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第三章 変化する状況
小噺: 彼女達の放課後
しおりを挟む※両家の顔合わせから数日後のお話です※
「流石、本条院様……本当に素敵ですわ!」
籐子の私室でお茶を嗜みながら、顔合わせの日の出来事を報告する。サクラの家族の横暴な振る舞いを聞き、眉を顰めてに不快感をあらわにしていた籐子だったが、菖斗に助けられた経緯を伝えると、瞳をキラキラと輝かせた。
「確かに、格好良かったな。」
膝の上で頷きながら告げるリリーの言葉に、その時の光景を思い出し、サクラは顔を真っ赤にする。杏の攻撃から守って貰ったことだけでも、いろんな感情が渦巻いて胸がいっぱいだったのに…。
『これからよろしくね、奥さん。』
事態が収束し、これからについての説明を受けた後、耳元でそっと囁かれ心臓が止まるかと思った。頭が上手く働かず、ボソボソと「まだ奥さんじゃ無いです……。」と返すので精一杯だ。そんなサクラに「そうだったね。」と菖斗は優しく微笑む。
私は、あの笑顔に弱いみたい……。
その時は緊張のあまり、煩い心臓の音を聞きながら目を白黒させることしか出来なかった。
話を聴き終わった籐子と梅が「キャーーーッ!」と黄色い歓声をあげる。
騒動の後、サクラは本条院家で生活をしながら花嫁修行に勤しんでいた。休日や放課後の時間を使って作法や必要な知識の習得に励んでいるが、菖斗の配慮で週に一度はこうして東十条家を訪れることが許されている。
籐子と放課後を過ごせるのは久しぶりだった為、今日は葵には席を外してもらい、近況報告に花を咲かせていた。
「本条院家での生活はどうですか?」
ニコニコと微笑む籐子に尋ねられ、照れながら「とても良くして頂いています。」と答える。
「奴の押しの強さはなかなかだぞ。」
クククと笑いながらリリーが告げると、籐子と梅が身を乗り出す。
「まぁ!素敵!」
「少々押しが強い方が頼りがいがあってようございまする!」
サクラを温かい眼差しで見つめながら菖斗を褒めまくる二人の言葉を聞き、また心がむず痒くなる。
「昨日も奴が名前で呼べと煩くてな。」
そんなサクラを他所に、リリーはニヤニヤしながら話を続けた。
「本条院の小僧はあの手この手を使ってサクラに名前を呼ばせようとしておるわ。」
そう言われて、サクラは昨夜の出来事を思い出す。菖斗から、近い将来伴侶となるのだからお互いを名前で呼び合おうと提案されたのだ。
では試しに…と優しい声で「サクラ」と呼ばれた瞬間、カッと体温が上昇し心臓がぎゅぅぅぅと締め付けられた。「さぁ、君も」と満面の笑顔で促され、何度も口を開こうとしたが……………無理だった。
………駄目だ、さっきの破壊力が強すぎる。
心臓が明らかに正常ではない音を立て続けている。胸がいっぱいで上手く言葉に出来ない。
「す、少し時間を下さい……!」
何とかそれだけを言い切ると逃げるように部屋を飛び出したのだった。
「恥ずかしくてとても無理でした……。」
頬を染めて俯きながら名前を呼べませんでしたと告げると、「可愛いですわ!」と籐子が高い声を出す。
「まだお互いを知り始めたばかりですもの。焦らず、これからゆっくり距離を縮めていけば良いんですよ。」
籐子の言葉にサクラは力なく頷く。きっと時間が掛かるだろうな…。
「…そういう籐子様は最近どうなんですか?」
サクラのことばかりを聞かれては分が悪い。今度はこちらの番だと目を輝かせて籐子の顔を覗き込むと、恥ずかしそうに目を伏せる。うぅ…可愛らしい。
「さぁ、じっくり聞かせてもらいますわ!」
そう宣言すると、サクラは照れる籐子に遠慮なくどんどん質問を投げる。こうして今日も彼女達の放課後は過ぎていった。
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\ お読みいただきありがとうございます! /
これにて第一部完結となります!
毎日1話ずつ執筆しているのですが、第二部に向けて、構成整理のお時間をいただければと思います…。連休明けには再開予定です!暫しお待ち下さい!
応援ありがとうございます!
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