7 / 12
第5話
洞窟の番人3
しおりを挟む倒れ込んだ暗黒牛からはモクモクと煙が上がり、魔物の焼ける匂いが周囲を充満させた。
「や、やりましたね。アイリスさん。」
「すごいですよ。アイリスさんがこんなに強いなんてビックリしました。」
ハルトは上半身だけ起き上がり、神アイリスに告げた。
神アイリスはハルトの言葉に耳を貸さず、暗黒牛を眺めている。
「我はもう・・・」
そう言って神アイリスは右膝をついた。
「アイリスさん!!」っとハルトがふらふらになって立ち上がり神アイリスを支えようとしたが、神アイリスの目には涙が溜まり、今にも泣き出しそうな顔をしている姿を見て立ち止まった。
神アイリスは震える声でハルトに伝えた。
「ハルトよ!我は全魔力と引き換えに瞬間的じゃが、神領域を越えた。こうして実体化出来たのも神領域を越えたからじゃ。それは、どういう意味かわかるな!」
「我は自分の魔力で意思を繋いできた。その意思の根源たる全魔力を使用したのじゃ。」
「もう我の魔力も残り少ない。」
「お主とこうやって話す事も、限られておる。」
神アイリスはハルトの方へと、涙目で微笑みながら振り向いた。
「お主が我の息子として成長する姿を見守って行きたかった・・・」
ハルトが神アイリスに近寄ろうとした
その時
[ドォゴーーーン]
と音と共にハルトの背後で土煙が上がり壁が崩れた。
背後を振り返るハルトだったが、何が起きたのか分からなかった。
「何がおきたんだ?」
そう言って神アイリスに視線を戻すと、衝撃的な光景が目に見えた。
「う、嘘だろ。」っと言葉を発し、ポロポロと泣き出したハルト。
神アイリスの下半身が吹き飛んで、跡形もなく無くなっていた。
床に転がった神アイリスはぐったりして動かない。
「アイリスさん!アイリスさん!」
「しっかりして、どうして、どうして。」
混乱し叫んだまま、神アイリスに近寄った。
神アイリスはぐったりしたまま、両腕をハルトの方へ回し「ぎゅっと」抱きしめた。
「す・・すまぬな。やはり・・奴は生きていたようじゃ・・」
今にも消えそうな声でハルトに聞かせた。
その言葉を聞いて丸焦げになっていた暗黒牛に視線を向けると、暗黒牛は赤黒いオーラをまとい白目を向いて立っていた。
暗黒牛は神アイリスに向けて今までより何十倍もの威力がある【暗黒弾】を撃ち放っていた。
その【暗黒弾】が神アイリスの下半身を吹き飛ばしたのだ。
暗黒牛の赤黒いオーラはどんどん拡大し、部屋全体を包み空間が歪むほど、丸焦げだった体も形を変化させ、所々にツノのような物も生えている。体型が変化し、筋力も倍増し、自我を失っている。
ハルトは暗黒牛のステータスにスキル【オーバーホール】が表記されていたのを思い出した。
暗黒牛は【オーバーホール】を使用し、自分を犠牲にし、ステータスを無理やり大幅に上昇させ復活していたのだ。
「ぶおぉーーー」
っと暗黒牛は叫び、両手に赤黒い魔力を集め始めた。
膨大な魔力でハルトと神アイリスを抹消しようとしているのだろうとハルトは思った。
ハルトを抱きしめながら離さない神アイリス。
「ハルトよ。ほんとに・・すまない・」
「お主の為に全力を尽くしたが・・我が力不足だったゆえに・・守ることが出来なかった。」
神アイリスが喋るたびに下半身の消し飛んだ裂け目から血がドバドバと流れた。
「も、もう喋らないでください。血が・・血が・・」
ハルトはテンパりながら神アイリスの裂け目を必死に両手で押さえる。
「我は・・久しく人の温もりを・・感じていなかった・・今こうやって息子の温もりを感じる事ができて・・し・・幸せじゃよ」
「た・・たすけ・て・やれなくて・・ほんとに・・すまな・・かった・・」
そう言って神アイリスは目を閉じ、少し幸せそうな顔をして息を引き取った。
「アイリスさん、目を開けて!」
「いやだ!」
「僕はまだ・・まだアイリスさんともっとお話したいです、もっと魔法を教えて欲しいです・・もっと僕の側にいて見守ってほしいです。」
「死なないで」
「死なないで・・」
「お願い・・だから・・」
「わぁぁぁぁん」っと大声で泣き出した。
ハルトは自分を責めた。
責めて責めて自分の弱さにイラだち、失望した。
「僕がもっと強ければ・・」
「僕が弱いから・・アイリスさんは・・」
「僕は誰も守れない・・」
「こんな僕は・・・」
「嫌いだ・・」
「弱い自分が嫌いだぁ!!」
暗黒牛は部屋ごと吹き飛ばすくらい巨大な魔力の塊を作り出していた。
強力な魔力の塊の【暗黒弾】をハルト目掛けて撃ち放った。
ハルトは目を閉じ、不甲斐ない自分に【死】を望んだ。
目を閉じた暗闇の中、ハルトの心の底から聞こえる声がする。
「諦めるのか?」
「ユナの気持ちを無駄にし、アイリスの想いも全て無かったことにするのか?」
「ハルトよ!お主はまだ、本当の力に目覚めていない。」
「自分を信じ、強さを求めよ!」
「アイリス神家すべての意思を、すべての力を今、解き放て!」
ハルトはパッと目を開き、大きな声で叫んだ。
「俺はまだ、諦めない!!!。」
「ユナ、アイリスさんの想いを無駄できるか!!!」
「俺の中に眠る力よ!俺の全てをくれてやる!さっさと目覚めて俺に力を渡しやがれーー」
「【【!!赤眼よ!開放せよ!!】】」
そう言い放ったハルトの全身が真っ赤なオーラに包まれ、右眼が真っ赤な瞳に変化した。
ハルトの真っ赤なオーラは暗黒牛の赤黒いオーラを打ち消し、部屋全体を真っ赤なオーラで埋め尽くす。
暗黒牛から撃ち放たれた巨大な【暗黒弾】も右手一つで軽々と打ち消した。
暗黒牛はハルトの威圧感に恐怖し、後退りをしてしまう。
「暗黒牛!貴様だけは許さない!」
ハルトのステータスは明らかに異常値まで上昇し、すべてのステータス表記が【♾】に書き換えられ、内容も次々に書き換えられた。
名前【月山ハルト】
Lv【 ♾】
体力【♾】
防御力【♾】
魔力量【♾】
属性【♾】
魔法攻撃
全属性魔法【♾】
スキル
全属性スキル【♾】
アルティメットスキル
【赤眼開放】消費魔力・・♾
アイリス神家・歴代神々の意思合意で発動する。
赤眼が開放しステータスが【♾】状態になる。一度開眼したら元に戻らない。
ハルトは真っ赤な右眼に魔法陣を展開し、唱えた。
「【神瞬】」
一瞬にして、その場から消え暗黒牛の背後に移動し、右手を振り下ろした瞬間、風圧のみで暗黒牛の上半身右半分を消し飛ばした。
右手ワンパンチでこの威力!!
「ぶぉぉーー」っと痛み苦しみ倒れ込んだ。
「暗黒牛よ!そんなものか?早く立てよ!」
「まだまだこれからだろ?」
暗黒牛は挑発にイラ立ち、残った左手に全魔力を込めた。
ハルトに向け【暗黒弾】と【ブラックホール】を乱発した。
「【空間神】」
っとハルトが唱えた瞬間、部屋全体の時間が停止し、【暗黒弾】と【ブラックホール】を全て別次元へと移動させ消してしまう。
「暗黒牛よ!もう貴様は俺に勝てない!」
「消えてもらうぞ!」
ハルトは両手を暗黒牛に向け、赤眼、足元、左右に魔法陣を展開。
「俺を敵に回したことを後悔するんだな。」
ハルトは叫ぶ
「【アルティメットバースト】!」
ハルトの両手から撃ち放たれた【アルティメットバースト】の魔力、威力は測りきれず、周りのものを全て巻き込んで暗黒牛を飲み込んだ。
暗黒牛は必死に【絶】と【魔力吸収】を使用したが、赤眼によって全て【無効化】されてしまう。
「ぶぉぉーーー」
と苦しみながら暗黒牛は跡形もなく消滅していった。
「終わった!」
と肩の力を抜いたハルトだった。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる