異世界転生した最強の開眼者

遠月 アヤメ

文字の大きさ
1 / 12
第1話

終わりと始まり

しおりを挟む
青い空、薄ぺらい雲が流れる桜の木下で一人の少年が昼寝をしている。

眩しい太陽の光を、落ちていたボロボロの雑誌で顔を隠す。

彼の名前は「月山 ハルト」
ごく普通の高校生。
昼休みになれば毎日のように、いつも決まってお気に入りの木下で昼寝をしている。

このひと時が彼にとって幸せなのだ。

数時間の間、幸せな時間を過ごしていると
ちゅんちゅんっと聞こえるスズメのさえずりと共に遠くの方から彼の名前を呼ぶ女性の声がした。

その声は癒しとも言える美しい声だ。

だが、僕はなんとも思わない。

なぜなら毎日のように、その女性に怒鳴られ、幸せな時間を邪魔されているからだ。

女性は、いつもの様に同じ言葉をハルトに投げかける。

「ハルト!!いつまで寝てるつもり?」

毎回これで怒鳴ってきやがる。

少しくらい怒鳴る言葉変えろよ。っと口には出さないが心の中で女性に言った。

女性の名前は「高山 ユナ」 学年一の美少女で生徒会長、明るい性格で男女問わず人気者である。

ハルトとは真逆の性格の人間だ。

ユナは隣の家に住んでおり、物心ついた時から一緒にいる幼馴染ってやつだ。

「ハルト!今日の約束忘れてない?」

怒った顔でハルトを覗いていた。

実はユナとカラオケに行く約束をしていたのだが、昼寝を優先してしまったのだ。

「もちろん。ユナとの約束は忘れてないよ。少しだけ、ほんの少しだけ昼寝をして待ち合わせの時間まで待ってただけ」

ハルトはユナに嘘がバレないように落ち着いて答えた。

「ハルトさん!もう待ち合わせの時間30分もすぎてるんですけど・・・」

ユナの顔が鬼のようだ。

「あれれぇー。??おかしいなー。」

ハルトは惚けた顔で鼻をピクピクさせながら遠くを見ている。

「もう、いいから早く行こう。今日はハルトのおごりで許すから」

ユナは優しく囁いた。
さすが学年一の美少女である。

ふむふむと腕を組みながら無言でユナの顔を見つめた。


ユナはハルトの腕を掴み、足早にカラオケへと向かっていく。

それにつられハルトはダラダラと引っ張られながら歩いていた。

15分ほど歩いていると商店街に着いたが、何やら前の方が騒がしい。

事件や事故が大好きなハルトは急にユナを引っ張り、騒がしい場所へ足早に目指した。

さっきまでダラダラ歩いていたハルトの目は輝いていた。


もうすぐ着くぞと気持ちがたかぶったのも束の間。

こちらに向かってくる一人の男性。

その男性を見た瞬間、背筋が凍った。

右手には赤く染まった刃物を持ち、目の焦点は合っておらず完全に理性を失って発狂している。
男性が着ていた白のパーカーが半分以上、真っ赤な血で染まっている。

男性の背後に目を向けると数人が血だらけで横たわっている。

通り魔だとスグに分かった。

ハルトは今の状況が危険なのか、どうしたらいいのか頭が真っ白になった。

ふとユナに目を向けるとガタガタと震え座り込んでいる。

その姿を見て一気に冷静さを取り戻した。

「ユナ!立て!逃げるぞっ!」

しかし、恐怖で足がくすみ動けないユナ。

ユナを必死に引っ張り起き上がらせようとするハルト。

その間に、通り魔の男性は刃物を突き出しどんどん迫ってくる。

「ユナ早く立て!」

ハルトが通り魔の男性に目を向けると、男性はニタニタと笑いながらすぐ目の前に立っていた。

えっ・・・!?

ハルトは目を丸くして男性を見つめた。

次の瞬間、急に胸の痛みが走り顔を下に向けるとナイフが胸に刺さっているのが見えた。

「う、うそだろ・・・」

震える声で小言のようにささやき、そのまま背後に倒れ込み動けなくなった。

ドクドクと心臓の鼓動と共に流れ出る大量の血液。

少しづつ心臓の鼓動が弱くなっているのを感じる。

うっすらと空いた目から見える、、、

通り魔の男性が取り押さえられた風景、、

大量の涙を流し、目の前で大声で僕の名前を呼ぶユナ、、


その風景を虚ろな目で見ながら、ゆっくりと目を閉じた。




暗闇しかない


痛みを感じない


僕は死ぬのか、、、


あぁ、、


桜の木下で、また寝たかった、、


やだなぁ、、


もっと、、昼寝したかった、、


ユナとの約束も、、



ユナ、、、、




僕は・・・


まだ



死にたくない!!!



ハルトが「生きたい」と強く思ったその時

暗闇から赤い光が差し込んだ。


孤独や絶望に満ち溢れていたハルトは、赤く輝く一粒の光に見惚れていた。


暗闇で絶望していたハルトにとって光とは希望そのものだった。


赤い光はハルトの全身を包み込み、語りかける。


「貴様の生きたいと思う気持ちに我が答えよう・・・」


「その強く生きたいと思う気持ちが貴様に力を与えるであろう・・・」


「我は貴様と共に・・・」


「・・・・・」


ハルトはパッと目を見開いた。

数秒間なにが起きたのか理解できず呆然としていた。

ゆっくりと周りを見渡す。


「ここはどこだ?」


「いったい何が起きたんだ!?」

「たしか僕は・・ユナとカラオケに行く途中に・・通り魔に・・」

「通り魔!!」

「ヤバイ!ユナ立て!逃げるぞ!」

「・・・・」

ハルトは飛び起きて周りを見渡したが、誰もいない。

まったく理解が出来ず、呆然と立ち尽くす。


思い出したかのようにパッと自分の胸を見た。

「ナイフが刺さっていない。刺された形跡もない・・・」

いったいどうなっているんだと頭を抱えながら座り込んだ。

ハルトは自分なりに今まで起きたことを一つ一つ整理する。

昼寝、ユナとカラオケ、通り魔、そして自分は、たしかに刺されて死んだと悟った。

でも死んだはずなのに生きいている感覚がある。


そういえば、あの暗闇の中で見た赤い光はなんだったのだろう。

語りかけられた記憶があるのだが・・

記憶が曖昧だ。


周りを見渡すと薄暗い洞窟の中にいることも分かった。

目覚めてから、かなりの時間が経っていたので落ち着きも取り戻し、お腹も空き出した。

洞窟の中なので周りを見ても岩しかなく、食べれそうな物もない。

「あぁぁー腹減ったぁー」

「どーしたらいいんだよー」

「ここから出してくれ~」

「誰かぁ~」


っと大声を上げ寝そべった。


「うるさいのぉ~、いちいち大声を上げるでない。我を怒らせたいのか?」

頭の中で女性の声が響き渡る。


ハルトはビックリして飛び起きた。

「だ、だ、誰だ?」

「誰かいるのか」

ものすごい勢いで周りを見渡し、話しかけてきた相手を探したが、誰もいない。

「我を見たければ目を閉じるのじゃ」

ハルトは恐る恐る目を閉じると、
暗闇の中で赤いオーラを纏った美しい女性が立っていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...