13 / 16
第3章 レイラ登場
褐色竜アダム その2
しおりを挟む
ゴオオオオオオオオオオオオオ
アダムの咆哮は山肌を駆け上がり山頂まで響いた。ポッカが思わず耳を塞ぐ。レイラは口角を上げて楽しそうにアダムを見ている。
「来るがいい……」
アダムの誘いに、レイラは大地を蹴って応える。黄色い光を身に纏い、空中に浮かんだレイラの拳が、アダムが張った魔力の壁と激突する。
バチン!と大きな音が鳴る。
拳と魔力壁の力は拮抗しつつあり、拳は弾かれず、魔力壁も壊れない。
「うおおおお!」
レイラが咆哮し、拳へさらに力を込めた。しかしーー
アダムが翼を一振りして壁にさらなる魔力を込めると、レイラの身体は軽々と弾き飛ばされた。レイラの身体が宙に舞う。
「ちっ!」
受け身を取って地面に転がったレイラは即座に起き上がる。そこへアダムが口から魔力の塊を撃ち放った。
ゴオッ
反射的にポッカの背筋が凍り鳥肌が立った。
膨大な魔力量。
放射範囲も広い。
そんな魔力の塊が、恐ろしい速さでレイラの立つ大地を貫き、焼き尽くした。
後には何も残らない。地面さえも。
地面に空いた巨大な穴を見て、ポッカが絶叫する。
「レイラー!!!」
アダムは悲しげに目を細める。
「また、無益に命を散らしたか……愚かな……」
そう呟いた次の瞬間、
ピクッ。
アダムの感覚器官が、至近距離にある魔力の奔流を検知した。
漆黒の瞳を自らの足元に向けたアダムの目に映ったのは、空気を焦がす黄色い光。
アダムは反射的に翼を広げて空へと飛びあがった。
しかし、レイラはそれを上回る速度でアダムの頭上へジャンプすると、竜の脳天へ魔力もろとも拳を叩きつけた。
ズウウウウン
アダムの身体が大地に叩きつけられ、動かなくなる。
そして悠然と大地へ着地して鋭い歯を見せるレイラの顔が、ポッカには一瞬、悪魔のように見えた。
(こわい……でも……)
彼はレイラに本能的な恐怖を感じていた。でも、とポッカは思った。レイラは自分の友達なのだ。
「……すごい!すごいよレイラ!」
ポッカはレイラに駆け寄って称える。
「こんな大きな生き物を一撃で倒しちゃうなんて、レイラはやっぱり強いんだ!」
レイラは真剣な顔つきで「いや、それはちがうな……」と否定した。
「アダムの魔力量は完全に俺を上回ってた。あの一撃を食らっていたら間違いなく俺がやられてただろうな。魔力を素早さとパワーに変換する俺とは相性が悪かったってだけだ。アダムは強かった」
そう言ってレイラが振り返ると、意識までは失わなかったアダムが漆黒の瞳をレイラに向けて言った。
「負けた上に称えられるとはな……我を殺すか?」
レイラは呆れながら答える。
「だから、殺さねえって」
アダムも少し口元を緩めながら再度問いかける。
「そうか……では、我の血を欲するか?飲めば不死身とはならずとも、暫くのあいだ傷ついた肉体を再生する力を持つが」
「いや……それもいらねえよ」
レイラは笑いながら答えた。
「戦いの後に貸し借りなんて必要ないさ。全力で力をぶつけ合ったんだから、俺たちは対等だろ?」
そう言って拳を差し出したレイラの姿を見て、アダムの瞳にかつての記憶が蘇った。
(この者と同じように我を倒しながら、我を認め、命を奪わなかった者がいた。そして後に民を救う英雄となった。……この女の姿はあの者とよく似ている……)
アダムはゆっくりと顔を持ち上げると口を開いた。
「……気に入った。レイラと言ったな。我を連れて行くがいい。お前の歩む先にあるもの……我はその行く末を見届けたくなった」
(回りくどい言い方をする生き物だなあ)とポッカは思った。
レイラは「ええ!?」と声を上げて困惑する。
「いいけど……連れ立って歩くにゃ、お前でかすぎやしないか?」
――そう言って笑うレイラの顔が、テーブルの上に置いた水晶に映し出されている。
「あら~なんだか面白いことになってるじゃな~い」
水晶の前に座った女が笑う。彼女は真っ赤なバニースーツにズボンを履いていて、首元で切り揃えられた髪は黒い。
水晶にはいつの間にか、今度はイザドラの顔が映し出されている。
「支配と対話……全く異なる考えを持った二人……絶対に相いれない二つの思想」
女が呟くとイザドラの顔とレイラの顔、二人の顔が交互に水晶へ映し出される。
「しかもこの二人は巡り合うことが運命付けられている……面白いわぁ~」
女は青色と黄色、二つのガラス玉を順番にテーブルの上へ弾く。
「イザドラとレイラ、この二人の運命が交叉するとき、いったいどんな事件が持ち上がるのかしら?」
女はガラス玉の横にブリキ細工の人形を置いていく。
「何が生まれ、何が失われるのか。誰が誰の傍に立ち、誰が誰を裏切るのか……」
女が2つのガラス玉を指の間に挟むと、それは炎に包まれて消えてしまった。テーブルの上の人形も次々と炎に包まれて消えていく。
「んふっ、この後の顛末が楽しみだわぁ~」
このテーブルがどこにあるか、水晶を眺めるこの女がどこにいるのか、知る者はいない。
女は椅子から立ち上がると部屋の外へ出ていった。真っ黒いドアがバタン、と閉じられる。
アダムの咆哮は山肌を駆け上がり山頂まで響いた。ポッカが思わず耳を塞ぐ。レイラは口角を上げて楽しそうにアダムを見ている。
「来るがいい……」
アダムの誘いに、レイラは大地を蹴って応える。黄色い光を身に纏い、空中に浮かんだレイラの拳が、アダムが張った魔力の壁と激突する。
バチン!と大きな音が鳴る。
拳と魔力壁の力は拮抗しつつあり、拳は弾かれず、魔力壁も壊れない。
「うおおおお!」
レイラが咆哮し、拳へさらに力を込めた。しかしーー
アダムが翼を一振りして壁にさらなる魔力を込めると、レイラの身体は軽々と弾き飛ばされた。レイラの身体が宙に舞う。
「ちっ!」
受け身を取って地面に転がったレイラは即座に起き上がる。そこへアダムが口から魔力の塊を撃ち放った。
ゴオッ
反射的にポッカの背筋が凍り鳥肌が立った。
膨大な魔力量。
放射範囲も広い。
そんな魔力の塊が、恐ろしい速さでレイラの立つ大地を貫き、焼き尽くした。
後には何も残らない。地面さえも。
地面に空いた巨大な穴を見て、ポッカが絶叫する。
「レイラー!!!」
アダムは悲しげに目を細める。
「また、無益に命を散らしたか……愚かな……」
そう呟いた次の瞬間、
ピクッ。
アダムの感覚器官が、至近距離にある魔力の奔流を検知した。
漆黒の瞳を自らの足元に向けたアダムの目に映ったのは、空気を焦がす黄色い光。
アダムは反射的に翼を広げて空へと飛びあがった。
しかし、レイラはそれを上回る速度でアダムの頭上へジャンプすると、竜の脳天へ魔力もろとも拳を叩きつけた。
ズウウウウン
アダムの身体が大地に叩きつけられ、動かなくなる。
そして悠然と大地へ着地して鋭い歯を見せるレイラの顔が、ポッカには一瞬、悪魔のように見えた。
(こわい……でも……)
彼はレイラに本能的な恐怖を感じていた。でも、とポッカは思った。レイラは自分の友達なのだ。
「……すごい!すごいよレイラ!」
ポッカはレイラに駆け寄って称える。
「こんな大きな生き物を一撃で倒しちゃうなんて、レイラはやっぱり強いんだ!」
レイラは真剣な顔つきで「いや、それはちがうな……」と否定した。
「アダムの魔力量は完全に俺を上回ってた。あの一撃を食らっていたら間違いなく俺がやられてただろうな。魔力を素早さとパワーに変換する俺とは相性が悪かったってだけだ。アダムは強かった」
そう言ってレイラが振り返ると、意識までは失わなかったアダムが漆黒の瞳をレイラに向けて言った。
「負けた上に称えられるとはな……我を殺すか?」
レイラは呆れながら答える。
「だから、殺さねえって」
アダムも少し口元を緩めながら再度問いかける。
「そうか……では、我の血を欲するか?飲めば不死身とはならずとも、暫くのあいだ傷ついた肉体を再生する力を持つが」
「いや……それもいらねえよ」
レイラは笑いながら答えた。
「戦いの後に貸し借りなんて必要ないさ。全力で力をぶつけ合ったんだから、俺たちは対等だろ?」
そう言って拳を差し出したレイラの姿を見て、アダムの瞳にかつての記憶が蘇った。
(この者と同じように我を倒しながら、我を認め、命を奪わなかった者がいた。そして後に民を救う英雄となった。……この女の姿はあの者とよく似ている……)
アダムはゆっくりと顔を持ち上げると口を開いた。
「……気に入った。レイラと言ったな。我を連れて行くがいい。お前の歩む先にあるもの……我はその行く末を見届けたくなった」
(回りくどい言い方をする生き物だなあ)とポッカは思った。
レイラは「ええ!?」と声を上げて困惑する。
「いいけど……連れ立って歩くにゃ、お前でかすぎやしないか?」
――そう言って笑うレイラの顔が、テーブルの上に置いた水晶に映し出されている。
「あら~なんだか面白いことになってるじゃな~い」
水晶の前に座った女が笑う。彼女は真っ赤なバニースーツにズボンを履いていて、首元で切り揃えられた髪は黒い。
水晶にはいつの間にか、今度はイザドラの顔が映し出されている。
「支配と対話……全く異なる考えを持った二人……絶対に相いれない二つの思想」
女が呟くとイザドラの顔とレイラの顔、二人の顔が交互に水晶へ映し出される。
「しかもこの二人は巡り合うことが運命付けられている……面白いわぁ~」
女は青色と黄色、二つのガラス玉を順番にテーブルの上へ弾く。
「イザドラとレイラ、この二人の運命が交叉するとき、いったいどんな事件が持ち上がるのかしら?」
女はガラス玉の横にブリキ細工の人形を置いていく。
「何が生まれ、何が失われるのか。誰が誰の傍に立ち、誰が誰を裏切るのか……」
女が2つのガラス玉を指の間に挟むと、それは炎に包まれて消えてしまった。テーブルの上の人形も次々と炎に包まれて消えていく。
「んふっ、この後の顛末が楽しみだわぁ~」
このテーブルがどこにあるか、水晶を眺めるこの女がどこにいるのか、知る者はいない。
女は椅子から立ち上がると部屋の外へ出ていった。真っ黒いドアがバタン、と閉じられる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる