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第60.1話 騎士団長の迷い
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「お帰りなさいませ」
オルギュール・ビルギイトらはワーレンバーグ公爵家に所属する騎士団員らの出迎えを受けた。
「クリスパ領は、いかがでしたか?」
「うむ、なかなかに美しかった」
ずれた回答だったが、団員から「おお!」の声があがる。
オルギュールに同行していた騎士も「確かに」「その通り」とうなずいた。
一方で居残りとなった騎士達が残念そうに嘆く。
「いずれ我々も“クリスパの宝石”にお目にかかりたいものです」
「宝石?どちらかと言えば、薫り高い山百合のような…」
「山百合…とは?」
聞き返されたオルギュールは、ここで話のずれに気づく。
無論、彼が思い浮かべていたのはアラーナ・クリスパ伯爵令嬢ではない。
「どうかされましたか?」
「いや、何でもない」
「……そうですか。ところで早速今夜はいかがですか?」
「今夜?」
「新人の歓迎会ですよ」
「あっ!」
先日、ワーレンバーグ公爵家の騎士団に新人が入った。その歓迎会として…
「あいつらも楽しみにしてるんですよ。団長のおごりで行けるんですから」
「そ、そうか…」
ワーレンバーグ公爵家に限らず、騎士達には独り身の男が少なくない。
そこでたまった性欲を発散する場が必要となる。つまりは娼館だ。
王都に不慣れな場合、先輩の騎士が案内していた。
ワーレンバーグ公爵家の騎士団で新人が入ると、オルギュールが高めの店に連れて行くのが恒例となっている。
先ほどまで思い浮かべていた脳裏のパルマが非難するような視線を向ける。
「戻って早速、お出かけですか?お盛んですね」
脳内パルマが皮肉っぽく語る。
「これは、団長として…」
脳裏パルマに言い訳するものの、団員には理解できない。
「だめですか?」
「いや、だめではないんだが…」
「だが?」
後方に控えている新人騎士の期待に満ちた目を台無しにはできなかった。
「わかった。そっちで時間を決めて教えてくれ」
「はっ!」
新人騎士が大喜びした。
その夜、オルギュールと新人騎士の4人が闇の中をこっそり出かけて行った。
いずれも立派な体格をしており、強盗の集団ですら裸足で逃げ出しそうだ。
しかしながらオルギュールを覗いた4人の顔は崩れがちだった。
「こっちだ」
オルギュールが「止まり木」と看板の出ている店の扉を開ける。
彼にとってなじみの娼館のひとつ。
一般の騎士達にとっては少々値が張るものの、団長であるオルギュールには手ごろだった。
「これは、これは、オルギュール様!」
主人の男が5人に愛想を向ける。
「新人を連れてきた」
「はいはい、かしこまりました」
主人が4人を迎え入れると、歓声とともに大勢の女が彼らを取り囲む。
目当ての女を選んだ4人は早々に小部屋へ姿を消した。
「いつもの通り朝までゆっくりと、な」
「団長様も大変ですなあ」
ここで主人はいつもと違うことに気付く。
いつものオルギュールであっても、新人に先を譲るのは同じ。
その後に残った女達の中から適当に-時には2人、3人と-選んで小部屋に向かう。
しかし今日のオルギュールは待ち合い部屋の椅子に腰を降ろして酒を頼んだ。
「オルギュール様はよろしいので?」
「うん?ああ…」
オルギュールは言葉を濁す。
たまった性欲を発散したい気持ちはあるものの、生身の女を相手にする気分ではない。
主人が女達の方を向いて目で合図すると、1人の女がオルギュールに近づく。
「よろしければ、お酒のお相手をしましょうか?」
「……リドラか」
リドラは「止まり木」でも古株の女で、豊満な体と話題の豊富さで常に人気の上位を占める。
これまでに何度もオルギュールが相手にしたことのある女のひとりだった。
リドラはオルギュールの横に座ると、飲み干したグラスに酒を注ぐ。
「何かありましたか?」
「いや、まあ…」
オルギュールの口が重い。一方でペースは速い。
グラスに注がれた酒を一気に飲み干す。
「オルギュール様が何もしないのでは、新人さんも思い切り遊べませんよ」
オルギュールが苦笑する。
まさかそんなことはないだろうが、団長ならではの自尊心がくすぐられた。
「じゃあ、こちらも新入りの相手になっていただけませんか?」
「うん?」
リドラが手招きすると、客を待っていた中から1人の女が歩いてくる。
「オルギュール様なら、初めての娘を安心してお任せできます」
他の女のように着飾って化粧をしているものの、その態度は不慣れなものが見て取れる。
それでも女はオルギュールの目を引いた。女にしては高めの背に。
オルギュールの興味を察したリドラは女の手を引っ張って自分とオルギュールの間に座らせた。
「名前はノーナ、いかが?」
『ノーナか。名前が似ていると言えば似ているな』
名前はともかく、背の高さはパルマとほぼ同じ。ただし髪や瞳の色は全く違う。
体の肉付きは…
『こっちの方がいくらか良いか…』
そこまで考えて頭を振るとオルギュールは席を立つ。
「私で良いか?」
ノーナは小さく「はい」と答えてうなずいた。
オルギュール・ビルギイトらはワーレンバーグ公爵家に所属する騎士団員らの出迎えを受けた。
「クリスパ領は、いかがでしたか?」
「うむ、なかなかに美しかった」
ずれた回答だったが、団員から「おお!」の声があがる。
オルギュールに同行していた騎士も「確かに」「その通り」とうなずいた。
一方で居残りとなった騎士達が残念そうに嘆く。
「いずれ我々も“クリスパの宝石”にお目にかかりたいものです」
「宝石?どちらかと言えば、薫り高い山百合のような…」
「山百合…とは?」
聞き返されたオルギュールは、ここで話のずれに気づく。
無論、彼が思い浮かべていたのはアラーナ・クリスパ伯爵令嬢ではない。
「どうかされましたか?」
「いや、何でもない」
「……そうですか。ところで早速今夜はいかがですか?」
「今夜?」
「新人の歓迎会ですよ」
「あっ!」
先日、ワーレンバーグ公爵家の騎士団に新人が入った。その歓迎会として…
「あいつらも楽しみにしてるんですよ。団長のおごりで行けるんですから」
「そ、そうか…」
ワーレンバーグ公爵家に限らず、騎士達には独り身の男が少なくない。
そこでたまった性欲を発散する場が必要となる。つまりは娼館だ。
王都に不慣れな場合、先輩の騎士が案内していた。
ワーレンバーグ公爵家の騎士団で新人が入ると、オルギュールが高めの店に連れて行くのが恒例となっている。
先ほどまで思い浮かべていた脳裏のパルマが非難するような視線を向ける。
「戻って早速、お出かけですか?お盛んですね」
脳内パルマが皮肉っぽく語る。
「これは、団長として…」
脳裏パルマに言い訳するものの、団員には理解できない。
「だめですか?」
「いや、だめではないんだが…」
「だが?」
後方に控えている新人騎士の期待に満ちた目を台無しにはできなかった。
「わかった。そっちで時間を決めて教えてくれ」
「はっ!」
新人騎士が大喜びした。
その夜、オルギュールと新人騎士の4人が闇の中をこっそり出かけて行った。
いずれも立派な体格をしており、強盗の集団ですら裸足で逃げ出しそうだ。
しかしながらオルギュールを覗いた4人の顔は崩れがちだった。
「こっちだ」
オルギュールが「止まり木」と看板の出ている店の扉を開ける。
彼にとってなじみの娼館のひとつ。
一般の騎士達にとっては少々値が張るものの、団長であるオルギュールには手ごろだった。
「これは、これは、オルギュール様!」
主人の男が5人に愛想を向ける。
「新人を連れてきた」
「はいはい、かしこまりました」
主人が4人を迎え入れると、歓声とともに大勢の女が彼らを取り囲む。
目当ての女を選んだ4人は早々に小部屋へ姿を消した。
「いつもの通り朝までゆっくりと、な」
「団長様も大変ですなあ」
ここで主人はいつもと違うことに気付く。
いつものオルギュールであっても、新人に先を譲るのは同じ。
その後に残った女達の中から適当に-時には2人、3人と-選んで小部屋に向かう。
しかし今日のオルギュールは待ち合い部屋の椅子に腰を降ろして酒を頼んだ。
「オルギュール様はよろしいので?」
「うん?ああ…」
オルギュールは言葉を濁す。
たまった性欲を発散したい気持ちはあるものの、生身の女を相手にする気分ではない。
主人が女達の方を向いて目で合図すると、1人の女がオルギュールに近づく。
「よろしければ、お酒のお相手をしましょうか?」
「……リドラか」
リドラは「止まり木」でも古株の女で、豊満な体と話題の豊富さで常に人気の上位を占める。
これまでに何度もオルギュールが相手にしたことのある女のひとりだった。
リドラはオルギュールの横に座ると、飲み干したグラスに酒を注ぐ。
「何かありましたか?」
「いや、まあ…」
オルギュールの口が重い。一方でペースは速い。
グラスに注がれた酒を一気に飲み干す。
「オルギュール様が何もしないのでは、新人さんも思い切り遊べませんよ」
オルギュールが苦笑する。
まさかそんなことはないだろうが、団長ならではの自尊心がくすぐられた。
「じゃあ、こちらも新入りの相手になっていただけませんか?」
「うん?」
リドラが手招きすると、客を待っていた中から1人の女が歩いてくる。
「オルギュール様なら、初めての娘を安心してお任せできます」
他の女のように着飾って化粧をしているものの、その態度は不慣れなものが見て取れる。
それでも女はオルギュールの目を引いた。女にしては高めの背に。
オルギュールの興味を察したリドラは女の手を引っ張って自分とオルギュールの間に座らせた。
「名前はノーナ、いかが?」
『ノーナか。名前が似ていると言えば似ているな』
名前はともかく、背の高さはパルマとほぼ同じ。ただし髪や瞳の色は全く違う。
体の肉付きは…
『こっちの方がいくらか良いか…』
そこまで考えて頭を振るとオルギュールは席を立つ。
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