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秘密のミッション
7 【クリピ視点】
しおりを挟む「ボクは平凡でなんの取り柄もないからさ…」
聞き間違いか?とフォークを咥えたまま目の前の皇妃様を見つめる。
ケーキとカラムーチョを同じお皿に入れ交互に食べてたシィの手はすっかり止まってしまっていた。
目の前にいる未だに見慣れることのない美貌の皇妃さま。
光の加減で淡いブルーに見える艷やかで真っすぐな長いプラチナブロンドが、柔らかいテラスのシェードの光越しでさえ美しく煌めいている。
真珠のごとき白い肌、神の造形かと思うほど整った容姿の小さな顔に大きなライラック色の瞳が儚げに潤んでいる。
妖精か天からの使者じゃないのかと何度も思ったこのお方が平凡!?
シアーズ国民に比べると華奢で背も低く、その美しさも相まって女性としか見えない。
平凡だなんてこの世の言語の中でシィから1番かけ離れている言葉なのに、とアングリと口をあけ呆けてしまった。
事実、オーディン様も対面するや否や『私はあの者を皇子妃とする』と居並ぶ皇帝や大臣たちの前で宣言されたほどだというのに。
スプーンをお皿に置いて皇妃さまにしては行儀悪くテーブルに片肘をついて、ムニュとつぶれた頬もさらに愛らしい。
「クリピもだけどさー、シアーズ国民って美男美女すぎない?」
どこからともなく現れた≪綿あめ≫という雲のようなものにシィが手を伸ばし、フワッフワなそれをひとつまみ引っ張ると薄絹のように広がりパクリと口に消えていく。
「そんなことないよ、まぁ身分の高い方やオーディン様は別格だろうけど、エーリス王族の方々の美しさはなんだろう、神の領域なんじゃないか?俺直視したら目がつぶれるかと思ってたもん」
冗談めかして言ったが真実である。
事実、現エンディミオン王も前シアーズ皇帝妃も人知を超えたまばゆいばかりの美貌だ。
当然目の前のシィもだ。
なのに自信なさげに
「ボクもエーリスではさぁ美しいとか言われてたけど、シアーズに来てビックリだよ。謁見の広間は王家の方をはじめ美形ばかりだし、学園でもそうだったしさ、ボクの美しいはお世辞半分だったんだ」
学園は【影】として集められた貴族の男子で、見た目、清潔感、教養など様々なものに合格した者だけがなれたので、それなりに容姿は整っていたかもしれないが、シィの美しさとは次元が違いすぎる。
「王宮にいると女性の美しい方も沢山いて、どうしてこんなにも美しい方たちがいるのにボクなんかと…」
エーリス国特産の布であるシルファで出来た衣装を身にまとったシィはそれこそ妖精にしか見えない。
…のに……ん?
「それでも、オーディンがボクを選んでくれたのが奇跡なんだとしても、ボクだって負けないんだからね」
シィの袖口から覗く真珠のごとき白い腕の内側に、初春のミカゼの花びらのようなものが見える……あれって。
よく見ると生地が薄いシルファを何枚も重ねてあるとは言え、ところどころが透けて見えていてなまめかしい。
頭をブンブン振っていると真似をしてシィも振り楽しそうに笑う。
そのせいで首筋にある無数の口づけの跡が見えてしまった。
瞬間、お二人のあれやこれやを想像してしまい、一気に顔が赤くなると同時に全身から汗が噴き出す。
「どうしたの?暑い?」
なぜその跡が付いたのかと想像して暑くなってしまった直後、背筋に恐怖が走る。
そうだった。
二人きりに見えるテラスだけど、黒服が周り中にいて俺たちの一言一句・表情までをも記録しているんだった。
そんなことは全くもって知らないシィはお腹がいっぱいなのか、次はフルーツに手を伸ばしている。
「それだけ食欲があれば大丈夫そうだね」
モグモグと租借している愛らしい口元が果汁でより赤く色づいている。
「クリピのおかげだよ」
「え?」
「昨日までは悩んであまり食が進まなくて板さんが発狂しそうになってたんだから」
シィの喜ぶ体に良い見目麗しい食事内容を日々考えるのが生きがいの板さんにとっては、何度作っても少ししか食べてくれなくなってそれはそれは悩んだであろうことが目に浮かぶ。
「がんばって食べようとしたんだけどさ~もー悩みすぎて、忙しいのわかってるのにクリピに助け求めちゃった」
エヘッと笑うシィの顔は、来た時よりも晴れやかに見えた。
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