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黒い森の魔女
魔女 と 騎士
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シュヴァルツバルト_____通称、黒い森。
おぞましい魔物が巣食うというその場所には、魔女がたった一人静かに暮らしていた。
「魔女殿、魔女殿!自分です!ヒューグベルトです!」
「ええい五月蝿い!乱暴に叩くなドアが壊れる!また来たのか貴様!」
本来であれば人間が足を踏み入れることすら許されないはずの森の中。
深紅の髪を持つ男が名乗りを上げながら古びた木製の扉をドンドンと叩くと、何処かで鴉が驚いて飛び去っていった音がした。
小屋と呼ぶには些か立派な家の主は中で息を潜めて訪問者が帰るのを待っていた。
「突然の来訪誠に申し訳ありません!連絡の手がないために事前にお知らせすることも出来ず!」
「連絡を寄越せと言っているんじゃあない、来るなと言っているんだ!」
そして結局は頓珍漢な謝罪に痺れを切らした家主_____黒い森の魔女は、毎度の事ながらこうしてドアを開けてしまうのだ。
騎士らしく騎士道に則り礼を尽くす男に礼儀の問題ではないのだと魔女は言う。
このような不毛なやり取りを二人がもう何度繰り返しているのかは分からない。
彼女としては居留守を貫いて何事も無かったかのように分からずや騎士にお帰り願いたいところなのだが、我慢比べになると比べるまでもなくこの男の方がめっぽう強いので魔女にとっては毎回負け戦も同然だった。
「大体、ここにはそう簡単に辿り着けないよう妖精が見てくれているはずなのにどうして……」
「そこは気合い……いえ、愛の力のなせる技とでもいうのでしょうか」
「気合いでいいよ、そこは。……あぁ、さてはあいつら面白がって仕事サボってるな?」
減俸処分だな、と呆れつつ魔女が「ほら、帰った帰った」とドアを閉めようとすると、隙間から手を差し込んでこじ開けるように騎士がそれを阻止する。
ミシ、と木材特有と嫌な音がして魔女は一瞬怯んだ。
「わ、ちょ……っ力強いなきみ!?」
「鍛えておりますから。ところで、今日の手土産は最近美味いと街で噂になっている店の焼き菓子なのですが」
「う………………いらない。持って帰りな」
「まあそう言わずに。受け取るだけ受け取ってはいただけないか。俺一人では食いきれなくて腐らせてしまうんです」
ですから、ね?とこうやって優しい声で言われてしまうと魔女は決まって揺らいでしまうのだ。森から出て街に行くことの少ない魔女にとって、街の甘味は抗いがたい誘惑だった。
_____食べ物に、罪はないから。
まだ少し煮え切らないような、少し不服そうな表情でドアを開けた魔女に騎士は菓子の入っている箱を差し出した。
騎士の大きな手のせいで小さく見えてしまう白い箱を魔女は両手で受け取って、彼に中に入るよう促した。
「……上がっていきなよ。礼にもならないけど、お茶くらいは出す」
「十分ですよ。俺にとっては十二分です」
「どう考えても釣り合ってないんだよ。借りは作りたくないって言ってるのに……」
ぶつくさと文句を言いながら家の中に向かう彼女に騎士は続く。
彼女が振る舞ったものならきっと白湯でも喜ぶのであろう彼は、突き放そうとする割に素直で律儀な魔女を見て頬を緩めた。
おぞましい魔物が巣食うというその場所には、魔女がたった一人静かに暮らしていた。
「魔女殿、魔女殿!自分です!ヒューグベルトです!」
「ええい五月蝿い!乱暴に叩くなドアが壊れる!また来たのか貴様!」
本来であれば人間が足を踏み入れることすら許されないはずの森の中。
深紅の髪を持つ男が名乗りを上げながら古びた木製の扉をドンドンと叩くと、何処かで鴉が驚いて飛び去っていった音がした。
小屋と呼ぶには些か立派な家の主は中で息を潜めて訪問者が帰るのを待っていた。
「突然の来訪誠に申し訳ありません!連絡の手がないために事前にお知らせすることも出来ず!」
「連絡を寄越せと言っているんじゃあない、来るなと言っているんだ!」
そして結局は頓珍漢な謝罪に痺れを切らした家主_____黒い森の魔女は、毎度の事ながらこうしてドアを開けてしまうのだ。
騎士らしく騎士道に則り礼を尽くす男に礼儀の問題ではないのだと魔女は言う。
このような不毛なやり取りを二人がもう何度繰り返しているのかは分からない。
彼女としては居留守を貫いて何事も無かったかのように分からずや騎士にお帰り願いたいところなのだが、我慢比べになると比べるまでもなくこの男の方がめっぽう強いので魔女にとっては毎回負け戦も同然だった。
「大体、ここにはそう簡単に辿り着けないよう妖精が見てくれているはずなのにどうして……」
「そこは気合い……いえ、愛の力のなせる技とでもいうのでしょうか」
「気合いでいいよ、そこは。……あぁ、さてはあいつら面白がって仕事サボってるな?」
減俸処分だな、と呆れつつ魔女が「ほら、帰った帰った」とドアを閉めようとすると、隙間から手を差し込んでこじ開けるように騎士がそれを阻止する。
ミシ、と木材特有と嫌な音がして魔女は一瞬怯んだ。
「わ、ちょ……っ力強いなきみ!?」
「鍛えておりますから。ところで、今日の手土産は最近美味いと街で噂になっている店の焼き菓子なのですが」
「う………………いらない。持って帰りな」
「まあそう言わずに。受け取るだけ受け取ってはいただけないか。俺一人では食いきれなくて腐らせてしまうんです」
ですから、ね?とこうやって優しい声で言われてしまうと魔女は決まって揺らいでしまうのだ。森から出て街に行くことの少ない魔女にとって、街の甘味は抗いがたい誘惑だった。
_____食べ物に、罪はないから。
まだ少し煮え切らないような、少し不服そうな表情でドアを開けた魔女に騎士は菓子の入っている箱を差し出した。
騎士の大きな手のせいで小さく見えてしまう白い箱を魔女は両手で受け取って、彼に中に入るよう促した。
「……上がっていきなよ。礼にもならないけど、お茶くらいは出す」
「十分ですよ。俺にとっては十二分です」
「どう考えても釣り合ってないんだよ。借りは作りたくないって言ってるのに……」
ぶつくさと文句を言いながら家の中に向かう彼女に騎士は続く。
彼女が振る舞ったものならきっと白湯でも喜ぶのであろう彼は、突き放そうとする割に素直で律儀な魔女を見て頬を緩めた。
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