6 / 17
宮廷舞踏会
⑥
しおりを挟む
(……あっ!)
美男子の笑顔に気を取られたわけではないが。
いや、それも少しはあるかもしれないが。
私は着地でミスを犯した。足元が滑り、そのまま大きくバランスを崩したのだ。
(倒れる!!)
そう確信した刹那、背中をぐっと支えられた。天を仰ぐような格好のまま、アディフに抱きとめられたのだ。
アディフの整った顔がすぐ目の前にある。
私はダンスとは違った熱に浮かされる。
「……大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございます、殿下」
ちょうどダンス曲が終わったタイミングだったので、周りには華麗な振り付けの一部に映ったらしく、喝采がホールに満ちた。
まあ、その中には当然、痛いほどの嫉妬の視線が混じっているわけだが。
「あの、殿下。もう自分で立てますので……」
少し気恥ずかしいし、そろそろ下ろしてほしい。
そんな私の思いは伝わっているはずだが、アディフは私を下ろす前に、ダンスヒールへと視線をやった。突然ダンスの挙動が変わったことを訝しくは思っていたのだろう。
アディフが眉をひそめる。
「ヒールが折れていたのか。では、最初に寄りかかってきたのも……」
「リリアンテお姉様!」
不意にルミアの声が響き、当の本人が私たちの方へとやってきた。
ルミアはわざとらしく、ハッとした表情を浮かべて言う。
「まあ! お姉様、ヒールが折れてらっしゃるわ!」
ルミアはダンスヒールを脱がせると、私の足の様子を確かめるような仕草をする。
「足をくじかれたのですね。お姉様、無茶をし過ぎですわ」
「足を滑らせただけで、別にくじいては……」
「これではもうダンスは踊れませんわね。残念ですけれど、今宵はもう屋敷に帰るといたしましょう。
さあ、肩につかまってくださいませ」
ルミアは有無を言わさず、私の腕を自分の肩へと回した。
(ああ、なるほど。ルミアは足をくじいてもう踊れないし、これ以上私に目立たれるのも癪だから、さっさと屋敷に戻ろうというわけね)
こうしてかいがいしく介助をする様子を見せれば、姉思いの妹を殿下にアピールできるという打算もあるのだろう。
まったく、こういったことにはよく頭の回る妹である。
「手を貸そう」
アディフがそう申し出たが、ルミアはすぐさま首を振った。
「殿下のお手を煩わせることではありませんわ。それにお姉様も、わたしの方が気兼ねなく身を任せられるでしょうし」
ルミアはそう言うと、ひょこっ、ひょこっ、といった感じの覚束ない足取りで歩き出す。
とはいえ、それはもちろん、私の身体を支えているからではない。自分の足が痛むため、そういった歩き方になっているだけ。
むしろ私の腰をギュッと掴んで、私を杖代わりにさえしている。
しかしルミアはそんなことはおくびにも出さず、いけしゃあしゃあと言ってのけた。
「あぁもう、お姉様ったらまた太ったのではなくて? そのうちドレスが入らなくなってしまいますわよ」
……何だと?
今の発言が一番ムカついたんだが。
私はピシリと表情を強張らせるが、ルミアの愛嬌たっぷりの台詞にほだされ、周囲の人々は朗らかな笑みを浮かべるのみだ。
そんなふうに、傍から見れば仲睦まじい姉妹が寄り添って退場となると、手を貸すのも無粋かという気になったのだろう。アディフは侍従に馬車の手配だけを指示して、私たちの後ろ姿を見送った。
こうして私の宮廷舞踏会は幕を閉じたのである。
美男子の笑顔に気を取られたわけではないが。
いや、それも少しはあるかもしれないが。
私は着地でミスを犯した。足元が滑り、そのまま大きくバランスを崩したのだ。
(倒れる!!)
そう確信した刹那、背中をぐっと支えられた。天を仰ぐような格好のまま、アディフに抱きとめられたのだ。
アディフの整った顔がすぐ目の前にある。
私はダンスとは違った熱に浮かされる。
「……大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございます、殿下」
ちょうどダンス曲が終わったタイミングだったので、周りには華麗な振り付けの一部に映ったらしく、喝采がホールに満ちた。
まあ、その中には当然、痛いほどの嫉妬の視線が混じっているわけだが。
「あの、殿下。もう自分で立てますので……」
少し気恥ずかしいし、そろそろ下ろしてほしい。
そんな私の思いは伝わっているはずだが、アディフは私を下ろす前に、ダンスヒールへと視線をやった。突然ダンスの挙動が変わったことを訝しくは思っていたのだろう。
アディフが眉をひそめる。
「ヒールが折れていたのか。では、最初に寄りかかってきたのも……」
「リリアンテお姉様!」
不意にルミアの声が響き、当の本人が私たちの方へとやってきた。
ルミアはわざとらしく、ハッとした表情を浮かべて言う。
「まあ! お姉様、ヒールが折れてらっしゃるわ!」
ルミアはダンスヒールを脱がせると、私の足の様子を確かめるような仕草をする。
「足をくじかれたのですね。お姉様、無茶をし過ぎですわ」
「足を滑らせただけで、別にくじいては……」
「これではもうダンスは踊れませんわね。残念ですけれど、今宵はもう屋敷に帰るといたしましょう。
さあ、肩につかまってくださいませ」
ルミアは有無を言わさず、私の腕を自分の肩へと回した。
(ああ、なるほど。ルミアは足をくじいてもう踊れないし、これ以上私に目立たれるのも癪だから、さっさと屋敷に戻ろうというわけね)
こうしてかいがいしく介助をする様子を見せれば、姉思いの妹を殿下にアピールできるという打算もあるのだろう。
まったく、こういったことにはよく頭の回る妹である。
「手を貸そう」
アディフがそう申し出たが、ルミアはすぐさま首を振った。
「殿下のお手を煩わせることではありませんわ。それにお姉様も、わたしの方が気兼ねなく身を任せられるでしょうし」
ルミアはそう言うと、ひょこっ、ひょこっ、といった感じの覚束ない足取りで歩き出す。
とはいえ、それはもちろん、私の身体を支えているからではない。自分の足が痛むため、そういった歩き方になっているだけ。
むしろ私の腰をギュッと掴んで、私を杖代わりにさえしている。
しかしルミアはそんなことはおくびにも出さず、いけしゃあしゃあと言ってのけた。
「あぁもう、お姉様ったらまた太ったのではなくて? そのうちドレスが入らなくなってしまいますわよ」
……何だと?
今の発言が一番ムカついたんだが。
私はピシリと表情を強張らせるが、ルミアの愛嬌たっぷりの台詞にほだされ、周囲の人々は朗らかな笑みを浮かべるのみだ。
そんなふうに、傍から見れば仲睦まじい姉妹が寄り添って退場となると、手を貸すのも無粋かという気になったのだろう。アディフは侍従に馬車の手配だけを指示して、私たちの後ろ姿を見送った。
こうして私の宮廷舞踏会は幕を閉じたのである。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる