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モブ女子新しい旅へ オーギュスト王家の確執
いつか3人でお茶会を
しおりを挟む玉座のある謁見室を真っ先に出たのは、というよりも怒ったまま飛び出していったのはアルベルト王子。
そして次が私・クローディアとエリザベス様で、今私たちは色とりどりの花が植えられた花壇のある城の中庭に来ている。
ここはエリザベス様のお気に入りの場所らしく、私が城の外へ帰る前にと連れてきてくれていた。
ちなみに、ジークフリート様は王様からまだ話があるとのことで室内に残っている。
ルークは来た時と同じように、空間に溶けて気づいた時にはさっさと消えてしまった。
まったく、なんて便利などこでも空間なのか!!
私が前世で寝坊した時に、ぜひとも使いたかったです!!
「本当にあなたって、おもしろい人ですわね!まさか神様を召喚するなんて!」
「いや~そうはいっても、私は全然たいしたことしてないんですけどね」
全てはたくさんの人の力と、奇跡のような偶然のおかげでしかない。
なんだか申し訳ない気持ちもあり、あはは~~と乾いた笑いが出てしまう。
「まぁ、何を言ってるの!人の力を借りられるのも運も、それはあなたの力だわ。胸をもっとお張りなさい!!」
「え、エリザベス様・・・・ッ!!」
その時エリザベス様の美貌とこのイタリアやフランスの中世時代を思わすこのお城の雰囲気も相まって、私の頭の中では一瞬にしてベ○薔薇の世界一色に染まった。
いや、むしろこの状況はお蝶○人かも!!
テニスラケットはどこですか?
「いいえ!エリザベス様のおかげです!私1人では、お城にすら入れませんでした」
「クロエ、様はいらないわ」
「で、でも!!」
「わたくしはあなたとお友達になりたいの。それとも、わたくしでは迷惑かしら?」
「!?!?」
女の自分でも思わず見惚れるほどの美しさを持つエリザベス様が、首をかしげて私の顔を覗き込んでくる。
くっ!!
なんて威力だっ!!
なんだこれは!キラキラオーラが半端ない!
エリザベス様の背後に花が見える!!って、これは本物の花だ!!
「め、迷惑なんかじゃありません!!」
「なら、これからはエリザベスと呼んでちょうだいね」
「・・・・・は、はい。善処します」
これは何の罰ゲームだろうか?
こんな高貴な本物のお嬢様を、たかだか庶民の1モブが呼び捨てにしなくてはならないなんて!!
そういえばローズは最初から平然と呼んでいたのを思い出し、改めてローズって色んな意味ですごかったんだなと感じてしまった。
「ねぇ・・・・クロエ」
「は、はい!!」
エリザベスは花壇の近くにあったベンチの上へと優雅に腰掛けると、空に向かってその長い睫毛に縁取られた紫の瞳を向ける。
「あの方は・・・・わたくしがお茶会に参加してご一緒しても、ご迷惑に思わないかしら?」
「!?」
陶器のように、白く透明感のあるエリザベスの頬に薔薇のような赤みがさす。
その顔は謁見室で見せていた堂々とした姿ではなく、心の中に住む想い人のことで頭がいっぱいになった何とも可愛らしい恋する少女でしかない。
「もちろん!むしろ、エリザベスさ・・・エリザベスのような同じくらいお茶好きの仲間が増えたらすごく喜ぶと思う!!」
きっと共通のお茶話で盛り上がって、いつも以上に止まらなくなるに違いない!
「そ、そうかしら?それならば、いいのですけれど」
そう言うとエリザベスは顔中真っ赤にしながら、恥ずかしさにかそっぽを向いて私に背中を向けてしまった。
か、可愛い~~~ッ!!
「うん!アルベルト王子の護衛から帰ってきたら、すぐに3人のお茶会を開くから楽しみにしてて!!」
「そ、そんなに急がなくてもよろしくてよ?わ、わたくしにも、心の準備というものが・・・・ッ!」
「あ!!そしたら、今からグレイさんにそのこと話してくるね!!」
「ちょ、ちょっと!ま、待ちなさいクロエッ!!」
クローディアは心から嬉しそうにポンと手の上に握ったこぶしを弾ませると、すぐさま勢いよく走り出してしまった。
彼女を止めようにも、もうすでにエリザベスの声が届かないところまで行ってしまっている。
「まったく・・・・次から次へと。嵐のような子ですわね」
だが、不思議とその嵐が今は嫌ではない。
「グレイ様、あなたもきっと・・・・同じようなお気持ちだったのですね」
もうだいぶ遠くなってしまったクローディアの後姿をみつめながら、エリザベスは騎士院から走り去る彼女を見送った時の『彼』を思い出していた。
少しだけ、あなた様のことを知れた気がします。
エリザベスは次の勉強が始まるわずかな時間ではあったが、中庭から見える騎士院の建物を穏やかな顔で見つめていた。
同じ頃、騎士院ではグレイ=コンソラータが執務室の隣にある休憩室にて紅茶を入れるカップとソーサー、そしてお茶菓子を準備していた。
カップは白地に青い色の薔薇や草・蔦がデザインされた、繊細な美しいデザインのものが2つ置かれている。
本日のお茶菓子として用意したのは、たっぷりのリンゴを使ったアップルパイ。
大きめにきって甘く煮たリンゴが、生地から溢れそうになっていてボリューム満点だ。
先ほど石釜で焼いたばかりなため、香ばしいバターの香りが部屋中に広がっている。
「さて、これで準備はいいか」
あとは、帰ってくるのを待つだけだ。
「・・・・・・!!」
「来たか」
少し離れた所から、彼女の声が聞こえてくる。
王宮からようやく戻ってきたようだ。
声の様子からすると、1人だろうか?
「グレイさん、ただいま!!」
「あぁ、ちょうど良かった」
「実は・・・・って、う、うわぁ~~~~何これ!?すごいおいしそう!!これ、グレイさんが作ったんですか?」
息を切らして騎士院内に駆け込んできた彼女はテーブルのお菓子を見たとたんに目をキラキラさせると、今にもよだれをたらさんばかりのすごい勢いでテーブルにかじりつきソレを見つめている。
「あぁ、この間食べたいと話したいただろう?」
「あ、ありがとうございます!!すごく嬉しい~~~!!」
眩しいくらいの、満面の笑顔。
そう、彼女のこの顔が見たかったのだ。
「うわぁ~~~!!いい匂いッ!!」
走ってきたこともあって、頬が赤く染まった彼女は大層メロメロな様子で、胸いっぱいにその香りを何度も吸い込んでは感動に全身を震わせている。
「今紅茶を入れるから、手を洗ってきたらいい」
「はーーーい!!」
右手を勢いよく天井にあげた彼女は元気よく返事をすると、行ってきますお母さん!とふざけた様子で笑いながら水場へと急いだ。
クローディアに何度言っても止めないのだが、俺は男でお前のお母さんではない。
その後ーーーーー戻ってきたクローディアと本日は少し苦味もあるが、とても香りのい茶葉をストレートで入れた紅茶をを飲みながら、今度俺と同じように紅茶が大好きな友達が一緒にお茶会に参加したいと話していることを聞いた。
その友人自身のこともとても嬉しそうに話していて、キレイで可愛い!と夢中で話していて話の内容から察するに女性のようだ。
クローディアいわくかなり紅茶にも詳しい者のようで、俺も会えるのを今から楽しみにしている。
その後ーーーーーアップルパイをある程度食べ終わり、夢中で何切れも頬張って食べていたクロエの興奮が落ち着いた頃を見計らい、ようやく俺は彼女に本題について話かけた。
「それで、王宮へは何しに行ったんだ?」
「ぶふぉっっ!!」
どうやら最後のひとかけらのアップルパイが、彼女の喉元につまったらしい。
焦った様子のクローディアは、少し温度の冷めた紅茶を急いで喉に流し込む。
「ゴホッ!ゴホッ!」
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!いや、まさかその話題がここで来るとは思わなかったんで」
そして、彼女はジークフリート団長とともにアルベルト王子の護衛に行くことになったことを話してくれた。
だが、おそらく彼女が気づいていないだろう大事なことが1つ抜けている。
「なるほど。それで、どこまで護衛で一緒に行くんだ?」
「・・・・・・・・・・あっ」
カッシャーーーン
俺の言葉にあんぐりと大きな口を開けた彼女の手から、持っていたフォークが地面に落ちる。
「やはりな」
もう一杯、紅茶を入れる必要がありそうだ。
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