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第148話 新しい仕立て
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「お待たせいたしました」
ワーレンバーグ公爵邸に出入りしている服飾店の主人らが注文の品を持ってきた。
以前に頼んであった侍女向けの服。
「生地は良さそうですね」
「はい、ご指示の通りに裁断や縫製も行いましたので、相応に着心地も変わるかと思います」
「そう」
アラーナ(タルバン)はうなずくと、傍らのアリィ(アラーナ)とパルマが職人から受け取った。
一礼した2人は着替えるため別室に下がる。
2人の背を見送った主人らはアラーナ(タルバン)に向き直る。
「大きな問題がなければ、他の方の分に取り掛かります」
「そうね。あと、もう1カ所、いえ2カ所、頼みたいところがあるので…」
「どういったものでしょうか?」
アラーナ(タルバン)が紙を取り出しかけたところで、アリィ(アラーナ)とパルマが戻ってくる。
2人は並んでアラーナ(タルバン)の前に立つ。
見た目だけなら、以前と変わらない。
「どう?」
「生地が軽いですね」
【着心地も良いです】
「動きやすさは?」
「問題ありません」
アリィ(アラーナ)もうなずいた。
「なら、このまま追加をお願いしたいんだけど…」
アラーナ(タルバン)は先ほどの紙を主人と職人にみせた。
「これは?」
「襟の右側にこれを…」
アラーナ(タルバン)は紙に描かれた文字を指さす。「W」を意匠化したものだ。
言うまでもなくワーレンバーグの最初の文字。
「そして左側にこれを…」
指し示した先には4弁の花を意匠化した絵があった。
こちらはアリィ(アラーナ)の好みの花。
「生地と暗めの同系色で刺繍してください」
「暗めの同系色…」を繰り返した職人。
「目立たないように、でもしっかりと、と言うことでしょうか?」
「ええ」
アリィ(アラーナ)もかすかにうなずいた。
主人と職人が糸の色について話し合う。
「念のため、いくつかの色で刺繍だけ見本として先に仕上げましょう」
「…そうね」
「明日にもお持ちしますので、確認していただければ…」
「ええ」
話が終わったと思ったところで、主人が言いにくそうに切り出す。
「折り入って、こちらからお願いしたいことがあるのですが…」
「何でしょう?」
「今回の裁断や縫製の工夫ですが、別の衣服に使わせていただきたいと思いまして…」
アラーナ(タルバン)はチラッとアリィ(アラーナ)に目をやる。
アリィ(アラーナ)は「問題ない」と言うように、ちょっとうなずいた。
アラーナ(タルバン)は微笑んで手を振った。
「どうぞ、自由に使ってください」
「ありがとうございます!」
その後に続いた主人の言葉は、アラーナ(タルバン)とアリィ(アラーナ)にとって意外なものだった。
「権利料としておいくらくらいお支払いすれば…」
アラーナ(タルバン)は目を見開いてアリィ(アラーナ)を見た。
アリィ(アラーナ)は「要らない」とばかりに小さく首を振る。
「不要です」
「ええっ!」
主人も職人も飛び上がらんばかりに恐縮する。
「よ、よろしいのですか?」
「十分に収入は得ていますし、余分に収入を得ようとは思いません」
「は、はあ」
「むしろ、その分、皆さんにお手頃な価格で提供してください」
「か、かしこまりました。…うん?」
主人の袖を職人が引っ張ると、何がしかを耳打ちした。
「ああ!なるほど!それは良い!」
「?」
「それでは、この裁断と縫製のやり方にお名前を頂いて、“アラーナ式”と名付けたいと…」
アラーナ(タルバン)は苦笑しつつアリィ(アラーナ)を確認する。
アリィ(アラーナ)は「止めて!」と言いたげに強めに首を振った。
アラーナ(タルバン)は吹き出しそうになった口元を扇子で隠す。
横に立つパルマも咳払いで笑いをこらえた。
「…いえ、それは止めておきましょう」
「そうですか?そこを何とか…」
食い下がる主人に、「じゃあ、“A式”とでも…」とアラーナ(タルバン)は妥協した。
「ありがとうございます!しかし、衣装作りに詳しいのですね」
アラーナ(タルバン)は笑みを浮かべる。
言うまでもなく工夫の元はアリィ(アラーナ)だ。
タルバン自身は何とかボタンを付けるくらい。
「まあ、クリスパ伯爵家が財政的に厳しかったので…」
アラーナ(タルバン)が恥ずかしそうにして見せると、主人は「しまった!」とばかりに顔をしかめた。
「いえ、今後ともよろしくお願いしますね」
アラーナ(タルバン)がおうように会釈した。
「お疲れ様でした」
主人らを見送ったパルマが扉を閉めた。
パコパコと音がすると思えば、アリィ(アラーナ)がアラーナ(タルバン)の頭を板で叩いている。
「“A式”で良いじゃないか?」
【きっと アラーナ式って伝わります】
「そりゃ、まあ…」
アラーナ(タルバン)は頭の痛みをもうしばらくこらえることになった。
ワーレンバーグ公爵邸に出入りしている服飾店の主人らが注文の品を持ってきた。
以前に頼んであった侍女向けの服。
「生地は良さそうですね」
「はい、ご指示の通りに裁断や縫製も行いましたので、相応に着心地も変わるかと思います」
「そう」
アラーナ(タルバン)はうなずくと、傍らのアリィ(アラーナ)とパルマが職人から受け取った。
一礼した2人は着替えるため別室に下がる。
2人の背を見送った主人らはアラーナ(タルバン)に向き直る。
「大きな問題がなければ、他の方の分に取り掛かります」
「そうね。あと、もう1カ所、いえ2カ所、頼みたいところがあるので…」
「どういったものでしょうか?」
アラーナ(タルバン)が紙を取り出しかけたところで、アリィ(アラーナ)とパルマが戻ってくる。
2人は並んでアラーナ(タルバン)の前に立つ。
見た目だけなら、以前と変わらない。
「どう?」
「生地が軽いですね」
【着心地も良いです】
「動きやすさは?」
「問題ありません」
アリィ(アラーナ)もうなずいた。
「なら、このまま追加をお願いしたいんだけど…」
アラーナ(タルバン)は先ほどの紙を主人と職人にみせた。
「これは?」
「襟の右側にこれを…」
アラーナ(タルバン)は紙に描かれた文字を指さす。「W」を意匠化したものだ。
言うまでもなくワーレンバーグの最初の文字。
「そして左側にこれを…」
指し示した先には4弁の花を意匠化した絵があった。
こちらはアリィ(アラーナ)の好みの花。
「生地と暗めの同系色で刺繍してください」
「暗めの同系色…」を繰り返した職人。
「目立たないように、でもしっかりと、と言うことでしょうか?」
「ええ」
アリィ(アラーナ)もかすかにうなずいた。
主人と職人が糸の色について話し合う。
「念のため、いくつかの色で刺繍だけ見本として先に仕上げましょう」
「…そうね」
「明日にもお持ちしますので、確認していただければ…」
「ええ」
話が終わったと思ったところで、主人が言いにくそうに切り出す。
「折り入って、こちらからお願いしたいことがあるのですが…」
「何でしょう?」
「今回の裁断や縫製の工夫ですが、別の衣服に使わせていただきたいと思いまして…」
アラーナ(タルバン)はチラッとアリィ(アラーナ)に目をやる。
アリィ(アラーナ)は「問題ない」と言うように、ちょっとうなずいた。
アラーナ(タルバン)は微笑んで手を振った。
「どうぞ、自由に使ってください」
「ありがとうございます!」
その後に続いた主人の言葉は、アラーナ(タルバン)とアリィ(アラーナ)にとって意外なものだった。
「権利料としておいくらくらいお支払いすれば…」
アラーナ(タルバン)は目を見開いてアリィ(アラーナ)を見た。
アリィ(アラーナ)は「要らない」とばかりに小さく首を振る。
「不要です」
「ええっ!」
主人も職人も飛び上がらんばかりに恐縮する。
「よ、よろしいのですか?」
「十分に収入は得ていますし、余分に収入を得ようとは思いません」
「は、はあ」
「むしろ、その分、皆さんにお手頃な価格で提供してください」
「か、かしこまりました。…うん?」
主人の袖を職人が引っ張ると、何がしかを耳打ちした。
「ああ!なるほど!それは良い!」
「?」
「それでは、この裁断と縫製のやり方にお名前を頂いて、“アラーナ式”と名付けたいと…」
アラーナ(タルバン)は苦笑しつつアリィ(アラーナ)を確認する。
アリィ(アラーナ)は「止めて!」と言いたげに強めに首を振った。
アラーナ(タルバン)は吹き出しそうになった口元を扇子で隠す。
横に立つパルマも咳払いで笑いをこらえた。
「…いえ、それは止めておきましょう」
「そうですか?そこを何とか…」
食い下がる主人に、「じゃあ、“A式”とでも…」とアラーナ(タルバン)は妥協した。
「ありがとうございます!しかし、衣装作りに詳しいのですね」
アラーナ(タルバン)は笑みを浮かべる。
言うまでもなく工夫の元はアリィ(アラーナ)だ。
タルバン自身は何とかボタンを付けるくらい。
「まあ、クリスパ伯爵家が財政的に厳しかったので…」
アラーナ(タルバン)が恥ずかしそうにして見せると、主人は「しまった!」とばかりに顔をしかめた。
「いえ、今後ともよろしくお願いしますね」
アラーナ(タルバン)がおうように会釈した。
「お疲れ様でした」
主人らを見送ったパルマが扉を閉めた。
パコパコと音がすると思えば、アリィ(アラーナ)がアラーナ(タルバン)の頭を板で叩いている。
「“A式”で良いじゃないか?」
【きっと アラーナ式って伝わります】
「そりゃ、まあ…」
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