始めたウリエル先輩の舌に自分から絡めていく。


「んんっ・・・・う、んんっ!?」


ロードがウリエル先輩とのキスに夢中になっていたら、ふいにおさまっていたはずの耳への刺激が再開されロードの下半身が震え上がった。

耳をいじられながらの音と、深いキスをしながらの生々しい水音混じりの音とが絡まりロードの脳の奥を犯し溶かしていく。


「はぁっ!うり、える・・・・せん、ぱいっ」

「すまない。俺も久しぶりで、抑えがきかない」

「い、やぁっ・・・・はぁっ!」


ウリエル先輩の指がロードの耳の穴の中で自由に動きつつ、他の指も両方の耳全体をばらばらのうごきで優しく触れてはロードへさらに熱を与えて高めていった。

気づけばロードの腰は揺れていて、それに気づいたウリエル先輩の片方の手が耳から下半身の熱へと場所を変えて触れていく


「せ、せんぱ・・・・あ、ついっ」

「あぁ、このままだと汚れてしまうから下だけ脱いでおこう」


ロードのズボンのベルトが外され、ズボンとパンツまでそれはもうスマートな流れで手早く取り払われた。

あれ?

そういえば、今日のパンツどんなのだったっけ?



「んっ・・・・さ、さわって」

「あぁ、君が触れて欲しいところはここか?」


空気に晒されひんやりした空気に一瞬ホッと安心するが、すぐに先ほどまでの中途半端な熱が蘇ってくる。


「そ、そこ・・・・・ん、ああぁっ!!」


ウリエル先輩の大きな手で包まれたかと思ったら、五本の指が全部違う動きをしながらロードの弱い裏筋・先端を中心に強い刺激を与えられ快感が一気に増しあっという間に果てた。









この日から、一応ウリエル先輩との『お付き合い』がスタートしたわけなんですが。


「付き合うとは、具体的に何をすればいいんだ?」

「!?」


まさかの、いや予想内ではあったもののウリエル先輩が童◯どころかこれまで『お付き合い』したことが誰ともないと告白され、俺の頭は喜ぶこと以上に真っ白になった。

とりあえず前のようにロードの勉強を直接ウリエル先輩に教えてもらいつつ、その合間にいわゆるイチャイチャというかキスしたり触れたりする時間は作ってはいるが。

問題はその先である。


「この先、どうしたらいいかロードが知ってるなら、俺に詳しく教えてくれないか?」

「お、俺がっ!?」


この先って、まぁようはアレですよ。

そう、GとIの間のやつね。

まぁ、これも実は色々大変だったんだけど、話すと少し長くなるから別のところで。


「ロード」

「はい、なんですか?さっきのどこか間違って」

「君が、好きだ」

「・・・・・・・ぅあ、はい。あの、お、俺も」

「よし。で、この答えなんだが」

「!?」


この人のこういう部分、好きだけどちょっと困る。









運命だと思った。

この出会いこそが、運命なのだと。




運命はきっと、様々な選択肢とともにいくつも用意されている。

その中で、これが俺の選んだ『運命』だ。
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