正しい悪役令嬢の育て方

犬野派閥

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第十一話 リグルの洞窟③

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 浮ついた頭で思考を巡らせていたそのとき、ハッと閃くものがあった。
 私は戸惑いも露わに、ヒーシスの瞳から視線を逸らす。

「す、すみません。私、全然気付かなくて」
「! わたしの言わんとすることをわかってくれたのか!」
「はい。これまで殿下のお気持ちに思い至らず、配慮のない言動をとってしまいました。申し訳ありません」
「シエザが謝るようなことではない。これはむしろわたしの問題だ。
 だが、これからはシエザと二人でこの難題に取り組んでいければと思っている」
「そんな、私には荷が重くて……」

 突然の申し出に当惑するが、ヒーシスは全幅の信頼を寄せるように、私の肩を掴む手に力を込める。

(そんな、嘘でしょう? 私は単なるモブなのに……)

 本来ならヒロインとの邂逅となるべきバックガーデンでの出会いが、何かしらの契機になったのだろうか。
 何にせよ、相手は王太子殿下。これだけのアプローチを受けた以上、その期待に真摯に応えなければならないだろう。
 私はヒーシスの手に自らの掌をそっと重ねた。

「わかりました、ヒーシス殿下」
「ほ、本当か!? それでは――」
「はい。私にそんな大任が務まるかわかりませんが、ここに誓います」

 そして私は、ヒーシスをひたと見つめ返し、決然と告げたのだった。

「ヒーシス殿下が、ぼっちを抜け出せるよう、全力で協力します!」

 私のその台詞に、ヒーシスは鳩が豆鉄砲でも食らったかのような表情になって目をぱちくりさせる。
 しばらく声も出せないでいたヒーシスだったが、私の言葉がじんわりと染み込んでいったようで、突如として大声を出した。

「な、何を言っているのだ!? わたしはぼっちなどではない!」
「え? だってクラスでぼっちだから私たちのパーティーに入りたいんですよね?
 キュロットは関係ないって言ってたし、ぼっちだっていうことを目で必死に訴えかけていたんでしょう?」
「そんなふうに受け取っていたのか!? それは断じて違う! 何なら証明してみせよう!」

 そう言うやいなや、ヒーシスは洞窟内を見渡し、特別クラスの生徒たちが集まっている区画へ向けて声をかけた。

「わたしとパーティーを組みたいと言う者はいるか? いるなら申し出てくれ!」

 特別クラスの生徒たちが即座に反応した。皆がその場で一斉に地面に片膝を突き、声を揃えて答える。

「ハッ! 殿下のご命令とあれば喜んで!」

 ヒーシスがぱっと表情を輝かせ、「ほらな!?」とばかりに私を見返してくる。

 ……いやぼっちやないかい!
 ご命令とあらばって言うとるやないかい!
 命令ない限り誰も組む気ないやないかーい!!
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