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第八話 やっぱ縦ロールでしょ⑦
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「そこ、何をやっている? わたしは席に戻れと言ったはずだが?」
うわ、マズイ。
さすがに先生を無視してせっせと髪のセットをするわけにもいかない。ここは一旦手を止めて席に戻るべきだろうと、そう考えたときだ。
それまで黙って髪をいじられていたキュロットが、不意に口を開いた。
「ネッバス先生。わたくしの友人たちが髪を縦ロールにセットしてくださっている最中ですの。席に戻ることはできませんけれど、どうぞお気になさらず授業を進めてくださいませ」
何の引け目も感じさせない、堂々とした発言だった。手を止めようとしていた私でさえ、「あぁそうよねカールの途中だもんね」と作業に戻ってしまいそうな、はっきりとした物言い。
ネッバスもキュロットの躊躇いのない言葉に納得しかけたのだろう。反射的に一つ頷いて口を開く。
「なるほど。何をしているのかと思えば縦ロールにしているだけ今なんと? 今なんと言った?」
「ですから、先生も仰った通り、縦ロールにしているのですわ」
「馬鹿な、聞き間違いではないだと!?
お前たちいったい何をしているのだ!? いや縦ロールだろう! あぁ見ればわかるさお前たちは縦ロールをしている!
現に、あれだ、見事な縦ロールが一房できている!!」
「先生、落ち着いてくださいまし」
「これが落ち着いていられるかあっ!!」
ネッバスが教卓をバンと叩く。
気持ちはわからなくもない。
「それはいぅたいどういうつもりだ? 早弁なら聞いたことがあるが、授業中に縦ロールだと? そんな暴挙が許されると思うのか?」
「ですが先生、『授業中に縦ロールにしてはいけない』という校則はありませんわ」
「ぬう、確かに。『授業中に縦ロールにしてはいけない』という校則はどこにも、あるわけないだろぉ! そんな想定しないだろぉ!」
ネッバスは青筋を立ててがなるが、キュロットは微塵も動揺した様子がない。
(ひえぇ。入学式の時はキュロットがすごい優等生になってるって思ったけど、実はそんなわけでもないわけ? ゲームのキュロット同様、唯我独尊タイプだったり?)
私はキュロットの髪を整えているため、彼女の後頭部しか見えない位置にいる。果たしてキュロットは無理して泰然と構えているのか。それとも、先生の言葉など歯牙にもかけないのか。
私は首を伸ばし、そうっとキュロットの表情を覗き込んでみる。
キュロットはきょとんとしていた。
そ知らぬ顔をしてるでも何でもなく、純粋無垢に小首を傾げていた。
その様子を見て私は卒然と悟る。
(あっ、これ天然だ! すんごいお嬢様だから普通に常識知らないだけだ! 授業中に縦ロールにしてもいいと本気で思ってるやつだ!)
なんというか、悪役令嬢の素質を垣間見た気がした。これでこそ我が道を行く愛すべきキュロット嬢である。
となれば、彼女の取り巻きである私が取るべき行動は決まっている。
私は二人の会話に横槍を入れた。
「あの、ちょっとよろしいですかね。ネッバス先生は確か子爵家でしたよね?」
「それがどうしたというのだ? 今この状況に何の関係がある?」
「いや、ご存知ないのかもしれませんので。こちらはアドバリテ侯爵家のご令嬢、キュロット様です。キュロット様が、いま縦ロールにしたいと、そう仰っているのです」
言外に、侯爵家令嬢の意向に子爵家の者が異を唱えるなというニュアンスを漂わせた。
うわ、マズイ。
さすがに先生を無視してせっせと髪のセットをするわけにもいかない。ここは一旦手を止めて席に戻るべきだろうと、そう考えたときだ。
それまで黙って髪をいじられていたキュロットが、不意に口を開いた。
「ネッバス先生。わたくしの友人たちが髪を縦ロールにセットしてくださっている最中ですの。席に戻ることはできませんけれど、どうぞお気になさらず授業を進めてくださいませ」
何の引け目も感じさせない、堂々とした発言だった。手を止めようとしていた私でさえ、「あぁそうよねカールの途中だもんね」と作業に戻ってしまいそうな、はっきりとした物言い。
ネッバスもキュロットの躊躇いのない言葉に納得しかけたのだろう。反射的に一つ頷いて口を開く。
「なるほど。何をしているのかと思えば縦ロールにしているだけ今なんと? 今なんと言った?」
「ですから、先生も仰った通り、縦ロールにしているのですわ」
「馬鹿な、聞き間違いではないだと!?
お前たちいったい何をしているのだ!? いや縦ロールだろう! あぁ見ればわかるさお前たちは縦ロールをしている!
現に、あれだ、見事な縦ロールが一房できている!!」
「先生、落ち着いてくださいまし」
「これが落ち着いていられるかあっ!!」
ネッバスが教卓をバンと叩く。
気持ちはわからなくもない。
「それはいぅたいどういうつもりだ? 早弁なら聞いたことがあるが、授業中に縦ロールだと? そんな暴挙が許されると思うのか?」
「ですが先生、『授業中に縦ロールにしてはいけない』という校則はありませんわ」
「ぬう、確かに。『授業中に縦ロールにしてはいけない』という校則はどこにも、あるわけないだろぉ! そんな想定しないだろぉ!」
ネッバスは青筋を立ててがなるが、キュロットは微塵も動揺した様子がない。
(ひえぇ。入学式の時はキュロットがすごい優等生になってるって思ったけど、実はそんなわけでもないわけ? ゲームのキュロット同様、唯我独尊タイプだったり?)
私はキュロットの髪を整えているため、彼女の後頭部しか見えない位置にいる。果たしてキュロットは無理して泰然と構えているのか。それとも、先生の言葉など歯牙にもかけないのか。
私は首を伸ばし、そうっとキュロットの表情を覗き込んでみる。
キュロットはきょとんとしていた。
そ知らぬ顔をしてるでも何でもなく、純粋無垢に小首を傾げていた。
その様子を見て私は卒然と悟る。
(あっ、これ天然だ! すんごいお嬢様だから普通に常識知らないだけだ! 授業中に縦ロールにしてもいいと本気で思ってるやつだ!)
なんというか、悪役令嬢の素質を垣間見た気がした。これでこそ我が道を行く愛すべきキュロット嬢である。
となれば、彼女の取り巻きである私が取るべき行動は決まっている。
私は二人の会話に横槍を入れた。
「あの、ちょっとよろしいですかね。ネッバス先生は確か子爵家でしたよね?」
「それがどうしたというのだ? 今この状況に何の関係がある?」
「いや、ご存知ないのかもしれませんので。こちらはアドバリテ侯爵家のご令嬢、キュロット様です。キュロット様が、いま縦ロールにしたいと、そう仰っているのです」
言外に、侯爵家令嬢の意向に子爵家の者が異を唱えるなというニュアンスを漂わせた。
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