転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった

angel

文字の大きさ
79 / 84
秘密のミッション

7 【クリピ視点】

しおりを挟む

「ボクは平凡でなんの取り柄もないからさ…」

 聞き間違いか?とフォークを咥えたまま目の前の皇妃様を見つめる。
 ケーキとカラムーチョを同じお皿に入れ交互に食べてたシィの手はすっかり止まってしまっていた。

 目の前にいる未だに見慣れることのない美貌の皇妃さま。
 光の加減で淡いブルーに見える艷やかで真っすぐな長いプラチナブロンドが、柔らかいテラスのシェードの光越しでさえ美しく煌めいている。
 真珠のごとき白い肌、神の造形かと思うほど整った容姿の小さな顔に大きなライラック色の瞳が儚げに潤んでいる。
 妖精か天からの使者じゃないのかと何度も思ったこのお方が平凡!?

 シアーズ国民に比べると華奢で背も低く、その美しさも相まって女性としか見えない。
 平凡だなんてこの世の言語の中でシィから1番かけ離れている言葉なのに、とアングリと口をあけ呆けてしまった。

 事実、オーディン様も対面するや否や『私はあの者を皇子妃とする』と居並ぶ皇帝や大臣たちの前で宣言されたほどだというのに。

 スプーンをお皿に置いて皇妃さまにしては行儀悪くテーブルに片肘をついて、ムニュとつぶれた頬もさらに愛らしい。

「クリピもだけどさー、シアーズ国民って美男美女すぎない?」

 どこからともなく現れた≪綿あめ≫という雲のようなものにシィが手を伸ばし、フワッフワなそれをひとつまみ引っ張ると薄絹のように広がりパクリと口に消えていく。

「そんなことないよ、まぁ身分の高い方やオーディン様は別格だろうけど、エーリス王族の方々の美しさはなんだろう、神の領域なんじゃないか?俺直視したら目がつぶれるかと思ってたもん」

 冗談めかして言ったが真実である。
 事実、現エンディミオン王も前シアーズ皇帝妃も人知を超えたまばゆいばかりの美貌だ。
 当然目の前のシィもだ。

 なのに自信なさげに
「ボクもエーリスではさぁ美しいとか言われてたけど、シアーズに来てビックリだよ。謁見の広間は王家の方をはじめ美形ばかりだし、学園でもそうだったしさ、ボクの美しいはお世辞半分だったんだ」

 学園は【影】として集められた貴族の男子で、見た目、清潔感、教養など様々なものに合格した者だけがなれたので、それなりに容姿は整っていたかもしれないが、シィの美しさとは次元が違いすぎる。

 「王宮にいると女性の美しい方も沢山いて、どうしてこんなにも美しい方たちがいるのにボクなんかと…」

 エーリス国特産の布であるシルファで出来た衣装を身にまとったシィはそれこそ妖精にしか見えない。
 …のに……ん?

「それでも、オーディンがボクを選んでくれたのが奇跡なんだとしても、ボクだって負けないんだからね」

 シィの袖口から覗く真珠のごとき白い腕の内側に、初春のミカゼの花びらのようなものが見える……あれって。
 よく見ると生地が薄いシルファを何枚も重ねてあるとは言え、ところどころが透けて見えていてなまめかしい。
 頭をブンブン振っていると真似をしてシィも振り楽しそうに笑う。

 そのせいで首筋にある無数の口づけの跡が見えてしまった。
 瞬間、お二人のあれやこれやを想像してしまい、一気に顔が赤くなると同時に全身から汗が噴き出す。

「どうしたの?暑い?」

なぜその跡が付いたのかと想像して暑くなってしまった直後、背筋に恐怖が走る。
そうだった。
 二人きりに見えるテラスだけど、黒服が周り中にいて俺たちの一言一句・表情までをも記録しているんだった。
そんなことは全くもって知らないシィはお腹がいっぱいなのか、次はフルーツに手を伸ばしている。

「それだけ食欲があれば大丈夫そうだね」

モグモグと租借している愛らしい口元が果汁でより赤く色づいている。

「クリピのおかげだよ」

「え?」

「昨日までは悩んであまり食が進まなくて板さんが発狂しそうになってたんだから」

シィの喜ぶ体に良い見目麗しい食事内容を日々考えるのが生きがいの板さんにとっては、何度作っても少ししか食べてくれなくなってそれはそれは悩んだであろうことが目に浮かぶ。

「がんばって食べようとしたんだけどさ~もー悩みすぎて、忙しいのわかってるのにクリピに助け求めちゃった」

エヘッと笑うシィの顔は、来た時よりも晴れやかに見えた。

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
毎日AM2:10分に予約投稿。   【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸にクリスがひたすら愛され、大好きな兄と暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスは冤罪によって処刑されてしまう。  次に目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。    巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過保護な兄たちに可愛がられ、溺愛されていく。  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで新たな人生を謳歌する、コミカル&シリアスなハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。 他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、 両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。 フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。 丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。 他サイトでも公開しております。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【完結済】スパダリになりたいので、幼馴染に弟子入りしました!

キノア9g
BL
モテたくて完璧な幼馴染に弟子入りしたら、なぜか俺が溺愛されてる!? あらすじ 「俺は将来、可愛い奥さんをもらって温かい家庭を築くんだ!」 前世、ブラック企業で過労死した社畜の俺(リアン)。 今世こそは定時退社と幸せな結婚を手に入れるため、理想の男「スパダリ」になることを決意する。 お手本は、幼馴染で公爵家嫡男のシリル。 顔よし、家柄よし、能力よしの完璧超人な彼に「弟子入り」し、その技術を盗もうとするけれど……? 「リアン、君の淹れたお茶以外は飲みたくないな」 「君は無防備すぎる。私の側を離れてはいけないよ」 スパダリ修行のつもりが、いつの間にか身の回りのお世話係(兼・精神安定剤)として依存されていた!? しかも、俺が婚活をしようとすると、なぜか全力で阻止されて――。 【無自覚ポジティブな元社畜】×【隠れ激重執着な氷の貴公子】 「君の就職先は私(公爵家)に決まっているだろう?」 全8話

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞に応募しましたので、見て頂けると嬉しいです! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています

水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。 そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。 アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。 しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった! リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。 隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか? これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。

処理中です...