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第4章 棋士の立場
第56話 カラスが番勝負を観戦したら(その3)
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「じゃあ、次ね」
馬場と鈴香はクロの前で叡王戦五番勝負の第3局、第4局、第5局を順に並べて行く。
クロは分かっているのかいないのか、時折盤面に顔を向けるくらいで、確たる興味を示すような動きをしない。
「これじゃあ、まるで私が勉強してるみたい」
「まあ、鈴香も強くならないとな」
「それはそうなんだけどぉ」
プロ棋士の棋譜を並べる勉強方法は、将棋が強くなるために有効な勉強方法のひとつ。
それを分かっているだけに、鈴香も一手一手について考えながら棋譜を並べて行く。
「こんな手はないの?」
時折、手を止めて自分の読み筋を披露する。
馬場も考え込んで、手を口にする。
「うーん、飛車を回るのは?」
「それは金を引いてから歩で受けて…大丈夫でしょ」
「…そうか、歩で叩いてから銀を出るのは?」
「それは銀を放置して角を引くと…」
「厳しいな」
馬場も懸命に考えるが、このところ鈴香に読み負けてしまう場面が増えてきた。
「ねえ、ソフトの最善手は?」
馬場が「うむ」とパソコンを操作する。
「最善は銀を出る手、とあるな」
「私の手は?」
「3番手、いや4番手か、あ、3番手に上がった」
「そのくらいってことか…」
鈴香は最善手の銀を動かして考える。
「何となくだけどぉ、ピンと来ないよ」
「人によって指しやすい局面が違うしな」
「そうだよね」
その後も局面を進めて行く。
「で、辻井先生が投了っと」
じっくり時間をかけて5局目の最後まで並べ終わる。
「どう?クロ?」
結局、5局目の最後までクロは特別な反応を見せなかった。
「最後まで見てたような、見てなかったような」
鈴香がクロの頭を撫でると、クロは気持ちよさそうに目を閉じた。
「そもそもこの対局の一方が、次に対戦する佐藤先生って分っているのかどうか…」
「だよねえ」
鈴香は駒を整える。
「じいちゃん、1局指そうよ!」
「指すか!」
馬場は対局時計をセットした。
馬場側のボタンを押した鈴香が「私、先手ね」と飛車先の歩を突いた。
「せっかくだし角換わりっぽく指してみるか?」
「うん!」
棋譜を並べていた叡王戦の五番勝負にならって角換わりの展開に進める。
もっとも馬場はプロ棋士ほどに角換わりを知っているわけではない。もちろん鈴香も。
「クワッ」
クロは…分からない。
それでもアマ有段者と研修会員なりの力量で駒を進めて行く。
プロ棋士からすれば悪手とまでは言わないものの、疑問手や緩手だらけなのかもしれない。
それでも互角と思って馬場と鈴香は盤面を睨んでいた。
「クワア」
クロが盤面に上がって鈴香の飛車をくわえる。
そのまま2つ横のマスに動かした。
「この方が良いの?」
「クワクワッ」
「うん?ちょっと待った」
馬場がパソコンに入力すると、クロの手が最善手として表示された。
「えーっ!私には思いつかないよ」
「うーん」
こうしてクロが差し手を示すことは、これまでにも度々ある。
鈴香らの対局中のこともあれば、感想戦の時、棋譜を並べている時のこともあった。
ただし、どんな局面になるとクロが動いて指し手を示すのかが分からない。
「あっ、しまった!」
馬場が叫ぶ。
佐倉からできるだけクロの情報を集めておいて欲しいと言われたことを思い出した。
「最初からスマホで撮っておけば良かったなあ」
「局面を送ってあげたら?」
鈴香のアドバイスに「そうだな」と馬場は答えた。
結局、馬場と鈴香の対局は鈴香が勝った。
しかしクロが差し手を示したのは、先ほどの1回だけだった。
馬場と鈴香はクロの前で叡王戦五番勝負の第3局、第4局、第5局を順に並べて行く。
クロは分かっているのかいないのか、時折盤面に顔を向けるくらいで、確たる興味を示すような動きをしない。
「これじゃあ、まるで私が勉強してるみたい」
「まあ、鈴香も強くならないとな」
「それはそうなんだけどぉ」
プロ棋士の棋譜を並べる勉強方法は、将棋が強くなるために有効な勉強方法のひとつ。
それを分かっているだけに、鈴香も一手一手について考えながら棋譜を並べて行く。
「こんな手はないの?」
時折、手を止めて自分の読み筋を披露する。
馬場も考え込んで、手を口にする。
「うーん、飛車を回るのは?」
「それは金を引いてから歩で受けて…大丈夫でしょ」
「…そうか、歩で叩いてから銀を出るのは?」
「それは銀を放置して角を引くと…」
「厳しいな」
馬場も懸命に考えるが、このところ鈴香に読み負けてしまう場面が増えてきた。
「ねえ、ソフトの最善手は?」
馬場が「うむ」とパソコンを操作する。
「最善は銀を出る手、とあるな」
「私の手は?」
「3番手、いや4番手か、あ、3番手に上がった」
「そのくらいってことか…」
鈴香は最善手の銀を動かして考える。
「何となくだけどぉ、ピンと来ないよ」
「人によって指しやすい局面が違うしな」
「そうだよね」
その後も局面を進めて行く。
「で、辻井先生が投了っと」
じっくり時間をかけて5局目の最後まで並べ終わる。
「どう?クロ?」
結局、5局目の最後までクロは特別な反応を見せなかった。
「最後まで見てたような、見てなかったような」
鈴香がクロの頭を撫でると、クロは気持ちよさそうに目を閉じた。
「そもそもこの対局の一方が、次に対戦する佐藤先生って分っているのかどうか…」
「だよねえ」
鈴香は駒を整える。
「じいちゃん、1局指そうよ!」
「指すか!」
馬場は対局時計をセットした。
馬場側のボタンを押した鈴香が「私、先手ね」と飛車先の歩を突いた。
「せっかくだし角換わりっぽく指してみるか?」
「うん!」
棋譜を並べていた叡王戦の五番勝負にならって角換わりの展開に進める。
もっとも馬場はプロ棋士ほどに角換わりを知っているわけではない。もちろん鈴香も。
「クワッ」
クロは…分からない。
それでもアマ有段者と研修会員なりの力量で駒を進めて行く。
プロ棋士からすれば悪手とまでは言わないものの、疑問手や緩手だらけなのかもしれない。
それでも互角と思って馬場と鈴香は盤面を睨んでいた。
「クワア」
クロが盤面に上がって鈴香の飛車をくわえる。
そのまま2つ横のマスに動かした。
「この方が良いの?」
「クワクワッ」
「うん?ちょっと待った」
馬場がパソコンに入力すると、クロの手が最善手として表示された。
「えーっ!私には思いつかないよ」
「うーん」
こうしてクロが差し手を示すことは、これまでにも度々ある。
鈴香らの対局中のこともあれば、感想戦の時、棋譜を並べている時のこともあった。
ただし、どんな局面になるとクロが動いて指し手を示すのかが分からない。
「あっ、しまった!」
馬場が叫ぶ。
佐倉からできるだけクロの情報を集めておいて欲しいと言われたことを思い出した。
「最初からスマホで撮っておけば良かったなあ」
「局面を送ってあげたら?」
鈴香のアドバイスに「そうだな」と馬場は答えた。
結局、馬場と鈴香の対局は鈴香が勝った。
しかしクロが差し手を示したのは、先ほどの1回だけだった。
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